第17話 第三王子 6
目が覚めた。
卒業式の朝だ。
繰り返された何百の記憶に、新しい記憶が追加される。
―――――!?
思い出していく記憶に、私は息をのむ。
いないのだ。
彼女が記憶の中に、いない。
「どう言う事だ?」
彼女と会うのは十二歳の時。婚約者だと知るのはその少し前だが、その話をされた記憶がない。
当然、彼女に会った記憶も。
――――それに、何故だ……今の私には婚約者がいない?
必死で今回の記憶をたどるが、やはり彼女はどこにもいない。
そして、女と共にいる記憶もなかった。
女はいるのだ。
いつも通り友人たちに紹介された記憶はある。
だが、それ以降、遠くで女が男子生徒に囲まれている姿は見ているが、話をしたり近付いたりはしていない。
それどころか、私は女に彼女が言っていたような注意をしていた。
「本当に、どう言う事だ?」
私は部屋を飛び出し、父のところへと向かった。
護衛の制止を無視して、執務室の扉を開ける。
「父上!」
すでに仕事を始めていたのだろう、机に座る父と、その向かいに彼女の父親―――宰相が立っていた。
「どうした、こんな朝早く。今日は卒業式だろう?」
父が眉を寄せながらそう尋ねた。
私はそこで初めて、自分が今までとは違い自由に動いている事に気が付いた。
―――そうだ、今日は卒業式だ。だが何故、今回は……
「どうした? 何か用があったのだろう?」
「……父上、私には婚約者がいたはずではありませんか?」
自分に起こっている事に戸惑いながらも、とりあえず口を開く。
父親二人が顔を見合わせた。
「……今のお前にはいないだろう。誰かに何か聞いたのか?」
「いえ、学友たちにはみなすでに婚約者がいるので、私にもいるのではないかと……」
父の探るような目に、私は息を呑む。
――――父ももしかして繰り返しているのだろうか?
ふとそんなことを思ったが、二人の様子を見ているとそれは違うようだ。
また顔を見合わせた父親二人が、同時に首を振った。
「そうだな。話しておいた方がいいだろう。お前にも婚約者がいた。ここにいる宰相の娘がお前の婚約者になる筈だった」
「筈、だった?」
「あぁ、生まれたときからお前の妻……王妃となるべく育てていたのだが……」
「死にました」
父の言葉を、彼女の父親―――宰相がそう遮った。
――――今、なんて。
「娘は死にました。貴方様の婚約者であると伝える日の朝に……自ら……」




