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オキュパイド・アース ~占領下の地球~ 原案  作者: 振木岳人
国連軌道宇宙軍編
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デイリー中京、社会部記者 堂上誠一郎




ラグランジュ・ポイントは既に飽和状態。


人類はやむなく、地球周回軌道や月面・月地下、月面周回軌道…、

はたまた、火星にまで、その生存の権利を主張していた。


そんな時代の話。


宇宙空間、主に木星より内側の「内惑星エリア」が人類の繁栄に満たされながらも、

ただ一つ…、太陽系第三惑星【地球】だけが、人類の足跡が絶えてから、

2世紀ほど経過してしまった、そんないびつで異様な時代の話である。




2415年の春。




一年を通じて温度変化を放棄した国家・コロニーが無数にある中で、

国民投票で【四季】の気候変化を望んだ、ラグランジュ・ポイントより地球内軌道に、

6つのコロニーを有する国連常任理事国の一つ、大国【日本】。


その日本の屋台骨と言うべき、工業の中心地が、コロニー3【中京】である。


住環境に配慮し、人間の生存に必要な「環境整備」に特化した、

中心が空洞の円筒形「シリンダー型」コロニーとは違い、

ひたすら実務的な作業空間を保証した、ドーナツ型コロニーを【徹底的に】つなぎ合わせた、

重工業を主体とした、生産性宇宙随一のコロニー。それが、日本国コロニー3【中京】である。


その、コロニー3のくっついた無数のドーナツの一つ、円形124階層の下から三番目。

企業所有の「福利厚生エリア」…つまり、従業員の居住階。

その一角、壁面のプレートに「デイリー中京」と、刻印されたエリアがある。


そのエリアの一室、扉に張ってある、表札らしき紙一枚。

そこには、「どのうえ」と、わざわざひらがなでメモ用紙に名前を殴り書きし、適当にちぎって貼り付けた様な、

家主がどれほど適当な性格なのか、即座に判断出来る程に、適当過ぎる表札だった。


その「どのうえ」宅


薄明かりの続く、長い真っすぐな通路が、遠くへ行くほど…視界の奥に行くほど、

どんどんと弧を描き、上昇して行く。


その通路の両側を挟む様に、ズラリと並んだ扉、その中の一つである「どのうえ」の表札の奥から、

突如大音量で流行歌が流れ始めた。


時刻はコロニー3時間で、早朝の4:30。

近所迷惑な時間帯である。


ゴンゴンゴン!


ゴンゴンゴンゴン!!


「どのうえ」宅の両方の壁、隣家が騒がしい。

「どのうえ」宅の壁に向かって、壁を殴っているのか、近所迷惑の「どのうえ」宅に対して、凄まじい怒りが集中する。


「あ、ああ…はいはい。起きます起きます」


頭から被り、くしゃくしゃになった布団から手だけを伸ばし、枕元に置いてあるリモコンを握る。

布団から出た手だけが、リモコンをいじりにいじり、やっとオーディオコンポの、

目覚ましミュージックが途切れた。




「ふっ…!!!ふああああ…っ…!!」




やっと布団から起き上がり、寝ぐせ頭をボリボリとかきながら、

床も壁も…天井すらも同じ材質、同じ色の無機質な寝室から、

寝室と全く変わり様の無い無機質な居間へと向かう一人の若い男性。


だらしない下着姿と無精ひげ。

そして寝室と言わず居間も足の踏み場も無い程に「汚い」状況。

どうやら、配偶者や恋人と言う存在に、無縁の人物の様だ。


まだ寝ぼけているのか、視点の定まらない男性。

ゾンビの様に「もっさり」と居間を移動しながら冷蔵庫に。

空っぽに近い冷蔵庫の中から、缶ビールを取り出し、


プシュッ!


