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第八話 大聖堂へ行く道中

 過保護なアルベルトと別れた後。城下街に出た。

 今いるところは、城下街の中心的なところ。大きなモミの木があり、そこに少年少女たちが家から持ってきた飾りをつけている。


「ふぅ……この時期って、随分と寒いのよね……」

(オスーベリー領よりかは、マシだけれど)


 あの領地は、厚めの上着を何枚羽織っても、ただ肩が重くなるだけで暖かくはならなかった。本当に、アルベルトに言われた『暖を取れ』は、ある意味実行した方が良いのかもしれない。

 アルベルトに出会ってまだ一週間も経ってない。それなのに、会ったことがあるような気がするのは、何故だろうか。


「こうやって、爽やかな風に触れる機会も、あまりなかったわ」


 森の中はどちらかというと風が通らなくて、洞窟は涼しいものの風はなかった。オスーベリー領には風はあったが、それは『寒っ!』と自分を抱き締めるくらいの寒い風だったので、爽やかとは言い難かったのだ。


 大聖堂をお目当てに城下街を歩き続けて見掛けるのは、煉瓦(レンガ)の上で追いかけっこをしている九歳くらいの少年少女たち。平民から見れば貴族というものは贅沢な暮らしが憧れるだろうが、一部の貴族から見れば、平民のように自由を持っている方が羨ましい、憧れるというもの。

 ルシーナも、その一人だ。


「良いなぁ……」


 一度立ち止まり、そんなことを呟いてみる。

 独り言だったのだが、意外にもその呟きには返事があった。


「何が良いのかい?」


 吃驚(びっくり)して、目を見開きながら振り返るとそこには、漆黒の服に身を包んだ、上品な男性がいた。白色のネクタイをしており、そのネクタイと同じ色の髪と青色の瞳。袖口には、金色の糸で繊細な模様が施されている。年齢は……二十代だろうか。

 健康的な小麦色の肌で、服の上からでも分かるほどにガッシリとして引き締まった体型だ。きっと、毎日欠かさず、剣術か何かをしているのだろう。


「……どちら様でしょうか」


 警戒心を高めて尋ねると、クスクスと笑われた。


「大丈夫、悪い人じゃないよ。ただ……捜してるんだ、人をね」


「………左様で、ございますか」

(お名前は、名乗ってくださらないみたい)


『悪い人じゃない』と言われても、そう言われると逆にもっと警戒してしまう。彼は、人を捜していると言った。それは誰なのだろう。

 ルシーナとしては、この男性は貴族の公爵か侯爵の人間に見える。

 だから出来るだけ礼儀正しく喋ったのだが、まずは自己紹介が先だった。


「……申し訳ありません、名乗っておりませんでしたわね。わたくしはエースロール侯爵家が娘、ルシーナ・エースロールと申します」


 カーテシーをするのは、もはや癖になったかもしれない。


「そうですか、エースロール侯爵家の……」


「?」


 首を傾げるが、何故そう納得しているのか聞く前に尋ねられた。


「では貴女様なら、私が捜している『人』を知っているかもしれません」


「………特徴を、教えてもらっても?」


「そうですね、特徴……を言うよりも、その方の名前を言った方が宜しいかもしれませんね。私が捜している人物は———隣国シックリーケの王太子、シエル・シックリーケです」


「シックリーケの、王太子殿下……シエル殿下……。シエル殿下」


『シエル殿下』と何度も唱え、思い出していると、「シエルに、会ったことがありますか?」と聞かれた。シエルと言い殿下と敬称で呼ばないので、この男性は隣国の王太子、シエルに近い関係の者なのだろう。

 それにルシーナは気が付いているが、()えて聞かないようにする。


「はい。恐れ多くも、会ったことはあります。母が今のシックリーケ国王陛下の妹なのです。その縁で、シエル王太子殿下の、五歳の生誕祭というおめでたい日に、両親と共に殿下を祝いまして……」


 そう、実は会ったことがあるのだ。

 顔はあまり覚えてないが、クールな人というのが第一印象だった。

 喜怒哀楽が、ないような感じがした。

 五歳という無邪気に遊んで良い年だというのに、同い年なのに何故か自分より何歳も精神年齢が上のように思えた。


「そうですか………では、シエルのお顔などは、覚えていますか?」


「申し訳ありません。幼い頃の話なので、お顔までは……」


「…………そうなのですね。急に話しかけてしまい申し訳ありません。因みに、ルシーナ様はどちらへ行かれるのですか?」


「大聖堂へ行く予定です。どんな理由で向かうかは言えませんが……」


 苦笑を浮かべながら、チラッとルシーナは男性の顔色を窺う。どうやら、不機嫌にはなっていないようだ。良かった……、と思い男性の目を見る。

 と、あることに気が付いた。


(もしかして、この方、大聖堂に行きたい……とか?)


 だが、大聖堂は婚姻を結んだりするところだ。ルシーナはただ離婚届を出すためだけに行くので、男性のように絶対に行きたいなぁというような視線は決して出来ない。が、誘うだけ誘ってみても良いかもしれない。運が良ければ、そこで捜しているというシエル王太子も見付かるかもしれないのだから。


「あの……もし宜しければ、一緒に大聖堂に行きますか?」


「え、良いのですか?」


「はい。運が良ければ、そこでシエル殿下も見付かるかもしれませんから」


 男性は「そうですね……」と考え込んだ後、嬉しそうに顔を綻ばせながら口を開く。言葉を待たなくとも分かる。これはイエスだ。


「誘ってくれて、ありがとうございます。行きます」


「はい、宜しくお願いします。見付かると良いですね」


「えぇ、本当に。アイツは、何故あんなに勝手なことを言って……」


「……………」


 後者の独り言は、男性から気まずそうに目を逸らして、聞こえないふりをした。

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