表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

第二話 親友との語り合い

宜しくお願いします!

 ルシーナの部屋はピンクを基調としている可愛い部屋だ。

 だがその天蓋付きベッドも、クローゼットも、椅子も机も、全てさよならとなる。愛着のあったこの部屋はルシーナがこの邸で気に入っていた部屋の一つだ。



「鞄……。あ、あった」



 この鞄は旅行用だが、別に良いだろう。

 ルシーナは浮かない顔で鞄に荷物を入れていく。リーフクが買った以外のドレス、化粧品、髪飾り、小説など、ルシーナの実家であるエースロール侯爵邸から持って来た物たちだけを鞄に入れてゆく。



「これから、どうしましょう……」



 ポツリと、ルシーナはそんな言葉を呟いてしまった。



(いけない。この邸から出て行くと言ったのはわたくし自身。『やっぱりリーフク様が出て行って』などという二言はないわ)



 貴族は二言はなしで生きていかなければならない。

 ルシーナはそう考えている。



(あぁでも、リーフク様のことはもう好きじゃないのですし、言ってしまったわね。『生涯貴方の役に立ちます』と、結婚式をあげた際に言ってしまったわ)



 二言はやはり、離婚でも貴族社会でも絶対に使うのかもしれない。

 ルシーナはそう考えを改め、止まっていた荷物を入れる手を動かした。


 荷物を入れ終わり、もう直ぐさよならの長椅子に座り離婚届の最終チェックをしていると、こんこんとノックが部屋に響いた。



「どうぞ、入って?」



 許可を出すと入って来たのは侍女だった。



「失礼します、ルシーナ様。オールマリン侯爵令嬢がいらっしゃいました」


「まぁ、随分と早い到着ですわね。直ぐ行くと伝えておいてくれる?」


「はい」



 ソフィア・リリィ・オールマリン侯爵令嬢。

 ルシーナの友人でリーフクが浮気をしていると、最初に報せてくれた張本人でもある。学園に在籍が許される十二歳〜十五歳の頃からの親友で、友人の中でルシーナと一番仲が良いと言える。

 元気な性格で、淑女というイメージがあまりないが、その元気さが時には学園でのクラスメイトや、ルシーナを元気付けてくれることも、少なくなかった。



「向かいましょう……っと」



 後ろに侍女を連れて、玄関へ向かう。



(まさか、『夫と離婚することにしたの』と手紙を送っただけで来るとはね。……予想していたから、あまり驚かないで済んだけれど)



 早歩きで向かったこともあって、玄関にはそれなりに早く着いた。

 ソフィアはルシーナを見付けるとぶんぶん手を振る。



「ルシーナ様ーー!」


「オールマリン侯爵令嬢、その行為ははたしな——」


「良いわよ、大丈夫。注意しようとしてくれてありがとう」



 侍女がソフィアを注意しようと声を上げるが、言い終わるところで、ルシーナに止められてしまった。ルシーナがソフィアに向ける笑みは先程リーフクに向けた黒い笑みではなく、親友に向ける親愛がこもった視線と表情だった。



「ソフィア様、来てくれてありがとうございます」


「はい、来ました! お邪魔しております! ……流石ルシーナ様。わたくしが勝手に来たと知っても、驚いていた素振りはありませんね〜!」


「ええ、予想は一応……」


「凄いです! 予想なんてわたくし出来ないですわ!」

(学園に居た時、授業でやるところとかを予想していたクセに……)



 自覚がないんだなと、ルシーナは内心苦笑する。

 ルシーナは「あの……ソフィア様」とソフィアに声を掛ける。



「はい? 何でしょう、ルシーナ様」


玄関(ここ)では話し難いでしょう? 他の人の邪魔にもなってしまうし……。わたくしの部屋で話しません? 尤も、もう直ぐあそこは、わたくしの部屋ではなくなるのですが」


