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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
プロローグ
2/77

プロローグ・黙示録の戦士




ドォン!


ドォン!ドォン!!


耳をつんざく戦車隊の連続砲撃。


森の中を進む戦車隊は、少し前進しては停車し発砲、少し前進しては停車し発砲を繰り返し、

【物体E】の本格的な抵抗に遭遇した、バンドール中尉の歩兵部隊に援護射撃を送りながら、合流を目指していた。


戦闘指揮車の車内、各種モニター類に視線が釘付けになっているハミルトン中佐、見るからに口数が激減している。

根拠の無い不安と言う、漠然としたプレッシャーに飲まれ始めているのだ。


何とか、現状は機械化歩兵部隊に想定内の被害は出しつつも、作戦は順調に進んでいる。


ただ、


【物体E】の抵抗は、時間が経つ程に激しさを増している。

事態が好転する事はあまり望めない…


その空気を、戦場の動向が、手に取る様に判るのか、

ハミルトン中佐と副官、そして少女フェイシャが乗る戦闘指揮車の空気が、

どんよりと重くなっている。


すると、突如、戦闘指揮車の無線に、機械化歩兵部隊の通常通話「平通信」が、

スピーカーを通じ、オープンチャンネルで続々と入り始める。


それはまさに恐慌。


兵士達の会話、そしてバンドール中尉など現場指揮官の困惑や焦燥。

それらが、戦闘指揮車内に響き渡ったのだ。




『四本足の【物体E】群に、人型4体が合流した!!』


『中尉!戦車隊合流まで後何分ですか!』


『【物体E】の別働隊が2時の方向から出現、こりゃヤバい!人型大多数!!』


『ユフレヒト!3部隊を率いて2時の方向に向かえ、そっちが敵の主力だ!』


『イエッサー!でも中尉、ポーランド兵の負傷者救出は!?』


『俺の部隊だけでやる!』


『こちらポーランド強行偵察部隊!バンドール中尉、救出は無理だ。貴殿の部隊維持に専念してくれ』


『何を言ってる!?戦場では誰一人置き去りにしない!』


『ぎゃあああっ!!やられた!左足が、俺の左足が!』




『…中尉、中尉聞こえますか?こちらユフレヒト』


『こちらバンドール、ユフレヒトどうした!?』




一瞬の静寂。そして、ユフレヒト曹長からもたらされた驚愕の報告。




『中尉…人型よりも上の存在って…何でしたっけ…?』




バンドール中尉『何!?』




ハミルトン中佐「な…んだ…と?」




副官「人型より…上?」




フェイシャ「…何てこと…」




人型ひとがたより上】

ユフレヒト曹長は、その存在を確かにそう表現した。


それはつまり、人類と敵対する未知の集団【物体E】において、「四本足」と俗称される様な動物型と、

その四本足の上位である「人型」の存在をも凌駕した、遥か上位の存在を、ユフレヒト曹長は示していたのだ。


もちろん、その存在は末端の兵士達には知らされていない。

ハミルトン中佐に至っても、その様な存在を知らされていない。




(無数の人型の攻撃でさえ受けきれず、甚大な被害を出しているのに、

この期に及んで…人型よりも上位の敵だと…?)




