ペイル・ライダー
・
場所は変わり、コロニー3【中京】。
とある研究施設の一角にある、薄暗い研究室。
中年の研究員らしき男性が、机の上の端末を操作し、
その背後からは、国連軌道宇宙軍のメリル特務少佐と、
カオルの母である、レイコ・F・ムナカタの姿があった。
研究員「…やはり、遺伝子異常は起こしてないですね」
「ホッ…」
胸をなでおろすレイコ。緊張が一気に解放され、穏やかな表情に戻る。
メリル少佐「良かったな、レイコ」
レイコ「ああ…、良かった」
メリル少佐も安心したのか、普段通りの表情に戻る。
研究員「しかしこれで、新たな疑問が噴出しましたね」
メリル少佐「新たな疑問だと?」
研究員は椅子ごと振り返り、端末からメリル少佐達に視線を移す。
レイコは既に、新たな疑問に感づいている様だ。
研究員「遺伝子異常や欠損は確認出来ず、身体的な病気の発症も無し」
レイコ「健康そのものなのに、何故倒れたか…だな」
研究員「その通りです」
メリル少佐「ふむ…分野がまるで違う、私にはわからん」
諦め顔でため息をつくメリル少佐。
メリル少佐「疑問は疑問として、現実に【彼】は倒れたんだ。
症状に対する予測と、対処法くらいは道筋を立てておかないと」
研究員「そうですね」
レイコ「…多分、原因はフラッシュバックだ」
メリル少佐「フラッシュバック?」
レイコ「あの、地球環境館の体験ブース。視覚や嗅覚、脳などにダイレクトにデータを送り、
映像を再現するシステム」
メリル少佐「それが何か…?」
レイコ「あくまでも仮説だが、遺伝子の持つ記憶情報が刺激され、
記憶領域が、オーバーフローを起こしたとは考えられないか?」
メリル少佐「遺伝子の持つ記憶だと?」
メリル少佐には心当たりがある。
遺伝子の持つ記憶、それが一体何を意味しているのか。
そしてその意味する事が、どれほどの影響を彼にもたらすのか。
レイコ「ああ。遺伝子が持つオリジナルの人格が、フラッシュバックを起こし、
そこにカオルの人格が重なって、破綻を起こし始めた可能性が…」
メリル少佐の顔が、みるみるうちに青ざめる。
メリル少佐「いや、あり得るかも知れない。だが同時に、それは絶対にあってはならない事だ!」
レイコ「そうだな、あってはならない事だ」
苦悩の表情を浮かべるレイコ。
メリル少佐「彼の人格が、オリジナルに乗っ取られる可能性…、現状では否定出来ないと言う事か」
研究員「薬物投与でペイル・ライダーの人格自体を弛緩させては?」
この時、研究員のその何気ない言葉に、レイコの表情はみるみるうちに変わる。
苦悩していた表情が、殺意丸出しの瞳と攻撃的な表情に変わったのだ。
研究員「!?」
レイコは研究員を刺す様に見詰める、まばたきすら忘れる程に。
レイコ「私の子供を【ベイル・ライダー】と呼ぶな。…殺すぞ」
恐ろしさのあまり、研究員は無言のまま何度も頭を縦に振り、
そのまま力無くうつむいてしまった。
レイコ「それに、人格自体を弛緩させるだと?貴様は私の息子を、廃人にする積もりか!」
メリル少佐「悪気は無いんだ、その辺にしといてやれ、レイコ。
それよりもだ…カオル君の今後を考えないと」
レイコの見た事の無い程のエキサイトぶりに、苦笑するメリル少佐。
レイコ「そうだな、そうだな…」
メリル少佐は冷静に、淡々と、研究員に指示を出す。
メリル少佐「この件は情報保全部が預かる」
研究員「は、はい」
メリル少佐は腕時計を確認しながら
メリル少佐「19時23分、優先事項1を宣言する。
これでこの件は、国連軌道宇宙軍扱いの最重要機密に指定された。
同僚にたった一言漏らしただけでも、命の保証は無い」
研究員「しょ…承知しました」
淡々とした表情で、事務的に話を進めるだけのメリル少佐に、
逆に恐怖を感じたのか、完全に飲まれる研究員。
メリル少佐「今後のカオル君への対策や防諜等は全て、情報保全部から追って指示する。
独断専行はするな、研究は指示に従って行え」
研究員「…はい」
「さて、」
レイコに振り返るメリル少佐。
研究員に向けていた冷静な顔付きとは打って変わり、笑顔溢れる「友人」の顔が。
メリル少佐「帰宅しても今日は1人だろ(笑)たまには一杯付き合え。
焼き魚と日本酒の美味い店を見つけたんだ」
レイコ「しょうがない、ここは【いつも】1人ぼっちの先輩の言う事を聞いて、ご馳走になるか♪」
メリル少佐に突っ込まれながら、二人は研究室を出て行った。




