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第1話「赤神学院」

赤神学院、三階神王室。

今、次期生徒会長と国の王になる者の選抜会が行われていた。

生徒会長と国の王は全て選ばれた者だけが勤まる。

上段には選ばれた代表者が三人、そして、現在の会長――王でもある鬼殿沙夜がいた。

「以上で代表者三人の演説は終了した。どの代表者も赤神学院やこの国のトップになるのに相応しい存在よ。でも、トップになるのはただ一人。今、現生徒会長と王である私が、次期に相応しい人を決めたいと思う」

生徒みんなに向かって沙夜は熱く語った。

一斉にワーッという歓声が神王室に広がった。

「みんな静かに」

沙夜は鋭い目つきで、生徒たちを見回した。

赤い瞳に、見ていると何もかも見空かれてしまいそうな、独特の目だ。

その恐怖に恐れ入ったのか、生徒たちは遅れることなく全員同時に静まり返った。

「では、次期生徒会長、そして、次期国王になる者を選ぶことにする」

さっきまでの騒ぎは嘘だったかのように、緊張した空気が広がる。

「次期生徒会長、そして、国民をまとめる次の国王は――」

と、次の瞬間、沙夜の頭上に何かが光始めた。

丸い輪っかみたいなのが出来て、誰もがそれを見つめる。

「何だ、あれは」

代表者の一人である、閃光氷が口にした瞬間、その輪っかからものすごい速さで何かが降ってきた。

ドシンッという音と共に、生徒たちは騒ぎ混乱する。

「きゃー、何! 何が起こったの!」

「何だ今のは」

生徒が声をあげる中、沙夜の上には重たいものが覆いかぶさっていた。

あの輪っかから降ってきて、沙夜にぶつかってしまったのだろう。

その衝撃で、床に倒れこんでいる。

「すぅーっ、いたたたたた。一体、何がどうなって――」

沙夜の上に被さっていた人物は体を起こした。

どこか痛めたのか、しきりに頭を気にしている。

「あっ。だ、大丈夫ですか?」

彼女は自分の近くで倒れている沙夜を見つけ、声をかけた。

「うっ、え、ええ。平気――よ」

倒れている体をお越し、声をかけてくれた人物を見た。

とても可愛らしい整った顔立ちで、傍にいると暖かさで包まれそうな感じが出ている。

そう、ずっと日光を浴びてきた、向日葵のような存在だ。

「良かった。安心した」

胸をおろし、一息ついた。

「会長! 大丈夫ですか?」

二人が座り込んでいると、代表者の一人――閃光氷が心配して駆けつけてきた。

沙夜と見知らぬ彼女は気が付いてないみたいだが、生徒や先生たちは驚いて、混乱している。

「ええ、大丈夫よ。ごめんなさい、式を中断してしまって」

「いえ、大丈夫ですけど、こちらの方は?」

沙夜と氷は未だ座り込んでいる彼女を見つめる。

そして、少しずつ落ち着いてきた生徒たちも、彼女を見つめた。

自分が注目されているのに気が付き、彼女は立ち上がった。

「あ、あの」

どうしていいか分からず、彼女は混乱していた。

さっきまで下校していたのに、見たこともない場所に来ている。

制服も違う、学校も違う、ただ同じなのは自分と同じ日本語で通じるということだ。

「もういいわ、彼女のことは後回しにしましょう。今は大事な式の途中。こっちを優先させるのが先決よ」

「はい、分かりました」

わけが分からないまま、彼女は他の生徒に壁際まで移動させられた。

神王室内はさっきの騒動で少しざわついているが、沙夜が演壇の前に着いたことで静まり返った。

「先程は突然の事故で中断してしまいましたが、これから再開したいと思います」

ゴクッと唾を飲みこむ人もいるだろう。

緊張の中、沙夜がいうのを待つ。

「次期生徒会長、国の王になる者は――彼女に決定します」

沙夜は手を彼女に向けた。

え? 何?

意味が分からず、キョロキョロする。

そこに、閃光氷が沙夜の元へ走った。

「どういうことですか! 会長! 選ばれるのは俺たち、代表者の中からのはずなのに。よりによって、名前も身元も分からないあの彼女だなんて」

氷は必至に沙夜へ話した。

「これは決まったこと。取り消すことなんてできないわ」

「そんな――くっ」

氷の表情は強張り、握りこぶしを強く作った。



同日午後。

神王室内で自己紹介した――冬月風奈は学校の隣にある寮へと向かっていた。

沙夜の言いつけで、風奈は赤神学院の生徒となり、次期生徒会長、そして次期国王と決まった。

そのため、風奈はまずこの学院で学んでもらうことにしたのだ。

「あ、あの、ここはどこなんですか? それに、次期生徒会長とか何とかって分からないんですけど」

風奈の前には沙夜の側近である――笹井月都がいた。

彼は少しだけ手入れした髪の毛に、不良っぽい制服の着方をしている。

もっと手入れをすれば真面目そうに見えるが、これが彼のスタイルなのだろう。

そこは触れないようにしよう。

「ここは赤神学院。吸血鬼の生徒たちが通う共学の学校だ。まぁ、完璧な吸血鬼になるためにみんな学びに来てるって感じかな」

吸血鬼? 赤神学院?

