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第2章 1

20輌程の軍事車両が出発の時を今か今かと待っていた。


「出撃準備整いました。千歳中佐」


「分かった。 ――ではご主人様」


「あぁ、行くか」


カズヤがこの世界に来てから約2ヶ月が経った。


様々な戦闘を乗り越えながら、これまでは物資の備蓄や兵器の生産、本拠地や周辺の島の拡張、基地周辺に出没する魔物の討伐に精を出していたカズヤだったが、いつまでも本拠地に閉じこもっていてはしょうがない。と判断し千歳率いる親衛隊一個小隊を連れて旅に出ることにした。


ちなみに召喚時、少佐であった千歳が中佐に昇進しているのは召喚した兵士の人数が大隊規模まで増えた為に繰り上がりで昇進したからである。


……というのは表向きの事情で本来ならば、カズヤは大隊規模まで増員する時に階級は据え置きで中佐階級の人物を召喚するつもりだったのだが。


「よし、追加の兵士を召喚するか」



「了解しました」


「副官役の中佐は……」


「ッ!?……副官役の……中佐?………………ご主人様、私はもうお払い箱ですか?」


満面の笑みを浮かべた千歳が恐ろしいオーラを纏い、光の消えた暗い瞳でカズヤを見つめながら歩みを進める。


「……え、あっ!?こ、これは違うんだ千歳!!」


一瞬、千歳の言葉の意味が分からなかったカズヤだったが、その危険な笑みを見て自分の失敗を悟った。


「何が違うんですか、ご主人様?私には飽きてしまわれたのですか……?」


感情の抜け落ちた言葉を紡ぎながら千歳は更にカズヤとの距離を詰める。


ヤ、ヤバイ……。


しかし、カズヤも危険なオーラを放つ千歳から離れようと少しずつ後ろに下がるため2人の距離は一定を保っていた。


「だ、だから!!千歳に飽きたとかそういう事じゃない!!千歳にはいろいろと軍務を掛け持ちでもやってもらっているから上の階級の人物を召喚して楽をさせてやろうと思っただけなんだ。――ッ!?」


か、壁が!?


カズヤが咄嗟に思いついた言い訳を言って更に後ろに下がろうとした時、部屋の壁に当たってしまい逃げ場を失った。


「そんなお気遣いは無用です……」


「あ、いや、あの……な?ち、千歳?」


ついに逃げ場を失ったカズヤがワタワタと慌てふためいているのを尻目に千歳は壁に両手をついてカズヤを壁と自身の身体で閉じ込める。


その上で鼻が触れ合う寸前まで顔を近づけた千歳は暗い瞳でカズヤの目をしっかり見据えながら言った。


「私に飽きていないのだったら私を昇進させて副官を続けさせてくれますよね……?」


「わ、分かった昇進させて副官を続けさせるから!!」


千歳の放つオーラや瞳孔の開ききった暗い瞳に恐怖を覚え、カズヤが耐えきれずそう言うと千歳の雰囲気が一変した。


「それならいいんです。ご主人様」


千歳が顔に浮かべた笑みはいつもどうりだったが目だけは暗い瞳のままだった。


――という出来事があり千歳は中佐に昇進したのである。



「それじゃあ基地のことを頼んだぞ、ミラー中佐」


「ハッ、お任せ下さい」


カズヤと千歳がいない間、前哨基地の司令官代理をやることになったミラー中佐に後を任せ、カズヤ達は秘密の地下通路を使い前哨基地から出発する。


「出発」


「全車両、前へ!!」


号令と共に車両のエンジンが唸り、兵士や補給物資を満載した軍用トラックなど8両を中心に武装ジープ(M20 75mm無反動砲かM2重機関銃を搭載)3両、M8装甲車3両、サイドカー付きのバイク4両、計18両の車列が進む。


進み出した車列の車両に乗っているのは、千歳が選抜し編成した親衛隊一個小隊60人である。


「いよいよだな」


「はい」


地下通路の行き止まり、最終地点に到着するとそこは車両を地上に出すためのエレベーターが拵えられている。


そのエレベーターによってカズヤ達が地上に出るとそこはカナリア王国が整備した街道の側にある林の中だった。


「こちら指揮車。全兵員に告ぐ。わざわざ言わなくても分かっていると思うが我々はこの世界の知識をある程度しか持っていない。文化の違いなどでくれぐれも現地住民と争いを起こさぬよう留意するように」


『『『『了解』』』』


「では、出発!!」


カズヤの声と共に車列が最寄りの都市を目指し進み始める。


「ご主人様、今さらですが車両を使用してよろしかったのですか?この世界の移動手段の主流は馬車などですから我々は目立ちますが……」


「まぁ、しょうがない。連れてきた親衛隊60人分の武器、弾薬、食料、医療品、その他諸々のことを考えると馬車を使うよりは車を使ったほうが効率的だろ。それに能力の制限がなければ馬車でもよかったが、山賊や魔物と戦闘になった時に追加の兵器や物資が召喚出来ないんだ。なら最初からある程度は携帯しておかないといざという時まずいだろ」


