恐怖の贈り物
魔王は、曇った空を見上げていた。
ここは魔王城の広い庭の一角だ。
魔王はこの庭から夜空を眺めるのが好きで、部下のモンスターたちには立ち入りを禁じている。
庭を荒らした者は処刑。理由もなく入った者も処刑。うっかり迷いこんだ者も、事情を聞いたうえで処刑である。
「今宵も空は暗く、稲光が美しい」
そのとき、雷の走る空から何かが降りてきた。
八匹のトナカイが引くそりだった。
乗っているのは、赤い服を着た老人である。
「ホゥホゥホゥ。わしはサンタクロースじゃ」
老人は大きな袋を背負い、庭に降り立った。
「サンタクロースだと? 我に何の用か」
「お願いがあってのう。子どもに贈るプレゼントを探しに、異世界から来たのじゃ」
「くだらん。消し炭になるがいい」
魔王は掌を向けた。
すると炎が噴き出し、サンタクロースを包みこんだ。
だが、炎はすぐに消えた。
サンタクロースは服を軽くはたく。
「熱いのお。だが、わしには一切の攻撃が効かん」
「何?」
「無敵でなければ、サンタクロースは務まらんのでな。クリスマス商戦をなめるでない」
白ひげ一本焦げていない。
トナカイたちは少しだけ迷惑そうな顔をしていた。
魔王は眉をひそめる。
異世界の怪物か。
あまり関わらないほうがよさそうだ。
だが、反撃するつもりはないらしい。望みの品を手に入れれば帰るだろう。
「よかろう。我が力をもってすれば、手に入らぬ物などない。望む品を言え」
魔王が腕を組んでたずねると、サンタクロースは夜の庭をきょろきょろと見回した。
「何を見ている」
「プレゼントの名前を教えてもよいのじゃが、人払いをしてほしくてな」
「人払い? なぜだ?」
「子どものためのプレゼント情報は重要機密じゃ。誰かに盗み聞きされては困る。夢と機密は守らねばならん」
「安心せよ。この庭には我しか入れぬ。いらぬ心配はせず、申すがよい」
「そうか。しかし、わしは心配性でな。教えるから、耳を貸してくれんか」
サンタクロースは手招きした。
魔王はふんと鼻で笑う。
「よかろう。秘密を扱う器の大きさも、王の条件のひとつよ」
そう言って、ゆっくりとサンタクロースのもとへ歩み寄る。
そして、その口元に耳を近づけた。
サンタクロースは、にこにこと笑ったまま、静かな声で言った。
「探し物は、お前じゃ」
次の瞬間、サンタクロースの拳が魔王の腹にめりこんだ。
その一撃は、人生設計まで粉砕しそうな重さだった。
「がはっ!」
魔王は白目をむいて地面に倒れ、そのまま気を失った。
「よし」
サンタクロースは手際よく魔王を袋に押しこみ、口を縄で縛る。
袋は不思議なくらいきれいな丸みを保っていた。贈り物として申し分ない形である。
「魔王を欲しがっている子どものもとへ出発じゃ」
サンタクロースは袋をひょいとかつぎ上げ、そりに載せた。
自分も軽やかに飛び乗ると、トナカイに鞭を入れる。
目指すは、魔王のいない平和な世界。
大きな災厄を積んだそりは、雷雲の向こうへ消えていった。




