イライラしてる暇があったら、突撃せんか
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レイド少将『アーシラトCDCより、全ユニットへ。
オペレーション・リップル開始、30分前!艦砲射撃の準備を開始せよ!』
太陽が燦々と降り注ぐ、赤道直下の南極上空。
いよいよ高度1万メートルに集結した、空中要塞アーシラトと地上降下部隊。
アーシラトの上には、高度1万5千メートルに護衛艦隊。
そして、高度5万メートルより上に、亜宇宙戦術空母群が。
今か今かと、カウントダウン終了…作戦開始を待っている。
地上降下部隊の中核を担う、強襲揚陸艦隊旗艦の、輸送艦ディアーナ。
その格納庫には、機械化装甲歩兵部隊を運搬する、車輪のついた強襲揚陸艇が、ぎっしりと敷き詰められている。
既にパワード・スーツを装着した兵士達は、強襲揚陸艇に乗り込み、
後は降下命令が下るのみとなっていた。
その、強襲揚陸艇の中の一つ。兵員輸送艇よりも一回り小さなCCV(戦闘指揮通信車)には、
機械化装甲歩兵A大隊の大隊長、アレン・楠木中佐が搭乗している。
ゴテゴテと、たくさんのモニターが設置されたCCVの車内。
搭乗しているのは運転手二人と、楠木中佐、そして副官のデッカー大尉の4人。
楠木中佐は今、モニター越しに、強襲揚陸艦隊旗艦、輸送艦ディアーナのCICに設置された、
地上降下部隊司令部と最終確認を行っていた。
カリー中佐『降下予定地のインディペンデント湾は、とにかく見晴らしが良い。
俺たちにとって見晴らしが良いって事は…』
楠木中佐「そうだ、奴らにとっても、見晴らしが良いって事だ」
カリー中佐『躊躇するなよ、楠木。とにかく降下したら、湾から5km内陸の丘を目指せ、全力でだ』
楠木中佐「艦砲射撃の効果次第だが、丘は必ず奪取する。
そうでなければ、湾内に基地を設営する、工兵部隊が危険だ」
降下部隊の部隊長である、楠木中佐。
そして、強襲揚陸艦隊旗艦、輸送艦ディアーナのCICに詰めている、
軌道内方面参謀部、次席参謀長のジョシュア・カリー中佐。
二人の会話は既に、作戦最終確認の域を踏み出て、これから襲い来るであろう「不確定要素」の、
【物体E】から、どうやって1人でも多くの兵士達を守るか…。
その一点に収束して行った。
ヒュイイイイイ…!
パァンッ!!!!
ヒュイイイイイ…!
パパパァンッ!!!!
大気を振動させる、鼓膜が簡単に破れそうな、乾いた破裂音と、繰り返される充電音。
太陽光線を遮りながら大空を羽ばたく、人類の地球奪取作戦部隊。
その、空中要塞アーシラトと護衛艦隊、そして輸送艦隊が、
目標降下地点である「インディペンデント湾」に向けて、
高空を旋回しながら、電磁投射砲の無差別飽和射撃を始める。
アーシラトの高度は1万メートル。
ちょうど、地面から飛行機が飛んでいるのを肉眼で確認出来る距離。
そこから、電磁投射砲の砲弾が正確に…そして、湾から内陸に向かって、雨あられと降り注ぐ。
レイド少将『アーシラトCDCより各位、弾着観測班からの報告はどうか!?効力射追加の可否を乞う!』
『こちら護衛艦隊、弾着地点に異常無し!各センサー類でも、ボギー確認出来ず』
『こちら輸送艦隊、観測班から報告も異常無し!作戦続行されたし!』
燃え上がる南極大陸のインディペンデント湾。
艦砲射撃で文字通り「地面がひっくり返る」中、
作戦はいよいよ、次の段階に移る。
レイド少将『よし、アーシラトCDCより各位、後10分間だけ艦砲射撃を続行!