機械化歩兵部隊兵士の、一人一人に装備されているガンサイトカメラ。

そのガンサイトカメラのチャンネルを「ユフレヒト曹長」に合わせる副官。

戦闘指揮車内のモニターの一つに、ユフレヒト曹長が「今」見ている映像が、そのまま移し出された。


「あんぐり」と開いた口元を手で覆い、目を白黒させながら、その映像を直視するハミルトン中佐。

副官も同じく驚愕に包まれ、全身が硬直したままだ。

あれほどの大混乱で混線がちだった無線も、今は静寂に包まれ、雑音…ノイズすら放たれていない。


その一瞬の静寂の中、刹那の時間の中で、映像をハミルトン中佐達と一緒に見ていた、少女フェイシャの口元が小さく動く。




フェイシャ「…人型の上位存在…神格型…」




「ハッ!」

我に返るハミルトン中佐。


手元のコンソールにあるマイクのスイッチを入れ、副官に命令伝達を経由させず、

直々に機械化歩兵部隊に命令を出した。


それも…絶叫で




ハミルトン中佐「機械化歩兵、全部隊は後退、後退しろ!!戦車隊のラインまで後退するんだ!」




すると、すかさず副官がハミルトン中佐に異議を唱える。




副官「いけません、中佐!敵は2時方向だけではありません。今後退を始めると、戦線が崩壊します」




ハミルトン中佐「何を言ってる、戦線維持が我々の目的ではない!我々は【回収部隊】が作戦遂行する為の陽動部隊だ。

戦線が崩壊しても構わん!部隊を再編成して少しでも時間を稼ぐんだっ!!」




ハミルトン中佐の言葉が胸に届き、真意を理解したのか、

副官もインカムを右手で押さえながら、忙しく命令伝達を始める。




フェイシャ「…黙示録の戦士…もはやこれまで」




「黙示録の戦士」

フェイシャの口からポツリとこぼれた言葉を、ハミルトン中佐は聞き逃さなかった。




ハミルトン中佐「フェイシャ!?頼む、教えてくれ!黙示録の戦士とは一体何だ?」




フェイシャ「…ダメ、私たち…全滅する。勝てっこない…」




ハミルトン中佐「フェイシャ!」




フェイシャの両肩を掴み、ガタガタと揺らすハミルトン中佐。

呆然としているフェイシャを揺すり、現実世界へと急いで戻す必要があったのだ。




ハミルトン中佐「教えてくれフェイシャ!あれは一体何なんだ!」




我に返るフェイシャ、慌ててハミルトン中佐に説明し始める。




フェイシャ「黙示録の戦士とは…」




小声でハミルトン中佐に語るフェイシャ。焦りに満ちた中佐の顔色がどんどんと驚愕に変わり、そしてあっという間に青ざめる。


ハミルトン中佐の膝がガクガクと震え出した時、事態は最悪の方向へと向かい始める。




『こちらユフレヒト!第2、第3小隊全滅!!ああっ!!こっちに来る!』


『こちらバンドール!今俺達が駆け付けている。ユフレヒト、可能な限り奴らと距離を取れ!逃げろ!』


『中尉、こっちに来ちゃダメだ…。勝てねえ…勝てっこねえ…』


ガッ!ザザ!…ザザザザッ!!




無情にも、戦闘指揮車内スピーカーに響く、ユフレヒト曹長のお別れの雑音。




ハミルトン中佐「バンドール中尉、バンドール中尉!これから戦車隊を全速力で前進させる。速やかに戦車隊に合流せよ!」




副官「中佐っ!?」




ハミルトン中佐「…勝ち目の無い闘いでも、今は…、今はこの場を死守しなければ!」




ハミルトン中佐は副官にそう言いながら、コンソールにあるマイクのスイッチを押す。

そのスイッチは、先ほどオープンチャンネルで絶叫した際のスイッチではなく、

どうやら…秘匿回線。

関係の無い者達には聞く事の出来ない秘密の無線チャンネルらしい。




ハミルトン中佐「こちら戦闘指揮車、ハミルトン中佐だ。回収部隊聞こえるか!?回収部隊、応答しろ!!」




その間、十数秒…。


ハミルトン中佐が投げかけた問いに、スピーカーは静寂を持って答えているだけ。

苛立ちを隠せない中佐は、続けざまに次の手段に出る。




ハミルトン中佐「ええい!…空母キング・アーサー聞こえるか!?こちら陽動部隊!」




遥か高空から


ハミルトン中佐の悲鳴にも似た呼び掛けに、女性オペレーターの声で答えが舞い降りる。




『こちら亜宇宙戦術空母群旗艦、キング・アーサー。ハミルトン中佐、どうぞ』




ハミルトン中佐「こちら戦闘指揮車ハミルトン中佐だ、状況ネガティブ!

陽動部隊は神格型の攻撃を受け壊滅寸前、

回収部隊からの終了連絡も未だ届かない!」




一瞬息を整え、再び口を開く中佐。

どうやら【物体E】は、戦車隊にたどり着き、攻撃を始めた様だ。

それが証拠に、周りの爆発の衝撃が戦闘指揮車にどんどんと伝わって来る。




ハミルトン中佐「キング・アーサー、ブロークン・アローだ!!

