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「では……話してもらおうか?」


事情を説明してもらうために村長の家に集まった遥斗や涼宮少尉、そして2人の護衛である3人の兵士は椅子に腰掛け沈痛な表情を浮かべている村長の口から語られる話に耳を傾ける。


「……はい。分かりました」


遥斗の言葉に小さく頷いた村長だったが全てを正直に話すべきか否か苦悩していた。


……この人達は……帝国がこの地を手中に収めた時に送り込んできた人間とは違い村の食料を奪ったり若い娘に乱暴したりはしなかった。


いや、それどころか我々にあんなに美味しいご馳走を無償で振る舞ってくれた。


だから……ここは……この心優しい人達に賭けてみよう。


全てを正直に話そう。


……だが村の、我々の秘密を知ってなお、我々に対する態度が変わらないという確証はない。


心苦しいが……最悪の場合、この人達が我々の秘密を知ってから我々に害をなそうというのであれば……。


全員……殺そう。


――9年前のように。


一瞬で考えを纏めた村長は覚悟を決め口を開いた。


「――……こうなってしまった以上もう隠し通すことは不可能でしょう。ですからはっきりと言います。――……我々は……我々は遥か昔からこの地に住まう蛇人族の末裔なのですっ!!」


えーと、蛇人族……蛇人族……あぁ、確かラミアの近縁種で外見は人間と大差ないが蛇と同じように顎を任意で外し口を大きく広げる事が出来たり、伸縮性のある体を持つ種族……だったか?


「……っ!!」


意を決し、何1つ包み隠さず正直に真実を述べた村長は膝の上に置いた拳を力一杯、グッと握り締め目をギュッと瞑り遥斗達から返ってくる反応を恐怖心と不安感に苛まれながらも、ただひたすらに待っていた。


「そうか。で?」


「……え?」


「どうした、続きを早く」


「あ、あの……我々は蛇人族なのですが……」


「あぁ、それは聞いた」


「……我々を殺さないのですか?」


「何故、俺達がお前達を殺さねばならんのだ?」


「……」


「……」


あれ?また何か勘違いしてる?


お互いの話が噛み合わず互いに無言になった所で村長がまた何かを勘違いしていることに気が付いた遥斗はパラベラムが帝国のように意味もなく獣人族や妖魔族を殺したりしないことを説明した上で話を続けさせた。


「そう……だったのですか……良かった……本当に(貴方達を殺すようなことにならなくて)よかった……。しかし、我々はとんでもない勘違いをしておりました。実はここに時折やってくる商人に時勢の情報を頼っているのですが、その商人がパラベラムの軍は情け容赦がない奴らだ。と言っておりまして、それをてっきり我々のような獣人族や妖魔族に対してだと思い込んでおりました故。とんだ失礼を……」


「いや、気にしなくていい。誤解が解けて何よりだ。しかし蛇人族……獣人系のお前達が、よく帝国の支配していたこの地で暮らす事が出来ていたな」


「えぇ、カナリア王国のように獣人、妖魔に対し比較的寛容であったコルトレーン王国が帝国に滅ぼされてから今日まで約10年。いつ蛇人族ということがバレて殺されてしまうのかと生きた心地はしませんでした。ですがこんな辺鄙な村に来るのは徴税官ぐらいですので、その時だけ秘密を隠し通せば後は大丈夫でした。……ちなみにこれは余談ですが9年前、我々が蛇人族だと徴税官に見破られた事がありました。その時は私が徴税官を、村の男達が徴税官のお供を丸飲みにして秘密を守った事があります。いやぁーしかし、あの時はみんな腹が膨れて3ヵ月程身動きがとれなかったんですよ。ハハハッ」


怖っ!!


