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まるでイナゴの大群のように空を覆い尽くす魔物の群れと、その親玉であるジズがパラベラム本土に接近していた。


「目標群、第1艦隊直上を通過。なおも本土に接近中!!」


第1艦隊を完全に無視した魔物達とジズは熾烈な対空砲火を浴び続けながらも前へ前へと進み続ける。


「目標群、パラベラムの領空に侵入しました!!」


作戦指令室に入ってくる報告は刻一刻と悪いように悪いようにと傾き始めていた。


「千代田……どうだ?」


「ッ……申し訳ありません。マスター、敵の本土上陸は避けられないかと」


パラベラムの全防衛システムを完全に支配しているため本土やそれ以外の島々、海上要塞等に設置されている固定砲台やミサイルランチャー、加えて高射砲塔に針鼠のように設置されている対空火器(全自動の物に限る)をたった一人で全て遠隔操作している千代田は今現在の対空砲火による撃墜率と侵攻速度を計算し敵の本土上陸が避けられない事を申し訳無さそうにカズヤに伝えた。


「そうか……」


「……ッ」


苦々しい表情でそう言葉を漏らしたカズヤを見て千代田はグッと歯を食いしばる。


おのれ……おのれ……おのれっ!!たかが虫の分際で私に恥をかかせ、しかも……マスターの神聖な国を侵したな……?


覚悟しろクソムシどもめ、1匹足りとも逃がさん。


ゴミクズのようにくびり殺し地獄に送ってやる!!


カズヤに良いところを見せる事も出来ず、また防衛システムを自ら掌握し外敵の侵入は全て阻むと大見得を切っていたにも関わらず敵の本土上陸を防ぐ事も出来なかった千代田の腹の底はマグマのように煮えくり返っていた。


「千歳、地上部隊の全指揮を任せる」


「ハッ、了解しました」


カズヤからパラベラムにいる地上部隊の指揮権を委譲された千歳は作戦指令室の中央にある指揮所に降り、部隊の指揮を直接取り始める。


「レイナ、ライナ」


「「お側に」」


「万が一の事が無いとも限らん。だから2人は明日香の側に居てやってくれ」


千歳が地上部隊の指揮を取っているのを眺めながら、カズヤは後ろに控えていたメイド――レイナとライナに自分の娘である明日香の側に付いているように命じた。


「かしこまりました」


「承知致しました」


カズヤの命を受けた2人は一礼するとメイド服のスカートを揺らしながら作戦指令室を飛び出し、部屋の外で待っていた妖魔の部下達を連れ司令本部の地下シェルターにいるはずの明日香の元へと向かう。


「さてと……」


ちょっくら行って来るか。


レイナとライナが作戦指令室を出ていったのを確かめるとカズヤは静かに立ち上がる。


「カズヤ様?どちらに行かれるのですか?」


「マスター、何処へ行くつもりですか?」


「閣下?」


それを見てセリシアや千代田、伊吹が怪訝な顔でカズヤに声を掛けた。


「いや、ちょっとトイレにな」


「……マスターの悪い癖が……」


「フフッ、“トイレ”ですか、なら私も途中までご一緒させて頂きます」


「……閣下、後で副総統に何を言われても知りませんよ」


……バレてる。


トイレだと言って席を立ったカズヤだったが、その場にいる者全員に何をしに行くのかをあっさりと見抜かれていた。


「ま、すぐに片を付けて戻る」


「分かりました。ですが、何とぞお早くお戻り下さい」


「護衛やその他の手配はこちらでやっておきます。――ご武運を」


「……すまん、苦労を掛ける」


言っても言うことを聞かないであろうカズヤを引き留めることはせず、むしろ知らない所で勝手に動かれるよりはマシ。と判断した千代田と伊吹はカズヤのサポートに徹していた。


