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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
統合宇宙軍誕生編
54/77

聖母は処女のまま、人類の代表者を産んだ




年が明けた2416年早々…



国民投票で「四季」を選択した、日本国の各コロニーでは、1日の最高気温を5度に設定し、

人工的な「冬」の環境を作り出している。


1月も半ばを過ぎ、1年で一番寒さの厳しい時期。




公共施設や公共エリアの壁面には、プロジェクターで、「辺り一面銀世界」を投影し、

天井のスカイモニターは、太陽すら手に届かない程の、どんよりとした、分厚い雲に覆われた空を投影していた。




ここ、日本国が所有するコロニーの3番目、通称コロニー3【中京】。


他の地球環境型の円筒形コロニーとは全く別のコンセプトである、

工業生産の主要基地として作り上げられた、ドーナツ型コロニーを、

15基もつなぎ合わせた、「重ねたパンケーキ」の様な姿のコロニーでも、


今日は全ての業務や工場生産を中止して、喪に伏す世界に歩調を合わせていた。




【地球奪還作戦、合同戦没者慰霊祭】




さかのぼる事、約3週間前。新たな年に変わる直前の12月24日のクリスマス。


人類は、今現在の地球の所有者に対して宣戦布告。

地球奪還作戦を開始して、その初戦である「南極大陸攻略戦」を行い、

木っ端みじんに打ち砕かれた。


惨敗も惨敗…二度と立ち上がれない程に、叩きのめされてしまったのだ。




膨大な被害、投入した最新鋭兵器はほとんど失われ、

地球の支配者である【物体E】に対して、

戦略の根幹から変更を強いられる事となる。



だが、スピードはともかくとして、兵器等の機械類は生産さえすれば、直ぐに充足する。

目標数値さえ設定すれば、官民一体の工業生産で、いくらでも作って並べる事は出来る。



物量は補う事が出来るのだが、もっと深刻な事態に、人類は今現在、直面している。


【人材不足】


先の南極大陸攻略戦で戦死したのは、実働部隊の兵士達だけでは無い。


多くの将官…


佐官クラス以上の指揮官にも、多大な戦死者を出したのだ。


「人的資源の枯渇」現場指揮官にとどまらず、参謀・作戦立案者や、

司令部要員までに、その多大な被害はおよび、

当面の人類側の深刻な問題としは、空洞化した組織をどう立て直すのか…


全てはそこにかかっていた。




合同戦没者慰霊祭


全世界同時中継で、今しめやかに、国連軌道宇宙軍の統合幕僚本部で始まった。


演壇に昇った、国連軌道宇宙軍統合幕僚本部長、エリオット・コバヤシ中将の演説が、いよいよ始まる。

世界同時中継で、この映像は月や、火星まで届いていた。




そして、日本国コロニー3【中京】の商業区域にある上流階級エリア、高級喫茶店「ミラノ・カフェ」でも、

壁にかかったテレビの映像で、沈痛な表情で演説を行う、コバヤシ中将の映像が流れている。

そして、その映像をまるで興味が無い様に無視し、新聞を見詰めながら「本物のコーヒー」をすする、

デイリー中京の社会部記者、堂上誠一郎がいた。


中堅新聞であるデイリー中京に席を置きながら、国連軌道宇宙軍の情報戦略作戦に参加し、

「特務大尉」の肩書きも与えられた堂上。

金銭的には非常に裕福であるはずなのだが、相も変わらず、ボサボサのクセ毛は櫛も通さず、

よれよれのジャケットにシワシワのネクタイ。

無精ひげだらけの顔には更に、目の下にクマを何重にも作り、

昨晩痛飲したのか、身体の毛穴と言う毛穴から、アルコールの体臭を放っていた。




堂上「…」




堂上が目を通しているのは社説。


自分の書いた「見事な」社説が気に入っているのか、気に入らないのか、

新聞に穴が空くのではと思う程に、何度も繰り返し読んでいた。


そんな、「俺に話しかけるな」オーラを発している堂上に、「やっぱりいた(笑)」と、

女性の軽やかな声がかかる。




堂上「…?」




不機嫌そうに見上げる堂上。

そこには、情報保全部の同僚、メリル特務少佐の姿があった。


皮肉を言い合いながらも、メリル少佐とつかず離れずの距離を続けていた堂上。


久しぶりに現れたメリル少佐の姿を見て、ガタッと音を立てながら席から立ち上がり、目を丸々と見開き驚愕する。




堂上「おっ、お前…どうした!?」




メリル少佐「あら、初めて私の事、心配してくれるのね(笑)」




現れたメリル少佐。


左目を失明したのか、眼帯では無く、黒いアイパッチで完全に左目を隠していたのだ。




堂上「…大丈夫なのか?」




堂上の心配をよそに、メリル少佐は落ち込みもせず、「相変わらず」軽やかなまま、