人間を丸飲みにして始末したという話を聞かされ遥斗やその部下達は笑って話をする村長や外にいる村人達に対し恐怖心を抱いた。


「そ、そうか。それは大変だったな……。ところで何故この地を離れなかった?帝国が攻め寄せて来る前にこの地を捨ててカナリア王国に行くことも出来ただろうに」


穏やかな外見からは人畜無害に見えるが、その実かなり凶悪で恐ろしい村長に遥斗が若干気後れしながら問う。


「……離れたくても離れられないのです」


先程の笑っていた顔から一転、喜怒哀楽がごちゃ混ぜになった複雑な表情を浮かべた村長がポツリと呟く。


「どういうことだ?」


「あの方がここから出ていかぬように我々一族が見張っていないと」


「あの方?見張る?何が何だか分からん、詳しく話せ」


「……はい。あの方というのは我々の一族が代々奉る神とでも言うべきヒュドラ様のことです」


「……ヒュドラ……だと?それはまさか9つの頭を持ち炎や毒を吐く不死の化物ヒュドラのことじゃないだろうな!?」


「ど、どうしてそれを!?我々以外はヒュドラ様の事を知らないはずなのに!?」


……マジかよ。


一族の者しか知らないはずのヒュドラの存在を遥斗が知っていたことに驚く村長を余所に遥斗は架空の化物だったはずの生物がこの世界では実在していたことに驚きを隠せなかった。


「ま、まぁ、我々にも色々とあるんだ気にするな」


「は、はぁ……」


これ以上無駄な詮索をするなと態度に出す遥斗に村長は渋々引き下がった。


「ゴホン……話を続けてくれ」


「はい。それで……ヒュドラ様なのですが20年ほど前から様子がおかしくなってしまい」


「おかしく?」


「えぇ、本来は知性溢れるお優しい方だったのですが……瘴気に当てられ自我を失ってしまい視界に入った者を見境無く襲うようになってしまったのです」


「つまり……凶暴化――魔に堕ち魔物化したのか」


「はい、その通りです。今は村から少し離れた場所にある洞窟の中になんとか封じ込めてあります。しかし何らかの問題が発生して万が一、あの方が世に解き放たれでもしたら恐ろしい程の災厄が振り撒かれてしまいます。ですからそれを防ぐためにも我々が見張っていないと……。そういう訳で我々はこの地を離れる事が出来なかったのです」


「そうか……そんな事情があったのか……」


しっかし、なんともまぁ……厄介な事案に引っ掛かったなこりゃ。


伝説の化物が居るとは……。


事の次第を本隊に報告して指示を仰ぐか。


村長の話を聞き終えた遥斗は、問題が予想以上のものだったことに頭を悩ませていた。


「さて、とりあえずこれで事情聴取は終わりだ。皆に命の心配をする必要はないと教えて安心させてやれ」


「はい」


そして事情を知った遥斗が本隊に連絡を取り指示を仰ごうとした時、最悪の事態を告げる知らせが舞い込む。


「そ、村長!!た、大変だー!!」


扉を壊すような勢いで血相を変えた男が遥斗の部下に付き添われやって来た。


「プルーフ?血相を変えてどうした、何があった?」


「そ、それが!!うちの倅の姿が見えなくてこの人らと一緒に探していたら“あの洞窟”に向かう足跡が!!多分だが、俺達が殺されると思って“あのお方”に助けを求めに……っ!!」


「っ!? 不味い!!すぐに追いかけろ!!万が一封印の術式をいじられたらヒュドラ様が外に出てきてしまうぞ!!」


冗談だろっ!?