「では、カズヤ様」


「あぁ、行くか」


そうして理解ある部下達に見送られたカズヤはセリシアを連れ、千歳に気付かれないように作戦指令室を後にした。


「第17海堡との通信途絶!!」


「海防艦第180号、轟沈!!」


「美作島の守備隊より増援要請!!」


「その隣にある備前島からも増援要請が来ました!!」


パラベラムの領内に侵入した途端、魔物の群れは先程までの大人しさをかなぐり捨て目につくモノ全てを破壊せんと暴虐の限りを尽くす。


それに対し各島の守備隊やパラベラムの内海に展開している海防艦(フリゲート艦)、ミサイル艇等の小型の艦艇が全身全霊をかけて魔物に対抗するものの圧倒的な物量に押され、劣勢を強いられる。


「……ムシケラどもが、調子に乗るなよ」


地を這うようなおどろおどろしい声でそう吐き捨てた千歳は、カズヤの作った国が破壊される様を目にし堪忍袋の尾が引き千切れ、完全にぶちギレていた。


と、そこへ千歳の怒りにニトロを注ぎ込むような報告が舞い込む。


「――……な、なんだと!?嘘だろ!!間違いじゃないのか!?……あぁ。あぁ、分かった。大変です、副総統閣下!!全面的かつ大規模な改装を行いようやくまともに動けるようになった世宗大王級駆逐艦3隻『世宗大王』『栗谷李珥』『西・柳成龍』の乗組員がほぼ全員、戦闘を放棄し逃亡した事が判明しました!!」


「見つけ次第殺せ」


「……は?」


「何度も同じ事を言わせるな、敵前逃亡の脱走兵は見つけ次第殺せ」


「は……ハッ、了解しました!!」


ぶちギレ状態の千歳は何気ない事のように粛清指示を出すと戦闘を続けている地上部隊の指揮に戻った。


「目標群、本土上空に侵入!!」


「高射砲塔及び要塞群に設置した近距離迎撃システムの起動を確認!!」


「第16、第112歩兵連隊及び第2、第5戦車大隊、加えて第1、第2、第3高射中隊が交戦開始!!」


パラベラム本土の東側にある軍港や要塞に展開した二個歩兵連隊や二個戦車大隊、三個高射中隊が敵の接近に際し遂に戦闘を開始。


ここに至りパラベラム本土にまで戦火が及ぶという最悪の事態に発展した。


「クッ……こうなれば総力戦だ。使えるモノは何でも使え、敵を……虫共を殺せれば何でも構わんッ!!これ以上ご主人様の国を汚させるな!!」


「「「「了解!!」」」」


本土での戦闘が始まると、まず最初に高射砲塔や要塞に設置されているM51 75mm高射砲や35mm2連装高射機関砲 L-90、VADS-1改、オート・メラーラ76mm、127mm単装砲、ファランクス、ゴールキーパー、RAM、アイアンドーム等が魔物に対し攻撃を加える。


次に三個高射中隊の中軸を担う自走式対空ミサイルのアベンジャーシステム、93式近距離地対空誘導弾、9K35等の短距離地対空ミサイルが発射され、更にロシアの2K22ツングースカ、日本の87式自走高射機関砲、ドイツのヴィルベルヴィントといった自走式対空砲が砲声を轟かせ火線を撃ち上げる。


またM1エイブラムスやT-90で編成された二個戦車大隊の主砲による稚拙な対空砲火や歩兵が持つFIM-92スティンガー、スターバースト、91式携帯地対空誘導弾、9K38イグラ等の携帯式防空ミサイルシステムまでもが対空戦闘に駆り出され、それでも足りない分は歩兵が重火器で魔物を迎撃した。


「目標群の損耗率89パーセントを超過!!あと少しです!!」


「クソッ不味いッ!!目標群の一部が対空砲火の隙を突いて市街地の第9区に侵攻!!」


「続いて第8、第12区にも敵が侵入!!」


「第1高射中隊と通信途絶!!全滅した模様!!」


「第42高射砲塔に敵が取り付きました!!このままでは砲塔内に避難した非戦闘員の身が危険です!!」


ありとあらゆる兵器を動員した苛烈な対空砲火によって、ようやく魔物の数が減り希望の光が見えて来たかと思えば一転。


次々と悪夢のような報告が作戦指令室に舞い込んだ。


「……」


だが、千歳はその報告を聞いて狼狽える所か口元に薄い笑みを浮かべる。


「……虫ごときが我々を舐めすぎだ」


第42高射砲塔の頑丈な扉を破壊し分厚いコンクリートの壁を鎌のような鋏角で砕きながら非戦闘員が避難している砲塔内部へ侵入していく魔物の姿が映るディスプレイをチラリと目にした千歳は獰猛に笑ながら反撃の合図を口にした。


