プロローグ・フェイシャは人類の希望
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『作戦指揮車、ハミルトン聞こえるか?』
ハミルトン中佐「聞こえてるぞ曽ヶ端!」
どうやら、ハミルトン中佐と回収部隊の曽ヶ端中佐、
同じ階級である以上に、互いを名前で呼び合う関係のようだ。
曽ヶ端中佐『遅れてすまなかった、こちらも物体Eの攻撃を受けていた。
…遺物の確認を行って貰いたい、フェイシャはいるか?』
ハミルトン中佐「…曽ヶ端、フェイシャは脱出させた。キング・アーサーに回収される予定だ」
曽ヶ端中佐『…どういう事だ?』
ハミルトン中佐「曽ヶ端、キング・アーサーに向かえ。ここはもう…ダメだ」
フェイシャを国連軌道宇宙軍の亜宇宙空母群旗艦、キング・アーサーに退避させた事、
そしてハミルトン中佐が言った【ここはもうダメだ】。
無線の先にいる曽ヶ端は、陽動部隊が今、どんな現状に陥っているのかを察知する。
沈痛な声がハミルトン中佐の耳に届く。
『…すまない、ハミルトン。俺達がもうちょっと上手くやっていれば…』
ハミルトン中佐「気にするな、お前はしっかりやった。俺達がドジふんじまっただけだ」
モニターを凝視する副官が、ハミルトン中佐に向かいモニターを指差す。
戦略爆撃機T-REXの点滅するブリップ (光点)が、いよいよ爆撃コースに突入した事を示していた。
ハミルトン中佐「…早く行け曽ヶ端、T-REXがここを爆撃する」
曽ヶ端中佐『何を言っている!?貴様もさっさと脱出せんかっ!!』
戦闘指揮車のカメラが、島の海岸線に映る影を捉え、モニターに映し出す。
島を周回しつつ、暖気状態を終えた、回収部隊の乗機。
宇宙空間でも大気圏でも運航出来る、万能型の最新鋭大型輸送艦【リスキー・ビスキー】が、
大気圏脱出シークエンスを終え、今まさに宇宙に飛び出そうとしている。
ハミルトン中佐「救援艇は来ない、強襲揚陸艇も脱出させた。曽ヶ端…フェイシャの事…頼むぞ」
曽ヶ端中佐『ハミルトン!!』
ハミルトン中佐「…フェイシャは、人類の希望…」
ハミルトン中佐が言い終わらない内に、島を中心に辺りが真っ赤に染まる。
空も、海も、生き生きとした緑に囲まれた島も、まるで瞬間的に夕焼けが現れたかの様に、
強烈な熱を伴うオレンジ色のカーテンに包まれたのだ。
かつて、地球上に人類が溢れ、人類社会が繁栄の日々を謳歌していた頃。
太平洋と呼ばれた、大きな大きな海の北西側に、大小様々な島で構成された日本と言う国があり、
連なる島々は日本列島と呼ばれていた。
そしてその列島の中心の山岳地帯に、【皆神山】と言う、
それほど標高の高くない山があり、当時は人々の信仰・信奉を集めていた。
何故、大して高くはないその山が、人々の信仰の象徴になっていたのか。
それは、その皆神山の形状が、綺麗なとんがり頭の二等辺三角形であり、
「日本のピラミッド」と称された時期があったからだ。
もっと言えば、その地には特殊なエネルギーが蓄積されているパワースポットと称されたり、
未確認飛行物体の目撃も、数多く寄せられていた。
また、世界を巻き込んだ大きな戦争では、皆神山の未知の力をより所に、
地下に皇族や軍の総司令部が避難する為の、シェルターも建設された程だ。
今、この時代。
そのピラミッドと言われた【皆神山】は、海の上にポツンと…島として浮かんでいた。
そう。
曽ヶ端中佐率いる遺物回収部隊から、【物体E】の目を反らす為に、
ハミルトン中佐率いる地上降下部隊が囮となって、激戦を行っていた場所がここ、皆神山なのだ。
ただ、この島が2世紀ほど前まで、山岳地帯にポツンと立つ小さな山で、
皆神山と当時呼ばれていた事を知る者は、今は少ない。
この時代に生き残った人類の中で、わずか一握りの者達だけが、
この島がかつて皆神山と呼ばれていた事を知るのみだった。
オレンジ色の火球に包まれる皆神山…いや、皆神島。
その美しくも残酷な彩色を背景に、国連軌道宇宙軍所属の大型輸送艦【リスキー・ビスキー】が、
遥か高空に向かい、飛翔を始めている。
目指すは亜宇宙空母群旗艦キング・アーサーのもとへ。
そして、キング・アーサーで帰還を待つ、謎の少女フェイシャのもとへ。
大きな…まるで海洋生物のエイの様な広くて厚い羽を羽ばたかせて。
2399年
人類が地球を追われてもうじき2世紀が経とうとする時代に、この話は始まる。
ただ、少女フェイシャと遺物の関わりなど、事細かな事象がやがて、
人類の命運を左右する様な大きな出来事に育つまで、あと16年ほどの時間を要していた。
そして、16年後の西暦2415年、
本当の物語が始まる。