村人と村長の話を聞いていた遥斗の額から冷や汗が一筋流れ落ちた。


「東、西山!!その男と一緒に洞窟に向かえ!!」


「了解!!」


「了解です!!おやっさん道案内頼む!!」


「あ、ああ!!こっちだ!!」


遥斗の指示で消えた少年の父親と一緒に2人の兵士が洞窟に向かって走って行く。


厄介な事になったな。


「小林、全員に戦闘準備を整えさせろ。我々も洞窟に向かうぞ」


「了解!!」


「涼宮、お前は5人連れて村人の避難誘導。それとバラードにいる本隊に現状の報告。後、情報支援を頼む」


「ハッ!!」


村人や村長の泡を食った様子に事態の深刻さを読み取った遥斗は矢継ぎ早に指示を飛ばし、直ちに洞窟へ向かうことにした。


「弾薬は余分に持て!!防護マスク4型は絶対に忘れるな!!」


部下に指示を飛ばしながら遥斗は防弾チョッキ3型に取り付けた弾帯に5.56x45mm NATO弾が30発入った箱型弾倉をギュウギュウに押し込む。


更にMK3A2攻撃手榴弾を3つ防弾チョッキ3型のポーチに放り込み、ついでに06式小銃擲弾を2発手に取った。


「弾はこれでよし……。総員、先進装具システムに異常はないか!?」


弾薬の補充を終えた遥斗は、歩兵の個人装備をデジタル情報化し戦闘能力と生存性を高めることが出来るという先進装具システムのチェックに移った。


「問題なし!!」


「こっちも大丈夫です!!」


「よく見えてます!!」


身に付けた電子機器が異常なく稼働していることを確認した兵士達は口々に返事を返す。


「……準備はOKだな」


そうして、ものの数分で戦闘準備を終えた遥斗は整列し命令を待っている部下達に命令を下す。


「バレットとペイロードはあの崖の上から援護しろ。あぁ、観測手を1人連れていけ」


「「「了解!!」」」


遥斗は小隊に1丁ずつ渡されていたバレットM82A1対物狙撃銃とM109ペイロード対物狙撃銃を持つ2人の兵士、それに観測手1名を村と洞窟の中間にあってどちらも射程に捉えることが出来る崖の上に走らせる。


「ミニミ持ちは別だが、お前達は万が一戦闘になったら後方からの支援に徹しろ。動きが遅いから絶対前に出るなよ」


「「「「了解!!」」」」


遥斗は機関銃手の中でミニミ軽機関銃を持つ兵士以外――M240機関銃を装備しMOLLE(装備携帯)システムのバックパックを利用し作られたアイアンマンシステム――バックパックに入った300〜500発の弾薬をベルトリンク経由で機関銃に接続し継続的な射撃を行えるようにした弾薬携行・給弾システムを背負う兵士達には援護に徹するように命じておく。