「この程度の数なら押し切れる。――全軍ムシケラ共を駆逐せよ!!」


「「「「了解!!」」」」


魔物の数が減り防戦一方の状況から反撃に転じる余裕が出来たパラベラム軍は全域で攻勢を開始。


だが驚くべき事に、一番最初に反撃に転じたのはパラベラム軍の正規兵等では無くパラベラム本土に住む非戦闘員達であった。



ジズの腹の中で眠っていた魔物達は目が醒めた今、腹を空かせ獲物を求めて第42高射砲塔の内部を手当たり次第に破壊していた。


何故なら幾多の世代交代の中で本能に刷り込まれた事実、強固に守られた巣(建物)を破壊すれば中には戦う力を持たない脆弱な獲物がひしめき合っているという事を知っているからである。


だが、魔物達には不幸な事にパラベラムにいる人間は魔物達の本能に刷り込まれているような力を持たない脆弱な獲物等では無かった。


非戦闘員が逃げ込んでいるシェルターを守る最後の壁をドカドカと破壊し穴が貫通すると獲物にありつけると思ったのか魔物が嬉しそうに大顎をカチカチと打ち鳴らしながら顔を突っ込む。


「「「「……」」」」


しかし、顔を突っ込んだ魔物が見たのは恐怖に震え身を縮こませる脆弱な獲物の姿ではなく武器を構え殺る気マンマンの老若男女の姿だった。


そして次の瞬間、シェルターの中に顔を突っ込んだ魔物は弾丸の嵐に晒され身体中に穴が開き絶命した。


「フン、国民全員が兵士の我々にムシケラごときが勝てる道理はない」


強力な小火器を携え暴徒のように荒れ狂いながらも軍隊のように規律を保ちつつ、第42高射砲塔から打って出て魔物を駆逐していく非戦闘員達の姿を千歳は誇らしげに眺めていた。


そんな最中、彼ら彼女らに触発されたかのように他の怒れる非戦闘員やパラベラム軍の正規兵達が各地で全面的な反撃に転じ凄まじい勢いで魔物が駆逐されていく。


子供達が握るP-90やMP-7といったサブマシンガンが魔物を足止めし男女、老人が構えるアサルトライフルや旧式の小銃の弾丸が魔物の固い外骨格に穴を穿ち内蔵を抉り止めを刺す。


端から見れば異常な光景がパラベラムの一部ではよく見られることとなった。




 

 

 










 

 

 



――――――――――――




パラベラムの国民による驚異の反撃を前に数の強みが無くなった魔物の群れはなすすべなく駆逐され大勢は決した。


「……後は」


あのデカブツのみ。


パラベラム全体に少なくない被害を出してしまったものの、残りの敵がジズだけになった事で千歳はほんの少しだけ安心していた。


「航空部隊と第1艦隊はうまくやっているか?」


目標を撃滅した各種対空砲が役目を終え対空砲火が弱まっている今、ジズの相手をしているのは一時的に戦域を離脱していた航空戦力と反転しパラベラムの内海に舞い戻って来た第1艦隊である。


その航空戦力と第1艦隊の動向が気になった千歳は近くにいたオペレーターに問い掛けた。


「ハッ、全航空部隊がジズに対し波状攻撃を仕掛けているものの効果は薄く、また第1艦隊も対艦ミサイルや巡航ミサイル、主砲等で攻撃を続けていますがジズに対し有効弾を与える事が出来ていない模様」


