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最終調整in実戦

バンダナコミック殿にて投稿していたものです。

「ねー春乃。あれ、やばいんじゃないの?」

「どれ? バスに…マジ? 作業ロボが襲ってる? そんなことある? とりあえず助けに行こうぜ」


ナツナツが指差していた先には車道で止まった路線バスとたかる沢山の人影。それらのシルエットは歪で人間とは違う機能を持たせていることがわかる、それらがバスの入口を叩く。


「それじゃあ、ナツナツは森から出ないで通報。あと周囲を監視しつつ何かあれば僕と春乃に連絡」

「えっ?」

「秋山、ドッグスは任せるぞ」

「分かったよ。ドックス、マニュアル指示起動、指示は秋山」

「もしかして、助けに行く話してんの!?」

「じゃ俺と秋山で行くから、通報ヨロ!」

「ちょっとぉ!!」


先に春乃が森を飛び出して、路線バスに向かい斜面を駆け下る。秋山はその場で宙に映し出した画面での操作を手早く終える。ロボットコンテスト用の等身大人型ロボで人型の体に犬頭を備えたロボット、ドッグスを従え飛び出す。


「秋山! バスは女の子と運転手が乗ってる」

「わかった、僕とドッグスで蹴散らすよ。2人の確保を」

「オケ!」


春乃は車通りのない車道に降りるとすぐに路線バスにたかる作業ロボの1体の背にドロップキックをかます。作業ロボはあっけなく倒れ転がる。続いて首を踏み潰す、作業ロボは大抵はここを壊せば動けなくなる。

作業ロボはみな工場で働くようなタイプであった。シルエットも人型に近いものから足が2対あるもの、片腕がでかいものなどバラエティに富む。それは作業のためであり、戦う機能は持っていない。


「こっち来い!オラァ!」


挑発は作業ロボに無視される。それはそれで都合良いと次のロボを蹴散らしにかかる。道路に降りついた秋山も画面を宙に出してドックスへの指示を微調整し、作業ロボの集団に突っ込む。


「バスの進行方向はドックスでやるよ、春乃は中を!」


ドックスは走り込み、そのあたりの作業ロボに殴りかかる。一発目は転ばす程度だが、次の標的には位置を変えて殴りかかると大きく倒れる。繰り返す度に確実に殴りを改善させていく。


「良い実践かな。春乃、 搭乗口から行ける?!」

「行けるぞ」


春乃は路線バスの入口に寄りかかって動かなくなった作業ロボを引き倒すと隙間から中に滑り混む。


「このバス、どういう状況なんです?!」

「襲われてるんです!」

「それはわかってますよ!」


春乃は運転席に居座る大型の作業ロボが路線バスが止めてる理由だと見当をつける。


「俺だけじゃあのデカブツ下ろせない。秋山、運転席にヘルプ!!」

『了解、ドックス急行!』


辺りにいる作業ロボ共は動きが遅く、人と素早い動作のドックスに追いつけない。足を払えば、バランスを崩す。転ばせれば起き上がるも遅い。その間に関節とか信号線を壊してやれば行動不能は簡単。その手順をドックスと秋山が行う。