微笑を口元にたたえながら、堂上に答える。




メリル少佐「脳直結の電子義眼を入れる話もあったけど断ったの。これは私の十字架、結構クールでしょ(笑)」




行き着けの高級喫茶店「ミラノ・カフェ」、堂上とテーブルを挟んで座ったメリル少佐は、

毎回恒例となった「堂上のおごり」で、代用食材ではなく、本物の材料を使った料理を楽しみ出す。


有機野菜のサラダ

白身魚のフライとオムレツ

そして食後の紅茶




堂上「何か…」




メリル少佐「何か…何?」




堂上「いや、何か見てて痛々しいなと。痛くはないのか?」




メリル少佐「たまに疼くけど、楽になったわよ。心配してくれてありがとう」




メリル少佐の怪我を心配する堂上、素直にそれを感謝するメリル少佐。

だが、堂上は何故怪我をしたのかは聞かない。そしてメリル少佐も、何故怪我をしたのかは言わない。

互いに言わなくてもわかっているのだ。「何が原因で」怪我をしたのかが。


食後の紅茶、本物の香り楽しみながら、メリル少佐はゆっくりと、堂上との会話に傾倒して行く。




メリル少佐「堂上特務中佐、昇進おめでとう♪」




堂上「そう言うお前だって特務中佐に昇進したじゃないか」




そう、「何故か」堂上特務大尉とメリル特務少佐の二人、

南極大陸攻略を機に、揃って【特務中佐】に昇進したのだ。




メリル中佐「肩書きなんて興味無いわ、だって部下すら存在しないのよ。

それよりも、あなたの二階級特進は凄いわね、生きてる人間の二階級特進なんて、初めて見た(笑)」




堂上「…死ねって事だろうな」




メリル中佐「うん?」




堂上「階級を上げてやるから、死ぬ気になって貢献しろって事だろうな。

…1人でも多く、若者を戦場に送り出す為に」




メリル中佐「まだウジウジ悩んでるの?」




堂上「死ぬまで悩み続ける予定でいる」




メリル中佐「まったく…(笑)それとも何?何も知らずに人類は滅亡した方が良かった?」




堂上「そうじゃない。ただ俺は、民衆を煽動する事を嬉々として行う、クズ野郎にはなりたくないってだけだ」




メリル中佐「ふ~ん、難しいのね」




呆れ顔のメリル中佐。

だが、この後に堂上が口にした言葉で、メリル中佐の表情は劇的に変わる。




堂上「何を言っている、難しいのは、お前の家系だろ」




(難しいのは、お前の家系だろ)堂上のこの言葉に、この言葉の意図する事に、

メリル中佐は素直に驚愕する。




メリル中佐「…見たのね」




堂上「ああ、お陰様で昇進したからな。中佐権限で【優先事項 特1】を、閲覧した」




メリル中佐「…知ってしまったならしょうがない。ペイル・ライダーの事を話したのも私だし、

まあ、いつかは知られると思っていた」




いつもいつも強気で、口論や議論をしかけても、ヒラリヒラリとかわして勝つ。

そんな普段のメリルの姿が、まるで見せかけだった様に、ボロボロに崩れ去る。

今、堂上の目の前にいるのは、堂上に秘密を暴かれ、本性をさらけ出してしまったメリル。

何かに憂いている、物悲しく臆病な、どこにでもいる、傷心の女性の1人だった。




堂上「ペイル・ライダー発掘時を同じくして、同時16歳だったコードネーム【フェイシャ】が受胎、そしてペイル・ライダーを出産」




堂上の言う事は、間違い無く合っている。


つまり、堂上の言い方は「引っ掛け」でも何でも無く、

堂上が本当に情報保全部特務中佐権限で、

国連軌道宇宙軍の最高機密を、閲覧した事を意味していた。


諦めたのか、大きく、声にならない溜め息を吐くメリル。




メリル中佐「フェイシャの身体には障害があった。卵子を生産出来ないと言う障害が。

彼女を、妹の様に可愛がっていた私が卵子を提供しても、何ら不可解な事は無い」




堂上「発掘されたペイル・ライダーの遺伝子情報を精子に組み込み、君の卵子へと受精させる。

そして、誕生したのが、新たなペイル・ライダー。

人類の味方になるべき存在…それが、ムナカタ・カオルだと言うのか?」




メリル中佐「その通り。ただ、この時点であなたが知らない情報がある」




堂上は身を乗り出す。


当初、メリルからペイル・ライダーの話を聞いた時は、

オカルトだと決め付け、オカルトが人類の未来を左右する事に愕然とし、怒りさえ覚えていた堂上。


どうやら、堂上の怒りは収まりつつあり、この時点では、一つでも多くの真実に辿り着こうと、

もって生まれた新聞記者としての貪欲さに、溢れていた。




メリル中佐「フェイシャは、…処女懐妊なの」




堂上「!!!」




堂上「くそっ!…気が変になりそうだ。…知ってるぞ、知ってるぞ!それが意図する所を」




