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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
国連軌道宇宙軍編
20/77

堂上特務大尉、スクープ記事を依頼される




日本国コロニー3【中京】


コロニー1【東京】で、居住区欠落事故が起こり、多数の死者が出たと、

街頭のニュースが繰り返し繰り返し報道している。

そんな、落ち着かないある日の午前中。


【中京】の中層、商業区域に存在する上流階級エリアの、高級喫茶店「ミラノ・カフェ」に、

デイリー中京の社会部記者、堂上誠一郎はいた。




「お待たせ致しました、マンデリンでございます」


櫛さえ通した事の無さそうな、ボッサボサのくせ毛に無精髭。

ヨレヨレのジャケットに、穴の開いたデニムを履く堂上。


誰がどう見ても、この高級感漂う店には不釣り合いな存在なのだが、

店の接客係…白髪の壮年のホール係は、「味のわかる男」だと評価しているらしく、

笑顔でコーヒーを差し出した。




堂上「…ん?」




コーヒーを口に含んだ堂上、何かの違和感に動きを止める。




「お気づきになられましたか?」

壮年のホール係が笑顔で問い掛けて来る。




堂上「…ユナイテッドギフト社じゃないな」




「ギフト社よりも生産量は少ないですが、ユニバーサル・アラビカ社と、ルートが出来まして」




堂上「ほう、悪くないね♪俺が来た時は、これでお願い」




「かしこまりました」

壮年のホール係は、笑顔で深々と頭を下げ、満足そうに去って行った。




堂上「…さて」




希少価値の高い、天然アラビカ豆を使用した、マンデリンに満足しながら、

堂上はテーブルの上に、半分に折った新聞を取り出して広げる。

新聞はもちろん、堂上が属している「デイリー中京」。




『ワシントンDCの運輸ストライキが暴動に発展、政府が鎮圧部隊投入へ』


『シンガポール2で大規模臓器売買業者摘発、専用の育児コロニーまで発見』


『火星自治政府に対する独立運動泥沼化。デモ隊に警官隊が発砲、死者多数』


『コロニー・ロンドンでの34人無差別殺傷事件、最高裁で被告に懲役2500年の判決』


『コロニー2【関西府】のポートで、家族5人がエアロック心中自殺。連絡艇の操縦士とガイドが巻き添えに』




どれをとっても、酷く陰鬱になる様なニュースが記載されている中、堂上は「社説」欄に目を留める。




『今、なぜ地球なのか』


◆可能性を見せた


人類が地球を追い出されてから約200年、

帰る場所を失った人類は、背水の陣とも言うべき覚悟を持って、太陽系へとその身を投じ、

無味無臭で暗黒だけが広がる、絶対死の壮絶な環境の中に、可能性を見い出して来た。


近くは月、金星、火星。遠くは木星のガリレオ衛星群のエウロパ、イオまで。


その決死の覚悟が実ったのか、人類の生活環境は地球軌道上に留まらず、

月面そして、火星にも自治政府が出来るまでに成長した。

この100年前から、今に至る飛躍的な人口増加は、

世界規模で、生活基盤が安定している事を如実に表している。


まさにこの200年は、人類の太陽系開拓史と呼んでも過言ではない。

たかだか200年でのこの成長…驚異的な、爆発的な成長。

まさに人類が人類たらしめた、金字塔の200年である。




◆波紋の内側


人類の、未来への可能性は留まる事を知らない。

今も尚、人々は貪欲に知識をむさぼり、各方面の最前線に向かって荒波の様に、最新技術を導入させている。


医療分野においては癌を撲滅し、復元細胞治療やDNA治療で、

人類は数々の病魔を駆逐し、平均寿命は確実に延びた。

また、宇宙科学は躍進を続け、外惑星探査プロジェクトは既に終了。

資源確保の具体的プラン算定が始まっている。

シリウス星系への地球型惑星探査などは、人類にもたらされた、最も期待すべき一筋の光明とも言えよう。


「外へ!外へ!」「先へ!先へ!」

人類の歩みは留まる事を知らない、まるでそれは、歩みから疾走に変わったかの様なスピード感で。


まるで、水面に物が落ちた時に起こる波紋。

水面を全ての方向に向かって、勢い良く広がって行く波紋。

それは今の人類の躍進と同じだと、表現しても良いのではないか。


そう。


どんどんと先に先に向かった事で、今まさに、宇宙開拓者としての人類に、

別の危機が迫っている事を言いたいのである。


「空洞化」による社会の「退廃」。

そして、一部の持つ者と、大多数の持たざる者との完全なる二極化による、「人心の荒廃」と言う、

社会構造の根本を揺るがす危機が。




◆モラルハザードと、マザー・アース


2414年度の犯罪白書が発表された。

前々年度に比べると、犯罪発生率自体は横ばいの状態ではあるが、

強盗・殺人など凶悪事件の発生率が飛躍的に伸びている。

また、臓器売買や違法薬物などの組織犯罪も目立つ傾向だ。

これだけを事由に、人心の荒廃が進むと決め付けるのは、いささか乱暴であろう。


ただ、犯罪白書とは別に、14年度統計で自殺者が激増している事をご存知であろうか?