「それで……今現在ジズはどうしている?」


「戦闘機部隊がジズの気を引いているため本土から20キロの空域で足止めに成功しています」


「そうか……ご主人様、どういたし――ッ!?」


ジズの対処をどうするか、カズヤの判断を仰ごうと振り返った千歳は絶句した。何故ならカズヤがいるべきはずの総統専用の椅子が空になっていたからだ。


「ま……さか……ご主人……様」


カズヤの姿が見えず、また気まずそうに伊吹や千代田がサッと顔を背けたのを見て千歳の脳裏に嫌な予感が走る。


「ん?――……ッ!?ゼ、0番ハンガーの扉が開いていきます!!」


そして千歳の嫌な予感はしっかりと当たってしまう。


「そ、総統専用機のF-23が出現!?出撃態勢に入りました!!」


コックピットの中に誰が乗っているか分かっているだけに、地下から昇降機で地上に上がってきたF-23が0番ハンガーを後にし滑走路に進み出すと作戦指令室の中は騒然となった。


「あのF-23と通信を繋げっ!!早くっ!!」


「りょ、了解!!」


千歳の指示でオペレーターがコンソールを大急ぎで叩くと作戦指令室のディスプレイにJHMCS(統合ヘルメット装着式目標指定システム)を被りパイロットスーツを纏ったカズヤの姿が映る。


『………………あっ!!……バレた?』


「バレた?ではありませんご主人様!!何をしようとなさっているのですか!!」


通信が繋がるなり千歳の雷が落ちた。


『いや、戦力も足りてないしコイツの実戦データを取るのにもちょうどいいと思って。それにあの化物を落とすには“コイツ”が要るだろ』


“コイツ”をことさら強調して言ったカズヤはF-23の翼下ハードポイントに搭載されたモノを指差す。


「それは他の者にやらせます!!いいから機体から降りてここにすぐ戻って来て下さい!!」


『………………あれ、通信障害かな?声が聞こえ……あれ〜〜?』


そんな惚けたような言葉を最後にプツンと通信は切られてしまった。


「……ご〜しゅ〜じ〜ん〜さ〜まァァ!!」


通信回線が切られ真っ暗になったディスプレイを睨む千歳の声が作戦指令室に虚しく響いた。


「ぐうぅっ……貴様ら何故ご主人様を止めなかった!!」


カズヤとの通信が切れた直後、千歳は八つ当たり気味に伊吹と千代田に詰め寄った。


「副総統閣下。とにかく落ち着いて下さい」


「落ち着けだと?これが落ち着いていられるか!!ご主人様が単身で戦場に向かわれたのだぞ!?」


「その点に関しては大丈夫かと。親衛隊所属のF-22とF-35、T-50を10機ずつ護衛に付かせましたので。それにいざとなればこちらの指示で強制的に基地へ帰還するプログラムをF-23のシステムに仕込んであります」


「加えて私の分身が乗り込んでいる可変戦闘機もマスターの護衛に付いています」


「なに?まさか……貴様ら……」


「えぇ、副総統閣下が考えた通り総統閣下に知らない所で勝手に動かれるよりはこちらの目の届く場所で、また制御の効く範囲で動かれた方がマシと判断しました」


「……」


伊吹の判断に一応の理解を示した千歳は黙り込んだ。


しかし次の瞬間、千歳が取った行動に伊吹や千代田は度肝を抜かれる事となる。


「……お前達の言い分は理解した。だがあのデカブツがどんな力を隠し持っているか分からない以上早急に片をつける必要がある」


そう言いつつ電話に手を伸ばした千歳はある場所に連絡を取る。


――プルル。


――ガチャ。


『こちら第1ドック!!誰だこのクソ忙しい時に!!こっちはな魔物共にやられた被害確認に忙しいんだよ!!』


「千歳だ」


『……………………ッ!?ふ、ふ、ふく、副……総統閣下でありますか?』


千歳の電話に出た第1ドックの工員はまさかパラベラムのナンバー2から直接電話が掛かって来るなどと思っておらず、乱暴な言葉を使いで電話に出てしまったことを心の底から後悔し冷や汗をダラダラと流すハメになった。