「それは、そうですが……」


「もしも何か聞かれたらマジックアイテムだとか答えておけばいい。それにこれから先、現代兵器を使っていくことになるんだ。どのみち目立つ」


要らぬ注目を浴びることに懸念を示す千歳とカズヤがそんな話をしながらしばらく走行していると無線機から声が聞こえ、すかさず千歳が無線機を取る。


「……あぁ、分かった。――ご主人様。直掩機である地上支援機仕様のB-29からの報告です。我々の進行方向に3キロ程進んだ街道で数台の馬車がバグの群れに襲われているそうです。どういたしますか?」


無線機を片手に地図に問題の地点を書き込みつつ千歳がカズヤに問い掛ける。


「……うん……見捨てるのも気分悪いしな助けよう。千歳、無線機を貸してくれ」


「どうぞ」


「全車両に通達。聞いていたと思うがこの先で馬車がバグの群れに襲われているらしい。レベル上げついでに助けるぞ総員戦闘準備」


『『『『了解!!』』』』


千歳に無線機を返すとカズヤも戦闘準備に入る。


そして魔物に襲われている一団を救うべく、カズヤ達は急いだ。


「あれかっ!!」


車両の移動速度を上げ、カズヤ達が報告のあった地点に急行すると、そこでは白銀の鎧を纏い剣や槍で武装した騎士達が荷馬車を盾にして得物を振るい1台の豪華な馬車を守るため迫り来る魔物と戦っていた。


そして騎士達によって足止めされている魔物に対し、ローブを着た魔法使い達が呪文を唱え持っている杖の先から様々な魔法を繰り出し魔物を仕留めていく。


しかし、魔物は街道横の林から次々と出現し馬車を守りながら戦っている騎士達は徐々に追い詰められていた。


あれは早く助けないと不味いな。


目標を目視確認したカズヤは早速、馬車を守る騎士達の援護射撃を始める。


「目標、右前方のバグの集団!!弾種、キャニスター弾!!撃ち方始め!!」


カズヤは先頭に出した2両のM8装甲車に無線で命令を伝えた。


『了解!!』


『イエッサー!!』


命令が下されると同時にM8装甲車に搭載されている37mm M6戦車砲の砲身がゆっくりと旋回し右を向く。


そして命令通り装填されたキャニスター弾を魔物に向け発砲。


撃ち出されたキャニスター弾は林の中にいる、通称バグ――短い毛がビッシリと生えた長い脚、(サソリ)に似た体に蟷螂(カマキリ)のような鎌を持った体長2〜3メートル程の大きさの昆虫型の魔物――の外骨格をあっさりと貫くと、血や内臓を辺りにぶちまけた。


「「「「っ!?」」」」


「――動きを止めるな!!この隙を逃さず、畳み掛けるぞ!!」


「りょ、了解っ!!」


「了解!!」


轟音と共に林の奥から次々と沸きだすバグが一瞬にして血飛沫を吹き出し絶命する光景を見て驚き動きを止めた騎士達だったが、指揮官の一喝ですぐに我に帰りバグと戦い始める。


「誤射はするなよ!!」


「「「「了解!!」」」」


カズヤは前方で戦っている騎士達を砲撃に巻き込まぬよう配慮して林から沸きだしてくるバグには37mm M6戦車砲やM20 75mm無反動砲を使い騎士の周りにいるバグには軍用トラックから降車してM8装甲車の周囲に展開している兵士の狙撃で対処した。


「敵、接近!!」


「撃ち殺せ」


カズヤ達の攻撃に気付き仲間の仇をとるべく奇声をあげてこちらに向かってくるバグもいたが、すぐにM2重機関銃や歩兵の携帯火器の濃密な弾幕を浴び、体の至るところから血を垂れ流し動きを止めた。


「撃ち方やめ!!撃ち方やめ!!」


行進射撃を続けながらM8装甲車が3射目を撃ち終わる頃には周辺のバグ達は一掃され、辺りにはバグの死骸から大量に流れ出るムワッとした血の臭いとかすかな硝煙の臭いが漂っていた。


そういえば、よくよく考えてみるとこの世界の住人と初めて遭遇するな。


戦闘が終わったカズヤは呑気な事を考えながらこの世界の住人との接触に期待を膨らませつつ、こちらを伺う騎士達を刺激しないようにジープを前進させた。


ん?2人出てきたな。


ジープをそのまま前進させ馬車に近付こうとすると騎士が2人、前に進み出て来た。


「ここまででいい」


「ハッ」


「千歳、行くぞ」


「はい、お供します」


出てきた2人の騎士の少し前でジープを停止させると、カズヤはジープから降りて千歳を伴って騎士に近づく。


その後ろでは万が一に備え、何かあればすぐに騎士を射殺出来るよう狙撃手が待機していた。


……女騎士か?


