表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
国連軌道宇宙軍編
22/77

訓練と言う名の、強行偵察作戦




地球成層圏の遥か高空、地球は球体なのだと実感する程に湾曲した地平線。


見上げれば暗黒、見下ろせば空。

地球の重力に吸い寄せられた酸素すら、あるのか無いのか分からないこの空間に今、

地球の重力に反発しながらも、さりとて無重力空間に迎合しない、そんな境界線の無い微妙な層に、


一隻の航宙艦がゆっくりと漂っていた。


水面下で動く魚に狙いをつけ、高空からまっすぐに水面に飛び込み、

そして獲物である魚を狩る鳥…。

まるで水面へダイブした瞬間の鳥の様な、銀色に輝く見事で美しい流線型の船体。


船体の横には、この船の認識番号と船名が、大きな字でペイントされている。


【UNOSF】

【STC―04】


国連軌道宇宙軍

Stratosphere Tactics Carrier-04(ストラトスフィア・タクティクス・キャリアー)


つまり、国連軌道宇宙軍所属の、亜宇宙戦術空母4番艦。

その名も【フィン・マックール】




日本国コロニー3【中京】にある、市立四日市東高等学校一年生で、

国連軌道宇宙軍奨学コースで教育実習を受ける、ムナカタ・カオル。

そのカオルに武装強化外骨格「APE」の可能性を魅せた、朝霧大尉が乗る船である。




そのフィン・マックールの船内の一室、四角い部屋の床と壁と天井に、

個々に小さなテーブルが取り付けられた椅子がズラリと配置され、

出入り口扉から向かって正面には、巨大なモニターが設置された部屋【ブリーフィング・ルーム】では、

APE訓練部隊のパイロット達と、高高度戦術戦闘機「ハンティング・ホーク」部隊のパイロット達が、

CDC司令官と、APE訓練部隊統括補を兼務するクァン・ロウ准将から、

合同訓練の説明を受けていた。




クァン准将「さて、前代未聞の訓練を行うぞ!」




准将の表情は硬く、厳しい。

それがいかに困難な訓練であるのか、椅子に座るパイロット達には、説明を聞かずとも痛いほど理解出来た。




クァン准将「今までの大気圏突入や、成層圏巡航訓練とは訳が違う!」




准将はパイロット達の顔をひと通り見回し、挑戦的な瞳を輝かせながら、再び口を開く。




クァン准将「地上降下及び、拠点占拠訓練だ!」




准将の言葉に意表を突かれたパイロット達。

室内は異様にざわめいた。


「地上降下と拠点占拠」

ブリーフィング・ルームに集ったパイロット達は唖然とする。

元々が、水や酸素、有機物などの、地球資源の乱獲を防ぐ為に設立されたのが、亜宇宙戦術空母群。

いくら重力に引かれたとしても、地球の成層圏中流域までであり、地上に降下する事など有り得ない。

違法に資源採取を行う航宙艦でも、成層圏よりも下には降下しないのだ。




クァン准将「何だお前ら!ミス・オービットとの水着デートは終わりだ、夢から目を覚ませ!しゃんとせんかっ!!」




苦笑混じりの一喝で、ブリーフィング・ルームには再び沈黙が蘇る。緊張と言う名の沈黙が。


【こりゃあ…ただごとじゃないぞ】

パイロット各々が、この訓練の危険性を、やっと肌で感じ始めたのだ。




クァン准将「うむ、やっと兵士の顔に戻って来たな(笑)」




もう一度周囲を見回し、クァン准将は概要を再開する。




クァン准将「これは、国連軌道宇宙軍統合幕僚本部発令の訓練だ。

付随して、機密情報に該当する作戦訓練になる事から、只今より箝口令を宣言する。

極秘訓練だから、一言たりとも漏らすなよ!」




パイロット達の視線の中央にいたクァン・ロウ准将、一歩、斜め後ろに下がり、壁際に立っている人物に声をかける。




クァン准将「紹介する!今回、訓練部長を任じられた中央参謀部のニーナ・フライシャー中佐だ」




クァン准将に紹介されたフライシャー中佐は、准将に一度敬礼し、モニター前の中央に躍り出る。




クァン准将「訓練の詳細説明はフライシャー中佐が行う。二度は言わん、一度で覚えろ!」




一切化粧をしていないのでは?と、想像してしまう程にナチュラルな顔。

清潔感を通り越して、冷酷ささえ感じてしまう顔立ちと眼差し。

射る様に周囲を見渡すクール・ビューティー。

ここにいるパイロット全てが、彼女の第一声を固唾を飲んで待つ。




フライシャー中佐「本訓練の部長、中央参謀部のニーナ・フライシャー中佐です」




(…か、かわいい…)