何故ならアイアンマンシステムを装備した者は高い火力を得た代わりに装備自体の重さで機動性を著しく失っているからである。


「いざとなったらお前らが切り札だ。頼りにしてるぞ?」


「責任重大ですね……」


「任せといて下さいよ。やるときはやります!!」


84mm無反動砲――カールグスタフM3や01式軽対戦車誘導弾を担ぐ兵士の肩を励ますように叩いた遥斗は改めて部下達に命令を下す。


「それじゃあ急ぐぞ!!総員――」


「隊長!!ちょっと待ってください!!」


「駆け……どうした涼宮?何か問題が――んむっ!?」


「んっ……これはお守り代わりです。絶対無事に帰って来て下さいね、隊長。では」


「……」


いざ走り出そうとした時に駆け寄って来た涼宮少尉にお守り代わりだと言って口付けをされた遥斗は颯爽と去っていく涼宮少尉を真っ赤に染まった顔で茫然と見送った。


「「「「「ニヤニヤ」」」」」


「ッ!!……総員駆け足ィィ!!ニヤついてないで走れェェ!!しばくぞォォ!!コラァァ!!」


ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ面白がっている部下の存在に気が付いた遥斗が怒鳴る。


「「「「「ギャハハハハッ!!サーイエッサー!!」」」」」


未だに真っ赤な顔をしている遥斗を笑いつつも兵士達は重い装備を背負いつつ洞窟へ向かって走り出す。


クソ、こいつら村に戻って来たら絶対シメる。


隊列の最後尾を行く遥斗は心にそう誓った。


「隊長……絶対帰って来てくださいね」


山道を駆けていく遥斗の後ろ姿を見送りながら涼宮少尉は自身の小ぶりな胸の前で手を組み遥斗の無事をひたすら祈っていた。


そして遥斗の姿が見えなくなると涼宮少尉は自分の役目を果たすべく部下の元に戻って行った。



「ブフッ」


「クククッ」


「プッ、プププッ」


……クソッ。


洞窟に向かって遥斗が走っていると先を行く部下達が時折振り返り遥斗を見て笑いをこぼす。


そんな状況にイライラしつつも遥斗が足を忙しなく動かしていると2人の部下が両脇に並んできた。


「いやー。しかし、隊長もやりますね。いえ、この場合は涼宮少尉がやるのか?」


「リア充爆発しろ」


右側からは遥斗の事を称賛するような言葉が、左側からは怨嗟の声が響く。


「……これをやるから黙ってろ」


事態の迅速な沈静化を図るため遥斗が、おもむろに懐から取り出した紙を見て2人の兵士は絶句した。


「そ、それはまさか!?」


「あ、あの有名な……っ!!我らが総統閣下を篭絡しようと襲ったまでは良かったが、逆に篭絡され一族全員を奴隷として差し出したサキュバスがパラベラム本土で配下にやらせているという娼館、その中でも超高級に分類されている娼館の無料チケット!?親衛隊にしか配られていない筈のチケットなのに隊長が何故持っているんですかっ!?」


「……まぁいろいろ、ツテがあってな。これを皆にやるからもうさっきのことは忘れろ」


「「「「「了解しました!!霧島様!!」」」」」


エサを与えられた兵士達は全力に近い速さで走りながらも器用に振り返ると遥斗に敬礼を送った。


 










 




――――――――――――




――ドガァン!!


「間に合わなかったか……」


おふざけを止めた遥斗達が先導役をかって出た村人に先導され山道を走っていると洞窟のある方角から何が崩れる音が聞こえ、土埃が盛大に立ち上った。


『ザッ、ザ、――クソッタレ!!東より小隊長へ!!聞こえますか!?子供は確保しましたが封印が解けた模様!!現在撤退中!!』


「こちら霧島。了解した。子供と父親は村に連れていけ。退路は確保する」


『はぁ、はぁ、了解っ!!』


「さて、聞いた通りだ。東達が村に戻るまでここで敵を足止めするぞ」


「「「「「了解」」」」」


封印が解けた……最悪の状況に追い込まれたな。


裏の手を打っておくか。……近場に誰か居てくれればいいが。


ヒュドラとの戦闘が回避出来なくなった事を受けて遥斗はこっそりと秘匿回線を通じてある場所へと連絡を取った。


『倉林より小隊長へ、目標が洞窟から出てきました。……デカイッ!!目標の全長は凡そ20〜30メートル!!化物だ……』


遥斗がちょうど秘匿通信を終えた時、2人の狙撃手に付き添い崖の上でスポッター(観測手)の役割を担う倉林2等兵から個人用携帯無線機を通じて遥斗の元に報告が入る。


「了解した。俺の合図で攻撃を開始しろ」


『ハッ、了解です』


無線機の送信と受信を切り替えるPTTスイッチを押し遥斗は倉林2等兵に待機を伝える。


そして樹木の影や山の起伏に身を隠した部下達と共に遥斗は逃げて来る部下を静かに待った。


「はぁ、はぁ!!後を頼みます!!」


ヒュドラに喰われまいと必死に逃げてきた部下が木の後ろに隠れていた遥斗と擦れ違う瞬間、声を掛けた。


「任せておけ。――状況開始、撃て」


洞窟から外に出たヒュドラは9つの首を盛んに動かして獲物を探していた。


そして村に向かって一目散に逃げている4人を視界に捉えると行動を開始。


木々を次々と薙ぎ倒し、その巨体からは信じられない程の猛スピードで逃げる4人に迫る。


だが、あと少しで獲物を間合いに捉えるという所でヒュドラの首が4つ爆ぜ、体は爆発の炎と爆煙に包まれる。


――キシャアアアァァァ!!


