親子喧嘩
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ヒロノブ「カオルさん…遅いですね」
リスキー・ビスキーの食堂。
【蒼騎】をカーゴから出して、システムチェックと武装リンクの作業を行えと、
キンゼイ艦長「経由」で命令が下達されてから、既に4日。
オペレーション・リップル開始、そして出撃に備えての準備ではなく、
【フォックスロット1APE訓練小隊】に所属するカオル達は、
あくまでも…あくまでも本作戦を見学し、学ぶ立場であるのだが、
カオル「だけ」に下された命令は、限りなく出撃準備に近いものであった。
CIC要員としてブリッジにいる、エレノアと生徒会長の伊達。
航宙士補としてミカもブリッジに常駐し、航法助手を行っている。
副生徒会長の氷室は、副艦長代行として雑務に追われ、ショーンと赤磐は格納庫でメカニック。
APEパイロットで、格納庫に呼ばれたカオル以外の3人。
美田園恭香とレイモンド姉弟は、全くお呼びがかからない中、
食堂でただただ、時間が経つ事と、カオルが休憩にやって来るのを待っていた。
カスミ「もう、とっくに昼の時間超えてる」
恭香「…もし、まだ時間かかるなら…お昼持って行った方が…」
ヒロノブ「それは賢明じゃないよ。もう作戦はカウントダウン始まってるし、
部外者がうろうろしてると、それだけで怒られると思うよ」
恭香「…そう…だね」
食堂の一角で、しょんぼりとたたずむ3人。
その奥には、遅い昼食を取り、食後のコーヒーを飲んでいる、
情報保全部のメリル特務少佐と、カオルの母レイコの姿が。
恭香やレイモンド姉弟の姿は入っているのだろうが、
意識的か、はたまたそこまで頭が回らないのか、
カオルの友人達に、声を掛けようとはしていない。
恭香「ちょっと…暇…だね」
ヒロノブ「恭香さん、何度目の発言ですかそれ(笑)」
恭香「ううう…」
顔を真っ赤にして、うつむく恭香。
カスミ「美田園さんの言う通りよ。もう…本も読み飽きたわ」
チラチラと、メリル少佐とレイコを見るカスミ。
「新しい話し相手が欲しい」
そんなオーラを身体中から放つカスミに、メリル少佐とレイコはようやく気付く。
メリル少佐「だいぶイライラしている様だが、待機に飽きたのかね?」
椅子に座ったままのメリル少佐、苦笑しながらカスミ達に話し掛けて来た。
カスミ「なかなかに、ご挨拶する機会が無くて、申し訳ごさいません。
カオルさんの同級生の、カスミ・レイモンドです」
深々と頭を下げるカスミ。
(挨拶する機会も何も、毎回食事の時間に顔を合わせてるじゃないか)と、
ヒロノブはツッコミたくなる気持ちを抑え、姉の後に続いてメリル少佐達に挨拶する。
恭香「あ、あの…私…」
極度の人見知りの恭香も、レイモンド姉弟に続けと、メリル少佐達の前に立つ。
メリル少佐「国連月宇宙軍からの、交歓留学生。美田園恭香さん、でしょ?」
先に自分の名前を言われ、恐縮しながらペコペコと頭を下げる恭香。
カスミ「美田園さんの事、良くご存知でしたね?」
メリル少佐「いや(笑)知ってるも何も、君たちは私の仕事に関係するからね。
名前以上に、ちゃんと把握してるよ」
カスミ「あら」
恭香「か、か、…カオル君のお母さんも、メ、メリル少佐と…同じお仕事ですか?」
レイコ「ええ、そうよ♪」
メリル少佐「彼女には、私の助手をして貰っている」
ヒロノブ「なるほど」
カスミ「それにしても、メリル少佐とカオルさんのお母様、お若いし…お美しいですね」
羨望の眼差しで二人を見詰めるカスミに
メリル少佐「あはは、おだてても何も出んよ」
と、メリル少佐は切り返す。
ヒロノブ「今ほど、僕達にも関係のある仕事と、おっしゃいましたが…」
メリル少佐「元々はね、戦況の情報分析が我々の任務なのだが、
君たち訓練小隊のAPEの、情報処理能力の解析とパターン・並列化も頼まれてね」
恭香「わあ…♪」
ヒロノブ「それにしても…見ましたか?僕達の訓練小隊のAPE」
ヒロノブの言葉に「ピクリ」と反応するメリル少佐とレイコ。
カスミ「いくら戦力不足で訓練機が足りないからと言っても、プロトタイプまで持ち出すとは」
恭香「あの…APE…、何か怖くて」
メリル少佐「APEが…怖い?」
ヒロノブ「僕らの中でも話題になったんですが、
デザインからしてもう…武装外骨格と言うより、巨大な人型機械みたいで」
メリル少佐とレイコが視線で (話題を逸らせ)と、合図を送り合ったその時、
食堂にクタクタになったカオルが現れた。
恭香「あっ、…カオル君♪」
「ぶはぁ…ぶはぁ…!」
肩で息をしながら、ヨレヨレになったカオルが食堂に入って来る。
周囲の気配にまるで気付かず、席についた途端テーブルに突っ伏した。
ヒロノブ「ムナカタさん、お疲れ様♪」
カオル「あ、ありがとう…」
カスミ「作業は順調?」
カスミ「…うう、マニュアルを頭に叩き込みながら、各部チェックで、APEから降りたり昇ったり。
頭も身体も…ぱんく寸前です」
恭香「カオル君大丈夫?…ご飯食べれる?」
心配して近寄る恭香。
すると、厨房からリンダ先生の声が
リンダ「お~いカオル!昼メシ食べれるか?すぐ用意出来るぞ!」
カオルは「むくり」と起き上がり、顔だけを厨房に向ける
カオル「何かちょっと…吐いちゃいそうだから、昼メシは…!!」
急に黙り込むカオル。
厨房を見据えたカオルの視線に割って入って来たのは、母レイコの姿が。
カオル「…」
レイコ「…」
お互い、想うところがあるのか、何も言えずに硬直している。
カオル「む~…」
ほっぺたをパンパンに膨らませ、難しい顔をしたカオル。
母様を通り越し、厨房のリンダ先生に向かって大きな声で、
カオル「リンダ先生!食べます!泣きごと言ってられないから、出来れば二人前ください!」
そう宣言して、そのまま「ぷいっ」っと母から視線を外し、
再びテーブルに突っ伏したのだ。
レイコ「…」
表面的には平静を装ってはいるが、
レイコの瞳の奥に、彼女自身が閉じ込めた寂寥感に気付くメリル少佐。
メリル少佐「出航してからこの二人、ずっとこんな感じなんだよ」
と、苦笑しながら、カスミ達が抱いた違和感に対してフォローを入れた。
メリル少佐「さて、あまりのんびりもしてられん。レイコ、CICに行くぞ」
レイコは黙ってうなづき、二人揃って食堂を後にする。
残されたカオル
ヒロノブ「親子喧嘩の最中なんですか?」
恭香「お母さん…大切にしなきゃ…」
ヒロノブの質問にも、恭香の諌める言葉にも、
「…うん」「…うん」と、気のない返事を繰り返すカオルであった。




