そう遠くない将来、必ず【あれ】に乗せられる
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時は同じく、場所は日本国コロニー3【中京】
国連軌道宇宙軍所有の病院。
その病院の奥の奥…、とある研究室に、三人の男女の姿があった。
三人の男女とは、デイリー中京の記者で、【プロジェクト・ゴーホーム】に協力している、
特務大尉の肩書きを持つ、堂上誠一郎。
そして、中京大学情報学部の準教授で、国連軌道宇宙軍、情報保全部付き特務少佐の肩書きを持つ、メリル・ウィルドット。
さらに、やはり中京大学情報学部で客員講師をしている、レイコ・F・ムナカタ。
研究室のデスクに設置されたモニターから、視線を動かさない堂上。
何かしらのレポートなのか、数枚の報告書を凝視するレイコ。
堂上の隣に椅子を置き、モニター画面を見ながらも、友人であるレイコの表情をうかがうメリル少佐。
三者三様に、この時間を過ごしている。
レイコ「はあ…」
書類を見詰めながら、安堵のため息を吐くレイコに、メリルは優しく声をかける。
メリル少佐「安心した?」
レイコ「うん、良かった…。本当に良かった」
メリル少佐「一定の条件が揃わないと、もうあんな事は起こらない。
カオル君は大丈夫よ」
レイコ「でも、大丈夫って事は…」
急に表情が曇るレイコ。
その変化が手に取る様に理解出来るメリル少佐は、
レイコにかける言葉を選びながらも、厳しく、優しくレイコを諭す。
メリル少佐「そう。カオル君が問題無いと言う事であれば、そう遠くない将来、必ず【あれ】に乗せられる」
レイコ「今日、今…その号令がかかる。もう、後戻りは出来ない」
メリル少佐「そうよ、この時が来る事を予言したのはあなた。
そして、そうなる為に、カオル君を身ごもったのもあなた。
これから、彼の運命がどうなるのかは、全てを知っているあなたの覚悟次第よ」
レイコ「そうね…そうね…」
沈痛な面もちのレイコ、とうとう両手で顔を覆い、静かに泣き出してしまう。
レイコ「カオルは…私が守る。絶対に…絶対に私が守る!」
メリル少佐「一緒に頑張りましょう、私も全力で応援するわ。それに、彼にはまだ足りないものが…」
レイコ「ええ、全力でそれも探さないと」
堂上「そろそろ時間だ、始まるぞ」
カオルについての情報を知らされていない堂上は、意識的にメリル少佐とレイコのやり取りを無視。
メリル少佐からは「優先事項(特)レベルは、会見後に話す」と言われており、
今は静かに…持参したポットに入っているコーヒーを、チビチビと飲みながら、モニター画面に見入っていた。
モニター画面に映し出されているのは、ありきたりな企業CM。
しかし、画面下に【20:30より国連軌道宇宙軍の会見生中継】と、テロップが表示されている。
時刻は20:29
急にCM画面からスタジオ画面に切り替わり、男性アナウンサーが原稿を読み始める。
男性アナウンサー『番組を変更して、これより、国連軌道宇宙軍統合幕僚本部長、
エリオット・コバヤシ中将の記者会見を中継いたします。
なおこの放送は、環地球軌道経済連合のみならず、月経済連合及び、火星自治政府でも、同時中継されております』
堂上だけでなく、メリル少佐やレイコも、やがてモニター画面に釘付けになる。
内容は分かっていてもやはり、世紀の一瞬には変わりないからだ。
画面がスタジオから記者会見場に切り替わる。
どうやら記者会見場は、国連軌道宇宙軍統合幕僚本部のホール。
記者達から見渡せる様に、フロアより一段高いステージを設営し、記者会見を行う様だ。
「おおっ…!!!」
ホールに集まっていた報道陣に、どよめきが走る。
統合幕僚本部長の、エリオット・コバヤシ中将が、待合室からステージに登って来たのだが、
そのコバヤシ中将の後を追う様に、そうそうたるメンバーがステージに上がり、
コバヤシ中将の背後に並んだのだ。
「どういう事だ?」「どうなってる?」
「国連月宇宙軍も…?」「国連月宇宙軍のヴィンセント・ショウ総司令官だ」
「アメリカ大統領に、イギリス首相に…日本国首相」「それだけじゃない、月経済連合の各国首脳まで」
「国連軌道宇宙軍の単独会見じゃないのか?」「何が始まるんだ?」
騒然とするホール。
コバヤシ中将は、穏やかな「メディア向け」の笑顔のまま、ステージ上の演台に進み、
ゆっくりと低い声で、スピーチを始めた。




