第7話「ギルギア国」
三時間目の授業が始まり、風奈のクラス全員は外へと集まった。
何をするのかというと、これから、買い物をするらしい。
どうして授業で買い物をしないといけないのか。
そんな疑問が浮かんだが、風奈は目的の場所に集まり、先生の話を聞いた。
「よーし、これから隣の国、ギルギアまで買い物に行ってもらう。買う目的はみんなバラバラだから、もちろん一人行動だ。迷子にならないよう、気を付けて行くんだぞ」
ギルギア?
聞いたことない場所だ。
隣の国というものだから、当然、ここも吸血鬼がいるのだろう。
「よし、それぞれ買う目的のリストを貰ったな。では、出発だ」
並んでいる前の人からリストを貰い、それぞれ、動き始めた。
風奈が買う予定のものは、どうやら野菜のトマトらしい。
これは吸血鬼としてかかせないものであろう。
それを風奈が買うというのは、何か、変な気分でもあった。
それぞれの生徒たちは離れていき、風奈一人だけとなった。
でも、みんなの後を付いていったおかげで、無事ギルギア国までに着くことができたので、ここまではよしとしよう。
「えっと、トマトはどこにあるんだろう?」
とりあえず、元いた世界でいう商店街みたいな通りに入ったものの、トマトは見つからない。
「銀行らしき建物に、工具店みたいな建物」
次々と通り過ぎていく建物を言っていき、目的の野菜を売ってるお店へを探す。
このまま知らない国で見つかるのだろうか。
そんな不安が風奈を襲った。
風奈が野菜店を探しているその頃、沙夜は赤神国で生徒会室にいた。
側近である、月都も一緒だ。
コツコツと書類にはんこうを押し、軽く息をついた。
「ふぅ。結構王っていうのも疲れるものね」
「何を言ってるんですか、会長。この仕事を選んだのは会長なんですから、きちんと責任を持ってください」
横で、月都が沙夜を支えた。
「分かってるわよ。それで、風奈のほうはどう? 最近、変わったこととかない?」
「いえ、特には。あ、そういえば――」
言ってもいいような、でも、言っては悪いような言葉が月都を思い出させた。
「何?」
「――今日、ギルギア国に行きました」
その言葉を聞いて、沙夜の表情が変わった。
未だ野菜店が見つからない風奈は、途方にくれていた。
三十分も歩いて見つからない。
知らない国なので、体力も限界がきていた。
歩いている途中、噴水がある広場に出たので、そこの近くにあったベンチに座ることにした。
「ふぅ、野菜店、どこにあるんだろう。疲れた」
ボッーと目の前にある噴水を見つめる。
とても綺麗な水が溢れ出し、近くには鳩らしき鳥がトボトボと歩いている。
こういった普通の風景を見るのは久しぶりだ。
赤神国では、噴水があっても、水の色は赤。
そして、その周りには鳥もいなく、殺風景なものだった。
でも、ここでは元いた世界を思い出させる。
しばらく、公園で休んでいると、黒い車が公園の近くに止まった。
無駄に長い車で、お金持ちが乗りそうな外見だ。
運転手席から年老いたおじいさんが出てきて、姿勢を崩さず、車の左側へと向かう。
どうやら、車のドアを開けるために、向かったみたいだ。
そっと様子を窺っていると、そこから、黒い長髪をした女の人が出てきた。
背は高く、とてつもなく美しい。
学校の制服を着ているのだから、ギルギア国の生徒なのだろう。
手にはカバンを持ち、公園の隣にある高級な校舎へと入って行った。
最後まで見届けていると、遠くで、声が聞こえた。
「あ、いた。風奈、目的の物は見つかった?」
少し離れた場所で、哀歌に言われた。
「ううん、まだ」
そうだ、と思い出したかのように、風奈は目的のトマトを哀歌と一緒に探すことに決めた。
「羽香様、もうご存知かと思いますが、赤神国で新しい王が決まりました」
男子はその人物に手を胸に当て、軽くおじぎをし、伝えた。
「ああ、分かっている。確か、冬月風奈といったな」
「はい、まだ来たばかりで、自分がいる国もこの国のことも分からないようです」
「そうか、なら、まだお前が入れる余地はあるということだな」
ニヤリと羽香は笑みをつくった。
「でも、私の力ではあの沙夜に勝てません。いくらしたって、私が生徒会長と国王の座に座ることなど」
「ふっ、そんなことなど容易いこと。氷、お前にこれができるか?」
そういって、作戦のような紙を見せた。
夕方。
どうにかトマトを見つけ出し、赤神国に着いた風奈は最初の時の集合場所に到着していた。
手には紙袋に入ったトマトがたくさんある。
きっと大事に育ててこられたのだろう。
真っ赤なトマトは身が引き締まって、傷一つない。
おいしそうだな、と思いながら手元にあるトマトを見つめていると、目の前で先生がみんなに話しかけた。
「よし、今日の授業はここまで。みんな、目的の物は見つかったかな。それぞれの物は決められた場所に置くように。以上」
それだけ言って、先生は校舎の中に入っていった。
風奈もトマトを置くために、校舎の中にある食堂へと向かった。