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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
黙示録の4騎士編
37/77

エリオット・コバヤシ中将の演説




演台に進んだエリオット・コバヤシ中将、原稿も用意せずに、

視線はカメラを射抜きながら、無数に束ねられたマイクに向かって語り出す。




『環地球軌道経済連合の皆さん、月経済連合の皆さん、そして火星に住む皆さん。

…この世界に住む皆さんに、大変重大なお知らせがあります。

人類の未来を左右する、非常に重大なお知らせです。


地球を追われた、あの忌まわしい記憶から2百年。

絶望の縁に立たされていた我々人類は、この宇宙空間を新たな開拓の地として、

再び繁栄の道を歩み始めました。


この世界、この宇宙空間で我々が生命の営みを育む事が出来たのも、

新たな希望を胸に、宇宙開拓に邁進して来たのも、

ひとえに、あの【黙示録の7日間】の地獄を耐え!生き延び!

そして後の世に生きる我々に、希望の火種を残してくれた…200年前の我々の祖先です。


今を生きる者達が、後の世に生きる人類の為に、何かを残す。

今度は我々…、我々が、その義務を果たさなければならない。


そんな重大な局面に来たのです。




人類は…




今から36年後に人類は、絶滅の危機にみまわれます。


私の背後に投射された映像を、ご覧ください。

これは、今現在の太陽系の惑星位置図です。

今から36年後、直径400kmを超える隕石が、太陽系外縁から飛来し、太陽をフライバイ。

再び太陽系外へと抜けて行きます。


発生源は、太陽系全体を取り巻く、小天体群…オールトの雲からと、予想されますが、

この隕石、我々は【ギャランホルン】と名付けたこの隕石の、コースに注目して頂きたい。


太陽に向かうルートにおいて、地球と月の間を通過します。


拡大画面に切り替えて下さい。


【ギャランホルン】は地球の夜間面から進行し、地球の引力圏に干渉、

衛星軌道からラグランジュ・ポイントを通過。

月の衛星周回軌道に引力の影響を与えながら、太陽に向かって進行します。


惑星に対するジャイアント・インパクトはありませんが、

この【ギャランホルン】のコースは、我々に絶望しかありません。




【何故なら、我々の生きる場が、そこにしか無いからです】




楠木中佐「まさか…、ケスラー・シンドローム!?」


カリー中佐「そうか…だから我々は…」




アメリカ資本で建造された、国連軌道宇宙軍専用の基地コロニー、【ノーラッド】。

その士官用食堂では今、大型モニターに映るエリオット・コバヤシ中将の演説の内容に、

誰もが愕然となりながら…呆然としながら、聞き入っている。

その中には、楠木中佐とカリー中佐の姿もあった。




エリオット・コバヤシ中将は、言葉を続ける。




『計算では、最低でも28基のコロニーが瞬間的に粉砕され、

そのコロニーの残骸や破片…つまりスペース・デブリ(宇宙ゴミ)が大量に発生します。


秒速数千メートルで慣性飛行を続けるデブリは、あらゆる方向に飛び散りながら、

新たなコロニーや月面施設に衝突、被害とデブリはネズミ算的に増え…


地球軌道圏、月引力圏。おそらく、地球公転軌道は、大量のデブリが飛び交う、

二度と航宙艦が航海する事の出来ない、【死の世界】になるでしょう。


それはつまり、物資が全て止まり、火星経済圏も餓死すると言う事。

人類が、宇宙で生きるすべが…全て失われてしまうのです。


ならば、我々は生き延びる為に、どうすれば良いか…。


地球軌道圏、月面に住む人々を、どこへ避難させればベストなのか?

【ギャランホルン】が通過するまでに、軌道上のコロニーを撤去するにしても、

何億もの人々を、どこへ移動させるのか…。


火星でしょうか?


未だに10万人程度の人々が住むだけのキャパシティしか無く、テラフォーミング完成に、後900年もかかる火星は、

実質的に、地球圏の人々が移動する事は不可能です!


そうであるならば!


そうであるならば!


我々に、まだ希望が残っているとすれば、後36年の間に一体、何が出来るのか…?』




楠木中佐「地球か」


カリー中佐「だから地球なのか」


朝霧大尉「…地球…」


ショーン「地球…」


エレノア「なるほど」


ミカ「…マジなの?」


カスミ「地球…か」


ヒロノブ「…」


カオル「…地球…!地球!!」




エリオット・コバヤシ中将『地球…そう、地球。我々は、来るべき36年後の黙示録から逃れる為に、

200年前に黙示録が起きた地…地球を目指すのです。いや、地球を目指すしか無いのです。』




一瞬…いや、精一杯息継ぎをし、時間を溜めるコバヤシ中将。


地球を目指す事それが、どれだけ困難な事なのか、

この記者会見を注視する、世界中の誰もに、その困難の理由を思い出させる為の、演出の間と言っても良かった。




コバヤシ中将『彼の地には【物体E】が待ち構えています。

人類を地球から追い出した、未だに正体不明の物体…。まさしく何物とも表現出来ない、謎の物体が。


だがしかし、だからと言って、今我々は地球を諦める訳にはいかない!

地球を目指すしか、我々人類に残された道は無いのです!


再び、モニターに注視して頂きたい。

これが、国連軌道宇宙軍と、国連月宇宙軍が共同開発し、

そして地球攻略の前線基地となる、空中要塞アーシラトです。


そして!


これが、対【物体E】に直接対抗する、我々人類の希望。武装・強化外骨格…APEであります!


戦いは、厳しくなるでしょう。何人も、何百人も、兵士達は死んで行くでしょう。

それでも、我々は退く事を許さない、許されない!


人類の最後の希望が、そこにしか無いのであれば、どんな障害が待っていようが、

どんなに死体が積み上がろうが、我々人類は、進むしかないのであります!』




全てを言い切った…


全てを世界中に言い切った。


黙っていれば、人類は幸せだったのか?それとも…。


苦悩を隠さず、沈痛な面もちで、声のトーンを落とし、

小さな声で、ゆっくりと話し始めるコバヤシ中将。




『来月の12月より、戦時統制法が施行され、皆さんの暮らしにも、目に見えた変化が現れると思います。

そして、我々国連軌道宇宙軍と国連月宇宙軍は、【物体E】に対しての、本格的な地球奪還作戦を行います。

各国、国民の皆さん、火星にいる皆さん、希望だけは、希望の火だけは消さないでください。

36年後、何事も無くギャランホルンが通過した時、みんなで笑い合いましょう。

地球の地上で、空を見上げながら…』




コバヤシ中将は一礼し、演台から降りた。





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