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第2話「吸血鬼の世界一日目」

翌日早朝、沙夜はある場所にいた。

そこは生徒会長室で、主に生徒会長だけが使うのを許される部屋だ。

時刻は午前七時半、まだ生徒は登校するのに早い時間である。

でもそこで沙夜は、一枚の紙を見つめていた。

「冬月風奈――」

見ているのは、昨日風奈に書いてもらった入学届だ。住所や学歴、特徴、健康状態などが書いてある。

沙夜は風奈が書いた一文字一文字をじっくりと読んだ。

すると、ドアをノックされ、月都が入ってきた。

「失礼します。会長、今日は早いですね。何かあったんですか?」

「ちょっと気になることがあって」

「ん? あぁ、昨日降ってきた彼女のことですね。大丈夫ですよ、俺が昨日ちゃんと寮まで送りましたから」

月都は眠そうに、軽い欠伸をした。

「そうじゃないの。彼女の住所はどこなんだろうって思って」

「住所?」

沙夜が考えていたことが違うことに、月都は気になり、沙夜の近くへ移動した。

「鷹峰市――月都、どこだか分かる?」

「いや、聞いたことないです」

「そうよね。ここは赤神国、市とかは使わないわ。他の国でも聞いたことないし――。それに、あの時どうして私の頭上から降ってきたのか」

難しそうな顔で考える沙夜。

ものすごく風奈のことが気になるようだ。

「会長、ここで考えるより、直接本人に聞いたほうが早いと思いますよ?」

「それもそうね」

さっきまで睨むように見ていた書類は机の中にしまい、カバンを手にした。

「月都、そろそろ教室に戻るわよ。授業が始まるわ」

「はい」



お昼休み。

風奈は自分の教室の隅にいた。

周りにはたくさんの生徒たちが風奈を囲い、質問攻めをしている。

「ねぇ、どうして沙夜さまの頭上から降ってきたの?」

「もしかして異世界から来たとか? そんなことないよな」

「代表者でもないのに、沙夜さまはどうしてあなたを選んだのかしら? 理由を知ってる?」

次々と降りかかってくる質問に、風奈は困っていた。

実は転校生ということで、このクラスに来て自己紹介をしたのだが、みんな聞きたいことがたくさんあるらしい。

それもそうであろう、なにせ、国王とか会長とかに選ばれて、しかも沙夜の頭上から降ってきたのだから。

答えたいけど、風奈も理由が分からないので答えられないでいる。

「みんな、落ち着いて。風奈が困ってるよ」

助けの声をかけてくれたのは、嬉しいことに、相部屋の哀歌だった。

哀歌は同じクラスなので、風奈にとって心強い存在だ。

「ありがとう、哀歌」

哀歌とはもう名前で呼び合える仲になった。

昨日、寮へ来たばかりで早いと思うが、今日の朝、哀歌から名前で呼んでもいいという許可をもらったのだ。

許可をもらうことはないものだが、友達ができて、風奈は喜んでいる。

哀歌のおかげで、周りにいた生徒たちは申し訳なさそうに離れていく。

これからこんな感じなのかなと思うと、参ってしまいそうだ。

でも、哀歌がいれば、どんな困難も乗り越えていける。

そう思った。

「風奈、昼食はまだでしょ? 一緒に食堂で食べよう」

「うん」

お昼はみんな、寮でお弁当を作って持ってくるか、学校の食堂で食べるかのどちらかだ。

寮でお弁当を作ってくれば良かったが、恥ずかしいことに風奈は料理があまりできない。

そのため、学校の食堂で食べるしかないのだ。

教室から出て食堂へ向かう。

「あ、でも、お金持ってないよ」

「大丈夫、私がおごってあげるから」

「ほんと? やった」

軽く喜んだ。

「その代り、後でお金返してね」

悪魔のように微笑むと、風奈は苦笑いをしながら承諾した。



食堂につくと、二人は食べたい物を選び、空いてる席へと座った。

この学校はバイキング形式のようで、自由に食べたい物を選ぶことができる。

風奈は、いつもと同じ、和食だ。特に卵焼きが大好物で、毎日欠かさず食べている。

だが、一つ問題が目の前にあった。

それは。

「ね、ねぇ、一つ聞いていいかな?」

「何?」

「哀歌の前にある、それ――」

風奈が見てるその先には、スープ専用の入れ物に、赤い色をしたものが入っていた。

見た感じ、ドロドロっとしている。

「これ、レッドスープっていうの。おいしいよ?」

「うっ――」

レッドスープ――

完全に血にしか見えない。

「そのスープって血だよね?」

「何言ってるの、当たり前だよ。もしかして風奈、これ嫌い?」

「いや、嫌いってわけじゃないけど――」

本当は嫌いといいたいが、早速できた友達と居心地悪くなるのが嫌で嘘をついた。

これ以上、いろいろ聞いてもどれも信じられないので、風奈は目の前にある物をもくもくと食べ始めた。

すると、しばらくして風奈は誰かに見られている気配を感じた。

風奈の周りには、同じように食事をしている生徒や、談話をしている生徒、料理を作ってるシェフの姿しか見えない。

気のせいか。

そう思い、前を向くと、一人の生徒が近づいてきた。

「あなた、この前沙夜さまに選ばれた人ですよね?」

どこかイライラしてる雰囲気も感じられる言い方だ。

「た、たぶんそうだと思いますけど――」

「くっ。あの時、あなたが来なければ、兄上が勝っていたかもしれないのに」

「兄上? 誰のことですか?」

「もういい! 転校生だか何だか知らないけど、忠告しておくわ。あまりはしゃいで調子に乗らないように! 分かった?!」

