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第8話「正体の行方」(前編)

翌日、ざわざわと廊下で騒がしい声が聞こえてくる。

風奈はちょうど学校に着いたところで、今の状況を理解していない。

下駄箱で外履きから上履きに履き替えている間、その声は風奈の耳に届いていた。

「おいこれ見てみろよ。『冬月風奈、人間であることが発覚。証拠写真もバッチリ』って書かれてるぜ。人間ってまじかよ」

「何これ、人間? 人間って確か昔に滅んだんじゃないの?」

「もし、人間がいるとしたら、実験施設行きだよ? この子、どうするんだろう?」

ぞろぞろと生徒たちが集まり、壁に貼られてあるポスターを見て、騒いでいる。

これは大変なことになった。

どうして風奈が人間だと噂されているのか。

一体誰がこんなことをしたのか。

風奈が人間だということは沙夜と月都だけなのに。

とりあえず、この場を離れるため、風奈は急いで教室へと向かった。



教室の前(廊下)に着き、軽く走ってきて、乱れた息を整えた。

きっと、教室でもあの話題で持ちきりだろう。

これからどうすればいいのか。

このまま教室へ行くのもありだが、きっと、みんなの視線が痛いだろう。

みんなに注目され、質問攻め、もしくは風奈の傍から離れていくのが落ちのはずだ。

じゃあ、寮に帰るか。

いや、それも、できることならしたくない。

帰っても、ずっとこの話題が続くだろうし、休まるどころか悪化するかもしれない。

じゃあ、どうすれば?

そう考えていると、肩を後ろから叩かれた。

「ひゃっ」

「あ、悪い。驚かせたな」

「つ、月都さん」

後ろにいたのは、月都であった。

まただるそうにしている。

「あの、どうしたんですか?」

「それはこっちのセリフだ。お前、この騒ぎでまずいことになってるのは知ってるな?」

「はい」

「よし、じゃあ付いてこい。これからのことを話す」

月都は歩き始めた。

その後を、風奈が追いかけ、二人は階段を上っていった。



生徒会室。

風奈はそこにいた。

真向かいには沙夜がいて、この前みたいな状況で座っている。

でも、月都がいるから、この前みたいではない。

テーブルには前と一緒の紅茶で、その少し先にはお菓子が置かれている。

沙夜は紅茶に手をつけず、話し始めた。

「これは大変なことになったわね」

「はい」

「どうしてこうなったのか、風奈は知ってる?」

「いえ、知らないです。朝、学校に着いたらこんなことに」

軽く沙夜は溜息を付き、無言の状態が続く。

そして、

「風奈が人間だということは、私と月都しか知っていないはず。バレることはありえないわ」

でも、こうして他者に知られている。

バレてしまったのだ。

「もしかして、私が何かしたとか? バレるような何かを」

「何か自覚があるの?」

「いえ、ないです――」

「なら、風奈じゃない。となると、考えられるのは、部外のものね。月都、さっきのポスターを見せてくれる」

「あぁ、あいよ」

月都は廊下に貼られてあったのと同じポスターを、沙夜に渡した。

じっくりとそのポスターを沙夜は見る。

「う~ん、これによると、証拠があるらしいわね。気になるわ」

「証拠? でも、どんな」

「それは分からない。これは調べるしかなさそうね。月都、あとは頼んだわよ」

「はいはい、分かりました」

月都は生徒会室を出て行ってしまった。

一体何をするというのか。

わけが分からないまま、風奈は生徒会室に残された。

「それで、風奈のこれからのことだけど」

「はい」

「あなた、これから一週間この生徒会室で過ごしなさい」

「どういうことですか?」

生徒会室で過ごす?

そんなことが許されるのだろうか。

でも、生徒会室に残ってしまったら、授業が受けられなくなってしまう。

「騒ぎが収まるまでの間、生徒会室で過ごすの。先生には病気で入院したと言っておくから、安心して」

「いや、でも、授業のほうは――」

「確か、哀歌っていう友達がいたのよね。その子に後で見せてもらえばいいわ」

そうだった。

授業は哀歌に頼んで、後で見せてもらえばいいのか。

風奈は友達の存在まで混乱で忘れてしまっていた。

「分かりました」

「風奈は寮にも戻れなくなるから、お風呂は温水プールにあるシャワーを使って。あそこはお湯も出るはずだったから」

「はい――あのっ!」

大きい声で沙夜に聞いた。

沙夜は驚いたようで、目を大きく見開いた、。

「何?」

「もしかしたらですけど、こんなことをした犯人はこの学校の生徒ってこともありえるんですか?」

「ええ、ありえるわ。学校の部外者ってことも考えられるけど、恐らくこの学校の生徒に間違いない」

「どうして?」

「証拠写真があるからよ。ポスターに書いてあったでしょ? 証拠写真があるって。それはつまり、学校以外の部外者はありえないってことになる。もし、部外者がいたのなら、生徒が気づいて報告するはず。でも、それはなかった。となると、怪しまれずに写真を取れるのは、この学校の生徒ってことになるの」

真面目に沙夜は話した。

「なるほど」

風奈は不安な表情を見せた。

「大丈夫よ、この噂絶対に消してみせるから」

沙夜の微笑みに、風奈は安心することができた。

心から信頼できる、その微笑みに。



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