表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

第一話 夫を問い詰めます

宜しくお願いします。

『ねぇルシーナ様! 私、見てしまいましたの! 貴方の旦那様が、別宅に別の女性を連れ込んでいるのを!』



 ルシーナがこの報告を受けたのは、つい先日。

 夫に裏切られた可能性が高い公爵夫人の、ルシーナ・リリィ・オスーベリー。もう離婚する準備は出来ているので、元の名前であるルシーナ・リリィ・エースロールになるのだが。



(でも、まずは確かめないといけないわね)



 証拠は掴んである。後は夫がそれを認めてくれるかという問題だけだ。

 そして今、ルシーナはもう直ぐ己の夫ではなくなる、リーフク・リリィ・オスーベリーを問い詰めている最中だった。リーフクはサァーと青ざめ、それと反対にルシーナは真剣な表情でリーフクを問い詰めている。

 二人は向かい合う長椅子に座り、ルシーナは三枚程ある紙を長椅子の間にある机に置いて、リーフクに見せている最中だった。



「いや、違う! 俺はそんなことしていない!」


「リーフク様……。わたくしも、こんなこと認めたくないですわよ」



 だが報せてくれた友人を始め、他の友人たちにも協力してもらい、目撃者は沢山いるのだ。言い逃れはできない。



(こちらには証人が沢山いますわ。リーフク様が認めてくれたら、もう離婚一直線なのだけど……。やっぱり、愛していたから胸が苦しいというか……)



 ルシーナは成人の十六歳で望まぬ政略結婚をし、リーフクと生涯を共にするつもりだった。しかしルシーナはリクの優しさに惹かれ、リーフクも己のことを好きだと思っていた。自分たちは政略結婚でも両想いなのだと。


 だが、その優しさは表向きの顔。裏の顔は浮気者だ。

 この国では一夫多妻は禁止されている。そのため浮気をした者は、国王によって重い罰を下される。謹慎、国外追放、妻を三人以上持っていた場合は処刑。そんな国でもリーフクのような男はいるものなのだと、ルシーナは思い知らされた。



(愛していたのに……)



 まさか、裏切られるなんて。

 ルシーナは膨らんでいない腹に触れた。



(子が出来ていないのは、不幸中の幸いね)



 キスも交わしていない。リーフクは『我慢が出来なくなりそうだから』と口付けを拒否していたが、それはただ単にルシーナとキスをしたくないから。その言葉を信じて頬を赤らめていた自分が馬鹿みたいだと、ルシーナは自嘲気味に笑う。



「リーフク様……わたくしと貴方は近日中に離婚を致しますわ」


「は⁉︎ 何故だ! そもそも離婚には何かしら色々とすることがあるだろう!」


「だから、それはわたくしが終わらせておきましたので」


「な……っ! 俺はサインをしていないだろう!」


「お忘れでしょうか。貴方様はちゃんとこの紙にサインをしてくれましたわ」



 ルシーナはそう言いながら、侍女から一枚の紙を受け取り、リーフクに見せた。この紙にサインをしてくれたリーフクは、『何故だ、この紙はジュリー商会と取引を交わすための書類だっただろう!』と叫んでいる。

 ルシーナはその叫び声に耐えられず、両耳を手で塞いだ。

 両耳を塞いだ両手は太腿に戻し、居住まいを正した。



「後は貴方が貴方自身の罪を認めてくれたら離婚出来るのです。なので、早く認めてもらいませんか?」


「ヒッ‼︎」

(あら、怖がられてしまったわ)



 引き攣りそうになるのを我慢して、頑張って優しく微笑んだというのに、「ヒッ‼︎」は酷いではないか。

 だが少しの脅しにはなっただろう。その微笑みの脅しはリーフクには効果があり、今にも気絶しそうな態度で「僕は……」と言い始めた。



(俺から僕になってる)

「僕は…僕は僕は僕は! ……別宅に、もう一人の妻が居ます‼︎」


「………えぇ、白状してくださり、ありがとうございます……」



 ルシーナが悲しい顔をしていることは、リーフクは知らなかった。

 だがこれを、婚姻を結んだ大聖堂に提出すれば離婚はしたことになる。被害者であるルシーナには何の罰も下されないだろう。



(出来れば、浮気相手である女性も被害者であることを願うわ)



 そんな都合の良い話は無いかもしれないが、そうだったら友達になりたいと言う夢もあるのだ。そのことも今のリーフクに聞けば答えてくれるかもしれない。



「……ねぇ、リーフク様」


「な、何だ!」


「………」

(全く、この方のことをわたくしは好きだったのね。馬鹿な話)



 ぷるぷると震えるリーフクに呆れながらも、ルシーナは口を開く。



「貴方の浮気相手である女性は、わたくしという妻が居るということを知っていますか? ……答えてくれますわよね?」


「ヒッ……。あ、あぁ、そんなこと知らないと思うが?」


「……!」



 それがどうしたとでも言いたそうなリーフクの表情と言葉に、ルシーナは驚いた。妻がもう一人居ることを知らないということは、その女性も被害者だということだ。

 それを聞き、嬉しくもあったが申し訳なさもあった。



(彼女もわたくしと同じ被害者か。だったら、加害者はこの方だけになるわ)



 それが本当なら、罰を受けるのはリーフクだけということになる。

 何だか可哀想という気持ちを振り払って、ルシーナは笑みを貼り付ける。



「はぁ……。わたくしがこの家を出て行きますわ」


「ほ、本当か⁉︎」


「嘘を言って何になりますの……」



 リーフクは目がキラキラっとなり、テーブルから身を乗り出す。

 貼り付けた笑みは直ぐに剥がれ、ルシーナは頭を抑える。


(この人と過ごしたこの家には住みたくないもの)

「では、わたくしは荷物を整理するので」


「あ、あぁ……」


 ルシーナは、もう直ぐなくなる自身の部屋へと足を運んだ。

 夫ではなくなる夫のリーフクに、最後まで冷たい視線を向けながら。

 しかしその瞳には、どこか悲し気な色が混じっていた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