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恐怖の贈り物

作者: 武ナガト
掲載日:2026/04/09

 魔王は、(くも)った空を見上げていた。


 ここは魔王城の広い庭の一角だ。

 魔王はこの庭から夜空を眺めるのが好きで、部下のモンスターたちには立ち入りを禁じている。

 庭を荒らした者は処刑。理由もなく入った者も処刑。うっかり迷いこんだ者も、事情を聞いたうえで処刑である。


今宵(こよい)も空は暗く、稲光が美しい」


 そのとき、雷の走る空から何かが降りてきた。


 八匹のトナカイが引くそりだった。

 乗っているのは、赤い服を着た老人である。


「ホゥホゥホゥ。わしはサンタクロースじゃ」


 老人は大きな袋を背負い、庭に降り立った。


「サンタクロースだと? 我に何の用か」


「お願いがあってのう。子どもに(おく)るプレゼントを探しに、異世界から来たのじゃ」


「くだらん。消し炭になるがいい」


 魔王は(てのひら)を向けた。

 すると炎が噴き出し、サンタクロースを包みこんだ。


 だが、炎はすぐに消えた。


 サンタクロースは服を軽くはたく。


「熱いのお。だが、わしには一切の攻撃が()かん」


「何?」


「無敵でなければ、サンタクロースは務まらんのでな。クリスマス商戦をなめるでない」


 白ひげ一本焦げていない。

 トナカイたちは少しだけ迷惑そうな顔をしていた。

 魔王は(まゆ)をひそめる。


 異世界の怪物か。

 あまり関わらないほうがよさそうだ。

 だが、反撃するつもりはないらしい。望みの品を手に入れれば帰るだろう。


「よかろう。我が力をもってすれば、手に入らぬ物などない。望む品を言え」


 魔王が腕を組んでたずねると、サンタクロースは夜の庭をきょろきょろと見回した。


「何を見ている」


「プレゼントの名前を教えてもよいのじゃが、人払いをしてほしくてな」


「人払い? なぜだ?」


「子どものためのプレゼント情報は重要機密じゃ。誰かに盗み聞きされては困る。夢と機密は守らねばならん」


「安心せよ。この庭には我しか入れぬ。いらぬ心配はせず、申すがよい」


「そうか。しかし、わしは心配性でな。教えるから、耳を貸してくれんか」


 サンタクロースは手招きした。


 魔王はふんと鼻で笑う。


「よかろう。秘密を扱う器の大きさも、王の条件のひとつよ」


 そう言って、ゆっくりとサンタクロースのもとへ歩み寄る。

 そして、その口元に耳を近づけた。


 サンタクロースは、にこにこと笑ったまま、静かな声で言った。


「探し物は、お前じゃ」


 次の瞬間、サンタクロースの(こぶし)が魔王の腹にめりこんだ。

 その一撃は、人生設計まで粉砕(ふんさい)しそうな重さだった。


「がはっ!」


 魔王は白目をむいて地面に倒れ、そのまま気を失った。


「よし」


 サンタクロースは手際よく魔王を袋に押しこみ、口を縄で縛る。

 袋は不思議なくらいきれいな丸みを保っていた。贈り物として申し分ない形である。


「魔王を欲しがっている子どものもとへ出発じゃ」


 サンタクロースは袋をひょいとかつぎ上げ、そりに()せた。

 自分も軽やかに飛び乗ると、トナカイに(むち)を入れる。


 目指すは、魔王のいない平和な世界。


 大きな災厄(さいやく)を積んだそりは、雷雲の向こうへ消えていった。

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