キング・アーサー、部隊降下始めよ!』
地上降下部隊よりも高空に位置する、亜宇宙戦術空母群に、
APE及び戦術戦闘機の発進命令が下る。
レイド少将『アーシラトより地上降下部隊!亜宇宙戦術空母を発進した部隊に合わせ、降下を開始せよ。
アーシラト搭載各機は、発進準備急げ!』
先ずは、降下ポイントであるインディペンデント湾に、存在するであろう【物体E】を、艦砲射撃…、電磁投射砲の無差別飽和攻撃で殲滅する。
そして、焼け野原になった湾に対して、亜宇宙戦術空母群から発進したAPEと航空機、
そして、タイミングを合わせたアーシラト搭載の大APE部隊を護衛に、
機械化装甲歩兵部隊がポイント周辺部に降下、内陸部へ対しての防御陣地を構築する。
更に、湾中心ポイントにアーシラトから工兵部隊を降下。
簡易設備ではあるが、基地を建設し、地球奪取作戦における、人類の足掛かりの第一歩を築く手はずなのだ。
もちろん、護衛艦リスキー・ビスキーに搭載されている精鋭部隊、【ジュリエット2】小隊も、
それらに混じって、降下する。
ビーッ!!ビーッ!!
『3分後に機密扉解放!作業員はただちに待避室へ!
3分後に機密扉解放!作業員はただちに待避室へ!』
ビーッ!!ビーッ!!
格納庫のあちこちで赤色灯が回転しながら、けたたましいサイレンと、
荒々しいアナウンスが鳴り響くリスキー・ビスキー。
いよいよ、リスキー・ビスキーからも、APE部隊が出撃する。
亜宇宙戦術空母群旗艦、キング・アーサーから転属して来た、コールサイン【ジュリエット2】小隊の3体がそれだ。
今年配備されたばかりの最新鋭、15式APE【閃華】3体が台座ごとカタパルトに移動される。
長方形の大きな空洞、格納庫をそのまま発射台に改装し、
前部の機密扉…ちょうど海洋生物の「エイ」に似た、リスキー・ビスキーの口が解放されれば、
そのままカタパルト発進で、充分な慣性を得る仕組みになっているのだ。
格納庫、カタパルト発進台の横に設置された管制室。
管制官に混じり、インカムを右手に当てながら、
窓越しにAPEを熱く見詰めるカオル、そしてショーンと赤磐。
『おお、撃墜王がわざわざ見送りに来てくれるとは、
俺たちにもまだ運はありそうだな♪』
インカムを通じて、カオル達の耳に届いて来た声は、
ジュリエット2小隊の小隊長、カレン・コープス中尉。
カレン中尉の【閃華】を先頭に、ウェンディ2等軍曹、エラン2等軍曹の順に、カタパルトへ向かっている。
カオル「撃墜王とか、やめてくださいよぅ…」
困惑するカオルなどお構いなしに、ジュリエット2小隊のメンバーは、
カオルをからかって喜んでいる。
カレン中尉『いやいや、異名がつくのは悪い事じゃないぞ』
ウェンディ軍曹『中尉の言う通りだぜ少年(笑)
名前に負けたくなかったら、せめて一人ぐらい女の子を口説け』
カオル「そ、そんなの全然関係無いじゃないですか!」
エラン軍曹『いかんなムナカタ君、古来から軍隊では、
撃墜王イコール色男って言う図式が、出来上がってるんだ』
カレン中尉『エランの言う通りだ。あれだけ可愛い娘が揃ってるんだ、
イライラしてる暇があったら、突撃せんか(笑)』
背後のショーンと赤磐から、クスクスと笑われるカオル。
赤面し、額から嫌な汗を流しながらも
カオル「皆さんの無事の帰還、お祈りしてます!」
ウェンディ軍曹『生意気な口ききやがって(笑)俺の息子に習わせたいくらいだ』
エラン軍曹『心配するなムナカタ、敵は俺達が撃滅するから、撃墜王の出番は今回無い』
ビーッ!!ビーッ!!
ビーッ!!ビーッ!!
【ジュリエット2小隊、カレン機、カタパルト射出10秒前!】
カレン中尉『そう言う事だ、ムナカタ君。大人の我々を、ちょっとは信用して欲しいものだな(笑)』
カレン中尉を先頭に、次々に射出されるAPE【閃華】。
がらんとした格納庫の口から覗く、青い海と緑の大地。
その中へと消えて行った3機のAPEを、
カオル達はいつまでも、いつまでも見詰めていた。




