第七話 意外と過保護でした!
誰が過保護か、予想はつきますか?
アルベルトの狩りに連れて行ってもらった翌日の朝。
ルシーナは洞窟で自身のドレスを布団代わりにして寝ていた。
可愛らしい鳥の囀りを聞いたルシーナは「ふわぁ〜……」と、欠伸をしながら起き上がり伸びをした。
「あれ? 貴方は……アルベルト様と一緒にいた……」
『ベズだ』
「ひゃい! ……狼が、喋った……?」
『ベズ』と呼ばれる狼は、ルシーナの問いに答えるようにして喋った。
(何故、狼が? このベズさん……も、魔物か何か?)
『我は、そなたが思っている通り魔物だ』
「え⁉︎ わたくし、声に出して……! 申し訳ありません、失礼でしたよね」
『いや、本当のことだし良い。後、声に出しておらぬ』
「?」
(ベズさんは、魔物なのに何故、アルベルト様のところに居るのかしら。アルベルト様も、魔物だったら何でも殺ってしまいそうな人なのに……。って、アルベルト様のことを何でも知ってるかのように言ってしまったわ!)
だがベズは、感謝している柔らかい声音で口を開いた。
『そなたは、アルの新たな一面を生み出した。それについては感謝しかない』
「あ、ありがとうございます。ベズさ——」
『ベズ、で良い。敬語もなくて良い』
「は、はい。えっと……ありがとうベズ。私のこともルシーナと」
『うむ』
(ベズは、魔物だけれどとても可愛いのね)
ルシーナがそう思った後、ベズは不満気な表情に変わる。
『魔物とはいえオスに可愛いと言うのはやめた方がいいぞ』
「え⁉︎ わたくし、また声に出して……! ご、ごめんね!」
「ベズ、エースロール嬢を揶揄うのは止めろ」
『別に揶揄ってなど居ないぞ?』
洞窟内に、淡々とした第三者の声が響く。
洞窟の入口には、無表情で立っているアルベルトの姿があった。
「アルベルト様! 起きました?」
「あぁ。……一時間前から起きてたんだが」
「え⁉︎ ご、ごめんなさい! 確認は、確かにしてませんでしたね」
苦笑するルシーナにつられて、アルベルトも思わず苦笑を浮かべる。
「……!」
「? どうかしたか?」
「いえ……」
苦笑したアルベルトに、ルシーナは目を奪われる。
(……? 一瞬、左胸が……気のせいかしら)
『分かるぞ、ルシーナよ。……本当にルシーナには感謝しかないな』
ルシーナの心の声にベズも同意見なようで、大きく頷いた。
『ところでルシーナ。りこんとどけ……? は、出さなくて良いのか?』
「え……? あ、離婚届……! まだ大聖堂に出してませんでした」
「言った方がいいんじゃないか」
「はい。準備しますので、外に出てもらっても宜しいでしょうか」
「ああ」
『うぬ』
ベズたちが洞窟から出た後、鞄から社交用のドレスを取り出し、着替える。
(今日は貴族が通う大聖堂に行くから、ドレスにしましょう)
ピンクを基調としているドレスで、飾りは少なめ。しょうがない、必要最低限のドレスと装飾品などを持って来たのだから。
ドレスの着替えはいつも侍女に手伝ってもらいながら着ていたため、一人で着るのはとても着にくい。記憶を辿って侍女の手付きを思い出す。
「確か……こうやって………」
暫く経ち、ドレスを着れた。
鞄から大事にファイルに仕舞ってあった離婚届を取り出し、ファイルに仕舞ったまま持つ。外に出ると、何か話をしていたベズとアルベルトの姿があった。
「ベズ、アルベルト様。ベーレズド大聖堂に行って来ますね」
「……あぁ、分かった」
『うぬ』
ベーレズド大聖堂。
貴族が集う大聖堂で、この国で一番大きい大聖堂だ。王侯貴族が特に通い、女神像に祈りを捧げる。女神像に祈りを捧げると、女神が貴族、王族を含めた国民に平穏を……という伝説だってある。
人々はその伝説を信じ、今も女神像に祈りを捧げているのだ。
(わたくしも、女神を信じてる一人……)
すると、アルベルトが声を上げた。
「エースロール嬢、俺も一緒に行く」
「え⁉︎ い、いえ! これはわたくしの問題で……」
「だが……」
「いえいえ! 良いですから」
「……………分かった」
不満を隠していないアルベルトの答えを聞き、ルシーナはほっと安堵の息を吐く。
だがアルベルトは、「せめて」とルシーナに渡した。
「これは……?」
「御守りという物だ。……東の国の伝統らしきものらしい」
「御守り……。ありがとうございます、頂きますね」
「……あぁ」
アルベルトがルシーナに渡した物は『御守り』という東の国の伝統らしきものらしい。アルベルトによると、御守りは無事を祈ったりする時に渡すらしい。
(無事……って。直ぐそこなのに。意外と過保護だなぁ……)
だが、アルベルトの新しい一面を知れて嬉しいと思ってしまうルシーナも居る。
嬉しそうにルシーナの掌にある御守りを見て微笑むルシーナに、アルベルトは目を奪われた。そして同時に、己を不思議に思った。
(俺は……ここまで感情豊かだったか?)
いつだって無感情、無表情で生きて来た。声音は優しい時もあるのに顔は無表情で、いつだって己が怖いと思って来た。
だが、ここに来て何故、こんなに苦笑や微笑みが出来るようになったのだろう。
そんな考えはルシーナの「行って来ます!」という元気な声にかき消された。
「……行ってらっしゃい」
「はい!」
『気をつけるのだぞ』
「はい!」
ありがとうございました♪
また次もよろしくお願い致します!