ムナカタさんは、太陽だと思う
04-08 20:47
・
キンゼイ艦長から許しを得た、メリル少佐とレイコ。
艦長に深々と礼を述べて、格納庫を退出する。
浮遊しながら、狭い通路を出口に向かうメリル少佐とレイコ。
メリル少佐「キンゼイ艦長が了承してくれた。良かった、本当に良かった…」
レイコ「ああ、だからこそ私達は結果を出さないと」
メリル少佐「そうね。カオル君の為に…何が何でも、ね」
レイコ「うん。…あんな真面目に怒ったカオル初めて見た。それも、私の事すごい心配してくれてた」
レイコの頬はほんのりと紅潮する。
カオルが怒って医務室を飛び出し行った際の、カオルの口から飛び出した言葉を思い出し、
感動に再び身を震わせているのだ。
メリル少佐「自慢の息子にそれだけ愛されてるんだ、うらやましいよ。
【ハデス・システム】、早く見つけよう」
レイコ「ええ、急ぎましょう」
無重力遊泳で出口扉に向かう二人、日本時間の夜は更けて行った。
時を同じくして、コロニー3【中京】の下層にある、国連軌道宇宙軍、幼年寄宿舎。
寄宿舎と言っても、ドーナツ型コロニーの構造上、ただ単にエリアを区切って、
寄宿舎区域を設定しただけの、通路の両側に個室が並ぶ居住区。
国連月宇宙軍奨学生で、交歓留学生の美田園恭香も、この宿舎で寝泊まりしている。
その宿舎の、とある部屋。
表札に「K・レイモンド」と描かれた部屋の室内に、
ピンポーン♪
来訪者を告げる、チャイムが鳴り響く。
「は~い」
透き通った軽やかな声で室内から返事をしたのは、カスミ・レイモンド。
これから入浴しようとしていたのか、無造作に脱いだ服を散らかしたまま。
身に付けているのは上下の下着のみ。
風呂場の扉は開いたままに、湯気がほのかに室内に流れて来る。
来訪者の姿が確認出来る、セキュリティ・モニターすら確認せずに、カスミは扉を無造作に開ける。
「宿題やっといたよ」
そう言いながら、カスミの部屋に入って来たのは、双子の弟ヒロノブ。
姉の下着姿に動じる事も無く、そのままヒロノブは表情一つ変えずに、居間のソファに腰掛ける。
そして、弟に自分の下着姿を見られてもまるで動じないカスミは、「ありがとう」と言いながら、
弟の目の前で下着を脱ぎ捨て、風呂場に入って行った。
それから、しばらくの後
「あつい…あつい…」と呟きながら、
タオルすら身体に巻かず、カスミは全裸で風呂場から出て来る。
ヒロノブ「姉さんのノートにも、宿題の答え、書き写しておいたから」
カスミ「ありがとう♪明日は私がやっておくから」
そのまま、全裸のまま、カスミはキッチンに据え付けられた冷蔵庫の元へ。
中から水を取り出しグイグイと飲み干す。
ヒロノブ「…ねえ」
カスミ「ん、なあに?」
ヒロノブ「最近姉さん、元気無いね。と言うか…元気なのを装ってるね」
カスミ「ふっ、ヒロノブに隠し事は出来ないか。ええ、そうね、その通りよ」
ヒロノブ「やっぱり。ムナカタさんの事でしょ?」
まるで、言葉が無くても意志の疎通が出来ているかの様に、
この双子の兄弟は自分を偽りもせずに、淡々と内面をさらけ出しながら会話を続ける。
カスミ「ねえ、私そんなに魅力無いかしら?」
キッチンから居間へと移動したカスミ、風呂上がりの「火照り」を冷ましたいのか、相変わらず全裸のまま。
そして、血の繋がりはあっても、あくまで男である弟のヒロノブの目の前に、堂々と全裸で立ち尽くす。
カスミ「私、エレノア・シグニスや美田園恭香に…負けてる?」
ヒロノブ「自己性愛になりそうだから、あまりでかい事言いたくないけど、
見た目なら姉さんが一番綺麗だと思う。誰にも負けてないよ」
カスミ「見た目なら…ねえ(笑)」
正直なところ、幼さと知的な印象を相手に与える、エレノア・シグニスよりも、
身体は大きくても、その小動物的振る舞いで、相手に守ってあげたいと思わせる美田園恭香より、
容姿に関してだけ言えば、カスミ・レイモンドは完璧に近い。
すらりと伸びた長い足、透き通る様な白い肌。
細めの身体の要所要所が膨らみ、そして締まっている。
サラサラの白金に近い髪は肩の上まで垂れ、風呂上がりの濡れた髪は妖艶ささえ醸し出している。
ヒロノブ「ムナカタさんへの接し方が、イマイチなんじゃないの?」
カスミ「私、あの人達みたいに、自分をさらけ出してぶつかって行くのは…苦手」
ヒロノブ「まあ、問題はそこだろうね(笑)」
カスミ「近くにいれば、カオルさんが言い寄って来る。そんな、傲慢な幻想を抱いているのも確かだけど…」
ヒロノブ「動機が不純なのかもね。はっきりと自分の中で答えを出しながら、
ムナカタさんと接してる彼女達に、姉さんが勝てるとは思えない」
カスミ「動機が不純って!」
この言葉に異様に反応するカスミ、
どうやら、カオルに持つ感情は、恋愛感情だけでは無さそうだ。
ヒロノブ「死んだ母さんの一件がある。今でも姉さんは思っているはずだよ、【ムナカタ・カオルを超える】って」
カスミ「…でも、カオルさんに罪は無い」
物憂げな瞳でうつむくカスミ。
ヒロノブはソファから立ち上がり、クローゼットを勝手に開けながら、
カスミの下着や着替えを取り出す。
ヒロノブ「さあ、風邪をひくから、いい加減服を着て(笑)」
カスミは無言のまま、ヒロノブは恥じらいもしないカスミに、遠慮する事も無く、
下着や寝間着を着せて行く。
ヒロノブ「ムナカタさんは、太陽だと思う」
カスミ「ん、太陽?」
ヒロノブ「だって、彼に照らされた人達は、良い笑顔で、活き活きしてるよ」
カスミ「…」
ヒロノブ「それを感じたから、姉さんは好きになってしまったんでしょ?
だったら、太陽になれなかった姉さんは、余計な事は考えずに、綺麗な月になって光を反射しなきゃ」
カスミ「…そうかもね。私達の勝手な遺恨だけど、わだかまりはある。
でも、それはあの人には関係無い」
ヒロノブ「うん、だから後は、姉さん次第なんじゃないかな?」
そう言いながら、ヒロノブはカスミを軽く抱きしめる。
女性と男性の体型差さえ無ければ、まるで鏡に映した様な二人だ。
ヒロノブ「さて、僕は寝るよ。姉さんとムナカタさんとの事を考えながら、
嫉妬にさいなまれながら…ね(笑)」
カスミ「おやすみ、ヒロノブ」
ヒロノブは笑顔で部屋を出て行く。
季節はいよいよ冬、護衛艦リスキー・ビスキー出航まであとわずか。
それはつまり、地球奪還作戦がいよいよもって始まると言う事。
今はまるで、嵐の前の静寂の様に、
人々はこの後にやって来る、嵐の凄まじささえ想像出来ずに、
安らかに、温かいベッドで各々の夢を楽しんでいた。




