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十三話

 タチバナさんに僕は「クロカワさんの超能力、てどんなのですか?」と聊かな興味を訊ねた。僕が予想するに、あのがたいから連想するに、あの服装から想像するに、いろいろ考慮し想像しているとアミサキさんの「すべての物を真っ二つに割る」超能力が脳裏に過ぎった。割る事が可能なのだから、壊す事もできるだろう、と僕は「あらゆるものを粉砕させる」という結論に至った。タチバナさんは僕の耳に顔を近付け、手で口元を隠す影を作りながら「「投げたものは何かに当るまで飛ぶ」という超能力になっています。詳しくは私もわかりません」と言った。息が僕の耳元を撫で、僕は水をぶるぶると払う猫のように震えた。「すみません」とタチバナさんは慌てて謝った。僕は苦笑いをするしかできなかった。ところで僕はよく分からない超能力だな、と感想を抱いた。

 パーティー会場となるドームらしき建物は、まるで頭上の雲を下ろしたかのように巨大な建物だった。俯瞰に見ると円状の輪郭をしており、天井は中心になるにつれて高くなっていく形をしていた。雪が積ろうがすぐに滑り落ちるだろう、と僕は思った。

 このドームの中にあるホールには、東西南北に出入り口があるようだった。その内の僕は西口を任せられ、アミサキさんは東口に向かった。クロカワさんは北口を受け持ち、カミタニさんはヤイバさんのまじかでSPのようにいるらしい。南入り口は自衛隊や警備員などの者達が男達の出現に備え、待機していた。

 僕は頼まれた西口の扉に寄りかかり、腕を組みながら二人組を待った。扉の方に耳を澄ますと、大勢の上品さに満ちた声が漏れていた。ざわざわと声がし、すべてを聞き取ろうとしたが可能なはずがなかった。僕は聖徳太子ではないのだ。

 延々と扉の奥で賑やかな声に耳を澄ましていると、テレビなどでの雑音にも思えた。僕は扉から耳を離し、再び建物内を見回した。円形の空間に一回り小さな円状の空間がある、というのはすこし奇妙だった。右に首を曲げると、湾曲を描いてクロカワさんが見張っている場所まで続いていた。左も同様にどこまでも曲りくねっていた。まるで土星を囲む輪の中にいるようだった。その輪は広く、いわゆるロビーが一周しているのだ。一回り小さいホールを囲むように、ロビーも輪を描いているのだ。

 僕はコートのポケットに手を挿入し、折りたたみナイフの持ち手を指先で触れた。硬く木製ですべすべとした手触りだった。僕は手を引き抜き、爪先を悠々と見つめた。それは何となくだ。爪が何センチ伸びたかなんて僕はわからないし、寿命線が伸びたかもしれない、何て事もさっぱりわからない。何となくの気まぐれなのだ。ようするに、退屈なのだ。

 〈蝶硝〉の社長、ヤイバという男を僕は一目だけ目にしたが、見た限りだと中年の男に過ぎなかった。すこし白髪が混ざった髪を掻き上げており、耳元にはピアス穴が開いていた。一重で目が細く、髭を若干蓄えていた。そして今にも髭と一体化しそう、というくらいにもみ上げが長かった。確かに傲慢そうな印象は抱いたが、巨大な組織の社長、という程の貫禄は備えていない気がした。ところで超能力者二人組はまだ現れない。

 僕は正直、二人組の登場を望んでいた。カミタニさんとの一戦以来、僕は不調が続いていた。以前の冷静的な判断が衰えはじめているのだ。カミタニさんが僕を唆した言葉は、僕の優越感を葬り、冷静さを消滅させ、ゲシュタルト崩壊のように、僕の中に雪崩を起こした。だから僕は望んでいるのだ。男二人組の登場を、心待ちしているのだ。

 僕はひたすら待った。壁に背を密着させて虎視眈々と以前の自分の復帰を図っているのだ。僕は壁に走っているへりを指先でなぞった。大理石の壁に指を滑らせると薄い氷膜が指先を覆った。大理石の壁は黄色と白の迷彩柄のようになっており、水のりを表面から満面なく塗りたくって乾かしたようにてかてかと眩しくない光を放っていた。地面も大理石だとは思うが、赤いカーペットが敷かれていてわからない。背を密着させ足を伸ばそうが、地面と踵が張り付いたように滑る事はなかった。伸ばしている足を固定するかのように、がっちりと押えている。僕は顎を引き、タートルネックの首元に顎を当てた。 

 僕は先程から違和感が覆っている耳元に手を伸ばした。乾電池程の大きさをしたイヤホンマイクを右耳に僕は命令で付けていた。これは皆と別れる際、タチバナさんが全員に配った物だ。「これは何ですか」と僕が訊ねると、タチバナさんは「通信機です」と原稿用紙一行も埋まらない淡白とした声で言った。

「わかりません」と僕は言った。

「私のこのパソコンと繋がっている通信機です」とタチバナさんは脇に挟んでいたノートパソコンを見せた。「みなさんが護衛をしている間、私は車内で男二人組の事を調べます。それで判明した事を言います。私の声がみなさんのそれに繋がる、という事です」