そう言い残すと、去って行った。

風奈は意味が分からず、去って行った彼女の後ろ姿を見つめる。

「えっと、どういうことかな?」

とりあえず、嵐は去ったので、さっきのことを哀歌に聞いた。

「今の人は、閃光氷さんの妹さん。小さい頃から氷さんにずっとくっ付いて、離れない、お兄さん好きだとか聞いたことあるけど、実は私も良く知らないの」

「そうなんだ」

風奈は哀歌の容器にあるレッドスープを見つめたまま、考え事を始めた。



昼食を終えた風奈と哀歌は食堂を出た。

時刻は十三時半。

まだ午後の授業が始まるまで三十分もある。

これからどうしようかと悩んでいると、また誰かが近寄ってきた。

「あの、この前沙夜さまに選ばれた人ですよね?」

「はい、そうですけど」

「いた! おーい、ここにいるぞー」

突然、男子が大声で叫び始めた。

その同時に、廊下が騒がしくなり、バタバタと走る音が聞こえてくる。

「えっ、えっ」

あたふたと困ってる間、既にあっちからこっちからと生徒が走ってきた。

「捕まえろ―」

「サインください」

「沙夜さまとどんな関係を?」

大体三十人ぐらいだろうか。

スピードを緩めることなく走ってくるので、風奈は反射的に逃げた。

「待ってください!」

待てといわれるが、そうもできない。

風奈は風のようにサッと走り続ける。

右に曲がっては進み、そして、階段を下りて上がっての繰り返し。

たまに待ち伏せをされることもあるが、そこを何とかして通り抜け、走る。

大分息も切れ始め、風奈は階段を上った。

上がった時『立ち入り禁止』と書かれた看板が立ってあったような気もしたが、今は緊急事態なので気にしない。

階段を上っていくと、一つのドアがあった。

「もしかして屋上?」

立ち入り禁止の看板、そして、複数の窓がありそこから外が見える。

屋上は哀歌に行ってはダメと言われた。

だが、今はピンチの時。

風奈は迷うことなく、ドアを開けた。

すると鍵もかかっていなく、簡単に開いた。

「涼しい」

さっきまで走りっぱなしで、汗だくだったので、風が心地よく感じる。

気持ちよさそうに風を受けていると、微かに追いかけてきた生徒たちの声が聞こえた。

「ここもやばいかな」

次の場所に行こうかと悩んでいると、とっさに、後ろから抱きしめられ引きずられた。

「えっ、ちょっと」

風奈のお腹に手を回して、離さないように抱きしめている。

感覚からすると、風奈より背が小さい。

手も少し子供っぽく、それでも、高校生並みの強さで抑えている。

これは女の子だろうか。

「危ないところだったわね」

突然、話始めたので、風奈は手を振りほどいた。

「えっと、助けてくれてありがとうございました」

「気にすることなんてないわ。元はといえば、私があなたを指したのが原因なんだし」

黄色いツインテール、大きくて赤い瞳、そして、小柄な体格。

とても綺麗で、どこかのお嬢様といいたいところだ。

「私を指した――それってつまり、あなたが」

「ええ、現生徒会長の鬼殿沙夜よ。よろしくね、冬月風奈さん」

沙夜は微笑み、手を差し出した。

「こちらこそ」

風奈は差し出された手を軽く握り、握手をした。

「さっきは危ない所だったわね。あのままでいたら、見つかっていたところよ」

「はい、本当に危機一髪でした」

沙夜は風奈を見る。

頭から足のつま先まで、何か不思議なものを見るような目だ。

どこかおかしいのか。

制服もきちんと着ているし、哀歌から聞いた校則違反もしてないはず。

風奈も気になる感じで、聞いてみる。

「あの、どこかおかしいところありますか?」

「あ、ごめんなさい。ただちょっと気になることがあって」

「気になること?」

何だろう。

とても気になる。

「気になることがあるなら、何でも言ってください。私は大丈夫ですから」

そういっても、沙夜は言いづらそうな表情をしている。

何をためらっているのか。

「沙夜さん、もしかしたら私の為になることかもしれないので、遠慮なくどうぞ」

「それもそうね――。まず、私たちの呼び方を変えたいんだけど」

「いいですよ。えっと、沙夜さんのことは何て呼べば――」

ニコッと微笑み

「呼び捨てでいいわ。私があなたを選んだわけだし、これからもっと関わることになるから」

といった。

「分かりました。じゃあ、私のことも呼び捨てで」

「ええ」

その一瞬、風が吹いた。

秋の風だろうか、とても心地よい爽やかなものだ。

お互い髪の毛とスカートを抑えた。

そして、風が通り過ぎると、沙夜は真面目な顔になった。

「それで風奈、気になることだけど」

「はい」

「――あなた、人と会ったことある?」

人。

それはつまり、人間だ。

人といえば、この中で風奈しかいない。

この世界から見ても、風奈だけだろう。

「人ですか? えーと、ないです」

「そう。変なことを聞いてしまってごめんなさいね。ないならそれでいいのよ」

どうして、人と出会ったことがあるのか聞いた意味が分からなかったが、風奈は自分のことをことを話せない、いや、話したら何か怖いことでもありそうな気配を感じたので情報を漏らすのをやめた。

それから二、三分してちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。



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