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あの頃

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/10

夕方前の道は、まだ昼の温度を少しだけ残していた。

フロントガラスの向こうで、アスファルトがゆるく光っている。


ハンドルを握りながら、ほんの少しだけ首を横に向けた。

道路の外には、当たり前のように家が並び、看板が立ち、

遠くに木が揺れている。


免許を取る前は、

こういう景色を眺めながら走るものだと思っていた。

映画の中みたいに、ゆったりと。

風景を楽しみながら、どこまでも行けるようなものだと。


けれど実際は違った。


左右を少し見ただけで、車はすぐに進路を外れそうになる。

白線に意識を戻し、前を見て、ミラーを見て、

また前を見る。

気を抜く余裕なんてほとんどない。


こんなものか、と思った。


なんとなく、がっかりした。

誰にも言うほどじゃないけれど、

心のどこかが少しだけ沈む感じ。


そのとき、ふと、似たような気持ちを昔にも味わったことがある気がした。


思い返せば、小さい頃はそんなことがよくあった。


期待して買ってもらったおもちゃが、

思っていたほど面白くなかったとき。


パッケージの絵だけ見て選んだゲームが、

想像していた内容と違ったとき。


初めて見たお菓子を買って、

きっとこういう味だろうと想像して口に入れたら、

全然違う味だったとき。


あの頃は、よく外れた。


でも、その外れ方はいつの間にか減っていった。


成長するにつれて、

見ただけでなんとなく味が想像できるようになった。

おもちゃを手に取ることも減った。

ゲームを買うときは、先に内容を調べるようになった。


失敗しない選び方を覚えた。


その代わり、あの小さながっかりも、

いつの間にか感じなくなっていた。


ハンドルを少し切る。

新しい車のエンジンは静かで、

まだどこか他人の持ち物みたいな感触が残っている。

シートは固く、内装はまだピカピカだ。


信号が青になる。


アクセルを踏みながら、

さっきの気持ちをもう一度思い返してみる。


運転しながら景色を眺める、なんてことはできない。

それはただの想像だった。


でも、その小さな落差は、どこか懐かしかった。


久しぶりに、あれに似たものを味わった気がする。


前を見る。

白線が静かに流れていく。


景色はあまり見られない。

けれど、その代わりに、道路の先がゆっくり伸びていく。


少しだけ懐かしい気持ちを抱えたまま、

まだ新しい車は、まっすぐ前に進んでいた。

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