見た目の冷たさに反比例する様な幼い声。

パイロット達の胸の内に、爆発的な【萌え】が生じ始めていた。

しかし今は、前代未聞のブリーフィング。


朝霧大尉以外のパイロット達は、そのまま…、静かに中佐の説明を聞く。

頬をちょっとだけ緩めながら。




フライシャー中佐「え~…。よって、占拠ポイントに15分滞在した時点で、

APE用に開発された輸送艇が、回収に到着する手はずとなります」




ブリーフィング・ルームに響く、フライシャー中佐の「可愛い」声。

本来なら、荒くれたパイロット達は彼女を見て、どう口説こうか、どうやって食事に誘おうかと、

思案に思案を重ねているはずなのだが、今は違う。


誰一人…


よこしまなアイデアを練ってる様な者は、誰一人いない。

フライシャー中佐の説明を、一言一句聞き逃さない様に、ただそれだけに全神経を注いでいる。


何故なら、中佐から発表された訓練の内容が、あまりにもシビアで、

訓練中の殉職者ではなく、事故による死者でもなく、【戦死者】が出てもおかしくない内容だったのだ。


テーブルの上、組んだ両手の上にアゴを乗せながら、睨む様にフライシャー中佐を見詰める朝霧大尉。

確かに視線はフライシャー中佐に向けられ、じっと睨んではいるのだが、あくまでもそれは表面。

彼女の思考は今、自分の脳裏に重点を置いており、この訓練の目的と価値、

それによって生じる人的損害などを、シュミレーションしているのだ。




朝霧大尉 (…いくら【物体E】の出現頻度の低い南極大陸を訓練目標にしても、遭遇する確率はゼロじゃない。

それに、四本足の獣型を殺れば、必ず人型が現れる)




朝霧大尉の思案などお構いなしに、フライシャー中佐の説明は、先へ先へと進んで行く。




朝霧大尉 (…これは、訓練じゃない。APEが、対【物体E】に有効であるかどうかを試す、強行偵察作戦だ)




慄然とする朝霧大尉、姿勢はそのまま、組んだ両手に力が入り、ギリギリと震えている。


ただならぬ緊張感と、吐き気をもよおす静寂に包まれていたブリーフィング・ルームだったが、


【キュイ!キュイ!キュイ!】


スピーカーからけたたましいサイレンと、それに続く艦長の艦内放送が流れ、ブリーフィング・ルームは騒然となる。




『フィン・マックール艦長より達する。太平洋赤道付近の対流層(地表に一番近い層、高度1万メートル以下)より、

未確認の航宙艦が大気圏脱出中、資源密輸グループの違法行為と判断。

本艦はこれを追跡、警察活動を開始する』




所属不明の輸送艦を発見し、通常航海から、戦闘航海へと変わる、亜宇宙戦術空母群4番艦フィン・マックール。


ブリーフィング・ルームでも艦長の放送が流れ、身体が「ビクン」と反応するパイロット達。

しかし、今はブリーフィング中であり、ブリーフィングを中断し、

スクランブル体制に入るかどうか、一瞬躊躇する。


しかし、パイロット達の鼓膜を粉砕するかの大声で、クァン・ロウ准将の怒声が響く。




クァン准将「うぉらああっ!!貴様ら、いつから腑抜けた!

スクランブル待機の意味も分からねえガキは、おしめを履いて艦内50周だ!」




クァン・ロウ准将の荒々しい言葉で「ケツを蹴っ飛ばされた」パイロット達。

「わらわら」と、無我夢中に霧散するパイロット達の中で、朝霧大尉が一人、ぽつんと一人、室内に立っている。


視線はクァン准将に。そのクァン准将も、朝霧大尉に視線を向けている。




朝霧大尉「ボディバック (死体袋)…何体分、用意する予定ですか?」




クァン准将「…訓練で、それが必要になると思うかね?」




朝霧大尉「まだ、親鳥から巣立ってもいないAPE訓練兵を、【物体E】にぶつけようとしてるんですから、

実質それは、訓練兵に対する不当な死刑宣告かと」




クァン准将「そうならない様に尽力するのが、君ら教官の役目ではないのかね、朝霧大尉?」




二人の会話の応酬はもちろん、不審船に対するものではない。

ブリーフィングで周知された、地上降下訓練の内容についての激突である。


准将と大尉。

階級だけ見れば、天と地ほどの差がある、クァン・ロウ准将と朝霧大尉。

礼儀を排除した本音のぶつかり合いでも、そこに相手に対する恨みが発生しない。

それほどに、准将と大尉には信頼関係が構築していたのだろう。


だが今は、准将は国連軌道宇宙軍の中枢から発せられた命令を、遂行する立場であり、

朝霧大尉は、その命令を、たとえ戦死者が出ようと、実行しなければならない立場にあった。




フライシャー中佐「あ、あの…」




フライシャー中佐が二人に対し、掛ける声が見当たらない程に狼狽していても、

それすら眼中に入らない朝霧大尉は、敬礼しながら、捨て台詞を吐いて、

ブリーフィング・ルームから退出して行く。




朝霧大尉「…私のボディバック、赤色の特注でお願いします」




クァン准将「…」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