「あぁ、そうだ。緊急事態につき単刀直入に聞く。第111号艦か第797号艦もしくは第798号艦、第799号艦で動かせる艦はどれだ?あぁ、アイオワ級、モンタナ級、サウスダコタ級、N3級、G3級、ライオン級、H級――えぇい、とにかくご主人様が召喚された架空戦艦の中で空中戦艦に改装し終え主砲を撃てる艦はあるか!?」


『は、はい!!第111号艦でしたら改装工事がまだ完了していないものの魔導炉の試験搭載が終わり、また第1、第2砲塔のみならば使えます!!なお他の艦まだ改装前のため動く事すら出来ません!!」


「よろしい、ならば直ちに第111号艦を動かせ」


『は、は……はい?い、今すぐにでありますか?』


「“直ちに”と私はそう言ったはずだ」


『し、しかし魔導炉の試運転もまだ行っておりませんし、動かすのに必要な人員もおりません』


「人員はなんとかしてかき集めろ。いいか?30分以内に何としても第111号艦をこちらが指示する位置に付かせるんだ」


『……』


千歳の無茶苦茶な命令に電話に出た工員は絶句し言葉を紡ぐことが出来ない。


「“イエッサー”か“了解”どちらか好きな方を選べ」


『りょ……了解しました。直ちに……と、取り掛かります!!』


しかし千歳の有無を言わせない気迫の籠った声と選択肢の無い選択を迫られ工員はやけくそ気味に了解と答える他なかった。


「これでよし。あとは……」


帰って来られたご主人様にどんなお仕置きをしようか。


「「「「ヒッ!!」」」」


無理難題を工員に押し付けた千歳は作戦指令室にいる者全てを震え上がらせるワライを静かに浮かべたのだった。



「F-23、1号機スパイダー。出る!!」


作戦指令室でのゴタゴタや帰還した後に自身の身に何が待ち受けているのかを知らないカズヤは意気込んでそう言い放つと滑走路の上を走り抜け大空に舞い上がった。


ん?あれは……セリシアか。


離陸しターゲットであるジズに向かう途中、魔法と召喚した魔物でジズの腹から出てきた魔物を手当たり次第に殺していたセリシアがこちらに向かって大きく手を振っていることに偶然気が付いたカズヤはF-23の菱形の主翼に尾翼が2枚だけという独特の機体を左右に傾けバンクで答えた。


『マスター、速度を落として下さい。護衛機が追い付けません』


カズヤがセリシアに答えた後、アフターバーナーを点火し高推力で飛行しているF-23に緊急通信を繋ぎ速度を落とすように進言したのはF-23の2号機と飛行型魔導兵器を融合し誕生した試作可変戦闘機YF-24アードバークに乗る千代田の分身(予備の生体端末)だった。


「千代田!?なんでここ――……あぁ分身の方か。しかし、よくその機体を乗りこなしているな、結構なじゃじゃ馬だったはずだが……」


『人工AIである私ならば何とか乗りこなせます。最もマスターのようにはいきませんが』


兵器を使いこなせる能力を持つカズヤですらてこずったYF-24を操縦している千代田にカズヤが感心したような声を漏らすと千代田はどこか誇らしげな声で答えた。


「さて……護衛機も追い付いた事だし、あの化物をさっさと片付けて戻ろう」


『ハッ、それが賢明かと。……姉様がお怒りでしたので』


「……言うな」


帰るのが怖くなってきたじゃないか……。


怒れる千歳が待ち構えている事を思いだし、今更ながらに帰還した後の事が怖くなったカズヤだった。



「……全員準備はいいか?」


『もちろんです。マスター』


『こちらもオーケーです』


『いつでもいけます』


『準備万端であります』


「よし、じゃあ行くぞ!!」


帰還後に待ち受けているであろう悪夢を振り払うように気合いを入れて麾下のパイロット達に号令を掛けたカズヤは切っていたアフターバーナーを再度点火。


編隊を組んだまま一気に高高度に上がっていく。


「高度4千…………6千…………8千…………1万ッ!!」


大型カラー液晶MFDに表示されている高度計の針がグルグルと凄まじい勢いで回転しているのを確認しつつ目標の高度に到達するとカズヤは機体を水平に戻し、そして高度1万メートルの高空で編隊を整える。