「自分達からは言えないんですか?」と僕は訊ねた。

「はい」とタチバナさんは肯いた。「一方的ではありますが、私の方からしかできません」

 とはいっても、違和感そのものが耳に被さっているようで僕は慣れなかった。イヤホンというのが僕は苦手なのだ。僕は片耳を飾っているイヤホンマイクを人差し指でこんこんと叩いた。プラスティックの軽やかな音が耳に直接流れた。南口には、このパーティーに呼ばれた人達が並んでいた。清楚なスーツ姿の人達が目立っていた。パーティーの招待状を片手で持ち、白髪頭の老人にそれを渡してホール内にへと進んでいった。

 僕は再び背を壁に合わせ、コートに手を挿入した。辺りはしんと静まり、分厚い扉の方から上品な喧騒が流れてきていた。僕はロビーの巨大な窓に広がる芝生の景色を眺めていた。パーティーが始まるまでロビーでくつろぐ者も存在した。ロビーには巨大な液晶テレビと自動販売機が何台か並んでおり、三つほど白い革生地のソファーもあった。赤紫色のドレスを着た女性や縞柄のグレーのスーツを着た男性がソファに腰掛けたりとしていた。ソファの隣には丸テーブルがあり、その上にはシガレットケースと灰皿が何枚か積んであった。グレーのスーツを着た男がそのシガレットケースの蓋を開け、煙草を一本取り出して一緒に置いてあったマッチに火を点けた。煙草の先に灯し、細長く蛇行した灰色の煙を立ち昇った。赤紫色のドレスの女性は窓をじっと見据え、広がっている芝生を眺めていた。他にも人はいた。メロンソーダを連想させる青っぽい緑色をしたドレスを着た女性や丈が丁度の黒いスーツを纏った男性と僕を合わせ五人ほど西口のロビーに存在した。

 僕はその中の、黒いスーツを身に纏った男性を気にかけていた。確信はできないが、どこか怪しい雰囲気を伴侶しているのだ。前髪を中心部から左右に分け、鼻が若干尖っている。睫毛も著しく長かった。ソファに抱かれたまま、延々と天井を見上げていた。

 「時間です」という老人の声と共に、ロビーにいた人達は立ち上がり、僕の隣にある扉の方へと足を向けた。僕は西口の扉を引く。赤紫色のドレスの女性は僕の顔を一度見、軽く頭を下げた。僕も釣られて顎を引いた。その女性が確認のためにと僕に招待状を見せ、後に続く人達も僕の招待状を目に通した。訝しげの男も遅れて立ち、僕の方へと近づいてきた。

「招待状、をお見せください」と僕は身に緊張をまとい、訊ねた。

「ああ」と彼はそう言い、スーツのポケットに手を挿した。僕は全身を強張らせ、身を構えた。険悪とした空気が走った。

 男は慌しくポケットの中の冒険していた。「ありますか?」と僕が一歩足を出した瞬間――男の拳が僕の鼻を突いた。視界が吹き飛んだかのように一変する。男はすかさず手を入れていたポケットから果物ナイフを引き抜き、僕の顔を裂くように振った。僕は殴られた弾みで体重が後ろにかかっていた事もあり、間一髪でナイフからは逃れた。しかし鋭く宙を切り裂く刃の先端部分が、鼻先を摩った。それは切られたかどうかも判断が難しい程度だが、粒のような手の滴が視界を舞っていた。

 僕は地面に背中から横転した。男が僕を跨ぎ、ホールにへと大股で足を広げる。僕は男に這い蹲る覚悟で両足を起立させた。男の胸元に僕の踵が届き、そのまま押し倒す勢いで僕は足を振り下ろした。男は足を軽やかに避け、僕の腰を蹴りつけた。僕は弾みで身を起こし、仕舞っていたナイフを男の顔へ投げた。刃も開いてなく、ただの持ち手部分なだけだったが効果はあった。それが男の目に当たったのだ。僕は急いで足を地に付け、身体を起こした。そして男に詰め寄り、右手で男の顎を殴った。男がよろめき、僕は右足を振った。男の腹を蹴り押し、そのまま自分も前へ倒れた。押さえつけようと試みたのだ。しかし、倒れたのは僕のみだった。地に腹が弾み、内臓が圧縮したように呼吸が詰まった。避けたのか?いや、ありえない。僕は腕立ての姿勢になりながら体制を戻そうと試みる。しかし男のナイフは顔の真横を通り過ぎていた。

 ナイフが僕の左肩に侵入した。衣類をまとめて貫き、皮を突き破り、肉に穴を深めていく。僕は口を押さえつけていたゴムホースが破裂し、膿のように膨大していた水が飛び散らかったような、悪い開放感が襲った。血液が思いのまま自由の身となり、騒いでいるように肩から血が吹き出た。

 僕は笑い声にも似た悲鳴が体内を逆流に走った。それを食い止めるように男が僕の首を掴み、ナイフを引き抜いて左足の膝で僕の喉辺りを潰した。鈍く汚らしい噎び声を漏らし、地に倒れた。声が出ないのだ。男は僕の胸元を掴み、無理やり足で立たせた。血は止まらず、脇を伝って地面に垂れた。赤いカーペットに染み込み、わからなくなった。男は僕の顔を覗きながら、一度肯いた。僕にはそれが何の合図かはわからない。見当もつかない。僕は男から離れ、よろめく足を動かして西口の会場に繋がる扉をもたれかかるように閉めた。足元を強張らせ、「ビンゴ」と僕は言った。そして血と痰が混ざったような薄汚い塊を地に飛ばした。

 男は鋭い視線を僕に刺しながら無言で歩みを始めた。僕はそこで、脳内に作ったスイッチを押した。



すこし残虐シーン的なのが入りましたが、スルーでどうぞ。

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