風奈は理解できず混乱していた。

どれも信じられないことばかりで、仕方ないだろう。

でも、これが事実なのだ。

吸血鬼や学校のことは端に置くことにして、他の事を聞いてみた。

「何となく分かりました。それで、もう一つのことは?」

「次期生徒会長、次期国王のことだな。それは前から決まっていて、生徒会長とこの国を治める国王になることが定められている。その者になるのは、現代の会長が決めるんだ。それを決める時期は今頃、二年ぐらい経ってからかな。そんで、お前が来た時、ちょうど決めていたところだったというわけ」

「ん? つまり、あの時私がその生徒会長と国王に選ばれたってことですか?」

「そういうことになる」

なんてことだろう。

国王と生徒会長に選ばれるなんて。

生徒会長なら何とかなるかもしれないけど、国王となると、難しい。

まだこの学校や外のことも知らないし、それに、吸血鬼とかわけが分からな過ぎる。

ここはまず、吸血鬼ではない人と話をしないと。

「吸血鬼ってことは、月都さんも吸血鬼なんですよね?」

月都は表情を変えず返事した。

「あぁ、そうだよ」

「ということは、歯に牙が?」

「あるよ。でも、これは仕事や授業の時しか使ってはいけないんだ。みんなその時に血を吸いお腹を満たしている。もし、授業や仕事以外でお腹が減ったら吸血パックというのがあるから、その心配は大丈夫だ」

風奈はますます分からなくなっていた。

「とりあえず頭の隅に入れておきます。あともう一つ、人間はいるんですか?」

全校生徒が吸血鬼となると、外には一人か二人ぐらい私と同じ人間がいるだろう。

いなかったら、吸血鬼だけの世界となる。

月都は驚いた表情で、答えた。

「お前、本当にこの世界のこと何も知らないんだな。人間なんてとっくの前に滅びただろ。滅びたより、俺たちが滅ばせたんだがな」

「それってどういうことですか?」

「俺たち昔の先祖が人を襲い、血を吸いまくったってことだ。あまりにも血を吸うから、人間たちは子供を産まなくなった。子供を産めば、また俺たちの餌ができてしまう。そんな悲しいことを子供たちにさせられないと思って、次々に人は子孫を残さず滅んでいったってことだ」

そんな悲しいことがあったなんて。

とても信じられない。

「えっ、ちょっと待ってください。それってつまり、人間は今この世にいないってことに――」

「前からそういってるだろ。おかしな奴だな。お前も吸血鬼なんだから、それくらい知ってるのが普通だろ」

私が吸血鬼?

まさか、みんな私のことを吸血鬼だと思っているのだろうか。

もし、そうだったら私はこれからどうやって過ごせばいいの?

よく分からない。

風奈は思いつめたまま、歩いた。

「よし着いたぞ」

風奈と月都の前に、大きな寮が立っていた。

これからここで生活することになる。

一刻も早く自分の世界に戻る方法を調べないと。

そう思いながら、寮の入り口に入ろうと進むと、声をかけられた。

「あともう一つ言い忘れた。吸血鬼同士キスをしてはならない」

「どうしてですか?」

「吸血鬼は皆、口元付近まで顔を近づけると、血を吸いたくなってしまうんだ。掟で、吸血鬼同士の吸い合いは異常行動が出たりするから禁止とされている。まっ、キスできなくても、恋愛はできるから気にするな」

「それじゃ」

そう言い残すと、月都は行ってしまった。

寮前に取り残された風奈は、頭の中で整理しながら夜の星空を眺めた。



寮に入り、管理人に挨拶を済ませ、自分の部屋へと向かった。

廊下を歩き、いくつもの部屋番号が書かれたドアの前を通り過ぎていく。

そして、目的の二〇五号室へと着いた。

「ここが私の部屋」

軽く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

管理人から聞いたところ、寮は個室ではなく相部屋らしい。

つまり、もう一人誰かと一緒に生活することになる。

――コンコン。

ノックをし、ドアを開ける。

「失礼します」

そっとドアを開けると、既に相部屋の人が中で待っていた。

「あ、来た。初めまして、九宮哀歌といいます」

「は、初めまして、冬月風奈です」

見た感じ、おっとりしていて優しそうな子だ。

少し痩せ過ぎのような感じもするが、具合も悪くなさそうだし大丈夫だろう。

ベッドに荷物を置き、そこへ座る。

「ええと、何から話せばいいのかな?」

普通の転校生なら教室とかで挨拶してみんなと対面するのだが、風奈の場合全てが違う。

突然、沙夜の頭上から降ってきたので、転校生とわけが違う。

「う~ん、この学校のことは聞いた?」

「うん、それはさっき月都さんから聞いたよ」

「月都さん――」

ふっと、哀歌は遠くを見るような感じになった。

「月都さんがどうかした?」

「あっ、ううん、何でもないよ。それより、まだこの寮の説明は聞いてないでしょう?」

「あ、そうなんだよね。よかったら教えてくれるかな?」

「喜んで。この寮は赤神生徒が使っていて、男子寮と女子寮に分かれているの。それで、三階に浴場やマッサージルーム、卓球やゲームで遊べる部屋があって、二階には生徒が使う部屋があるの。一階は食堂、売店、受付けって感じかな。あ。あと、四階に屋上があるんだけど、そこは立ち入り禁止だから入っちゃダメだよ」

屋上が立ち入り禁止。

それはどこの学校も寮も一緒なんだな。

その一つだけでも一緒なのがあると、少し安心する。

「分かった、教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。それじゃ、そろそろ就寝時間だし寝ようか」

「うん、おやすみ」

「おやすみ」

荷物の整理もついたので、風奈と哀歌はベットに横になった。

夕食は月都と一緒に学校の食堂で食べたので心配ない。

だが、お風呂はまだだ。

これから入りに行くのもいいが、一人で、しかもまだこの寮に慣れてないので行きづらい。

明日の朝、哀歌と一緒に行こう。

そう決め、風奈は夢の中へと入っていった。


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