ゴクッ


ゴクッ


ゴクッ…


迎え酒なのか、喉を鳴らしながら、一気に胃に流し込んだ。




「ぐうえ~っぷ!」




人前では絶対に出来なさそうな、盛大なゲップを吐き出し、

テーブルの上にあるノート型携帯端末のスイッチを入れる。


携帯端末が立ち上がる間のタイムラグ中に、壁に掛けてあるヨレヨレのズボンをはき、

一晩寝間着として着用した白いTシャツの上に、これまたヨレヨレのブレザーを羽織る。


簡単過ぎる支度を終え、椅子に乱暴に座る。

ごちゃごちゃになったテーブルの上から、食べかけのチョコレートバーを見つけ、

無造作にかじりつきながら、ノート型携帯端末の画面を覗き込む。




『鉄鋼株続落!史上最低水準の記録更新』


『環地球軌道経済会議、アメリカ欠席で課題山積み』


『ユーロ・コロニー2ベルリンで居住区崩壊、死者2千人超。構造疲労が原因か!?』


『月経済圏連合、環地球軌道連合へ経済制裁。ルナ30ステーション、爆破テロへの報復。地球側は関与を否定』




【いつも通り】、まるで明るいニュースの無い、ろくでもない1日の始まりであった。




朝、5:30




下層の居住区と、上層の企業エリアとの中間に位置する、商業エリア。

蜂の巣の様な狭くて息苦しい、居住エリアとは打って変わり、

大資本企業や個人資本家が、様々な店を出店し、経済活動を行っているエリア。


居住エリアの個室同様、小さな通りに個人商店がズラリと並ぶ商店街もあれば、

大企業が投資して、数階の層をぶち抜いた、広々とした空間の多目的商業施設もある。


そんな商業エリアの中で、個人経営の飲食店がズラリと並ぶスペースがある。


通称【屋台村】

とある企業が出店していた、吹き抜け三階の多目的施設だが、世界を覆う慢性的な不景気で、その企業が撤退。

買い手のいないその「がらん」とした空間に、無数の個人商店主達が屋台を出店したのだ。


…行政当局の許可を、半ば強引に取りつけて。


むせかえる油の匂い、腐敗したゴミの匂い、そして調理する香ばしい匂い。

様々な匂いが入り混じる「カオス」な空間の屋台村。


その中の屋台の一つ【カフェ・ド・モンマルトル】。

名前だけは一流だが、合成豆のコーヒーと合成肉のホットドッグを提供する、

詐欺的な名前の、ごく一般的な屋台スタンドの一角に、「どのうえ」宅を出た男性がいた。


店先にいくつかあるテーブルの一つを陣取り、新聞を広げながら、

不味そうなコーヒーとホットドッグを、交互に胃の中に放り込んで行く。


男性が見詰める新聞、【デイリー中京】と銘打った新聞。


コロニー3【中京】を拠点とする単なる地方紙なのだが、

労働者人口が他のコロニーに比べて爆発的に多いが故に、地方紙の中では売れている新聞で、

地球軌道上に展開しているコロニー国家の一つ、【日本】においては、

全国紙に肩を並べる、中堅クラス以上の販売量を誇る新聞である。


相変わらず、凶悪事件や悲惨な事故、経済不安や不況の記事が目白押しで、

世の中を明るくする様な記事がほとんど見受けられない中、そのデイリー中京の社会面、

社説とは別枠に設けた論説を、「どのうえ」の男性は夢中になって読み続けている。




『国連軌道宇宙軍の不可解な15年度戦力増強』

論説のタイトルにはそう書かれており、紙面の三分の一を割く程の、書き手の力のこもった論説であった。




【国連軌道宇宙軍の不可解な15年度戦力増強】


潤沢な鉱物資源を基盤に、成長してきた月経済圏連合と、

重水素などの推進剤や、地球環境資源を基盤に成長してきた環地球軌道連合。

前者と後者は互いの不足分を補う関係を維持しつつ、人類の宇宙時代発展に、輝かしい足跡を残した。


だが、しかし、その発展は同時に、自分達が保有する資源を人質に、国家間・連合間の主導権を握ろうと言う、

静かなる経済戦争を行って来たと言う側面もある。

そんないびつな世界の象徴とも言える組織が、2つの【国連】である。


宇宙進出当初、環地球軌道連合が設立した、今の前身である国連、【国連宇宙軍】。

結局のところ、環地球軌道連合が、自分達の都合で設立した国連は、見事に瓦解、分派して、

