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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
国連軌道宇宙軍編
19/77

だから、午後の教室、トマトの酸味臭が漂ってたのね




合成豆を原料にして、フリーズドライ加工した、この時代では一般的なインスタントコーヒーを、

合成紙コップに注ぎ、各自の手元へ。


生徒会室は今、新しい後輩4人を加えて、昔話、教育実習の裏話、腹を抱えて笑えるエピソードなどなど。

雑談の花が咲き、誰もが夢中になっている。


中でも、新しい後輩達は先輩方に、今後の実習内容を訪ね、

先輩達は「鬼のキンゼイ」の変わり様に信じられぬと言った顔。


そして、室内を爆笑の渦に巻き込んだのは、

生徒会顧問の【リンダ・ドノヴァン】…リンダ先生の、

ビーフシチュー改め豚汁 (牛肉入り)事件であった。


笑い転げる生徒達。


時間もそろそろ…お開きかと思われた時、伊達が再びキンゼイ艦長の話を持ち出す。




伊達「鬼のキンゼイ艦長の話は、ここだけの話にしといてね。

その代わり、仏のキンゼイ艦長の話も黙っておくから(笑)」




カオル「了解しました」




ショーン「あっ、思い出した。会長、キンゼイ艦長って、別の異名持ってますね」




伊達「ああ、…確か」




伊達が思い出そうと思案している時、横からエレノアが口を挟んで来た。




エレノア「【群狼のキンゼイ】でしょ?」




ショーン「あ、それそれ!」




ミカ「私も一体何だろ?って、不思議に思ってた」




エレノア「…ヨハン・キンゼイ大佐、正式には予備役大佐。

23年前、2392年に起きた火星動乱は知ってる?」




ショーン「中学の時、近代史で習ったな」




カオル「うん」




エレノア「火星自治政府が独立運動を展開し、火星にある環地球軌道連合施設を武力接収。

実はその裏で、月経済圏連合と国連月宇宙軍が暗躍し、火星自治政府に肩入れ、支援をしてた」




赤磐「それで、現地の国民保護名目で、国連軌道宇宙軍の軌道フリゲート艦隊が派兵されたんだよな」




ミカ「だけど、艦隊が火星軌道に進入した時点で、火星自治政府が無条件降伏。

宇宙開拓の近代史で、唯一起こった戦争で、唯一拍子抜けした戦争でしょ?」




エレノア「それには裏があるの」




カオル「…裏?」




エレノア「うん」




エレノア「今より一回り小さい、ソーラーシステム (太陽系)級フリゲート艦全盛期の時代だった当時、

フリゲート艦じゃなくて、小回りが効いて足の速い巡航艦をわざわざ揃えて、

非公式に徹底的に、通商破壊作戦を行った部隊がいたの」




赤磐「ほう」




エレノア「火星ラインに繋がる、金星プラントや、木星のエウロパ、もちろん月経済圏連合ライン。

火星に繋がる全ての航路で、物資・資源船だけを徹底的に狙い、破壊して、

完全に火星自治政府を干上がらせ、飢えさせたのが群狼作戦、

だから実行部隊は【群狼艦隊】と呼ばれた」




ミカ「!!」




伊達「獲物一匹に対して、狼の群れが全力で仕留めにかかる。だから群狼作戦」




ニヤリと笑う伊達。伊達もまたエレノアに対し、

「私も知っているよ」と、サインを送ったのだ。

エレノアは伊達のサインを気にせず、結論へと急ぐ。




エレノア「国連軌道宇宙軍上層部が抱いていた、派手な艦隊戦のロマンを完全に否定して、

通商破壊による経済飢餓で、完全勝利を収めた男。

味方将兵の血をほとんど流させず、極秘作戦で【開戦前に】敵を敗北させた男。

群狼艦隊…正式には、国連軌道宇宙軍、第8・9・10合同駆逐艦隊。

その合同艦隊総司令官が、ヨハン・キンゼイ少将」




カオル「!!!」




ミカ「少将…って?」




エレノア「その後…内部でいろいろあったんでしょうね。その五年後に、二階級降格で不名誉除隊。

