第42話 第三王子 8
彼女の墓にすがったまま、夜を迎え、朝が近づいていた。
涙はもう出ない。
頭の中は、あの日に戻りたいという思いでいっぱいだった。
意識が無くなれば、あの日に戻れる。
そう分かっているのに、どんなに願っても意識はなくならない。
それどころか、こんなに心も体も疲れているのに、眠気さえなく焦るばかりだった。
日が昇るまでに何とかしないと。
きっと、彼女と出会うあの日に二度と戻れなくなる。
何故か、そう思う。
ならどうすればいいのか。
焦る気持ちを抑え、必死に考える。
もう一度、今までと、今との違いを……あの日に戻る最後の時間を思い出す。
まず、あの女と友人にも、噂にもなっていない。
卒業式で、私は彼女に婚約破棄も告げていないし、断罪もしていない。
―――何より、君は私の婚約者じゃない。
もういないのだから、彼女は侯爵家から追い出されることもないし、これから先、死ぬことはない。
―――君の死を知るのは本当なら一週間後で……
考えれば考えるほど、何もかもが、いつもと違う。
「もしかしてもう、戻れない?」
不安を口にして、身震いした。
そんな恐ろしいことがあっていいはずがない。
彼女を失うなんて、ありえない。
「な、にか、ほか、に、もど、る、とき……」
私の中にある、たくさんの記憶かこをたどる。
いつ戻っていたのか。
君の死を知った時、
彼女の棺を見た時、
彼女の――に……
目の前には彼女の墓。
―――そうだ、ここには彼女がいる。
―――彼女に会えるじゃないか。
私は、足元の石を持ち上げた。
そしてその下の土を掘った。
道具はない。
両手を使って、ひたすらに掘り進める。
そうだ、いつだって、彼女の――を見て、それで過去に戻っていた。
だから、だから、きっと。
君を見れば、きっと……