これは、環地球軌道連合の各国家に留まらず、月経済圏連合諸国でも、同じ伸び率となっている。

また、悪質化する少年犯罪。行くあても無く、街をさ迷う浮浪者。既に飽和状態の福祉行政。


劇的に発展を遂げる人類の宇宙開拓史、その裏で何が進んでいるのか、

見えて来るものがあるのではないか。


前章で人類の現状を「波紋」と表現した。

それはつまり、人心やモラルが空洞化しているのではと言う、問題提起である。


ならば、今の人類にとって、

進歩に反比例して、荒廃を始めた人心を癒やすには、何が必要なのか?


地球人類史で18世紀より始まった、爆発的な産業革命。そして、21世紀初頭をピークにした人心荒廃。

これに似た状況の今、人々に必要なのは「癒やし」。

過度な競争と開発に疲れた人々に安心と安定、心の平和を提供出来るかにかかっているのではないか。


揺るがない重力と、途切れる事の無い酸素。

無機物に囲まれた今の無味無臭の生活から、有機物に囲まれた大自然と共生する生活へ。

今こそ我々人類は、母なる地球に、安らぎを求める時期が来たのではないか?




◆【物体E】


忘れもしない、2187年10月16日。

奴らは突如地上に現れ、たった7日間で人類は地球を追われてしまう。

科学者、宗教学者など、人類の英知を集結させても、未だにそのほとんどが解明出来ていない。


誰が呼んだのか、それとも何かの専門的呼称なのか、【物体E】と呼ばれる意味も、由縁さえも解らない。


だがしかし、今だからこそ、我々人類に地球が必要だと再確認させられた、今だからこそ、

【物体E】と相対し、地球の所有権を、人類は声高らかに主張すべきなのではないか。


我々人類は忘れてはならない。

宇宙を目指したのでは無い、結果として宇宙に生きる事を強いられたのだと。




高級喫茶店「ミラノ・カフェ」で、堂上は「自分の書いた」社説を、何度も何度も読み返す。




堂上 (これで…良かったの…か?)