アイ、セイ、アゲイン!ブロークン・アロー!!」




ハミルトン中佐の声の低い絶叫からわずか数秒、旗艦キング・アーサーからの返答が届く。

今度は女性オペレーターでは無く、落ち着いた声の男性からだ。




『こちらキング・アーサーCDC (コンバット・ディレクション・センター)。

貴官のブロークン・アロー宣言を承認。保持する航空兵力全てで無差別飽和爆撃を行う。目標地点の座標を送れ』




ハミルトン中佐「了解した、座標データを送る。それと…、キング・アーサー聞こえるか?」




『こちらキング・アーサーCDC、聞こえるぞ中佐』




CDCコンバット・ディレクション・センターとは、

空母や軍艦などの艦橋にある操舵室とは全く異なり、

各種センサーやモニターがその室内に集約され、

攻撃担当者や作戦参謀、艦長とは別個の作戦最高司令官が常駐する、

言うなれば全部隊の行動統括を行う【中央作戦指令室】の事である。




ハミルトン中佐「…優先指令2、フェイシャを脱出させる。救難ポッドの回収を頼む」




フェイシャ「中佐っ!?」




ハミルトン中佐が発した言葉に反応するフェイシャ。

その表情はハミルトン中佐に対して「何故?」と問う、驚愕の色に満ち満ちている。




ハミルトン中佐「フェイシャ、君はここから脱出するんだ!」




フェイシャが痛がらない程度に腕を引っ張り、ハミルトン中佐は戦闘指揮車の奥へと連れて行く。

そこに現れたのは、畳一畳分程のスペースに設置された、円筒形の柱。

中心には楕円形の穴が開いており、その中には一人分の座席シートが置かれていたのだ。




フェイシャ「中佐、まだ私は!」




明らかにこれは、戦闘指揮車に搭載された脱出艇。一人乗りの救難ポッドである。

無理矢理ハミルトン中佐が、フェイシャをここへ連れて来たと言う事は、それはつまり…




ハミルトン中佐「フェイシャ、君は脱出するんだ。今にここは地獄に変わる」




フェイシャ「駄目よ中佐、私にはやる事が!」




抵抗するフェイシャを、大人の力でねじ伏せ、無理矢理脱出ポッドのシートに座らせ、ベルトで固定するハミルトン中佐。




ハミルトン中佐「回収部隊からはまだ連絡が来ない、失敗した可能性だってある!」




その時、距離を離れて副官がハミルトン中佐を大声で呼ぶ。




副官「中佐!ブロークン・アローが始まります!爆撃誘導を手伝ってください!」




ハミルトン中佐は、脱出ポッドの発射シークエンスを完了させる。

ポッドの小窓から覗く悲しげな瞳のフェイシャに向かい、




ハミルトン中佐「遺物の確認は後でも出来る。だからこそ君だけは生き残っていて欲しいんだ」




フェイシャ (中佐!中佐!)




ハミルトン中佐「さようなら、フェイシャ。人類の最後の希望。人類を頼む」




そう一言フェイシャに告げ、ハミルトン中佐は副官の元へと向かう。

中佐の後ろを見詰めるフェイシャ、鉄製の「筒」がポッドを覆い、目の前が闇に包まれた。




ゴウッ!!!!!




凄まじい重力でシートに押しつけられるフェイシャ、重力に耐えきれず顔を歪めて目をつぶる。

しかし次の瞬間、脱出ポッドの小窓から入って来たのは、白熱灯を間近で照らされた様な、心地良さを伴う強烈な大陽の日差し。


フェイシャを乗せた脱出ポッドは、空へと、遥か高空へと、飛行機雲の軌跡を残しながら上昇して行く。


小窓に顔を近付けながら心配そうに地上を見下ろすフェイシャ。


そこには


数限りない爆撃と爆煙で赤黒く燃え上がる、まるで先ほどハミルトン中佐が表現した様に、地獄と化したあの島があった。





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