「ターゲット確認。全機、俺に続け!!一撃で仕留めて帰るぞ!!」


『イエス、マイマスター』


『『『『了解!!』』』』


目標の現在位置と全員の攻撃準備が整っていることを確認したカズヤは突撃命令を下す。


「全機降下開始!!」


先程の急上昇とは真逆の急降下を行う31機の戦闘機と、そこから少し離れて後に続く試作可変戦闘機。


重力に引っ張られているうえに、アフターバーナーを点火しているため一瞬で音速を越え瞬く間に地上に向かって降下していく。


「全機、タイミングを合わせろ!!」


『『『『了解!!』』』』


降下角を50度に設定しマッハ2.5という超高速で攻撃態勢に入ったカズヤ達の視線の先には囮の戦闘機を追い掛け回すジズの姿があった。


「よーそろうっ!!」


囮の戦闘機を追うことに夢中になっているジズの巨体を31機の戦闘機が狙う。


「………………――てッ!!」


射線軸がジズと重なり、そして機体がジズの身体に衝突する寸前、カズヤ達は一斉に投弾。


ジズの身体スレスレを通り抜け、そのまま下方に離脱する。


一方、カズヤの護衛機群から投弾された100発近い5000ポンド級のレーザー誘導地中貫通爆弾、GBU-28バンカーバスターやF-23のステルス性能を損なう事を前提に翼の下のハードポイントに吊下されていた6発のデュランダル――滑走路破壊用特殊爆弾が勢いそのままにジズの身体の中央に命中し突き刺さる。


硬い外骨格を貫きジズの体内に潜り込むバンカーバスターや突き刺さった直後に固体ロケットモーターが点火し更に奥深くへと潜り込んだデュランダルが一斉に炸裂。


ジズの身体が爆発の衝撃で一気にボコボコボコッと膨れ上がり、遂には爆発の衝撃に耐えきれなかった外骨格が血や肉と共にグチャグチャに弾け飛ぶ。


――ギュアアアアァァァァーーー!!


身体を真っ二つにへし折られ、真紫の血を吹き出しつつ断末魔のような叫び声を上げるジズ。


だが、ジズに対する攻撃はまだ終わっていなかった。


「オオオオォォォォーーーッ!!ラアアアアァァァァーーーッ!!」


カズヤ達から少し離れて後に続いていた千代田が降下中に、元になったF-23の機体よりも一回り大きいYF-24の機体を変形させ、人型形態になった状態でジズの身体の切断面に攻撃を加える。


鯖折り状態になっていた身体が展開され露になると翼の下のハードポイントに取り付けられていた2門の88mm重機関砲を両手に握り引き金を引き、そして至るところに増設されているロケットポッドからM261ハイドラ70ロケット弾を撃ち出しジズの内臓を抉り吹き飛ばしていく。


「コイツはオマケだ!!」


一瞬で88mm徹甲榴弾やロケット弾を全て撃ち尽くした千代田はとっておきであるサーモバリック弾頭装備のパンツァーファウストを発射。


命中した弾頭が炸裂しジズの体内を荒れ狂う火炎が焼いていくのを確認すると千代田は機体を戦闘機形態に戻し、その場から離脱した。


「これで一段落か?」


身体を真っ二つにされた上、千代田によって内臓を凪ぎ払われたジズがゆっくりと高度を落とし落下していくのを眺めつつカズヤが言葉を漏らす。


しかし、そう簡単に事は収まらなかった。


「ッ!?マジかよっ!!」


光の失われたジズの単眼と複眼に再度光が、黒々しい不気味な光が灯ったかと思うと、カズヤの操るF-23に向けて猛然と突進を仕掛けて来たのだ。


しかも、体を半分以上失い軽くなったせいか飛行速度、旋回速度を大幅に向上させて。


「こなくそっ!!」


何で生きてるんだよ!!ゴキブリかコイツは!!


