プロローグ・作戦成功
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『こちらハンティング・ホーク、エコー中隊、爆撃コースに乗った。ポイント指示を請う』
副官「こちら作戦指揮車、座標015から進入し、247で投下せよ!」
『ハンティング・ホーク了解した!』
『こちらヘッジホッグ爆撃機隊、ポイント到着まで後30秒!』
ハミルトン中佐「ハンティング・ホークの爆撃を確認後、同コースから進入し、座標247で投下せよ!」
『ヘッジホッグ了解、ハンティング・ホークのけつにつく!』
『…戦略爆撃機T-REXです、高度6000メートルで待機中。
只今上空より無人戦闘機レイブン6機が当機を通過、そちらに向かいました』
副官「T-REX、情報を感謝する」
ハミルトン中佐「T-REXが何を搭載しているか確認しろ!」
副官と爆撃機パイロットの無線通信に割って入り、ハミルトン中佐は副官に、爆撃機搭載爆弾の種類を確認させる。
副官「こちら作戦指揮車!T-REX、搭載している弾種は何か?」
『こちらT-REX、気化爆弾ライジング・サンを2機搭載しています』
一瞬、沈黙したまま見合わせる副官とハミルトン中佐。
(島一つ吹っ飛ぶんじゃないか…?)
もう…
爆撃に次ぐ爆撃で、勝っているのか負けているのか、敵を駆逐しているのか、駆逐されているのか、
押しているのか押されているのかも解らない中、
底知れぬ破壊力を持つ爆弾を投下したらどうなるか。
そんな躊躇の色が、顔から表情としてにじみ出ていた両者であったのだが…、
ナパーム弾で、メラメラと燃え上がる森を捉えたモニター。
その森の奥から現れた存在を確認した、ハミルトン中佐と副官は、
高性能爆弾を投入する躊躇など軽々と粉砕し、爆弾投下をT-REXに命じる。
副官「…中佐…あれが…?」
ハミルトン中佐「戦指揮車からT-REX!レイブンの後に続け、攻撃座標253だ!!」
副官「中佐、座標253だと我々に近過ぎますっ!!!」
ハミルトン中佐「構うものか!!機械化歩兵と戦車隊全車両へ、全軍後退!海岸線まで退け、全軍全速で後退だっ!!」
通常の炸薬弾、ナパーム弾が数限りなくバラまかれ、森があっという間に崩壊して行く。
油っ気を大量に含んだ真っ黒な煙が辺り一面に舞い上がり、空さえも黒煙で遮り始める。
あちこちに発生する火球と、壁の様な火柱は、とどまる事を知らず、
地獄絵図はいよいよもって、壮絶さを増している。
その中
海岸線に向かって、ただひたすら全速力で後退を続ける、国連軌道宇宙軍の地上展開部隊。
ハミルトン中佐を指揮官とする、戦車隊と機械化歩兵部隊の生き残りは、
ハミルトン中佐の命令の下で、計画的…戦略的な後退をしているのではなかった。
無数の爆炎・爆煙の中を「何事も無かった」かの様に、国連の地上降下部隊を追跡・追い討ちをかけて来た、
【物体E】の人型タイプを超える、たった一体の【神格型】タイプから、
とにかく…、
とにかく距離を置く様にと、逃走していたのだ。
「壊走」、それまさに壊走と表現すべき出来事であった。
作戦指揮車の指揮ブース、モニターに怪しく映る神格型の【物体E】。
徐々に徐々に、部隊との距離を縮めて来ているのか、モニター画面でも段々と大きく映し出されて行くその姿。
ビルの4階まであろうかとおぼしき、巨大な体。
巨大な割りには、細い腕と細い足、そして細い胴体。
計り知れない巨躯…体重を支えているとも思えない、あまりにも細身で貧弱な身体つき。
それはまるで、地球の重力の枠から逸脱した、別次元の存在のようにも思える。
そして、何よりも見る者を驚愕させ、恐れ、怯えさせるのが、その【神格型】の様相。
髪の毛と言わず、全身の体毛が全く見て取れず、かと言って体毛が無い事で、皮膚の表面がツルツルしている訳でも無い。
ぼんやり…全てがぼんやりと見えるだけの存在。
苛烈な爆撃を受け、燃えさかる炎の揺らめきで大気が弄ばれ、そう見えてしまうのとは全く違う。
ぼんやりと、しかし確実に、そこにいて、そして音も立てずに迫って来ているのだ。
【背中の6枚の羽】を、ゆったりと羽ばたかせながら
そして【神格型】の表情。
それが憤怒の形相なのか、悲哀に満ちた表情なのか、
ハミルトン中佐や機械化歩兵部隊、爆撃部隊全ての兵士達は、うかがい知る事が出来ない。
何故なら、表情どころか、目も、鼻も、口も無く、ただ「のっぺり」とそこに立ち、
全身を青白くぼんやりと輝かせるだけなのだから。
ハミルトン中佐「や…やつはバケモノか…!?」
額から垂れる油汗を拭いもせず、「当たり前」の事をつぶやくハミルトン中佐。
これだけの爆撃を受けても尚、傷一つ負う事無く、地上降下部隊を追跡して来る【神格型】。
そののっぺりとした顔からは、原理の全く理解出来ない「レーザー」が照射され、
退避中の機械化歩兵部隊や戦車隊が、次々に爆発…炎上していく。
インカムやスピーカーからは、機械化歩兵達や戦車隊の乗員達の悲鳴が絶える事が無い。
地上降下部隊員のリスト表示画面に、「K・I・A」キル・イン・アクション(戦死)マークが、ずらずらと、確実に増えている中、
事態は既に、戦略爆撃機T-REXが気化爆弾ライジング・サンを投下するのみ。
【物体E】の神格型に攻撃されて死ぬか、はたまた、
【物体E】との距離を縮められ、爆撃に巻き込まれて死ぬのか、
いずれも答えは「死」あるのみ。
笑っているのか、怒っているのか、血走った目を「ひんむいて」、
横に目一杯広げた口から、真っ白な上下の歯が覗くハミルトン中佐。
ひたすらモニターとにらめっこしながら、自分の人生の終着点が、どんな状況で幕を引くのか見詰めている様だ。
無人戦闘機レイブンが爆撃を終え、戦略爆撃機T-REXが爆撃コースにいよいよ突入した時、
戦闘指揮車のオープンチャンネルに、雑音混じりの弱々しい無線が入る。
その無線の声は、作戦が始まってからは全く聞かなかった声。
中佐が最も待ちわびた、この作戦のキーマンからの無線。
兵士達を見殺しにしてまでも、求めていた成果が、このキーマンからもたらされる。
戦闘指揮車のモニターには、もう画面いっぱいに【物体E】の神格型が近付いて来ている。
どんどんと迫って来る「死」に目を反らし、ハミルトン中佐は心落ち着かせ、無線の内容に耳をすませる。
『…ザッ…ザッ…』
『…こちら回収部隊の曽ヶ端中佐だ、作戦指揮車ハミルトン中佐聞こえるか?』
ハミルトン中佐「こちら作戦指揮車、聞こえるぞ曽ヶ端!」
『…遺物の回収に成功した!』
回収部隊、曽ヶ端中佐を名乗る男性からもたらされた情報に、
握り拳に力を入れるハミルトン中佐と副官。
(作戦は成功した!)
ハミルトン中佐率いる陽動部隊の死戦が、報われた瞬間であったのだ。