「え? あ、はい! ……あの、もう直ぐ部屋じゃなくなるって」


「それは部屋で話しますね」



 ソフィアはルシーナがこの公爵邸に残り、リーフクが邸を出て行くと思っていたそうだ。でなければ、こんな反応はしない。

 廊下を歩くと、ルシーナの長い薄墨色(うすずみいろ)の髪と、横にポニーテールにされているソフィアの白に近いグレーの髪が靡く。



「どうぞ、入って?」


「ありがとう」



 ルシーナが入るよう述べると、ソフィアは毎回入っているというのに緊張しているような、これから話すことを予想しているような、硬い表情だった。

 ルシーナが長椅子に座るとソフィアは向かい側の長椅子に座る。


 侍女は二人分の紅茶を()れ、礼をして退出していった。

 気を利かせてくれたと分かり、ルシーナは思わず顔が綻ぶ。



「えーっと……。先程の話なんだけど」


「……えぇ」



 ルシーナが言う先程の話は、もう直ぐ己の部屋じゃなくなるという話を示している。何故なのかは、ソフィアならば予想して、ある程度の答えは出ているかもしれない。



「実はね、わたくしがこの邸を出ることにしたの」


「だからそれは何故なの⁉︎ ハッ! もしかして、あのお馬鹿様が『お前がこの公爵邸を出ろ‼︎』と駄々を捏ねたの⁉︎」


「あはは……違うわよ? あの方が馬鹿で目障りなのは否定しないけれど、わたくし自身が、この公爵邸を出ると申し出たの。元々ここはリーフク様の邸だし、あの馬鹿様と住んでいた邸に今住んでいるというだけで、虫唾が走るからよ」


「ルシーナ様も中々辛辣ね……。まぁ、そうよね。……でも、ルシーナ様がこんなに辛辣だとは思わなかった。大人しい方かと思っていたけれど、やる時はやる女ね!」


「ありがとう。女は、時に強く弱いですものね」


「そうそう。女だからって剣術や弓術が出来ないって訳じゃないのにね」



 ソフィアは剣術や弓術に()けている。五歳辺りから木剣を振り始め、十歳には一流の女武士になった、剣術、弓術の才能がある令嬢だ。尤も、女性というせいで男子生徒に揶揄われたりも勿論されていたが、その生徒たちを剣術や弓術でぼこぼこにし、思い知らしていた。



(あの時の光景は凄かったなぁ)



 何人もの倒れている男子生徒の背中に片足を乗せ、高笑いをしていたなんとも言えない光景を、ルシーナは何度も見て来た。

 そして話題は剣術の話に移る。



「あの、ソフィア様。剣を振る時はどんなことを考えているの?」



 それは、ふと思ったことだった。

 ソフィアは考える素振りをした後、微笑みながら答えた。



「剣を振る時や弓を射る時は、イメージを大事にしてるの。例えば、弓を構える時は目の前に対象の動物……(いのしし)が居ると思ってるわ」


「そうなのね……。なるほど」


「どうしたの? 突然。……あ、もしかして、ルシーナ様も弓術と剣術をやりたくなりまして? そうなのなら大歓迎ですわ」


「興味というか……」



 ルシーナは困ったように笑った後、落ち着いた声音で話した。



「わたくしがこの公爵邸を出るとなると、農作業とか、漁業とか、それこそ猪みたいな動物を狩ることも多くなるかなって思いまして」


「………」


「あ、ごめんなさい。絶対使うって訳じゃないのにね。家を出たら、実家に帰る予定だし……多分、生活には困らないわ。大丈夫」


「うん、そうだよね……」



 気まずい雰囲気にしてしまったと、ルシーナは後悔する。そのため、自分が元の明るく楽しい雰囲気に戻そうと意を決して口を開くが、その表情は心からの笑みだ。



「そういえば、ソフィア様の実家……オールマリン侯爵家は、前々からご贔屓(ひいき)にしている商会があるのよね。わたくしが実家に戻ったらその商会と取引をしたいと思ってるのだけど……教えてくれないかしら……?」


「あ、うん。良いわよ! その商会はね——」



 ソフィアの家が前々から贔屓にしている商会の話を聞くと、それはその商会の会長の話題ばかりだった。会長は宝石の売買が上手。会長は人を見る目がある。つい最近、会長が自分の容姿を褒めてくれた。会長は、公爵家の人間で社交辞令が上手、などなど。



(あぁ〜……そういうこと)



 ソフィアの話を聞き続け、ある結論に至った。



(ソフィア様は、その会長を慕っている、ということね)



 間違いない。商会のことを教えてといってのに、会長の話しか出てこないのはそういうことだと、ルシーナは納得する。



「ソフィア様は、会長が好きなのですね。異性として」


「は、………はぁ⁉︎ え、あ、そんなことはないわ! ただね、素敵な人だなぁって」


「うんうん」


「ちょ、ちょっと〜〜‼︎」



 そして、この時間はソフィアを揶揄って終わったのだった。

読んでくださり、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