第四話 倒れた後の出会い
宜しくお願いします。
極寒の領地、オスーベリー。
そんな地を薄着で吹雪の中歩いている女性が一人。
白い息を出し、唇は紫。動きやすく質素な茶色のドレスはもうボロボロ。
(…………流石にちょっと、駄目かもしれないわ……)
声を出すにも精一杯。
「……!」
(見えた……!)
ルーペは、この極寒の領地を舐めていたかもしれない。
薄着で来るなんて、なんて馬鹿なのだろう。そう思ってしまう程には。
だが、そんな寒さもこれで終わり。
ルーペの目には雪など降っていない、暖かな冬が見えた。
「……まさかっ。領地だけで……こん、なに変わ、る、な…んて」
(倒れては駄目。せめて、あの、あったかいところに着いてからよ)
一歩、二歩、三歩と、今にも力が抜けそうな足で、精一杯歩く。
そして、やっと、やっと、暖かい王都に着いた。
この領地と王都は離れているため、淑女の足ではそのまま雪に埋もれても良いくらいだった。しかも年齢十七歳。まだ子供に入る年齢だ、死んでもおかしくなかった。
「よかっ……た……っ」
雪は積もっていない。直ぐ近くにある森に行こうか迷ったが、もう足は限界を超えている。このまま休ませた方が良いだろう。
(永遠に目が覚めなかったりも、おかしくないわよね……)
それでも良いと思ってしまうのは、寒さでおかしくなったからだろうか。
(ああですが、大聖堂に離婚届は提出しないと……)
座ろうと身を屈めようとしたが、その前にふらついていた足が安心してなのか急に力が抜け、そのままルーペは地面に倒れる形で、身体を休めることになった。
〜〜***〜〜
そこには、ある一人の男性が歩いていた。
「……?」
男性が人の気配がするため横を見遣ると、倒れている女性の姿があった。
直ぐ女性の近くに行き、状態を確認する。
幸い、寝ているだけで死んでいるわけではないことに、男性はほっと安堵の息を吐く。だが、たまたまとは言え見てしまったのならば、そのままには出来ない。
「どうするか……」
「……スゥスゥ……」
彼女は幸せそうに寝息を立てている。
そんな様子に男性は、自らの頬が緩んだ気配がしてハッとした。
直ぐに無表情に戻り、先程緩んでしまった頬を抑える。
「……何故……?」
「クゥン」
「……! なんだ、ベズか。出て来い。大丈夫だ、この女性は害がなさそうだ」
森の木々に囲まれよく見えなかったベズと呼ばれる狼は、森から出て来て屈んでいた男性の膝に擦り寄る。
男性もそれを受け入れて、狼の頭を優しく撫でる。
「クゥ〜」
「嬉しそうだな」
男性は声音は優しいものの表情は無表情。なのに何故、初めて見た女性の姿に頬が緩んだのだろうか。分からない。過去にあったことがあるのか? いや、一度見たものは全て頭の中にある自信がある。では何故?
男性がそう考えていると、女性は身じろぐ。
「! ……そうだな……。まずは森に移動させるか。その後考えよう。……ベズ、手伝ってくれるか?」
「ウォフ!」
「有難い。心強いよ」
男性は女性……ルーペを狼の背中にうつ伏せに載せ、その場を後にした。
〜〜***〜〜
「う……んん」
(あれ? 死ななかったのかしら……)
極寒の地に長く居たのだ。死んでも良いくらいなのだが、どうしてだろう。
(奇跡……とでも言っておきましょ)
ルーペは寝た時よりも寝心地が良いことを疑問に思いながら体を起こす。
すると、寝た直前見た景色と今の景色が違って見えた。
(なんで? 寒すぎたからよく景色が見えなかった? いえでも、こんなに森みたいじゃなかったはず)
「起きたか」
「ひゅん!」
近くの洞窟から声が聞こえ、ルーペは令嬢らしからぬ声を上げる。慌てて両手で口を抑えるが、男性はそんなことを気にもせずルーペに歩み寄る。
「……何処まで覚えている」
「ふぇ?」
「え?」の代わりに「ふぇ?」と答えたことは本人は気付いていない。
(なんのこと?)
首を傾げるルーペに、男性は呆れたような、面白いものを見ているような笑みを浮かべ、もう一度問うた。
「倒れていた。倒れる前は何処まで覚えている」
「あ、ええと、オスーベリーの領地を抜けて来て、辿り着いたら寝てしまった……倒れてしまったというところまでてしょうか。全部頭には入っています」
「……そうか。ならいい」
「?」
(この方は……もしかして)
辿り着いた結論は、合っていると断言出来る。
「貴方様はもしかしてですが、アルベルト・リリィ・ケーストロビー様でしょうか」
「……ああ。よく分かったな、ルーペ・リリィ・オスーベリー夫人」
ありがとうございました。
キャラ四人目、登場!