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未だセリシア達の死闘が続くものの帝国軍の組織的な抵抗が終結し、また主殿内でのおおよその戦闘も終結したため前線に出ていた多くの兵士達が緊張の糸を緩めていた頃。


カズヤを筆頭に千代田や高級将校達が詰める前線司令部の室内は戦闘が行われていた時よりも緊張感に包まれていた。


「それでは現在までの状況を確認します。玉座の間に突入し仮面の男により人質とされたのは千歳副総統と私(千代田)4人と護衛の親衛隊30人です。室内の様子は窓や扉が締め切られているために不明。また私の体内に流れているナノマシンによる通信も強力なECMにより妨害されているため、室内の様子をこちらに転送する事が出来ません。なお10分前にあった敵からの要求――要求はただ1つ。マスターが1人で玉座の間に来ること。以上です」


「ふざけている!!」


「明らかな罠だ!!」


「話にならん!!」


進行役の千代田が現状確認をし、仮面の男からの要求を口にすると居並ぶ高級将校達が怒りの声を上げた。


……まぁ、そうなるわな。


千歳が捕虜となった事でいてもたってもいられなくなっているカズヤは半ば思考停止状態で周りの反応を他人事の様に眺めていた。


「確かに我が国の国家元首であり、国そのものであらせられるマスターをむざむざと敵の前に差し出す訳には参りません。故に目下、突入部隊が準備中です。――いえ、ちょうど準備が完了したそうです」


「……」


「マスター」


「分かっている……突入を許可。何としても千歳達を救い出せ」


「了解」


人質を取った相手との交渉事において、相手の要求を飲むのはご法度。


それに加えて衛星通信でこの集まりに参加している伊吹からの猛反対もあり、またカズヤを敵前に送り出す訳にはいかないという最もな事情により千歳達を救出するための特別部隊が編成され、救出作戦が実行された。


しかし――


「突入部隊との通信途絶……副総統閣下の救出作戦は失敗です」


あろうことか救出作戦は失敗。


突入した15人の兵士達は千歳達の二の舞となり捕虜になってしまった。


「クソッ!!」


シーンっと静まり返り重く息苦しい空気が満ちる前線司令部にオペレーターの震えた声が響き、次いでドンっと机に拳を叩き付けた音とカズヤの悪態が辺りにこだます。


「――……仮面の男より入電。『次は無い』と」


出来る限りの対策を講じた精鋭部隊を無傷で捕らえてみせた恐るべき敵からの脅しに室内は静まり返り、そして皆がカズヤを注視した。


「致し方ない……行ってくる」


敵の脅しを耳にして瞑目していたカズヤはポツリと呟くような声でそう言うと立ち上がり装備を召喚、カチャカチャと音を立てながら装備を身に付けると扉に向かって踵を返した。


『いけません!!カズヤ様!!敵の要求を飲むなどと!!貴方が――』


しかし、そんなカズヤを止めようと画面の向こうから映像の伊吹が大声を上げる。


「千歳や千代田、それに兵士達を見捨てる訳にはいかんだろう」


『遺憾ながら。今回のケースでは見捨てるのも致し方ないかと。貴方を失えば国家が、パラベラムが崩壊します』


「千歳達を見捨てるという選択肢は無い」


伊吹の進言にカズヤは断固たる口調で言い切る。


『お気持ちは分かり――』


「2度は言わんぞ!!伊吹!!」


『ッ!!』


これまで1度足りとも見たことが無いような形相を浮かべながら激昂し髪の毛を逆立たせるカズヤの姿に伊吹は思わず息を飲み黙り込む。


「後を頼んだぞ、伊吹」


「……ご武運を」


そしてカズヤの固い決意を前に、ここに至って最早選択の余地は無いと画面の向こう側で苦虫を大量に噛み潰したような表情を浮かべた伊吹は拳を握り締めただ主の無事を願いながら、そう声を絞り出したのだった。


「さて。行くか」


怒りと不安に支配されながら総統専用機であるVH-60Nプレジデントホークで主殿前に乗り付け、未だ戦塵の舞う主殿内へと入ったカズヤは付き添いの親衛隊の兵士達に見送られながら閉じられていた玉座の間の扉を押し開く。


「お望み通りに来てやったぞ」


千歳達は無事か、良かった。


しかし縛られてもいないのに喋らないし動かない所を見ると催眠術か超能力でも持っているのか?ヤツは。


無言のまま壁際に佇み、目だけで何かを訴えている千歳や千代田達の姿を視界の端に捉えながら、カズヤは仮面の男に声を掛ける。


なお、ヨダレとうわ言を垂れ流す皇帝は居ないものとして放置された。


「……」


「何だ?お望み通りに来てやったのに黙りか?」


「いや、その間抜けな面に苛立っていただけだ」


「はっ、そう言うお前はどうなんだ。そんな仮面を付けて顔を隠しやがって」


「俺の顔が気になるか?」


「あぁ、どんな野郎なのか気になるね」


「なら見せてやろう」


カズヤの挑発にそう言って仮面を脱ぎ捨てる仮面の男。


脱ぎ捨てられた仮面が乾いた音を立てて転がっていく。


「……嘘だろ、おい」


「嘘じゃないさ。これが事実だ」


そして、仮面の男の素顔が明らかになると度肝を抜かれたカズヤが息を飲んだ。


「お前は……一体何者なんだ……」


「未来のお前(俺)さ。もっとも何千何万回とループしているがな」


「ループ?おいおい、まさかFtのエヤと似た状態とかって言うつもりじゃあ無いだろうな」


何でもない風にそう言ってのけた仮面の男――和也にカズヤは眉をひそめながら呆れた様に言葉を漏らした。


「そのまさかだ。俺はあのくそったれな神の玩具にされているんだよ。お前がイリスを助けると自動的にこの世界へ召喚されるようになっている」


「ご苦労なこって。で?俺は何で俺を呼び出したんだ?」


「もちろん殺すためだ。……だがその前にお前に話がある」


「話?」


「あぁ、心してよく聞け。お前(俺)は生きていちゃいけない。ここで死ななくちゃいけないんだ」


「……また突拍子もない事を」


突拍子もない話に付いていけずカズヤは頭をガシガシと掻く。


「いいから聞け。このままお前が生きていれば千歳達が死んでしまうんだ」


「……千歳達が死ぬ?どういうことだ」


和也の口から飛び出した看過出来ない話にカズヤは殺気を撒き散らす。


「神によって弄くられているせいで詳しくは言えんが、お前が生きている限り、お前が愛した者、お前を愛した者は皆非業の死を遂げる事になっている」


「なんだ……それは……」


「信じる信じないのは自由だが、これは事実だ」


「……」


和也の口から語られた話を一蹴するには判断材料が少なすぎたカズヤは数瞬悩んだ。


しかし。


「はぁ……自分の事なんだ。もう分かるだろう?」


「あぁ、これ以上言っても無駄なんだろう?」


「あぁ、所詮は敵の言っている戯れ言だしな。信じるに値しない。それにだ。仮にお前の話が事実だとしても千歳達は俺が守る。誰にも傷付けさせはしない!!例え相手が神だろうと守り抜いてみせる!!」


「そうだ。俺ならそう言ってしまうんだ。だから――ここで殺さねばならないんだ!!」


「「ケリを付けるぞ!!」」


そうして2人のカズヤは互いに譲れぬ想いを貫き通すため、その手に銃を召喚し握り締めるのであった。

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