ありがとう
関の渡英はグレイトロックTVで告知され、誰もが知るトコロとなった。
ファンのみんなは意外と歓迎ムードで悲しむ声は余り無かった。
メンバーもみんなそうで、淋しがってんのはどうやらアタシだけのようだった。
まぁ番組の企画だから随時様子はオンエアされるだろうしワンワーを辞めるワケでもないしね。
でも、
アタシにとって関は、
芸人サンで言う、
“相方”
そのものだから。
だから関に告白されてもきっぱり受け入れられないって言い切れるし、
この先も関に気持ちが行くコトはないんだって言い切れるんだなって、
関と離れるって実感がわいてから思った。
そう、“相方”。
関は唯一無二の“相方”なんだ。
関がどう思っていようがアタシにとってみれば関は相方以外のナニモノでもないのだ。
“相方を失うと言うのは、自分のカラダの一部を失うのと同じだ”
“相方は臓器のようなモノだ。臓器を好きと言う人はいないが、臓器がなければどうしようもない”
と、前に何かである芸人サンが言っていた。
アタシも芸人じゃないけど正にそんな心境。
だけど自分でも不思議。
あんなコトを言われちゃってるにも関わらずこうも割り切れるなんて。
“相方”と言うか、
“戦友”?
かも知れないけど。
アタシはそんな気持ちを曲にしてみた。
関に贈る歌として。
「“桜の樹の下で”よりも名曲になりそうな予感がするなぁ」
ホンキなのかおふざけなのか、龍神サンがそう評してくれた。
龍神サンにプロデュースとまではさすがにおこがましくて言えないけど一番先に見せたかったから。
関の気持ちを唯一知る方として一番に見て欲しかったんだ。
関が渡英する直前のツアーの最終日で披露したいななんて。
公に出さず関にダケ聴かせるなんてこっ恥ずかしいコトはアタシの性には合わないからさ。
「結構さぁ、誰かの為に創った曲が名曲になったりするんだよな」
と龍神サンが呟いた。
確かにそう言われて見ればそうだなぁ。
そういう話、結構聞く気がする。
今いるのはvivienサンの事務所。
スタジオでの作曲作業中にも関わらず、龍神サンが自ら呼んでくれた。
「テツにも聴かせてイイか?」
え゛っっっ。
ぃや、・・・いっか。
『ハイ。恥ずかしいですけど』
何を恥ずかしがる必要があんのよ、アタシってば。
自分のバンドのリーダーでしょうに。
いずれはみんなにも知れるんだし。
龍神サンにチェックしてもらったんだから自信持て!!
「コレ、番組の関のコーナーで使えんぞ?」
そんな大袈裟なっ!
益々恥ずかしくなるよ。
『そんなぁぁぁ』
アタシもじもじ。
しばらくしてテッちゃんが現れた。
「おはようございます!!お忙しいトコロ申し訳ありません」
今日はワンワーは全員久々のoff。
テッちゃんは1人でドライブしていたトコロだったらしく、しっかり手土産を持参してきてくれた。
「いつもわりぃな。気ぃ遣うなよ。オレは気分転換になってるんだから」
無邪気さすら感じる笑顔。
早速聴いてもらった。
関のアタシに対する気持ちのコトは一切触れてない。
それこそそんなコトしたら公に出せなくなっちゃうからね。
関に対するアタシの気持ちを素直に綴ってみたの。
嘘偽りなく。
関がいなかったら今のアタシはないって、常々言ってるコトではあるけれど。
ズバリタイトルは、
“ありがとう”
お別れ色が出ないように“ありがとう”を全面に出している。
一曲のウチに“ありがとう”が22回出てくる。
自分自身、“しつこいよ!”って思ったケドこれ以上は減らせなかった。
これでも減らしたくらいなんだよ。
「ひよ!」
珍しくテッちゃんが叫んだ。
思わずカラダがビクンと反応してしまった。
「コレ、イイ!!」
テッちゃんの目がやたらとキラキラしている。
キョドり気味で龍神サンの顔を見ても龍神サンは微笑んでいて。
「だろ?」
ドヤ顔の龍神サン。
「お前ドコにこんな才能隠してたんだよ!!出し惜しみすんなよ!!!」
衝撃的だった。
声を張り上げるコトがほとんどないあのテッちゃんがこんなにコーフンするなんて。
「ヒヨにしか歌えないとは思うケド、コレ、オレも演りたい」
??????????????????????????????