今では、誰もが知るところの二大勢力、【国連軌道宇宙軍】と【国連月宇宙軍】が、

月経済圏連合と、環地球軌道連合の代わりに、国家の代理となって睨み合っている。




論説の出だしは、人類が宇宙に進出せざるを得なかった時代から、

今に至るまでの、国連の所有する武力組織についての概略だった。


そして、ホットドッグを食べ終わり、不味いコーヒーを飲み干した「どのうえ」は、

屋台から立ち去り、エレベーターで上層階…企業エリアを目指し、エレベーターエリアに向かって歩き出した。

それでも、記事の内容が気になるのか、新聞を半分に折って、歩きながら記事を読みふける「どのうえ」。

通行人と肩が当たったり、前方を歩く者の背中にぶつかったりと、良い迷惑を繰り返していた。


「どのうえ」がまるで、咀嚼する様に、何度も何度も、論説の中の同じ文章を読み返す。




しかし、不可解なのは国連軌道宇宙軍の近年の軍拡路線である。


国連月宇宙軍との戦力バランスは拮抗しており、抑止力としては、満足出来る配備状況にも関わらず、

ごく一部の部隊への予算割り当てが、途出し始めているのだ。


その一部の部隊とは、「亜宇宙戦術空母群」である。


国連月宇宙軍との軍事衝突や、航路妨害などの通商テロ行為を想定しての軍備増強ならば、

軌道フリゲート艦隊にこそ予算が集約されるべきであり、

13年度に就航した、最新鋭のコンステレーション級1番艦「ジェミニ」の様に、

同型2番艦、3番艦が建造され続けなければ、何の為の宇宙軍なのかと疑われる様な、おかしな話なのである。


亜宇宙戦術空母群


地球の成層圏上段を周回し、地球の環境資源を取得する作業船の保護や、

無資格業者の違法操業取り締まりなど、

どちらかと言うと、純粋な軍事力を行使する戦闘組織と言うよりも、

警察権力を行使する活動が主たる任務の、言わば資源の見張り番である。


昨年度、14年度の犯罪統計を見ても、地球大気圏内に無許可で降下して、

水や酸素や有機物を無断で搾取する違法操業は、

摘発及び認知件数を合わせて、年に10数回あるか無いかである。

また、定期的な臨検活動と、救助要請を受けての出動も、合わせて年に17件程度の状況である。


なのになぜ、


14年度に亜宇宙戦術空母4番艦「フィン・マックール」を就航させたばかりだと言うのに、

本年度15年度予算に、亜宇宙戦術空母5番艦建造が、予定として盛り込まれているのか。


関係者に聞いて回っても、「既存兵力の老朽化が原因」と、皆口裏を合わせた様に証言するが、

実際のところ、一番古い戦術空母で旗艦の「キング・アーサー」ですら、建造から18年しか経っておらず、

一年の内、試験航行と作戦行動を合わせても、時間にしてたった3ヶ月も稼働していない。

「キング・アーサー」が老朽化しているとは到底思えないのだ。


また、武装化され、兵器としての価値を見出されている強化外骨格式船外作業服PEEVAも、

既存フリゲート艦への配備は完了している。

わざわざ戦術空母を、成層圏高空から宇宙へと運用をシフトさせる無駄は計り知れず、

それが戦術空母を増産させる理由とするのは、非常にナンセンスなのである。

国連月宇宙軍との戦力差は、拮抗しているのだ。バランスは充分に保たれている。


結果、総じて亜宇宙戦術空母群に予算を傾倒させねばならない理由が、全く見いだせないのだ。


国連軌道宇宙軍、いや、母体である環地球軌道連合そのものが、

慢性的な経済不況と言う暗闇から、長い間脱する事が出来ないでいる。

人心も疲弊し、暗い話題だけが目立つ昨今。

火星のテラフォーミングも暗礁に乗り上げ、環境が整うまでに追加900年と言う数値も発表されている。


その中で、何故今になって、国連軌道宇宙軍が地球の重力に引かれ…惹かれ始めたのか。


納税者であり、スポンサーである我々市民が、国連軌道宇宙軍の動向に、

一人一人目を光らせて監視せねばならない時期が来た。


(社会部記者 堂上誠一郎)





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