第4話「理解」
「おーい」
誰かに声をかけられたので、風奈は振り返った。
そこには、制服が乱れたままの月都がいた。
手に持っていたパンを膝の上に置き、話をする。
「月都さん。どうしたんですか?」
「あぁ、会長が呼んでたから、教えに来ただけだ」
会長、つまり沙夜である。
恐らく、昨日話があると言っていたのと関係があるのだろう。
「分かりました。それで、いつ頃行けば――」
「今日の夕方、確か四時半ぐらいだそうだ。それじゃ、用は済んだからな」
そういうと、月都はだらしげに去って行った。
その光景を、暗闇の中で見ている人影があった。
夕方四時、夕陽に染まった教室に風奈はいた。
外にはまだグラウンドで、サッカーなど、部活動をしている生徒が僅かにいる。
校内にも、文系部の生徒がいて、作業をしている。
そのとある一室で、風奈は沙夜が来るのを待っていた。
「遅いな」
ぽつり呟き、窓から外を眺める。
ぼんやりと今までのことを思い出してみた。
自分以外の人が吸血鬼だということ。
知らない世界に来たこと。
次期生徒会長と国王に選ばれているということ。
どれも、現実とは思えない内容だ。
だが、全てが事実。
風奈は遠い空を眺め、元いた世界のことを考えていた。
――ガラガラッ。
突然、教室のドアが開いた。
そこに立っていたのは、沙夜であり、風奈のほうを見つめている。
「ごめんなさい、遅くなってしまって。ちょっと生徒会のほうが長引いたの」
「あっ、大丈夫ですよ。私は今来たところなので」
慌てて振り返った。
「そう、ならちょうどいいわね。それで例の話なんだけど」
沙夜は開けっ放しのドアから廊下左右を確認し、そっと、閉めた。
まるで、誰もいないか確認するかのようだ。
そして、沙夜は風奈に近づいていく。
ゆっくり、少しずつ攻めていき、風奈を窓際に追い込んだ。
「えっと、あの」
「例の話の件だけど、あなた――」
ゴクリ、唾を飲みこんだ。
「人間よね」
その一瞬、静まり返り、お互い身動きをしなかった。
「や、ち、違いますよ。急に何を言うんですか」
「違うのなら、どうしてそんなに動揺しているのかしら」
確かにそうだ。
風奈は図星をくらい、隠すことができない状況にいた。
「えっと、それは」
「吸血鬼というのなら、歯を見せなさい。本当に人間じゃなかったら、前歯の両脇に牙が生えているはずよ」
見せるべきなのか。
それとも、見せないべきなのか。
とてもピンチの状態だ。
「うっ、も、もし、私が人間だったらどうするんですか?」
「どうもしないわ。ただ納得して、これからのことを考えるだけよ」
「本当ですか?」
風奈は少し前に進んだ。
「ええ」
「分かりました。沙夜のことを信じます」
この道、隠しながら生活するのは辛いと思っていた。
いずれかは、バレることなのだから、はっきりさせておいたほうがいい。
迷うことなく、風奈は沙夜に口を見せた。
「これではっきりしましたよね」
「ええ――」
とても暗い返事だった。
やはり、人間だということがいけないことなのだろうか。
「ごめんなさい、私、迷惑なんですよね。これからの学校生活も考えないといけないし、このまま沙夜に頼ってばかりになってしまうこともある。それに、人間は吸血鬼の餌だからいずれかは私を使って『解析繁栄実験』を行うことにもなる。こんなに迷惑をかけるんだったら私――」
続きをいおうとした瞬間、沙夜は風奈を抱きしめた。
隙間を作ることなく、ピッタリと。
「何を言ってるのよ。誰が風奈を迷惑だって言った? 誰も言ってないでしょ。それに、私はあなたのことを守りたいの。それだけは分かってほしいわ」
「沙夜――」
暖かい沙夜から感じられる温もり、そして、優しい言葉をかけられ風奈は涙をこぼした。
今までの不安や苦しみ、そして、実験台になる恐怖からその涙は出て、今、沙夜は風奈の立場を理解した。