これも公式ではない、極秘の処分だったそうだから、多分…、宇宙軍内部の、主導権争いに巻き込まれたのかもね」




ショーン「エレノア…すげえな」




赤磐「キンゼイ艦長、ハンパねえな」




ミカ「政治で優秀な軍人が追われるって…」




赤磐「おい、ムナカタ。何かお前、目がキラキラしてるぞ(笑)」




カオル「すごい…すごい人なんだ、キンゼイ艦長♪」




エレノア「さて、キンゼイ艦長の情報はおしまい。合ってるでしょ?間違いは無いよね、庸子ちゃん」




【庸子ちゃん?】

エレノアが生徒会会長の伊達を、庸子ちゃんと呼んだ。

瞬間的に、違和感に包まれる室内。




伊達「完璧、パーフェクト。さすがはエリーね♪」




【今度は、伊達会長がエレノアに向かってエリー?】

話が掴めず、その場にいる生徒達は、混乱に陥る。




伊達「私とエリー、お隣さんなのよ(笑)」




エレノア「…うん、お隣さん。庸子ちゃんも私も一人っ子だったから」




伊達「幼い頃からずっと二人。仲の良い姉妹みたいなもんだよね♪」




エレノアは照れてうつむく。




赤磐「あれ?お隣さん…?」




赤磐は隣の席に座る、長身でメガネをかけた、細面の男子生徒に振り向き、問い掛けた。




赤磐「生徒会長のお宅って、二階層ぶち抜きのセレブエリアだよな、副会長」




赤磐に副会長と呼ばれた男子生徒は、左手の中指でメガネの位置を直し、

低く良く通る声で、赤磐に答える。




副会長「その通りだ。伊達会長は、兵器生産の最大手企業、DTインダストリアル社の社長令嬢だからな」




赤磐「そのお隣さんって事は、あの子も…セレブ?」




副会長「名前でピンとは来ていた。私の勘に間違いがなければ、

彼女は国連軌道宇宙軍専門の造船企業、シグニスブラザーズ社の令嬢だろう」




ミカ「ひええっ!」




ショーン「エレノアって、セレブだったんだ」




赤磐「いやはや」




湧き上がる周囲。しかし、エレノア自身はそれを言われた途端、

心なしか沈んでいる様にも思えた。




カオル「は、はい!はい!」




おもむろに右手を真っ直ぐに上げ、会長に発言を求めるかの様なジェスチャーをするカオル。

伊達会長は苦笑しながら、カオルに向かって指を指す。




伊達「はい、ムナカタ君」




すると、カオルは得意げに話を始めたではないか。

まるで、それまでの話の流れを打ち壊すかのごとく。




カオル「僕の母さんは、中京大学で講師のバイトやってます♪」




赤磐「お、おう」




カオル「自慢の母さんで、作ってくれるご飯がもう…めちゃくちゃ美味いんですよ♪」




伊達「そ、そうか」




苦笑する伊達、カオルは尚も母の自慢話を得意げに続ける。




カオル「昨日の夕飯なんて、【昔、イタリアって国があって、その国の母の味なんだ】って言って、

炒めたベーコンにトマトジュース入れて、パスタソースにして、

いやもう…トマトパスタ美味し過ぎて、おかわりしちゃいました(笑)」




ショーン「あっ!!」




ミカ「だから、午後の教室…トマトの酸味臭が漂ってたのね(笑)」




ショーン「カオル、また教室で弁当温めてたな(笑)」




カオル「だ、だってせっかく母さんが作ってくれたパスタ弁当。

温めて最高の状態で食べないと♪」




エレノア「そのうち、教室で加熱調理器具使用の禁止なんて、校則出来るかもね」




カオル「それは困る…トホホだよ」




爆笑に包まれる室内。腹の底から湧き出る笑い声は、沈んでいたエレノアでさえ、笑顔に変えた。




伊達「あ~、笑った笑った」




会長の伊達が、笑い過ぎて目からこぼれた涙を拭きながら、

ちらりと壁に掛けてある時計に目をやる。




伊達「おっと、諸君、そろそろ時間だ」




副会長「閉校時間になって、電源を落とされる前に、解散しましょう」




伊達「うむ、そうしよう。一年生の諸君、あらためて奨学生友の会にようこそ。

