武装強化外骨格 APE(エイプ)、初出撃
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「クァン・ロウ准将が入室!」
亜宇宙戦術空母群4番艦、フィン・マックールの操舵室に、クァン・ロウ准将が入室して来る。
操舵室と言っても、構造自体は完全密封式の航宙船と同じで、ガラス窓から外部の景色が見える訳ではない。
狭々とした室内の床と天井に椅子が配置され、操舵士や航宙士が目の前のモニターとにらめっこしながら、
手元の操作板と格闘しているだけ。
景色を見て、操船しているのではなく、全ての環境をデータにして、データで操船しているのだ。
クァン・ロウ准将は扉の取っ手を掴み、宙を浮きながら艦長が座るシートの隣へ。
艦長は振り向きもせずに、隣のクァン准将に一言。
艦長「【奴】が上がって来ます。成層圏上層到達まで後2分」
クァン准将「艦種は判ったかい?」
艦長「CDC(コンバット・ディレクション・センター、フィン・マックール内の作戦発令所)のデータリンクを見ると、
どうも、月経済圏のエジプト船籍…商船ですね」
クァン准将「赤道直下の肥沃な土に、目がくらんだか」
艦長「おおかた、そんな所でしょうな」
准将と艦長の会話を遮る様に、オペレーターが声を張り上げる。
オペレーター「【ボギー(味方機以外の呼称)】来ます!成層圏上層到達!
このまま290度地球を周回すれば、月軌道コースに乗れます」
艦長「よし、推力7%上げ!艦首コンマ3上げ!軌道爆雷の投射準備に入るぞ」
操舵士「艦首コンマ3上げアイサ!」
艦長「オペレーター、ボギーに国連軌道宇宙軍名で、加速禁止命令を通達しろ」
オペレーター「アイサ。成層圏上昇中のエジプト船に告げる、こちら国連軌道宇宙軍!
貴船の地球軌道圏内での運航計画が提出されていない。よって、貴船を国連軌道宇宙軍への敵対行動とみなし、
加速禁止命令を達すると同時に、臨検を要求する!繰り返す!…」
艦長は椅子の手すりに設置されている「ごっつい」受話器を取り上げ、自分の顔の横へ。
艦長「CDCへ、こちら艦長。軌道爆雷の警告射撃と共に、臨検行動に入る。規定に基づき作戦展開の発令よろしく」
そのまま、艦長は目の前の武器管制官の背中に声を掛ける。
艦長「CDCから、軌道爆雷の最小爆散円距離のデータが来る。秒数セット後に報告しろ」
オペレーター「艦長、ボギーからの応答がありません」
艦長「【本国】との無線の形跡は?」
オペレーター「一切ありませんね」
武器管制官「軌道爆雷の警告射撃、最適化完了!」
【軌道爆雷】
この時代の宇宙空間での、戦闘の主戦力となる兵器で、敵の存在する宙域に向かって投射し、
敵に到達する以前に自爆させ、その自爆した膨大な量の破片で敵を攻撃する、自律型指向性爆雷の事である。
爆雷が自爆し、宇宙空間において、その飛散する破片の輪の事を「爆散円」と呼び、
その輪が小さければ小さいほど、敵の損害が増すのである。
他にも電磁投射砲や、レーザ砲も標準兵装化されているが、
宇宙空間での戦闘においては、出来るだけ早期に敵を発見しての、長距離射撃が一番有効で、
「網」を張って敵を倒す軌道爆雷に比べ、針の穴に糸を通す電磁投射砲は長距離射撃に向いていない。
電磁投射砲はコロニーなどの大規模建造物や対要塞戦の中距離戦闘用。
また、レーザ砲は収束率の悪さから、目視可能範囲での極近接戦闘用の武器と位置付けされている。
デブリ(宇宙ゴミ)化する恐れがある事から、条約で厳しく性能を制限しているが、
この時代の宇宙空間での戦闘は何と言っても、軌道爆雷が一番有効なのである。
艦長「こちらブリッジ、CDCに通達。軌道爆雷の警告射撃、用意が完了した。派兵準備は良いか?」
艦長が受話器でCDCに連絡を取っていた時、
オペレーターが不審げにエジプト船の異常を伝えて来る。
オペレーター「艦長、ちょっと待って下さい」
艦長「どうした?」
オペレーター「あの…エジプト船、船体表面に異常が発生してます」
艦長「データをこっちへ」
端末からの転送を命じる艦長。
送られて来たのは、温度差が色で識別されるサーモ画像。
エジプト船と、取り巻く宙域の画像が、温度で色分けされている。
艦長「…うん?これがどうした?」
オペレーター「ちょっと見てて下さい、船体表面のあちこちで、小規模爆発とおぼしき反応が…」
艦長「…なるほど」
オペレーターの言う通り、散発的ではあるが、モニター越しに無数の光点が確認出来る。
艦長「CDC、こちら艦長だ。ボギーにトラブル発生を確認、船内火災と思われる」
艦長は隣にいるクァン・ロウ准将にも聞こえる様にと、耳元の受話器を離す。
『こちらCDC、陸戦隊と衛生兵の乗った連絡艇を、
高高度戦術戦闘機ハンティング・ホークの護衛でボギーに向かわせます。
それと、クァン・ロウ准将はいらっしゃいますか?』
クァン准将「私ならここにいる」
『准将、APE1個小隊の出撃を進言します』
クァン准将「理由は?」
『ボギーの船内火災の原因は、故障又は船内での反乱ではと予想します。
扉から進入出来ない場合、APEの船外活動が要求されるかも知れません』
クァン准将「ふむ…、了解した。今からCDCに向かう」
クァン准将は通話を終え、艦長に向き合う。
艦長「威嚇爆撃は凍結します、後はCDCにお任せします」
クァン准将「了解した、操船よろしく」
クァン准将がブリッジから出て行った。
キュイ!キュイ!キュイ
ほどなくして、フィン・マックールの船内に電子サイレンが鳴り響き、
続いてクァン・ロウ准将の声で艦内放送が流れる。
クァン准将『こちらCDC、クァン・ロウ准将である。現在追跡中のボギーに対し、
APE1個小隊を投入する。規定に従い、出撃準備にかかれ!』
一方、クァン准将の艦内放送を聞いていたAPE専用のドックでは、
今までに無い程の緊張感を漂わせながら、整備士達は無重力状態の中で、
せわしなく動き出す。
「リフト動かせ!射出ドラムに入れるぞ」
「電磁投射ライフルを外せ!ガスマシンガンとマガジン4本装備だ。
3機だ、そうだよ3機分だ!」
「大尉!立ち上げはしてあります、すぐ行けますよ!」
「わかった、ありがとう!」
整備士の声を背中に受けて、朝霧大尉が宙を泳ぐ。
向かう先には、胸部が車のボンネットの様に「パカリ」と開いたAPEが。
その中には、無数の機器とモニターに囲まれたコクピットがあり、
主である朝霧大尉を待っている。
朝霧大尉「スコット少尉、アッザン少尉、実戦だ…行くぞ!!」




