プロローグ・謎の少女フェイシャ
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身体を突き刺すほどに熱く、それでいて清々しい日差し。
穏やかに波打ちながらエメラルド色に輝き、見る者を安らぎへと誘う、広大に広がる海。
そして、母なる海から「ちょこん」と頭を出した、とんがり頭の島。
一見すればこの光景…、
赤道直下の豊かな海に浮かぶ、大自然に囲まれた小島。
のどかで穏やかで、尚且つ南国の爽快感を醸し出している赴きがあるが、
そうも言っていられない状況が、【そこ】で起きていた。
ぐるりと一周するのに一時間もかからない小さな島。
うっそうと茂る樹木に覆われた、横から見ると気持ち良いほどに三角形に見える島。
その島のあちこちから、耳をつんざく様なけたたましい音を伴い、
無数の黒煙が、天に向かって立ち上っているのだ。
ドォン!ドォン!と地響きを立て、鳴り止まぬ破裂音。
パパパッ!パパパッ!と空気を振動させる、無数の炸裂音。
そう、この島では今、戦闘が行われていたのだ。
海岸線に何隻もの強襲揚陸艇を【降下】させ、バラバラと波打ちながら内陸の森へ向かって行く、無数の海兵隊の兵士達。
その強襲揚陸艇の船体や、兵士達の強化装甲服の腕章には、
【UNOSF】
(国連軌道宇宙軍)と、表示されている。
バンドール中尉「前進するぞ!前進だっ!!先行しているポーリッシュ強行偵察小隊に合流するぞ!」
海岸線から森に向かう海兵隊、…宇宙海兵部隊に向けて、
部隊長であるバンドール中尉から、大声で命令が下る。
すかさず中尉の傍らにいるユフレヒト曹長が、
中尉の号令に追従する形で、兵士達に荒っぽい言葉を投げかけ、
迅速な行動を促し始めた。
ユフレヒト曹長「バカ野郎!中尉が前進って言ったら前進だっ!!
森に突入しろ!怖じ気づいてんじゃねえ!弱虫野郎はケツの穴に俺がキスしてやる!」
曹長の怒号とも言える号令に背中を押され、
超近代装備を鈍く輝かせたの兵士達が、続々と森の中へ突入して行く。
ユフレヒト曹長「おらおら、早く行け!レッツ、ムーヴ!レッツ、ムーヴ!
高空から下降して来る戦車隊に場所を空けろ!!」
我を忘れたかの様な凶相で、森の中へ全力疾走で消えて行く兵士達。
無情にもその先々で早速、盛大に湧き上がる爆発と炎上。
その一つ一つは間違い無く、兵士達の生命に直接関係していた。
先遣隊に合流する為に、続々と森の中へと突入を開始した兵士達。
その後方では、遥か上空からバーニアスラスターを「ごうごう」とふかしながら、
平べったい鋼の箱、戦車部隊が海岸線に向かって降下して来る。
太陽光を表面で鈍く輝かせ、腹の部分は逆光で真っ暗に。
ひし形の隊列を組んで続々と降下して来る戦車の中に、一台だけ戦車よりも一回り小さな、
砲塔すら持っていない、小型の車両がある。
もちろん、戦車と比べて小さなだけで、人間なら10人近く搭乗出来る、代物なのだが、
この小型車は見た目の重厚さよりも、その中身、それに搭乗している人間達こそが、この戦場で必要とされているのだ。
戦闘指揮車
運転席とは隔離された、無数のモニターと機材に囲まれた客室、ほとんど窓が無い薄暗い車内。
二人の軍服を来た男性と、この場には似つかわしく無い異質さを漂わせる、愛らしい黒髪の少女。
合計三名が、この窮屈な車内で様々なモニターを食い付く様に見詰めている。
軍服姿の二名の内、一人は白髪混じりの壮年の男性。
そしてもう一人は、その壮年の男性の副官又は連絡将校。
まだ二十代の若々しさを保つ若者である。
その副官らしき軍人の耳にはインカムが装着され、次々と矢継ぎ早に無線連絡が入って来るのか、
指揮官らしき壮年の軍人の耳元に淡々と、絶え間なく報告内容を告げていた。
副官「バンドール隊がポーリッシュ偵察部隊と合流しました、航空支援を要請して来ています」
指揮官「そうか、戦車隊の作戦展開まで後何分かかる?」
副官「全車着地しての作戦展開まで、最低5分はかかります」
指揮官「うむ、ならばハンティング・ホークに通達、地上部隊に対しての支援爆撃を命じろ」
副官「了解しました!」
副官はインカムを通じ、ハンティング・ホーク (国連軌道宇宙軍の主力高高度戦術戦闘機)の編隊に、爆撃命令を下し始める。
そして指揮官は、視線を釘付けにしていたモニターから一旦顔を上げ、
心配そうにモニターを見詰める少女に優しく声をかける。
指揮官「フェイシャ、心配するな。まだ【物体E】もそれほど集結していないし、
やつらが集団化する前に、【回収部隊】から朗報が入るはずだ」
最前線
ポーランド人兵士で組織された、通称「ポーリッシュ強行偵察部隊」が、敵と遭遇して15分。
後続である本隊、バンドール中尉率いる機械化歩兵部隊と連携し、森に囲まれた島の内陸部に拠点を設置。
高空から降下した戦車隊が、後方から合流するまで、後わずかである。
戦闘指揮車
戦車隊に随行しながら、作戦全体を見渡し、指示を出していたのだが、
後少しで最前線に到達…と言う所で、事態が劇的に動き出す。
戦闘指揮車に搭乗している、指揮官と副官と謎の少女。
その副官のインカムに混乱と驚愕にまみれた、戦慄に身を震わせる様な無線が入って来たのだ。
バンドール中尉『機械化歩兵部隊より作戦指揮車!機械化歩兵部隊より作戦指揮車聞こえるか、オーバー!!』
副官「こちら作戦指揮車オーバー」
バンドール中尉『散発的に攻撃して来た【物体E】が組織化!!ポーリッシュ部隊が壊滅的なダメージを受けてる!
戦車隊合流まで何分かかる?』
副官「中尉、ちょっと待て…」
副官はモニターで現在地点と歩兵部隊との距離を計る。
指揮官「何事か?」
いぶかしげに副官を見る指揮官。副官は目を合わせる事無く答える。
副官「【物体E】の本格的な抵抗が始まりました。
ポーリッシュ部隊が壊滅寸前、バンドール中尉が戦車隊の早期合流を要請しています」
指揮官「戦車隊合流を優先するより、戦車隊の火力と航空支援で時間稼ぎをしろ」
副官「了解しました」
指揮官「バンドール中尉に砲撃位置を知らせる様に言え」
指揮官の言葉を耳にしながらも、器用にバンドール中尉へ連絡を始める副官。その光景を見詰める謎の少女フェイシャ。
彼女の表情には、隠す事すら我慢出来ない程の、不安の色が滲み出ている。
フェイシャ「中佐、…ハミルトン中佐」
少女フェイシャからハミルトン中佐と呼ばれた指揮官、フェイシャの頬に優しく手を当てる。
夜中に目が覚めたまま、「おばけ」の存在に怯え、眠れない子供をあやすかの様に、
優しく微笑みながらフェイシャに声を掛ける。
ハミルトン中佐「大丈夫だフェイシャ、まだ大丈夫。
回収部隊さえ無事なら…回収部隊が作戦を成功させれば、
本隊がどうなろうと、我々人類の勝利だ」