普段は生徒会役員しかいないが、いつでも遊びに来なさい。悩みや相談事、何でもウェルカムだ」




ミカ「ありがとうございます」


ショーン「よろしくお願いします」


カオル「よろしくお願いします!」




伊達「ちなみに、赤磐の様に、宿題の答えを教えて欲しくて、頻繁にここへ来るのもアリだ(笑)」




赤磐「ちょ、会長ぉ…」




伊達「はは(笑)話はそれたが、頑張れよ。我々は全面的に、君達の味方だ。

そして君達も、来年入って来る奨学生の模範となりなさい」




「はい!」


室内に響く軽快な返事。




赤磐「いいか、お前ら!奨学生ってのは、案外嫌われる。

ケチつけられたり、イジメられたら、親や教師にチクるんじゃなくて、俺に言え!」




パン!パン!


赤磐は自分の左手の手のひらを、自分の右手拳で何度も殴る。




赤磐「奨学生に手ぇ出した事…、身体で後悔させてやる!

ギッタギッタにしてやるから、お前らは安心して学校に来い!」




親や教師を通じて、面倒くさい社会的問題に発展し、

勝ち負けも判らない虚しい状態で、更に自分自身が傷つくくらいなら、

シンプルイズベスト…俺が力でお前らの敵を粉砕してやる。


過激な発言ではあるが、これはこれで、赤磐の優しさの現れである。




副会長「さあ、早めに下校しなさい。そろそろ電源が落ちて、学校全体が真っ暗闇になるぞ」




先輩達の優しい瞳に見送られ、

深々と頭を下げながら、カオル達は生徒会室から退出した。




エレノア「…ありがとう」




カオル「うん?」




エレノア「さっきは、私の事助けてくれた」




カオル「えっ?えっ?…僕が?」




学校からの帰り道。


一年生4人組は、生徒会室から退出した後、誰が言い出した訳でも無く、

途中まで…各々の家路に別れるまで、4人で一緒に歩いている。




ミカ「ん?、カオルがエレノアを助けたの?」




カオル「実は僕、心当たりが…」




エレノア「ふふ、もういいわよ。でもありがとう」




生徒会室でエレノアの家の事が話題になった時、それまで笑顔だったエレノアの表情が沈んだ。

それと同時に、カオルが自分の母の話題を持ち出し、その場は爆笑の渦となる。


そのカオルの行動に対して、エレノアはお礼の言葉を述べたのだが、


果たして、とぼけるカオルは、本当に心当たりが無いのか、それとも照れ隠しで、しらを切っているのか…。




ショーン「なあ、明日の社会科見学、地球歴史館行くだろ?俺すっげえ楽しみなんだよ」




ミカ「私、子供の頃家族で行った事ある♪」




エレノア「私もある」




ミカ「わあ、エレノアも行った事ある?あの地球環境再現ドーム、あれ最高だったよね♪」




エレノア「うん♪」




カオル「うわあ、何だよ、何が最高なんだよぉ」




ミカ、エレノア「教えない(笑)」




カオル「うわああん!」




ショーン「ミカもエレノアも、もったいぶらないで教えろよ(笑)」




ミカ「明日の楽しみにしときなよ♪」




エレノア「明日はお楽しみの社会科見学。そして来週からは、リスキー・ビスキーで実習訓練♪」




ミカ「何かもう、イベント目白押しね♪」




ショーン「そうだな、だからこそ…」




ショーンは振り向き、カオルの顔を伺う。

カオルも、ショーンが言わんとしている事が理解出来たのか、

ショーンの言葉に、自分の言葉を繋げる。




カオル「浮かれ過ぎちゃいけない。一つ一つ確実に…だね」




ショーン「ああ」


ミカ「そうだね」


エレノア「うん」




明日は、社会科見学。


工業施設や、公共施設を巡り、最後は地球歴史館で過去の人類に思いを馳せる…。


明日の楽しみもさることながら、

心強い先輩達を得て、自然と笑みをこぼしながら、それぞれの家路につく4人であった。





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