一度に首を4つ潰され、爆煙の中で怒りと痛みに吼えるヒュドラ。


「嘘だろ――目標健在!!生きてます!!」


「そんなことは見れば分かる!!いいから撃ち続けろ!!」


M109ペイロード対物狙撃銃から放たれた多目的榴弾の炸裂を合図に84mm無反動砲や01式軽対戦車誘導弾、更には06式小銃擲弾の一斉射撃を受けてなお生きている化物に驚く部下を叱咤しつつ遥斗は89式小銃に再度、06式小銃擲弾を取り付け発射する。


「クタバレ!!」


「うおおおぉぉぉらあああぁぁぁ!!」


部下達も持てる火力を全て集中しフルオート射撃での銃撃を加える。


「装填!!」


「これで最後です!!」


「もう弾切れか!?」


「もともと3発しかありませんよ!!」


また再装填を済ませ、放たれる84mm無反動砲や01式軽対戦車誘導弾の砲弾とミサイルがヒュドラの肉体を容赦なく抉り飛ばし、次々と投げられるMK3A2攻撃手榴弾の衝撃波がヒュドラの体を叩きまくる。


このヒュドラが伝承通りの生物なら中央の首は不死身。だが他の首は再生能力を持つだけ、そして首を落とした時に傷口を焼いてやれば再生は出来ないはずだ。


弾薬の消耗に伴い、部下達を少しずつ後退させながら遥斗はどうすればヒュドラの息の根を止められるのかと考えていた。


だが、その思考が隙となった。


「小隊長危ないっ!!」


弾幕が薄まった瞬間を狙ってヒュドラが辺り一面に酸を吐いたのだ。


マズッ!?


部下の声で咄嗟にその場を飛び退いたものの、遥斗の装備品――防弾チョッキ3型と89式小銃にはベチャッと酸がかかってしまう。


そして装備に付着した酸はシュウシュウと音をたてながら装備をドロドロと溶かしていく。


「うぐっ!!っ!!」


「隊長!!今外しますから動かないでください!!」


駆け寄って来た部下の手により遥斗の体から取り外された防弾チョッキ3型は外された直後、中に入っていたセラミックプレートを溶かし尽くし地面を焼く。


「間一髪――」


「「ギャアアアアァァァァ!!」」


ホッと一息をつく暇もなく、鼓膜を揺さぶる絶叫に遥斗がハッと後ろを振り返ると部下2人がヒュドラの吐いた火炎――ブレスによって炭に変えられた所だった。


「っ……撤退!!撤退しろ!!撤退だ!!」


あっという間に形勢が逆転し不利になると遥斗は部隊をいち早く撤退させる。


だが、傷口が爆発の炎で焼かれ再生が出来なかった3本の首を除き、受けた傷を全て再生させたヒュドラが遥斗達に追い撃ちをかける。


それにより更に3名の犠牲者が出た。


「おい待てっ!!どこに行く!?」


火傷を負い負傷した部下に肩を貸し、撤退しようとしていた遥斗の脇をすり抜け1人の兵士がヒュドラに向かっていく。


「時間を稼ぎます!!」


遥斗の制止を無視し、そう言い残していったアイアンマンシステムを背負う機関銃手はたった1人でヒュドラに立ち向かう。


「うおおおおぉぉぉぉーーーー!!」


ヒュドラの前に雄々しく立ちはだかり、雄叫びを張り上げ銃身が真っ赤に焼けるのも気にせずに兵士はM240機関銃の引き金を引き続ける。


――シュルルル……。


飛んでくる弾にうっとおしそうに呻き身を捩るヒュドラだったが不意に首を伸ばし兵士を襲う。


「ギャアアアーーー!!――……」


――バクンッ……ゴクリ!!


