2
執筆環境をガラケーからスマホに変えたため執筆速度が少しばかり落ちます(-_-;)
その日、トーマス・マスタング軍曹は所属する第5工兵大隊と共にパラベラムの公共事業の一環として新たに作られた入植地――カノーネ村を訪れていた。
表向きの任務内容はインフラ整備であったが、その実はパラベラムの領土全体に非常用の武器兵器の貯蔵庫を作るという秘匿性の高い任務であった。
「搬入作業急げ、今日中に終わらせるぞ」
「アイサー」
村から少し離れた山裾に作られた核攻撃にも耐えられるシェルターの中にマスタング軍曹達が最後の武器兵器を搬入している時であった。
「なんだありゃ?」
「どこの部隊だ?」
15台程の車列がマスタング軍曹達のいるカノーネ村に停車した。
「ここの指揮官は誰だ!!」
「私だが」
降車した兵士の大声に応えるように第5工兵大隊の指揮官が声を上げる。
「貴官らの所属と任務内容は?こんなところに部隊がいるとは聞いていないぞ」
「はっ、少佐殿。我々は第一方面軍所属の第5工兵大隊であります。任務内容につきましては極秘のためお答え出来ません。書類はこちらに」
装甲車から降りてきた少佐と上官のやり取りを遠目から見守るマスタング軍曹。
そんな時同僚がある事に気が付いた。
「おい、あの少佐ってヤーコフ・パヴロフじゃないか?」
「パヴロフっていうと、あのパヴロフか?」
「あぁ、“パヴロフの家”のな」
「ってことはネームドか」
「あぁ」
第二次世界大戦の激戦地――スターリングラード攻防戦にて活躍した人物が目の前にいると知ってマスタング軍曹達のテンションが少しばかり上がるが、上官との話し合いが終わったのかパヴロフ少佐は車に戻って行った。
「結局なんだったんですか?少尉」
「何でもこの先で異様な電磁波の発生をキャッチしたらしくてな。それの確認に来たそうだ」
「へぇ〜」
「とにかく、我々には関係ない。作業に戻れ」
「了解しました」
パヴロフ少佐の乗った車列を見送りながらマスタング軍曹は作業に戻った。
数時間後に恐ろしい出来事が待っているとも知らずに。
「よし。本日はここまで。撤収作業は明日行う」
「「「「了解」」」」
それはマスタング軍曹達が任務を終えて少し時間が経った頃に起きた。
「なんだこれ……霧?」
まるでドライアイスを大量にぶちまけたように辺り一帯が一気に霧に覆われ始めた。
と同時に霧の中から銃声が響く。
「大隊集合!!戦闘準備!!」
「戦闘準備!?」
「なんだってんだ一体!!」
突然の銃声に慌てて自分達の自衛火器を手に取り戦闘準備を始めるマスタング軍曹達。
そして戦闘準備が整う間も無く霧の中からパヴロフ少佐達が必死の形相を浮かべながら現れた。
「敵襲ー!!村人を集めろ!!」
パヴロフ少佐の突然の大声に皆が戸惑う中、それはやって来た。
「エントだ!!」
「火を準備しろ!!」
第5工兵大隊の兵士達が口々に叫ぶ。
霧の中からぬっと現れたのは木の魔物であるエントの大群であった。
「第1中隊は村人の避難誘導!!第2、第3中隊はエントを攻撃しろ!!」
指揮官の指示が飛ぶ中、第5工兵大隊の兵士達が指示通りに動く。
しかし、深い霧が村人の避難誘導を邪魔し、またエントに対して銃弾があまり効果が無いために瞬く間に村の中へエントの侵入を許してしまう。
「軍曹!!無線機はどこだ!!」
マスタング軍曹の隣にやって来たパヴロフ少佐が叫ぶ。
「そこにあります!!」
すぐ近くに置いてあった無線機を指し示しながら、M4でエントの目を狙い撃つマスタング軍曹。
「クソッ、霧のせいかやっぱりこの無線機も使えない!!携帯も不通!!誰か衛星電話を持っていないか!?」
「「「「持ってません!!」」」」
マスタング軍曹達が口を揃えてパヴロフ少佐に答える。
「後退!!後退しろ!!後ろにあるアパートに退避!!」
エントの攻勢が激しくなって来たために、第5工兵大隊とパヴロフ少佐が率いる中隊は後退を開始し、アパートへと逃げ込む。
「誰か衛星電話を持っていないか!!」
アパートへと逃げ込んだパヴロフ少佐は開口一番にそう叫んだ。
だが、大都市なら未だしも辺鄙な土地にあるカノーネ村の妖魔族達に衛星電話を持つ者など居なかった。
しかし、とある少女が手を上げる。
「け、携帯持ってる!!」
「携帯!?軍曹、物は試しだ。彼女から携帯を借りて国防総省か総統府へ繋がるか試してみろ!!」
パヴロフ少佐に言われてマスタング軍曹は少女の小さな手から携帯を受け取った。
「なんだこりゃ!?」
携帯を受け取ったマスタング軍曹はボタンが1つしかない特異な携帯に驚きながらもボタンを押した。
「もしもし!?」
数回のコール音の後、ガチャッと携帯が繋がった瞬間マスタング軍曹は間髪入れずにそう叫んでいた。
『誰だ、あんた?』
「俺が誰かなんてどうだっていい!!緊急事態ですぐに国防総省か総統府に連絡をとらなきゃいけないんだ!!」
『まず名乗れ、話はそれからだ。いや、その前にベルに渡した携帯を何故貴様が使っている?場合によってはただでは済まさんぞ貴様』
「あぁ、もう!!俺は第5工兵大隊のトーマス・マスタング軍曹だ!!この携帯は少女から借りている!!これでいいか!?」
『トーマス・マスタング軍曹だな。分かった。事情を話せ』
「事情を話せってアンタは誰なんだ!?」
『長門和也だ』
「へっ!?ナガトカズヤって、あの総統閣下の!?」
『そうだ』
「しょ、少佐!!閣下と繋がりました!!」
まさか携帯の先にいるのがパラベラムの国家元首であるなどとは思っても見なかったマスタング軍曹は冷や汗を一筋流した後、携帯をパヴロフ少佐に押し付けるようにして手渡したのであった。