カズヤが2人の騎士に近付いた事で分かったが、2人の騎士は驚くことに女性だった。


「助太刀感謝する。私はカナリア王国所属、第二近衛騎士団団長のフィリス・ガーデニング。こっちは副官のベレッタ・ザラ。是非とも貴殿の名前をお教え願いたい」


キリッとした顔立ちで、どこか武士のような雰囲気を纏い腰の辺りまで伸ばされた金糸のような金髪が目を引く近衛騎士団長フィリス・ガーデニングがまず最初に口を開く。


また頭から生えた獣耳とお尻のあたりから生えて揺れているモサモサの尻尾が特徴的な副官のベレッタ・ザラは沈黙を保ちながらも興味津々でカズヤと千歳の事を見つめている。


タイプの違う美女2人の視線を浴びて若干の気後れを感じたものの、カズヤはすぐに返事を返した。


「俺は長門和也。パラベラムという冒険者パーティーのリーダー――隊長をやっている。こっちが副官の片山千歳だ」


カズヤは初めて見る獣人に少し興奮しながら自己紹介を終える。


しかしカズヤの自己紹介を聞いた美女2人は顔を見合せていた。


「……パラべラム?聞いたことがないな。ベレッタお前はどうだ?」


「いえ、私の記憶にもありません」


「……そうか、あれだけのバグの群れをあっという間に殲滅できる冒険者のパーティーなら名が売れているはずなんだが。それよりあれはなんなんだ?貴殿らが乗っていた動く鉄の箱や連続で撃てる銃。風の噂では海の向こうのレガリス帝国にその様な物があると聞いたことがあるが……。貴殿達はレガリス帝国の者なのか?」


そう言いながらフィリスは興味深そうな顔でM8装甲車やジープを眺めている。


「いや、俺達はレガリス帝国とはなんの関係もないぞ」


カズヤがレガリス帝国との関係性を否定していると、馬車の方から騎士が走ってきてフィリスに耳打ちをした。


「団長、実は――」


「なに?分かった。頼んでみよう」


走ってきた騎士と少し言葉を交わした後、フィリスはこちらに向き直り申し訳なさそうな顔で喋り始める。


「――カズヤ殿、助けてもらっておいてこのようなことを頼むのは心苦しいのだが、負傷者の手当てに手を貸してはもらえないだろうか?先程の戦闘で少なくない死傷者が出ていて人手が足りていないのだ」


「あぁ、それぐらいならお安いご用だ」


「本当か?恩に着る」


カズヤの返事を聞いてホッとした表情を浮かべたフィリスはベレッタと一緒に深々と頭を下げた。


その後、カズヤ達がフィリスの部下の手当てなどを手伝ったが、その際カズヤの完全治癒能力の一端や衛生兵の持っていた医薬品、医療技術を見て目を丸くして驚いていた。


なぜならこの世界での病気や怪我は回復魔法で治すのが当たり前でカズヤ達が使っている医療技術などが、ほとんど発達していないためである。


「素晴らしい……しかし、これほどの医療の技術は見たことがない。痛みを感じさせなくする魔法薬や皮膚を針と糸で縫い合わすなど聞いたことがないぞ?それにカズヤ殿が使った回復魔法は怪我が癒える速さが王宮の専属魔法使いよりも早いのではないか?……貴殿達は一体何者なんだ」


「ただの冒険者だ。それ以上でも以下でもない。」


「……そうか」


カズヤが身元を明かす気がないのが分かったのかフィリスはそれ以上質問を重ねることはしなかった。


そうして負傷者の手当てを終え死者の埋葬も完了したカズヤはフィリス達に別れを告げることにした。


「よし、これで全員の手当ては終わったな。そろそろ行くか」


カズヤが部下に声をかけて出発の準備をさせているとフィリスが声をかけてきた。


「ちょっと待ってくれないかカズヤ殿」


「ん、なんだ?」


「カズヤ殿の冒険者パーティー、パラべラムに依頼があるのだが……」


「えっと……どんな内容だ?」


「王都までの護衛を頼みたい。ご覧の有り様で我々だけでは無事に王都までたどり着けそうにない」


フィリスが視線を向けた先には近衛騎士団が乗っていた馬の死骸と破壊され粉々になった荷馬車、苦しげなうめき声をあげる多数の負傷者などが横たわっている。


その光景を見てカズヤも彼女達が独力では王都まで無事に辿り着けないだろうと理解した。


どうするか……。


黙って考え込むカズヤに慌てたようにフィリスが言った。


「もちろん、王都まで無事に送り届けてくれれば先程助けてくれた分とは別に出来る限りの報酬を出す」


「……部下と少し相談したい。少し待っていてくれ」


「あぁ、分かった」


その後、カズヤは千歳達と相談してここは恩を売っておいたほうがいいだろうということになりフィリスの依頼を受けて彼女達を王都まで護衛をすることになった。

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