しばらく辺り一帯がフリーズしたのが自分でも分かった。
『へっ?????』
声に力が出なかった。
テッちゃんも絶句しっぱなし。
「ダメだよな、そりゃ」
口を開いたのは龍神サンだった。
笑いながら。
「ぃや、ゴメン!オレはオレ目線の“ありがとう”を創るよ。オレからの関に対しての応援歌」
!!!!!!!!!!!!
もっとビックリだよ!!!
またフリーズ。
でも、今度はアタシだけだった。
「ヒヨには負けんだろうけど、男同士の立場として。まっ、関の渡英の発端はオレだし。ヒヨに感化されちまったよ」
照れ臭そうに言う龍神サンに対してテッちゃんは笑って返せてたけど、アタシは硬直したままだった。
笑えるかっっっ↑↑↑↑↑
「ありがとうございます!!純也、絶対喜ぶと思います」
テッちゃんがすぐさまアタマを深々と下げた。
喜ばなかったらアタシがアイツを許さないよっ!!!
かくして、このコトがきっかけでツアー最終日はとんでもないビッグサプライズが起きるコトとなるのだけれど、
このコトを知っているのアタシとテッちゃんと龍神サン(vivienメンバー含む)ダケと言う、モトさんやスタッフさんにすらトップシークレットと言う徹底ぶりでしかもぶっつけ本番で当日を迎えるコトとなる。
「どう?」
どう?
って・・・
龍神サンからの呼び出し。
“聴いてもらいたい”って言うからかなり期待してきた。
のだが。
良くないワケがないじゃないのよぉぉぉ!!!
アタシの想像を遥かすぎる程に越えていた。
龍神サンバージョンの“ありがとう”はとてつもなく素晴らしかった。
そりゃあ大大大先輩に対して言うべきコトバじゃないコトはわかってるよ?
だけど言わずにはいられなかった。
アタシの“ありがとう”がてんでちっぽけに見えた。
『アタシのなんかより、何億倍も素晴らしいです!!』
鳥肌立ったわぁぁぁ。
「ひよのお陰だから」
・・・・・・・・・・、
ぴやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ→→→→→!!!!!
もう龍神サンとはかなり親しくさせて頂いてるケド、こういうのはまだまだ慣れないよ!!!
龍神サンにそんなコト言われるなんて。
おこがましいにも程があるよ。
“天にも昇る気持ち”とは良く言うケド天なんか軽くスッ飛ばして大気圏をも遥かにぶっ飛ばして、一瞬で宇宙の彼方に昇ってしまいそうな気持ちだ。
『ぃやぃや、そんな…。コーナーで使うのはこっちですよ!!』
恐縮しきり。
メチャクチャカッコいい曲だし。
今までの曲とはまた違うvivienサンの“漢らしさ”が爆発してるって印象で。
アタシどうしようもなく尻込み。
しかもアタシの“ありがとう”はアタシとテッちゃん以外にはトップシークレットだからピアノとギターだけ。
かたや龍神サンのタイトルはズバリ“応援歌”は、フルvivienバージョンだから当然カッコいい。
・・・ってキャリアの差を考えたら尻込みする必要もないのだけれど。
逆に尻込みする方が失礼だよな。
「このROMちょっと借りてイイか?」
ん?
何か思わせ振りな笑みを浮かべてる。
『ハイ』
何だろうとは思いながらも返事してみたが。
ツアー最終日まで、あと10日。
今回のツアーは初日を東京で迎え、最終日を地元で迎えるまでに5ヶ所で行われる。
札幌・新潟・大阪・名古屋・福岡。
期間的にはトータルで約1ヶ月。
グレイトロック前の武者修業で何ヵ所かライヴハウス巡りをしたりキャンペーンやラジオなんかのゲストとかで行ったコトがあるトコロばかりだったけど、
ツアーで行くのはまた違ってとっても新鮮だった。
その土地の人達がどんなカンジなのかわかんないからドコの会場も同じようにもちろん最初から全開で行ったんだけど、その会場によって全然盛り上がり方が違くて、すっごい楽しかった♪♪♪
やっぱりライヴはイイねっっっ!!!と実感させられた初全国ツアーだった。
その合間を縫ってアタシとテッちゃんは極秘な練習を積み重ね。
2人で一緒に抜けてバレるといけないから、別々に。
そこまで徹底して。
あるツアーの中休み日の夜、事務所のスタジオで練習していたらまたしても龍神サンから連絡が来た。
「今ドコ?今からちょっと時間イイか?」
声はかなりご機嫌。
『ハイ。今1人で事務所ですケドどうしましょう』
何だろ、このご機嫌よう。
酔ってんのか?