「クソッ!!」


後ろから聞こえて来た断末魔と兵士を呑み込む嚥下音に遥斗が思わず悪態を吐いた。


このままだと……村に辿り着く前に全員殺られる。


「こいつを頼む!!」


「うおっ!?た、隊長!?何処へ!!」


「時間稼ぎだよ!!」


負傷兵を部下に押し付け、部下が持っていた89式小銃と弾倉を奪うと遥斗は踵を返した。


「ハハッ……デカイな」


この……化物め。


戦場に舞い戻りヒュドラと相対した遥斗は恐怖に震える足を必死に動かし攻撃を始めた。


だが89式小銃の弾ではヒュドラにダメージを与える事が出来ず、せいぜい嫌がらせにしかなっていなかった。


終わりか……。


ヒュドラのブレス攻撃をなんとか、かわしつつ戦っていた遥斗だったが弾が尽きてしまった事で覚悟を決めた。


――シャアアァァ。


目障りな敵がようやく大人しくなった事でヒュドラが嬉しそうに鳴く。


そして大きく開いた口で遥斗を丸飲みにしようとした時だった。


「隊長に……触れるなああぁぁーー!!」


怒りの声と共に突如、遥斗の後方から飛んできた2発の79式対舟艇対戦車誘導弾がヒュドラの体に大きな穴を穿つ。


「うおっ!!」


辺りに吹き荒れた爆風から顔を守るため手で顔を覆っていた遥斗がゆっくりと手を下ろし横を向くとそこには木々を薙ぎ倒しながら無理矢理山道を登って来た89式装甲戦闘車がいた。


「隊長!!ご無事ですか!?」


「早く乗せろ!!そんなにもたんぞ!!」


ドドドドッと90口径35mm機関砲KDEが吼え、装弾筒付徹甲弾(APDS)と焼夷榴弾(HEI)が入り交じった弾幕がヒュドラを叩き、弾が命中するたびにヒュドラの体から鮮血が迸る。


「さぁ、早く。早く乗って下さい!!」


89式装甲戦闘車の車体後部の観音開き式のハッチから出てきた涼宮少尉がそう言って遥斗を急かし車内に引き摺り込もうとする。


「っ!!涼宮!!避けろ!!」


「えっ?キャア!!」


だが隙を見て反撃に転じたヒュドラが吐いた酸が、3名の搭乗員ごと89式装甲戦闘車をドロドロに溶かし、またびちゃっと跳ねた酸の飛沫が涼宮少尉の右足を軽く焼く。


「涼宮!!」


「う、うぐぐっ……」


足を負傷し呻く涼宮少尉に真っ青な顔で駆け寄る遥斗。


――シュルルル。


2人を食べようとゆっくり近付くヒュドラ。


「隊長……私はいいですから、私を置いて早く逃げて下さい……」


痛みに呻く涼宮少尉が健気にも遥斗に逃げるように促す。


「……」


しかし、遥斗は返事をせずに黙って涼宮少尉のホルスターから9mm拳銃を抜くと涼宮少尉を庇うように前に出る。


「上官が部下を置いて逃げる訳にはいかんだろ」


「隊長……」


遥斗は涼宮少尉にニッコリと笑い掛ける。


そして、今残っている6つの口、全てで二股に別れた赤い舌をチロチロと出し入れしているヒュドラに吠えた。


「かかって来やがれ!!クソ野郎!!」


遥斗がヒュドラを挑発するように吠えた瞬間、ヒュドラの大きな頭が涼宮少尉と遥斗に迫った。


 

 

 










 

 

 

 

