奨学生友の会
・
カオル「あ、はじめまして。僕は…」
伊達「ムナカタ・カオル君だろ?」
カオル「ふぇ?」
ふふふ…
いやらしさを微塵も感じさせない、優雅な微笑みを浮かべながら、
生徒会長は更に言葉を続ける。
伊達「左にいるのは、ショーン・カザマ君。後ろの女生徒は、ミカ・カートライトさんに、エレノア・シグニスさん」
ミカ「よ、よろしくお願いします」
ショーン「それで…何で俺達…」
伊達「撃墜王と、その仲間に用があってね♪」
エレノア「!」
ミカ「あ、」
ショーン「!?」
カオル「?」
生徒会長の伊達庸子。
そう、彼女は、カオル達が教育実習船リスキー・ビスキーで体験した事を知っていたのだ。
ミカ「…どうして、それを?」
伊達「おどかす積もりは無かったんだ、すまない。ただ、どんな人物達なのか知りたくてね」
ショーン「生徒会長」
伊達「うん?何だ」
ショーン「…誰から、聞いたんすか?」
いつもは陽気で、おちゃらけているショーン。しかし、この時は違った。
カオルやミカ、エレノアや自分自身…、一般市民であり、市立四日市東高等学校の生徒と言う身分【以外の】、
国連軌道宇宙軍奨学生としての、活動内容が漏洩している。
奨学生として軍事技術教育を受ける契約をした以上、内部の情報には取り扱いに慎重になるべきで、
国連軌道宇宙軍奨学生としての立場で知り得た情報は、情報の軽重に関わらず、外部へ漏らしてはならないのである。
それを踏まえて、ショーンは肌で察知する。カオルの「撃墜王」のエピソードが、外部へと漏れた。
リスキー・ビスキーの関係者でなければ、知り得る事の出来ない情報であり、
「撃墜王」のエピソードが漏れていると言う事は、
【当然、リスキー・ビスキーの関係者を通じて、高機密情報すらも、漏洩している可能性がある】
そう言う危険な状態に今、置かれていると言う事を。
ショーン「もう一度聞きます、誰から聞きました?その話」
エレノアも違和感を感じていたのか、ショーンの言葉の後に続く。
エレノア「ふふふ、情報の断片をちらつかせて、我々を狼狽させるのが趣味なのかしら?」
バアァンッ!!!
赤磐「おおいっ!!いくら何でも、生徒会長に失礼じゃないのか!」
赤磐が机を叩き、怒声でショーンやエレノアの声を封殺しようとする。
生徒会長の伊達は、ニコニコと笑顔のまま。
ショーンやミカ、エレノアは不信感丸出しで、身構え始める。
そんな時、カオルが「すっ」っと前に出る。
ミカ「カオル?」
カオルはそのまま前に、生徒会長の目の前まで歩み進めて来た。
あくまでも表情は穏やかなまま、殺気や警戒感など微塵も持たずに。
伊達「?」
伊達は首を軽く傾げ、カオルのアクションを待つ。
それはまた、カオルの次の反応、次の表情を予想し、楽しんでいる様でもある。
カオル「赤磐さん、生徒会長。…多分、この場にいる皆さん、僕達の先輩ですね」
ショーン「!」
伊達「鋭いな、君は♪」
カオル「だって、赤磐さん…怖そうだったけど、優しかったですよ♪
何か…共通点があるのかなって」
赤磐「ば、バカヤロウ!俺は優しくなんか無えやい!」
クスクスと、室内に漏れる笑い声。赤磐は顔を真っ赤に染めて否定している。
伊達「カオル君、試したみたいになってごめんね。
ここにいるのはみんな、国連軌道宇宙軍の奨学生なんだよ♪」
ミカ「わあお」
ショーン「やっぱりな(笑)何かおかしいと思ったんだ」
赤磐「まあ…よ、お前らと同じで、みんなリスキー・ビスキーに乗ってんだわ」
カオル「リスキー・ビスキーに」
伊達「ああ、名実ともに、我々は君達の先輩だ」
学校の先輩であり、リスキー・ビスキーの先輩でもある人々が目の前に。
これは、4人しかいない、今年度一年生の奨学生・教育実習生のカオル達にとって、非常に心強く感じる事である。
確かに、当たり前の話ではあるが、毎年毎年、義務教育を終えた段階…高等学校での教育開始と並列して、
国連軌道宇宙軍の奨学生制度がスタートするのだ。カオル達の「先輩」が学校にいない方が、おかしな話である。
エレノア「それで…」
伊達「うん?」
未だに釈然としないのか、それとも別の疑問が湧いているのか、
怪訝な表情のままのエレノアが、穏やかかつ冷静な口調で、伊達に問う。
エレノア「撃墜王の情報…漏洩先は、キンゼイ艦長かしら?」
伊達「それはあまり、重要な話ではないな」
エレノア「いいえ、もし情報漏洩先がキンゼイ艦長であるなら、
艦長の情報保全に対する意識を、問題視せざるを得ません」
赤磐「おいおい、細けー事は言いっこ無しだぜ!」
カオル「…エレノア」
この場を収めようと、カオルはエレノアに腕を伸ばし、発言を控える様に促す。
しかし、エレノアはまばたき一つしない様な、酷く冷静な表情のままで、
カオルの腕をやんわりと払いのける。
エレノア「それに、撃墜王の話をどう捉えているのかは解りかねますが、
もし、ムナカタ・カオルの夢を笑っているなら…」
伊達「笑っているなら?」
エレノア「ムナカタ・カオルの名誉の為に、あなた方をボコボコにする必要がありますね」
ガタッ!!