最高のコーヒーを口にしながらも、まるでうかない顔の堂上。


反骨の報道記者。

体制にくみせず、常に第三者として、物事を「是々非々」で見て、そして書いて来た堂上。

その評価は高く、新聞記者の花形である、政治部への移動の話や、引き抜きの話も何度かあった。

だが、堂上は社会部から抜ける事を良しとはせず、ひたすら、社会をその目で見て、肌で世界を感じて来た。


「俺は反体制思想に洗脳された、夢追い人じゃねえ」が口癖で、

社内の誰とも距離を置いていた、孤高の人とも言うべき堂上誠一郎。

自分の書いた社説を読み返し、うかない顔で沈み込んでいる。


そんな堂上の背中に、女性の声がかかった。




メリル少佐「堂上特務大尉」




堂上「…その呼び方はやめろ、吐き気がする」




現れたのはメリル少佐…メリル・ウィルドット特務少佐。

彼女も堂上と同じく、民間徴用の軍属である。


メリル少佐は、不機嫌な堂上をものともせず、笑顔のままテーブルを挟んで、優雅な仕草で座る。




メリル少佐「だいぶ荒れてるのね(笑)」




堂上「そりゃあ、荒れるさ。正直、面白くねえもん」




皮肉をたっぷり含んだ表情で、メリル少佐を見る堂上。

そのまま「おごってやるから、好きな物を注文しろ」と、

メリル少佐に向かって、テーブルの上を滑らせる様に、メニュー表を雑に渡す。




メリル少佐「あら、羽振りが良いのね(笑)遠慮しないわよ」




と、メリル少佐は堂上の不機嫌などお構いなしに、メニュー表を見回し始める。




堂上「言ったはずだ、金に興味は無いと。こんな金持ってても、嬉しくも何とも無い。バラまいて終わり」




メリル少佐「ふうん、あって困る事は無いのに、めんどくさい人ね(笑)」




メリル少佐はカラカラと笑いながら、ホール係を呼んで、注文を始めた。




堂上「で、今日は何の用だ?」




雑談する気すら無いのか、堂上は身を乗り出して、メリル少佐に言葉で詰め寄る。




メリル少佐「社説の第一弾が終わったから、第二弾の打ち合わせをするの♪当たり前の事よ」




イベリコ豚の生ハム入りサラダ

ポルチーニ茸と黒トリュフのクリームパスタ

グリニッジ・クラウン社のセイロン・ミルクティー


全て天然物。合成食材や疑似食材を一切使用していない、

労働者階級であるならば、まず手の出せない料理の数々を、

堂上の視線を無視しつつ、メリル少佐は優雅に平らげた。




メリル少佐「あなたの奢りじゃなきゃ、食べないわよ(笑)普段は私だって躊躇するのに」




メリル少佐は悪びれる事も無く言い切る。

まるでそれは、不機嫌な堂上を手のひらで、もて遊ぶ様にも見えた。




堂上「あぁ~…、お楽しみの所悪いが、そろそろ話をしてくれないか?」




痺れを切らす寸前の堂上。苦手なタイプではあるのだが、かと言って冷酷に扱う事も出来ない。

そんな微妙な距離感が、堂上を更にイラつかせる。


食後のミルクティーを楽しんだのか、いよいよ、やっと、メリル少佐が本題を切り出した。




メリル少佐「スクープ記事を書いて欲しいの」




堂上「んが?…スクープ記事だって?」




メリル少佐「そう。だいたい…10日後くらいの朝刊をめどに」




堂上「そりゃまあ、やれって言われればやるが、…何のスクープ記事書けば良いんだよ?」




メリル少佐「APEの存在」




堂上「!!」




メリル少佐「14式武装強化外骨格【銀嶺】の存在と、

【銀嶺】の大気圏降下訓練が行われている事、記事にして欲しいの」




堂上「…おい、最重要機密じゃないのか?」




メリル少佐「今まではね。だけど、計画を進めるに当たり、APEの情報開示は必要だわ」




堂上「…まあ、確かに。対【物体E】兵器としての希望が見いだせなければ、

世論にインパクトを与えられないからな」




メリル少佐「さすがね、その通りよ。一応、情報リーク先などの台本は出来てるから、これに目を通しておいて」




メリル少佐は小さな紙切れを堂上に渡す。




堂上「…しょうがねえな、クソッ」




メリル少佐「依頼さえこなしていれば、後は自分の好きな仕事出来るんだから、

ぼやかないの、堂上特務大尉(笑)」




堂上「はいはい、わかりましたよ。…それで」




メリル少佐「うん?」




堂上「隕石の件は、いつ発表になるんだよ?」




一瞬、メリル少佐の表情が険しくなる。【その話題は、絶対にここで持ち出すな】

メリル少佐の瞳は、堂上にそう釘を刺している様にも見える。

それに気付いた堂上も口をつぐみ、それ以上「それを」話題に出さないでいる。


察したメリル少佐は、再び笑顔に戻る。




メリル少佐「APEのスクープ記事、よろしくね♪」




堂上「わかったけど、…どこまで細かく書いて良いんだよ?」




メリル少佐「あくまでも14式【銀嶺】だけ。多分、あなたも把握してるでしょうけど、

99式【蒼騎】と、同型機3機のプロトタイプは、絶対に記事にしては駄目よ」




堂上「はいよ、了解」




抑揚無く堂上は頷く。


「じゃあ、後はよろしく♪」

堂上の苦悩などお構いなしに、メリル特務少佐は店から去って行った。


独り残った堂上。ホール係にコーヒーの追加を頼み、しばし考え込む。




堂上 (武装強化外骨格APEって、武装PEEVAの進化系だよな。

それも、ここ三年くらいの間に開発された…。)




目の前に置かれた、追加のコーヒー。

ほろ苦い香りが堂上の鼻腔を刺激し、物思いに耽る堂上を、更に思案の海へと旅立たせる。




堂上 (じゃあ、あの99式【蒼騎】【紅騎】【白騎】【黒騎】は一体、何なんだ?

99式って事は、2399年製だろ…?)




堂上は時間を忘れ、メリル特務少佐が「記事にしては駄目」と言っていた、

余計な事を考えてはいけない領域に、好奇心の羽を羽ばたかせていた。




堂上(3年前くらいにやっと開発が始まったAPEに、

何で16年前のプロトタイプが存在するんだ…?)





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