「事務所か。分かった、迎えに行く」
ひゃぁぁぁぁぁ↑↑↑↑↑
ホントに今さらだけど、
ホントに何回言われても慣れないわぁ。
言われる度にドキドキしてアドレナリンが爆発するよ。
その度に心の中で天を仰いで胸元で十字を切っちゃうよ。(クリスチャンじゃないけど)
ドキドキしながらも練習しながら龍神サンが来るのを待っていた。
と言ってもイマイチ集中出来ず。
ダメだ、コーヒーでも飲んで落ち着こう。
コーヒーを飲みながらもそわそわし出したアタシに気付いたスタッフさんがニヤケ気味に声を掛けてきた。
「アレ?もしかしてデート??」
事務のナツコさん。
『ぃやっっっ!!デートなんてそんな!師匠からの呼び出しです』
照れまくりで否定。
アタシってそんなに分かりやすいかなぁ。
ちょっと恥ずかしいぞ。
落ち着け、アタシ。
「お疲れ様です」
アレ?この声は。
「お疲れ様です」
ナツコさんが何の違和感も持たずに返す。
振り返ると声の通りミヒロさんだった。
「お待たせ。お迎えに上がったわよ」
へっ?
「何てカオしてんのよ。行くわよ。龍神じゃなくてゴメンね」
笑われた・・・。
そんなにヘンな顔してたのか?アタシ。
ミヒロさん1人で運転してきたみたいで車内ではメチャクチャガールズトークに華が満開だった。
ミヒロさんに連れていかれたのはvivienサンの事務所だった。
ちょくちょく来る。
『ココだったら自分で来れましたよ?』
きょとんとし気味で。
「何言ってんのよこんな時間に!!大丈夫、気にしないで。アタシが行くって言ったんだから」
『ありがとうございます』
恐縮。
とは言え“こんな時間”って程“こんな時間”でもないぞ?
だいたい“こんな時間”に帰り足のコト考えずに事務所にいたし。
アタシ、お気楽過ぎ?
ん?レコーディングブース???
何で!?
無数のハテナを飛ばしながら中に入ると龍神サンが1人でいた。
「おぅ!忙しいトコゴメンな」
『いいえ。おはようございます』
「コレ、ヒヨリから。大丈夫よ、買ったのはアタシだから」
来る途中のコンビニでミヒロさんに会計だけお願いしてビールを買ってもらったの。
アタシはまだ買えないからね。
“『すいません、コレで買ってきて下さいっ!』”
ってお金渡して。
“「何も気ぃ遣わなくてイイのよ?」”
って言ってくれたんだけど無理言って。
「要らねぇっての。テツもヒヨも悪ぃな」
何を仰いますやら。
こんな、たかだか缶ビール数本程度じゃ効かない程にお世話になってるってのに。
しかも酒豪のvivienサンにはケースでだって足りないだろうに。
『気になさらないで下さい。むしろこれっぽっちで申し訳ないくらいです』
何度もアタマを下げながら。
「バカ言え!!」
高笑いしながらも早速ビールに手をつける。
ミヒロさんに聞いて好きなおつまみも買って。
おっっっ!!!
不意に流れたのはとってもステキな、ストリングスのメロディだった。
って、
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??????????
心臓が飛び出そうで声にならない叫びを上げた。
コレ、“ありがとう”だよぉぉぉ!!!
イントロが見事にストリングスバージョンにアレンジされていた。
目まで飛び出そう。
そのまま直立不動。
龍神サン、大爆笑。
「オレからのささやかなプレゼント。ヒヨにやる。好きに使え」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ???????????????
