亜宇宙戦術空母5番艦「スキールニール」
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時間は過ぎて、その日の夕方。
日勤の労働者達が1日の勤務を終えて、家路を急ぐ時間帯。
ここ、コロニー3【中京】の第2ポートは、
各企業プラントから退勤して来た、労働者でごった返している。
コロニー3のエリア構造は、コロニーの自転で、一番重力の影響を受ける下層区域を一般人の居住エリアに。
中層は商業や官公庁、公共施設エリアに。一番、重力の弱い上層区域を企業エリアにと、割り振っている。
その中でも、巨大建造物や航宙船造船所は、コロニーのドーナツの【中心】。
無重力の宇宙空間にその場を設けており、そこに従事する労働者達は、
コロニー上層に設けられた公共施設【ポート (宇宙港)】から、
各企業が用意した連絡艇に乗って、工場に向かうのである。
鉄道のステーションの様な構造のポート。
だが、鉄道の線路に沿って、ホームが広がるの様な構造ではなく、
ホームが細かく区画割りされ、透明のガラスで隔離・密閉されている。
その一つ一つに「A社行き」や「B社行き」と表示案内され、
出入りする連絡艇は、ホームから垂直に上昇して行く。
【第4ポート】
入口にでかでかと看板が掲げられた上層エリアとの接点、身分証をスキャンする改札口の手前。
家路を急ぐ労働者の集団とは違う、違和感丸出しの人物が、ポツリと一人立っていた。
着慣れないスーツに安いネクタイ。
仕事帰りの労働者達から、違和感たっぷりの視線を浴び、デイリー中京の堂上誠一郎が、
壁に寄りかかりながら、居心地悪そうに視線を漂わせていた。
そう、堂上は呼び出されたのだ。
国連軌道宇宙軍、日本国事務局。事務局付き情報保全部の、メリル・ウィルドット特務少佐に。
彼女が堂上を呼んだ目的、理由、真意…全て。全てが理解出来ないまま堂上はここにいる。
もちろん、彼自身の命に危険が迫っているのかどうかすら、わからないままに。
堂上(うう…居心地悪ぃなあ)
「おおい、帰りに一杯やってっか?」
「馬鹿野郎(笑)給料前だぞ」
「昨日、俺の息子がさ」
仕事上がりの労働者は、様々な会話を楽しみながら、「じろり」と堂上を見詰め、そして去って行く。
堂上(帰りてぇ…)
堂上がうつむき、足元をじっと見詰め始めた時、いきなりそれらは、やって来た。
「堂上誠一郎さんですね」
堂上「!」
足元ばかり見詰めていた堂上に、いきなりの近距離から声がかかる。
驚いた堂上が反射的に見上げると、黒いスーツに身を固めたサングラスの男性4人組が、
音も立てずに至近距離まで近づき、堂上を包囲しているではないか。
男達の中の一人が、もう一度堂上に問い掛ける。
「堂上誠一郎さんですね」
一瞬で空気に飲まれた堂上。
ジャーナリズムの名の下に、真実を追求しようと志すも、
勢いづいて巨大な国家権力の重箱の隅を突ついてしまった事を、心から後悔しているのか、
堂上「…はい」
蚊の鳴く様な、か細い声を喉から絞り出して、問い掛けを肯定する。
すると、一人の男が堂上の目の前に躍り出て、堂上の身体を下から上に。
両手で触り、あっという間に、身体検査を終わらせる。
「こちらへどうぞ」
「ご案内致します」
男達は無表情で口々にそう言い、堂上を前後左右に取り囲み、本人を中心にブロックしながら、
ポート側の改札へと移動を始めたのだ。
堂上「ちょ、ちょっと」
いきなりの事で驚く堂上。
しかし、背後の男が誰かと無線交信しているのか、「対象を確保、これよりポイントSに誘導します」と、
声が聞こえた事で、恐怖心に完全に支配されていた堂上の中で、微かではあるのだが、「好奇心」が芽生える。
身分証をチェックする改札を通過せず、改札脇の壁に設置してある【謎】の扉…、
鉄製の分厚い扉を手際良く開けて、中に誘導される堂上。
中は薄暗い殺風景な通路が真っ直ぐ伸びて、その先にはまた分厚い扉が。
再び扉を開けると、そこは一体誰が利用するのか、プライベート・ポートが堂上の目の前に広がっており、
既に国連軌道宇宙軍【UNOSF】のロゴが胴体にペイントされた、連絡艇が係留されているではないか。
堂上「ここ…は?」
堂上が熟考する間も与えず、堂上が拒否する暇も与えず、男達はグイグイと堂上を連絡艇へと押し込む。
堂上「ちょ、ちょっと待てよ!どこに連れて行くんだよ!」
さすがの堂上も、恐怖が増して来て更に人気の無い場所に連れて行かれると、
恐れが恐怖に、そして「命の危険」を感じ始め、逆切れと表現すべき、怒りの炎が胸の内に点火する。
しかし、屈強な男達にとっては、堂上の怒りなど可愛いもの。
それすら無視して、堂上を連絡艇に押し込め、強引に座らせたシートの、ベルトまで装着させてしまう。
「当機は間もなく到着致します。
無重力状態継続中!無重力状態継続中!
万が一の為に、ベルトを装着してください」
連絡艇がポートを離れて10分、無機質な機内アナウンスが流れる。
堂上 (ベルトなんか外す暇もなかったわ!)
4人の男に囲まれたまま、シートに座る堂上は、憮然とした表情で「ふと」窓の外を見詰める。
どうやら、この連絡艇は横噴射状態で、すでに「何か」の施設に接岸する体制に入っている様だ。
すると、間もなくして窓の外に見える小さな点がどんどんと近付いて来る。
連絡艇が目指す、光点の姿と形が、はっきりと見えて来たのだ。
それは船。
思わず吸い込まれそうになる、真っ暗で底無しの宇宙空間の中で、
太陽光にその船体の表面を当て、白銀色に輝く船体。
ロケットの様な筒型でも無い。平べったく左右に伸びた翼を持ち、
揚力を得て、大気圏内にも活動の場を持つ飛行機型とも違う。
海や湖などで、目当ての魚を上空から探し当て、そのまま高空から水面下へダイブする水鳥の様な、
先の尖った流線型の美しいフォルム。
堂上 (亜宇宙戦術空母!)
自分がどこに連れて行かれるのか分からない、命の危険を感じる恐怖に、
全身が支配されていた堂上だったが、
この時、不覚にも亜宇宙戦術空母に魅入ってしまう。【なんて美しいのだ】と。
いよいよ近付いて来た連絡艇、間近に見えて来る船体には、英数字でデカデカと、
その船の認識番号がペイントされている。
【UNOSF】
【STC―05】
「ある程度」軍事に詳しい堂上は、その認識番号を見て思わず当惑し、口に出して叫んでしまう。
堂上「国連軌道宇宙軍、…Stratosphere Tactics Carrier-05(ストラトスフィア・タクティクス・キャリアー)
亜宇宙戦術空母5番艦!…5番艦だって!?」
更に…、更に近付く船体、接舷間近。
驚愕し、おののく堂上の瞳に、デカデカと表示された船体認識番号の下に描かれた、小さな船名が飛び込んで来た。
堂上「どういう事だ?…一体何の冗談だ?亜宇宙戦術空母5番艦、【スキールニール】
聞いた事ないぞ!そんな船!!!」