しかも速い!!


『マスター!!』


『『閣下!!』』


予想外の出来事にカズヤは咄嗟にフットペダルを踏み込み、操縦桿を倒し左に急旋回しジズの体当たりを回避した。


だが、体当たりを回避したはいいものの咄嗟の回避行動の隙を突かれてジズにガッチリと背後を取られ追い掛けられるハメになった。


『マスター、援護します!!離脱してください!!』


「頼む!!って後ろにつかれた!?――このまま振り切る!!」


千代田のYF-24や護衛機の戦闘機群がジズに対して短距離ミサイルのAIM-9M/XやR-73M1を撃ち込む中、残った4対の羽を羽ばたかせ大口を開き猛然と追撃してくるジズを振り切ろうとカズヤがスロットルレバーを握った時だった。


『ご主人様!!』


緊急の通信回線が開かれ千歳の声がJHMCSのスピーカーから溢れカズヤの耳朶を叩く。


「千歳!?悪いが今は話してる暇が――」


『そのまま、そのまま右前方4000メートルにある積雲の側を通って下さい!!高度は450メートルでお願いします!!』


「ッ!?了解!!」


千歳の指示に一瞬だけ面を食らうもののカズヤは素直に指示に従い高度を450に落としジズを引き連れたまま指定の積雲に向かう。


「高度と方向はこれでいいのか!?」


『はい、バッチリです。ご主人様』


「一体何をする気だ、千歳?――おぉっと危ないっ!!」


『そのデカブツを完璧に潰します』


噛み付き攻撃を仕掛けてきたジズをヒラリとかわしながらカズヤが問うと千歳は真面目な顔でそう言ってのけた。


「完全に?一体どうやって、さっき俺達がやったような手はもう使えないぞ?」


『手はあります』


「このクソッタレな速さで飛ぶジズにどうやって――ッ!?マジかよ……」


『タイミングさえ合えば……可能です』


千歳に指定された積雲の脇をすり抜けた刹那、積雲の影に潜んでいた物体を目視し、カズヤは絶句した。


そしてカズヤの後を追って積雲の脇をすり抜けようとしたジズの複眼が空に浮かぶ“戦艦”の姿を捉えた瞬間、6発の46cm九一式徹甲弾が轟音と共に発射された。


避ける間もない、外すべくもないほんの数十メートル先からの――超至近距離からの砲撃にジズは何の反応も取れぬまま九一式徹甲弾をその身に浴びる。


タイミングを計り放たれた九一式徹甲弾はジズの頭部――特に硬かった頭部の外骨格を紙細工のように容易く貫き、詰まっていた脳ミソをグチャグチャに掻き回した後、時限信管が作動。


大量に詰め込まれていた炸薬が大爆発を巻き起こしジズの頭部を完膚なきまでに吹き飛ばす。


「第111号艦か……こんなモノをよく持ち出せたな」


ジズの肉片と真紫の血を大量に浴びて悲惨なことになっている空中戦艦――史実では大和型戦艦の4番艦として起工されるものの、戦局の悪化に伴い解体処分という悲運の道を辿ってしまった船をカズヤは惚けたように眺めていた。


「さてと帰るか……うん?なんだ、この無線……全周波数に向けて発信されて……………………………………はぁ……千代田、行ってやってくれ」


『宜しいので?』


「見捨てられる訳がないだろ」


戦闘が終わり、一息ついているカズヤの元にとある無線が一方的に入る。


その無線の交信内容を聞きため息をついたカズヤは千代田をそこに派遣することに決めた。


『了解しました。マスター』


命令に従い飛び去っていく千代田のYF-24を見送ったカズヤはパラベラム本土の飛行場に機体の機首を向ける。


「…………このままどっかに行く(逃げる)……訳にもいかないか。まだやることがあるし」


無事に着陸しハンガーに戻ってきたF-23をニッコリと笑いながら仁王立ちで出迎える千歳の姿に思わず逃げ出したくなったカズヤであった。

次回、海軍の活躍回になる予定。

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