勢い良く椅子から飛び上がる赤磐、エレノアの思いがけない言葉を挑発と受け止め、
身体が自然に反応したのだ。
赤磐「…お嬢ちゃん、言って良い事と悪い事の区別、親から教わらなかったのか?」
エレノアに詰め寄りはしないものの、赤磐は身体全身から殺気を放つ様に、
好戦的な顔付きでエレノアを見据える。
不思議と…
どちらが言い出した訳でも無いのだが、ショーンとミカの二人が、
赤磐とエレノアの直線上に躍り出て、エレノアをかばおうとする。
そしてカオルは、
机を挟み、優雅に椅子に座っている生徒会長の伊達庸子と、1対1で対峙している。
もちろん、好戦的で挑戦的な視線など、伊達に向かって微塵も含まず。
カオルの瞳はまるで、 (あなたが立ち上がらないと、この場は収拾がつきませんよ)と、語っている様だ。
それを感じたのか、それとも、そもそもが「そうする」積もりだったのか、
生徒会長の伊達庸子は、微笑みを浮かべながら立ち上がる。
すると、
すっ…
何とも優雅な空気を漂わせながら、しっかりと、ゆっくりと頭を下げ、カオル達に向かって謝罪したではないか。
伊達「君達に会いたかっただけなんだ、他意は無い。
不愉快な思いをさせてすまなかったね、この通り。申し訳ない」
赤磐「か、会長おぉ!?」
伊達「情報はもちろん、キンゼイ艦長発じゃない、リスキー・ビスキーの乗組員からだ。
ただ、犯人探しは勘弁してもらいたい」
エレノア「先方の名誉にも関わる事ですからね、それは承知しました」
伊達「あの、【鬼のキンゼイ艦長】が、まるで仏様の様に穏やかだったと言うじゃないか。
だから、君達がどんな人物なのか知りたかった。鬼のキンゼイを、
笑顔にさせる人物に会いたい…ただそれだけだったんだよ」
カオル「鬼の…キンゼイ艦長?キンゼイ艦長って、おっかないんですか?」
赤磐「おうよ(笑)敬礼の手の角度が違うだけでも、殺気を放って来る怖さだ」
ミカ「私達と…全然違うね」
ショーン「そうだな、逆に信じられないよ」
幾分、生徒会室の空気が緊張を解きほぐされたのか、
次第に相手の言葉の真意を探り合う様な、心理戦は影を潜める。
伊達「私達だって信じられんよ。あの、鬼のキンゼイ艦長がな…(笑)」
カオル「なるほど」
伊達「ムナカタ君、本当にすまなかった。決して君の夢を笑った訳じゃない」
「うんうん」と、両手を組み、頷く赤磐。
カオル「気にしないでください、会長。分かり合えば、それで良いじゃないですか」
ようやく雪解け…
生徒会室の緊張感はようやく霧散し、上級生と下級生、最低限の礼儀を残して、雑談に突入する。
赤磐「まあ、お前達も座れよ。インスタントで悪いが、コーヒー入れてやる」
ミカ「あ、あの…良いんですか?」
赤磐「遠慮すんな(笑)この部屋はな、奨学生であれば自由に出入りしてくつろげるのよ」
伊達「赤磐の言った通りだ。何せ、創業時からの学校のルールでな、
国連軌道宇宙軍の奨学生でなければ、生徒会に参加は出来ない。
つまり、この生徒会室とは、奨学生友の会も兼ねると言う事だ♪」
カオル「わあ、コーヒー飲み放題だ♪」
ショーン「幸せそうだな、カオル(笑)」
エレノア「大した緊張も無く、カオルは大物ね(笑)」
カオル「エレノアの方が大物だと思うぞ(笑)だから…、ありがとう。僕の名誉を気にしてくれて」
エレノア「!!」
ミカ「エレノア、顔が赤い(笑)」
ショーン「春ですなあ」
エレノア「バカね、もう夏時間よ!」




