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第3話「事実と確認」

放課後。

風奈は図書室にいた。

ここで勉強するのはうってつけの場所だが、目的が違う。

今日は、ここで赤神学院のことや、国のことなど細かいことを知ろうとやってきたのだ。

「禁止事項――吸血鬼同士でキスをしてはいけない」

読み上げ、いろいろと知っていく。

他にも、吸血パックの使い方、昔起きた様々な事件が書かれていた。

室内には風奈、一人しかいない。

図書室の受付にも誰一人いなく、シーンとしている。

この学校のことを調べるには、最高の時だった。

「禁断症状?」

読んでいく中に気になることが書かれてあった。

禁断症状。

血が足りなくなった場合は吸血パックで補えることができる。だが、無い場合、パニックになりその場にいる近くの者を襲ったり、自分をコントロールできなくなる時もある。

また、血を吸われた者には、激痛が走ることがあると書かれてあった。

「何これ――こんな怖いことがあるなんて」

ただ書かれた文字を見て、青ざめていった。

吸血鬼の恐ろしさ、そして、これが事実ということ。

最初は受け入れられなかったが、本を読んで、少しずつ風奈の状況が変わってきていた。

そして、もう一つ重要なことが書かれていた。

「解析繁殖実験――」

ここ赤神国にて、吸血以外の人物、つまり餌となる人間が現れた時その者は解析繁殖実験を行うことになる。

餌となる人間を捕らえ、繁殖させ、増えさせれば我々の食事に悩むことなく過ぎすことができる。

それが解析繁殖実験だ。

「ひどい――」

その一言しか出てこなかった。

心が苦しくなり、泣きたくなる事実だった。

風奈はそれ以上読むのが辛くなり、苦しさの中、静かに本を閉じた。



「今日はお疲れ様。初日の学校生活大変だったでしょ?」

明日の授業の確認をしていると、もう寝ようと準備していた哀歌がいってきた。

「大丈夫だったよ。でも、ちょっとみんなの反応が苦労したかな」

「うふふ、そうだよね。私も見た感じそうだと思った」

口元に手を当てて微笑んだ。

風奈も授業の確認は終わり、寝る準備へと入る。

寮の寝室は、敷布団ではなく、二段ベッドだ。

一番上は哀歌であり、下は風奈が使っている。

部屋の明かりを薄暗くし、自分のベッドへ足を入れた。

「これから大変だと思うけど、哀歌がいれば頑張れる。そんな気がしてきた」

「でも、私はあまり力になれないかもよ?」

「そんなことない、大丈夫だよ」

哀歌の声は自信がなさそうな、弱々しい感じだった。

「そう? なら、よかった」

時刻は既に消灯時間を過ぎている。

明日も大変なので、風奈は寝ることにした。

「じゃあ、そろそろ。おやすみ」

「うん、おやすみ」

薄暗い光を消し、目を閉じた。



カチカチカチ。

微かに時計の音が聞こえる。

まだ朝ではないだろう。

風奈は少しずつ夢から意識が戻ってきていた。

辺りはシーンとしている。

目を閉じたまま、横になっていると、突然何かの気配を感じた。

何かが動いている。

そして、その気配はピタリと止まった。

何だろう?

本当は怖いので目を開けたくないけど、もし、命に関わることだったら危険なのでグっと開けた。

「あ、哀歌!?」

目を開けた先にいたのは、何と、哀歌であった。

まだパジャマのままで、風奈の横にいる。

「――すごく――いい匂い――」

寝ぼけているのか、目はうつろなままだ。

だんだんと風奈の顔に近づいたかと思いきや、首元へ向かってくる。

「ちょっと、哀歌! しっかりして!」

風奈が叫んでも、哀歌は変わらず首元に集中している。

「――うふふ、いただきま――」

最後の、す、を言いかけようとした時、パシンと乾いた音が聞こえた。

「しっかりしなさい!!」

大きな声でいったのは、沙夜だった。

突然の登場に、風奈は驚いた。

いや、沙夜の登場より、彼女が手にしているものが一番の驚きだ。

沙夜の手には何故かハリセンを持っている。

「あ、あの――」

「風奈が無事でよかったわ。ちょうど寮の見回りをしていたら、誰かが叫んでいる声が聞こえたの」

沙夜は簡単に説明をした。

「すみません、こんな夜遅くに」

「気にしないで、これも生徒会長の仕事だから。それより――」

沙夜と風奈の下で、横になっている哀歌がいた。

ハリセンの効果なのだろうか。

気絶している。

「これは一体どういうことなの」

「それが私にも分からないんです。寝ていたら、突然哀歌が近づいてきて」

「突然?」

「はい」

何か気になることでもあるのか。

難しい顔をしている。

「風奈、ちょっと」

そういった瞬間、沙夜は風奈の首元に顔を近づけた。

微かな吐息が首元へかかり、少しくすぐったい。

胸の鼓動が何故だか、バクバクいっていた。

「――さ、や――」

「そういうことね」

もう、沙夜は風奈から離れ、一人で納得していた。

何がそういうことなのだろうか。

「え、何がそういうことなの?」

「風奈、もう遅いから続きは明日話しましょう。それに、この子もこのままでは悪いし」

そうだった。

話に夢中で、哀歌のことを忘れていた。

話も気になるが、今は哀歌を何とかしないと。

「分かった」

「では、おやすみなさい」

風奈の部屋を出て、誰もいない暗闇の廊下を進んだ。

途中、明かりが見えなくなり、窓から差し込む月明かりの中で沙夜はぽつりと呟いた。

「明日から忙しくなるわね――」



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