一瞬の間の後、ワナワナと震えながら、メリルを指差す堂上。

メリルは顔を真っ赤にした堂上に全く動じず、堂上が次に何を言うのか、待ち構えている。




堂上「…お前らは、神を作った気にでもなっているのか?人造の神なんて、気が狂ってるとしか言えん」




メリル中佐「でもそれが真実。現実的な話として、現存兵力で惨敗した我々人類には、

いつか必ず彼の力が必要になる」




嫌な油汗をかきながら、右手で髪の毛を「ガシガシ」とかきむしる堂上。




堂上「すいません!おかわり」




堂上は自分自身のパニックを抑えたいのか、

壮年の接客係に、コーヒーのお代わりを頼む。




堂上「あの、黙示録の話を聞いてから、俺も宗教書を読みあさる様になった。

…聖母は処女のまま、人類の代表者を産んだ。そういう事だな」




メリル中佐「否定はしない。何故なら、そこまで我々は追い詰められていたと言う事だから」




堂上「…ふん!」




人類滅亡の危機


それが免罪符になる事に、釈然としない堂上。


人類が滅亡の危機に瀕しているならば、それを理由に何をやっても良いのか?

神すら作り上げてしまう事が許されるのか?

口をつぐんだ堂上の瞳は、口以上に雄弁に、メリルに対して、そう語っていた。




メリル中佐「根源的な問題をしっかり把握していないと、そう思うのも仕方ないと思う」




堂上「…根源的?」




うなづくメリル




メリル中佐「人類は神の意志で、地球から追われた。虐殺天使を地上に溢れさせ、人類を殺せと命じた」




堂上「…」




メリル中佐「神から見離された人類がもう一度、再び地球の大地に立とうとするなら、

神の顔色を気にしていてどうするの?

むしろ、悪魔と契約してでも、神を逆に滅ぼさねばならないって…思わない?」




堂上「…血塗られた道って事か」




メリル中佐「ええ、道徳だの何だの、もう体裁なんか気にしてられない」




堂上「なるほどな。…で、我々の神様は今、何してるんだ?」




メリル中佐「…」




一つしか無い瞳に、決意の炎をたたえていたメリルが、堂上の質問で急に押し黙る。

どうやら、メリルの憂いの根源は、ムナカタ・カオルにある。


堂上は直感でそう感じたのだ。




メリル中佐「…」




堂上「お、おい…、どうした、何で黙ってんだよ」




うつむいたままのメリル。

堂上は柄にも無く、うなだれるメリルにオロオロするばかり。


「お待たせしました」


接客係が、コーヒーのおかわりを持って来る。

いれたてのコーヒーの香りで鼻腔を刺激された堂上、

パニックでぐるぐると渦巻いていた脳が、だんだんとクリアになって来る。




堂上「そうか、なるほど。お前が引き取った神様は、お前になついていない…と」




コクリ


一言も発せず、メリルはうなづくだけで、それを肯定する。




堂上(うわああ、当たりかよ)




今回は釣り…ブラッフを仕掛けた堂上だが、まさかいきなり、その通りの答えが返って来るとは…




堂上「はあ…、神様の反抗期か。何か急に話のスケールが縮んだな」




完全に沈み込んだメリル、

「鉄の女」の変わり果てた姿に、呆れ顔の堂上。




堂上「いずれにしても、お前だって母親を名乗る資格はあるんだろ?だったら…」




メリル中佐「それは無理!レイコとカオルの間に、割って入る事は出来ない!

あの子にとって母親とは、やっぱりレイコじゃなきゃ駄目なの」




しかし、レイコは既に故人。


綺麗な思い出となり、今後どんどんと美化されるであろう人物に、

いきなり横から入って来たメリルが、歓迎される訳も無い。




堂上「ムナカタ・カオルに真相を話さないなら、話さないで良い。

ムナカタ・レイコと張り合わずに、自分のペースでやってくしか無えわな」




面倒くさそうに正論を吐く堂上、その時ふと、脳裏にとある疑問が浮かんで来る。




堂上「ところで、レイコで気がついたんだけど、何で…神様を産む役目がレイコだったんだ?

健康な処女なら、誰でも良かったんじゃ…?」




メリル中佐「駄目、彼女じゃなきゃ駄目だったの」




堂上「意味がわからん、何でだよ?」




もう、堂上特務中佐に対し、秘匿すべき情報など無い。


そう判断したメリルは、レイコ・F・ムナカタの根幹に関わる情報を、

堂上に対して開けっぴろげに提示した。




メリル中佐「カオルを産むのは、レイコ・F・ムナカタでなければならなかった。

何故なら、彼女は唯一…人類に味方した【物体E】だから」




堂上「いいいいっ!!!!!!!」





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