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0-1 数学部の日常

 「「ち~っす」」

 いつも通りの緩い挨拶とともに僕と屋賀部は部室に入った。文化部であり学校屈指の緩い部活である数学部は、普通はテストが終わった後なんかに部活などやらないのだが、今日はちょっと特別だ。

 「屋田先輩、今日は早いですね」

 「まぁ正式には最後の部活だからね」

 屋田先輩は、2年間部活を部長として引っ張ってくれた大先輩であり、僕が入部したころからいる今や数少ない先輩の一人だ。屋田先輩以外には今部活に来ている先輩だと薬師川先輩しかいない。昔は数学部は学校の隅でひっそり活動をしていた部活だったからだ。

 「屋田先輩は第一志望どこなんですか?」

 「う~ん、僕は東大の理Ⅱかなぁ」

 「あれ、意外ですね、数学科に行きやすい理Ⅰじゃないんですか?」

 「まぁ~ね」

 こんな風にふわふわしている先輩だが、数学部の部長という肩書を持っている以上、数学の才能はバケモノだ。ちょうど数か月前、僕らの学校の中学三年生は任意で某鉄〇会の東大模試を受けた。僕はそこで数学が120点満点で102点であり、有頂天になっていたのだが、結果を屋田先輩に伝えると、

 「あ、あれ?僕112点だったよぉ」

意味が分からない。なんでそんな点数取れるんだ。

 こんな感じの先輩なので、放っておいても理Ⅱは受かるだろう。そんなこと思っていると、

 「こんにちは~」

 薬師川先輩がやってきた。数学部の次期部長だ。というか、実質的にはもう部長だ。数学部の高校生における大会は数学オリンピックしかなく、本選を突破するバケモノでもない限り、本選のある2月中旬で部活動に区切りがつく。このタイミングで部長を交代するのだ。じゃぁなんで屋田先輩が今日部活にいるのかって?大体部長クラスはレベルが違うから受験生になっても部活に遊びに来るからだ。

 「お~仙一、ねぇねぇ、成績どうだった?」

 耳が痛い話をしてくれるな。

 「4位ですかね。一夜漬けじゃ厳しいです。」

 は~、会話の偏差値が高くてついてけないわ。

 「じゃあそんな仙一に問題、もちろんこれぐらい解けるよね?部長さん?」

 いつもの屋田先輩の煽りだ。なんだかんだこの会話も今後ほとんど聞けなくなるかと思うと少し寂しい。そういえば・・・

 「薬師川先輩、だれか他の同級生に僕のこと話しました?今日いきなり知らない先輩が教室に乗り込んできたんですけど。」

 「え、あ~星崎のことか?なんか言われた?」

 「なんか競技科学やらないかって・・・」

 「なるほど、そういうことか」

 「どういうことです??」

 薬師川先輩は笑いながら続けた。

 「いや~、うちの学校って昔めちゃくちゃ競技科学強かった時代があったでしょ?その時に有志の学生が集まって競技科学部を、数オリの先輩たちだけ独立して数学部を作ったんだよ。数学部はその後継続的に強い人と部員を確保し続けて存続できているんだけど、競技科学部はそう上手くはいってなくてさ。ついには部員も足りなくなってきて、新高校一年生以下の部員を確保しないと廃部になるって通告が来たんだよ。それであいつが見込みのある生徒を探してるってわけ。」

 そういえば薬師川先輩は競技科学部とクイズ研究会と数学部の兼部だった。

 「って先輩は僕を推薦したんですか?」

 「え、そうだけど。別に競技科学一応もう触れてるんだし、頭もいいんだから。」

 「そうですか?」

 「ま、正直気が向いたらでいいんじゃない?」

 この人は自分の部活の存続を気にしないのだろうか。まぁいい、その厚意に甘えさせていただくことにしよう。どこかの星崎先輩と違って薬師川先輩は無理やり勧誘してこなかった。やっぱ先輩はこうでなくっちゃ。

 とんでもなく失礼なことを考えている自覚はあったが、正直競技科学に興味は持っていない。星崎先輩とやらも時間をおいて断ればなんとかなるだろうと軽く考えていた。

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