『だだだだ・・・、』
落ち着けアタシ。
「大丈夫だって。大したモンじゃねぇから」
いやいやいやいや、大したモンでしょ。
コトバにならない。
「オレが勝手にやったんだから気にすんなって。あくまでもヒヨに対してのプレゼントなんだから」
はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・。
「気に入らないとか、テツと2人でやりたいとか言うなら、コレはコレで取っとけばイイよ。コレはオレがヒヨに上げたモンなんだから、使おうが使うまいがどう使おうがヒヨの好きにすればイイ。後になってから著作権がどうなんて、みみっちいこと言わねぇから心配すんな」
コトバが・・・
出ない・・・。
代わりに出るのは大量の涙と嗚咽ダケ。
「よしよし」
優しい声でなだめられますます泣けてくる。
アタマを撫でてくれる手が有り得ないくらいに優しかった。
もうアタシの理性は崩壊していた。
私は大胆にも龍神サンの胸に顔を埋めてしまっていた。
龍神サンの前ではいつまで経ってもやっぱりコドモなんだな。
気付いた。
いくらアタシがメンバーやスタッフに絶対の信頼感を持っているって言っても、
ソレは、
少なからずとも男子だらけの中で負けじと強がって(闘って)いる、
“ワンワーのひよ”
なんだって。
龍神サンの前では、
完全に、
“彩沢陽依”
なんだ。
どんなに“ワンワーのひよ”でいようと思っててもこの人には敵わない。
それはきっと、
アタシが龍神サンと出逢ったのが“ワンワーのひよ”としてではなく、ワンワーに入る前の、“イチ女子高生の彩沢陽依”だったからだ。
だからこそきっと、関は音楽仲間としての“相方”でしかいられないんだ。
わかったよ、やっと。
『ありがとうございます、龍神サン。アタシ、わかりました』
泣きながらぐずぐずの涙声でイマイチ力が出ないケド振り絞って言った。
何を聞き返すでもなく龍神サンは黙ってただ笑顔で頷いていた。
帰宅後アタシは関に電話をした。
言うコトなのかどうか、直接言おうかどうか散々迷った挙げ句、勇気を出してやけっぱちでも言ってくれた関に敬意を表する意味でもアタシも直接言うコトにした。
って言っても電話でだケド。。。
さすがに今からは呼べないし。
関は最後まで黙って聞いてくれて最後にこう言ってくれた。
“「やっぱり龍神サンに勝とうなんて、百億万光年早ぇんだな。相手が悪すぎるよ。まぁ、龍神サンには敵わなくてもオレにとっての目標にはなるな」”
“『ゴメン』”
って言うしか、出来なかった。
関は笑って続けた。
“「謝んなよ。ひーのホントの気持ちが聞けたダケでオレは十分満足だから。修業の明確な目標が出来たしさっ!ひーがそこまで気付けたのは、オレじゃなくテツさんとかでもなく龍神サンだったんだ。それはそれで悔しいけど嬉しいし、龍神サンに感謝しなきゃいけないからな」”
そう言う関がどことなく男らしく感じた。
申し訳なくも嬉しくてすかさず言っていた。
“『だけど、何万回だって何億回だって言うケド、ワンワーのヒヨは、誰あろうアンタのお陰で存在するんだからね』”
って。
関はただ一言、
“ありがとう”
ってメチャクチャ照れ臭そうに呟いた。
“「ぶっちゃけオマエにフラれた時、こんなコトならあの時オマエからのバンド演りたいって相談に乗んなきゃ良かったって後悔した」”
ショックだった。
何も言えなかった。
そんなにも想ってくれたなんてって。
“「ちっちぇ〜な、オレ。やっぱりオマエの言う通り小僧だよ。だけどオレも今気付いたよ。オマエが龍神サンを好きになった時点で、既に手遅れだったんだな」”
関はサクッと笑いながら言ってるケド、聞いてるアタシは顔から火を吹きそうな程に照れている。
“「相手がどうとかの前に、オマエが龍神サンに影響を受けた時点でこうなるようになってたんだよ、きっと」”
屈託なく笑い飛ばす関。
関のあまりの屈託の無さにアタシは思わず
“『そうかもねっ』”
と答えていた。
電話の最後にもう一度、
“「ありがとう」”
って関に告げて。
関は照れ笑いするだけだった。
ツアー最終日、
2日前の、真夜中の出来事だった.....