――――――――――――




ザン、と肉や骨を纏めて断ち切る音が辺りに響き渡る。


「私が来るまでよく耐えた。後は私に任せておけ」


足を負傷し動けない涼宮少尉と、それを庇う遥斗を食らおうと大口を開き迫るヒュドラとの間に割って入り、ヒュドラの首をはね飛ばした人物。


それは上空でホバリングしているHV-22Bオスプレイから薙刀を2本携え、長い黒髪をたなびかせ颯爽と舞い降りて来た千代田であった。


また千代田の後に続いてパワードスーツを装備した親衛隊の隊員が6人ほど降りてきた。


ま、間に合ってくれた……。


まさか千代田が来るとは夢にも思っていなかった遥斗だが、何はともあれ心強い味方が来てくれたことにホッと胸を撫で下ろしていた。


「ふ、副総統……閣下!?それに……親衛隊!?」


絶体絶命の危機に突然現れた千代田と漆黒の00式強化外骨格(パワードスーツ)を装備している親衛隊員の姿を見た涼宮少尉が思わずといった風に声を漏らす。


「むっ、やはり分からんか。まぁ、姉様と私は瓜二つだからしょうがないが……。訂正させてもらうぞ、私は副総統の長門千歳ではない長門千代田だ。特別総統補佐官のな」


「え、あ、し、失礼しました……」


「いや、構わん――っと」


千代田と涼宮少尉が言葉を交わしていると、切り落とされた首が再生し再び6つの首になったヒュドラが千代田に襲い掛かる。


「ほっ、よっ、とっ」


鞭のように6つの首をしならせ牙を剥き出しに襲い来るヒュドラの同時攻撃を体操選手のように軽やかに跳ね回り、かわす千代田。


ヒュドラの頭が千代田を捉えきれずに地面を抉る。


「ふむ。不死身の首を持つ化物か……なかなかに厄介だな。だが……マスターへのいい手土産になるなっ!!」


猛然と襲い来るヒュドラの動きを高感度カメラを初めとした多種多様なカメラが仕込まれた特別製の目で見切った千代田がニヤリと不敵に笑いヒュドラに急接近、両手に握る薙刀の一閃で5つの首を飛ばす。


――シャアアアア!!


ヒュドラが痛みに鳴き斬られた首を再生させようとするが、首は再生しなかった。


「ふん、さっきと違い今は超高周波振動による熱を持った刃で溶断したのだ再生など出来ん」


千代田の言葉を裏付けるように薙刀の刃は熱を持ち真っ赤に発光しており、また辺りには肉の焼ける匂いが漂っていた。


――シャアアァァ……。


力の差を本能的に感じ取り怯えたように千代田を睨みながらゆっくりと後退するヒュドラ。


「さて……残る首は1本だけか」


逃げようとするヒュドラに千代田は右手に持つ薙刀を地面に突き刺し、空いた右手の手のひらをヒュドラに向ける。


「逃がすと思うか?……沈め」


体をギュルっと反転させ逃げ出そうとしたヒュドラだったが、千代田の一言を合図に見えない力に押し潰されたようにドシャっと地に伏せる。


「「なっ!?」」


これには遥斗と涼宮少尉も驚く。


「うん?あぁ、これか?これは魔導炉の重力制御を応用した重力兵器だ。私の腕に仕込んである。まぁ、試作品だから30秒程しか効果がもたんがな」


そう言いつつヒュドラにツカツカと歩み寄った千代田はヒュドラに残る、最後の首に薙刀を突き付ける。


――シュルルルゥゥ……。


見えない力で押さえ付けられ逃げる事が出来ないヒュドラは、その瞳に映る千代田の姿に確かな恐怖を感じていた。


「では……死ね」


その言葉と共に振り落とされた真っ赤な刃でヒュドラの本丸――不死身の首はあっさりと落ちた。


「不死……か。やはり厄介だな」


不死身の首が切り離された瞬間に灰と化した胴体と違い胴体から離別した首がビチビチと動いているのを見て千代田が目を細める。


最も切り口が溶断され焼かれているのでヒュドラは体を再生出来なくなっていたが。


「まぁ、ちょうどいい研究材料か。おいこれを回収しておけ」


「「「ハッ!!」」」


千代田の元に配属された部隊、通称ワルキューレ隊の女性兵士が千代田に返事を返す。


こうしてヒュドラは千代田の手により討伐され事は一応の終焉に至ったのだった。

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