1-7 競技科学部の日常①
「はぁ~」
放課後、地学教室に向けて歩いていた。今日の部活は競技科学部だ。
うちのバンドメンバー、なんだかんだいい加減だな。問題が次から次へと湧いてくる。
「おっはよ~」
「馬鹿野郎もう夕方だよ」
「あのね薬師川、やっぱり教室に入るときはおはようじゃないかな」
「それは朝ホームルームに入る時だろ」
「うんうん、やっぱそうだよね」
「こいつ話聞いてないな」
うん、5年コンビこと薬師川・星崎先輩ペアは今日も元気そうだ。(5年とは高校2年生のこと。ここ皐月学園は中等教育学校なので、中学から高校までを1~6年という扱いにしている)
「おやおや~?なんか顔が浮かないね~少年?」
やばい、絡まれた
「何ですか、その少年呼び」
「いや~昨日漫画呼んでてさ~その影響?」
「へぇ~先輩も漫画読むんですね・・・って漫画は持ち込み禁止では?」
うちの寮には持ち込みが認められていないものがあるのだが、漫画もその一つ
「バレなきゃ犯罪じゃない!」
「いやダメでしょ」
「え~でもスマホとかと比べて見つかった時没収だけだから刑罰軽いし正直よくない?」
うちの学校でスマホ持ち込んでるのがばれたら即特別指導だ。厳しい・・・流石に持ち込もうと思ったことはないが。
「で、でだよ!どうして顔が暗いんだい?」
「いや、ちょっとバンドのメンバーの楽器が上手く決まらなくて」
「ほほぉ~」
「なんです?」
「わかる、わかるよぉ~」
「え、先輩バンド経験者なんですか?」
「うんうん、バンドあるあるだよね~」
「ですよね~」
「ボーカルの女の子への恋、ギターとボーカルがくっつき、ベースあたりが嫉妬。最初は一致団結していたけど、だんだん絆がなくなっていって・・・解散、だよね?」
「違います、ラノベか漫画の読みすぎでは」
「何言ってんの、定番でしょ?」
「フィクションではね」
「だって、実際にビートルズの解散理由も女性がらみだって聞くし」
へぇ~意外と現実でもそんなことあるんだなぁ。瀬戸島・・・いや、みんな瀬戸島を恋愛対象として見てはいないな、うちは大丈夫そうだ。あいつ結構さっぱりしてるし、音楽に全力って感じだし。
「先輩、今日の活動内容ってなんですか?」
黙ってた白南風さんが助け舟を出してくれた、ありがとう、マジ感謝。
「そうだぞ星崎、やることは先にやらないと」
「ハイハイ」
ちょっとけだるそうに白板に向かって星崎先輩が歩いて行った。みんなありがとう
「実はね、部活存続のための条件があと二つあって、その一つが合宿をすることなの」
「え、合宿ですか?」
「いいじゃないですか」
「問題は・・・どこにするか」
地学教室に戦慄が走った。競技科学の科目によって、各々行きたい場所は変わってくる、多種多様に。これは、負けられない戦いの始まりだ。4年生で後輩とはいえ、ここで引き下がるわけにはいかない。
「じゃぁ、どこがいい?」
「国立天文台」
「沖縄!」
「阿蘇!」
「・・・」
白南風さんがあっけにとられている。まぁふつうはそうだろう。しかし、僕らにとっては負けられない戦いだ。実は僕は、競技科学以前に地理と地学が好きなのだ。そんな僕にとって、阿蘇は外せない。もうあそこは地学の聖地みたいなものだ。あぁ、Aso-4の観察したいなぁ(Aso-4とは、阿蘇山が9万年前に起こした大噴火であり、阿蘇山の代表的な4回の大噴火のなかでもけた外れに大きい噴火であり、その火砕流砕屑物の地層も見事なものとなっているだから・・・以下省略)
「はい、ストーップ!白南風ちゃんがおいてかれてるよ」
「あ、いえ、そんな」
「白南風ちゃん、どこか行きたい場所ある?」
「いや、自分は、まだそんなに情熱がないので・・・皆さんが出した意見なら何でも・・・」
「よし、なら白南風さんにプレゼンして決めてもらうっていうのはどうだい?」
「おぉ~薬師川、言いこというじゃん!」
「それは星崎先輩の沖縄が有利すぎるのでは・・・?」
しかし、ここで勝たねばならぬ。ふふ、2年生の時にプレゼン大会で学年2位だった僕の実力、なめるなよ・・・
こうして、熱い戦いが火蓋を切ったのである!