母、レイコ・F・ムナカタ
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場所は変わる
ここは、とある下層階の一般居住地。単身者用の狭い居住地とは違い、
家族仕様の大きめに仕切られたエリアである。
その中の一つ、玄関の表札に【ムナカタ】と書かれた家。
ムナカタ・カオルやショーン、ミカ、エレノア達が国連軌道宇宙軍の教育実習を終え、
再び学校に通学して来た前日の夕方の話。
バス、キッチンと居間と個人用の部屋が2つ。その、ごく一般的なムナカタ宅のカオルの部屋の中。
ベッドと勉強机、ごくありきたりな部屋の壁には、亜宇宙戦術空母群旗艦「キング・アーサー」や、
軌道フリゲート艦隊の旗艦となった、コンステレーション級1番艦「ジェミニ」など、
国連軌道宇宙軍の公式ポスターがベタベタと貼ってあった。
机に向かい、真剣に勉強しているカオルに、キッチンから声がする。
「カオル!ご飯出来たよ」
カオル「はぁい!」
カオルを呼ぶ声に反応し、まるで尻尾を振る子犬の様に部屋を出て、居間に向かうカオル。
テーブルの上からはスパイスの効いた食欲をそそる香り、今日の夕飯はカレーライスだ。
カオル「おお♪今日は何て贅沢な」
「冷めない内に早く食べなさい」
居間から覗くキッチン。エプロンをかけた母の後ろ姿が見える。
カオル「母さんは?」
母「今、自分の持ってくから」
カオル「じゃあ…お先に、いただきまぁす♪」
カオルの目の前には、ちょっと深みのあるシチュー皿が置いてあり、
そこには、白いツヤツヤのご飯と、市販のペーストを使用しない、
母手作りのカレーソースが、たっぷりかかっている。
そして、豚カツとはいかないまでも、鶏肉のカツレツがカレーの上に、トッピングされていた。
母「鶏肉あったからフライにしたよ、カレーとご飯はまだあるから、おかわりしてね」
カオル「わは♪」
自分の皿を持って、母もテーブルにつく。
細くて長い、みずみずしい黒い髪を首筋で束ね、黒くて深い瞳が印象的な女性。
カオルは、この若い母が好きであった。友人から「マザコン」とからかわれようとも、
親として、母として、たった一人の家族として、親愛の情を捧げる事に、何ら違和感を覚える事はなかった。
この最高の母、レイコ・F・ムナカタを、
この、【レイコ・フェイシャ・ムナカタ】を。
カオル「ねえ、母さん」
レイコ「ん、なに?」
カオル「ごの…カレーライズ…あじだ…べんど」
レイコ「…食べながら喋らない(笑)」
カオル「ご、ごめん…。母さん、カレーライス残ったら、明日学校に弁当で持って行きたい」
レイコ「弁当に…?冷たいと、美味しくないよ」
カオル「大丈夫♪僕にはコンパクトヒーターがあるから」
カオルが言う、コンパクトヒーターとは、
文庫本サイズの大きさで、
電子で物を温める、簡易調理器具の事である。
(*´ω`*) 外出先でも安心
レイコ「ぷっ(笑)そんなにカレー気に入ったの?」
カオル「うん♪カレーさえあれば、何か生き残れそうな気がする」
レイコ「あははは(笑)カオル、お前は可愛いなあ」
市販のソースやルーを使わず、母が小麦粉を炒める所から始めたカレーライス。
いたく感動したカオルは、終始笑顔で完食し、おかわりまでしたのであった。
なごやかな母子の団欒に包まれる室内、カオルが生まれて初めて、長い日々家を空けて教育実習から帰って来た、
その日の晩の事であった…。
ミカ「…」
ショーン「…で?」
エレノア「機密の話は?」
頭を抱える三人。
話終わって満足するカオル。
場所は今現在に戻り、教室の中。時間は昼休み、クラスの友人達は食堂へ。
ショーン達はカオルの話を聞こうと、食堂では食事をとらず、
購買でパンを購入して、カオルと一緒に教室で昼食をとっていたのだ。
エレノア「…で」
ミカ「カオルさあ…」
カオル「ん、何だい?」
ショーン「お前がお母さんの事好きなのは良くわかったけど…(笑)」
ミカ「わざわざ教室でカレー弁当あっためて」
エレノア「教室中スパイスの匂いで充満してる(笑)」
カオル「食欲をそそる刺激的な香りだよね♪」
(*´ω`*)カレーサイキョウ
ミカ「おばか(笑)午後の授業どうすんのよ」
ショーン「クラスの連中帰って来たら、パニック起こすぞ(笑)」
一年二組の教室
カレー臭が教室に充満し、教師も生徒もスパイスの誘惑に悩んだ午後の時間。
「教室内でのカレー弁当再加熱禁止」と言う校則が、出来たきっかけであった。