あっという間に動けるのは半数以下に減っていた。


「動き止めさせるよ!」


秋山がドックスを運転席へ突撃させる。

体格差からドックスのパワーでは吹き飛ばしたりはできない、指令用の配線を狙う。ドックスは拾っていた作業ロボの腕部でカバーごと貫く。


「運転手さんも今だ!!」

「や、やります!」


二人がかりで文鎮と化した作業ロボに取りつき、ドックスも参加し一気に外まで転がり落とす。


「これで運転できます!お客さん座ってください!」

「秋山も乗って!」

「しっかり掴まっていてくださいよ!」


秋山を収容後、路線バスは扉も閉じずに急発進する。

後方できゃっと悲鳴がした、もう一人乗っていた女の子だ。その横の通路に大きな箱がある。


「キミ!! 大丈夫?!」

「え、あ、わたし? 大丈夫よ」


その女の子はすぐ宙の画面に目をやる。

ちょうど春乃と秋山のグループチャットに音声が入る。


『通報したわ、2人とも後でしぼられて頂戴。でも、ナイス活躍。ドッグス、あんなにやれたのね、ん? ちょっとまってて』

「ロボコンで優勝する機体だぜ。あのくらいの作業ロボなんてチョチョイよ」

「皆様、速度上げます。後ろから追ってきていますので」


春乃と秋山は後ろに向かいの窓に目を向けた。

バスを追いかけるように走る作業ロボがいる。


「マジ? 作業用ってあんなに走れんの?」


そして二人は同時に気づく、一体だけではない。

その後にずらりと足関節をフル回転させる作業ロボの群れがいる。


『おまたせ、ちょっと隠れてた。あんた達の後に100台くらいロボがおってってる。やばいよあれ、2人が潰したやつも全部起き上がってる、なんていうかゾンビみたい』


秋山と春乃が見合う。


「確かに壊れたやつが混じってるね、あのでかいのとか多分運転席から引きずり落としたやつだし」


中には首が折れ曲がってるやつもいる。

大体のやつは信号線を切ったから、動かないはずである。

2人が気づくのはそれだけはではなく、さっきまでなかった赤いジェル状の物が、破壊されたところにくっついている。


「追いつかれますよ! 運転士さん!」

「これ以上はスピード出せません! 谷に落ちかねない!」


あっという間にバスは追いつかれた。秋山がドックスを後部座席に走らせ、窓ガラスに張り付いたやつをパンチで1体落とす。2体目が別の窓にしがみつく。


「なんだよ!さっきと動きがぜんぜん違うじゃんか」


突如凄まじいブレーキ音が響く。全員が車内前方へ投げ出されそうになった。


「急ブレーキ申し訳ございません、 ロボットでした。自動運転切りましてもう一度加速します」


橋が見えくる。その間は直線道路であるからか、運転手が一気に速度を上げたようだ。


「まずい、上にいんのかよ!」


天井を運転席側に走る重い音。


「ドックス、バス前方へ!」


運転席の天井に穴が開く、先ほど運転席に居座っていた大型の作業ロボが腕を伸ばし、ハンドルをつかむ。即、ハンドルをきる。


「ぐっ」


運転手がブレーキを小刻みに踏む。片側の車輪が浮く。

秋山だけは冷静に浮いた側に飛び移る。


「ドックス!こっち! 春乃もっ!」


春乃はしがみつくので精一杯。女の子も同様だ。

一瞬でゆっくり、車体がもとに戻る。

同時に路線バスが止まる。運転手は素早くエンジンキーを抜いて、席を離れる。間をおいて運転ロボが天井の穴を広げて降りてくる。


「事故らすつもりなんですか!!」

「ドックス! 出口の確保!」

秋山は同時に宙に映し出した画面で操作をする。

「運転席のは俺が抑える!」


春乃がつり革をつかみ、振り子の勢いで精算機を飛び越え、運転ロボの横面に蹴りを入れる。一発で首がもげる、が赤いジェル状のものが紐のようになって、ぶら下げている。

大型の作業ロボは気にもせ動き続ける。だがエンジンが入れられないらしく、運転席のポケット類を探り始める。


「んだよこいつ! 」

「春乃! 運転手さん!そこのキミも降りてください!」


入口はドックスがいる、たかる作業ロボを同じように壊していくが、故障箇所に赤い粘性の物がすぐに覆う。入口の確保はできていない。


「お客様、こっちです!」


運転手が後部座席に走り、非常口を慣れた手つきで開けなはつ。

春乃は動かないでいる女子の腕をつかみ引く。抵抗があったが有無を言わせず引っ張り出す。バス飛び降りてもらい、春乃が続く。走ってロボからせめて逃げねばと。

秋山が先導をきり、最後に運転手が続く。


「まって!」


女子が言う。


「やっぱり狙いは私じゃない!」


手を振りほどき、路線バスの方へ走り抜ける。


「うっそっ! おおい!」


春乃も切り返す!

まだ密度の薄いロボの脇をすり抜ける。

下手に壊すと赤い粘液で強化される。壊さないほうが安全だ。だから蹴り倒すだけに留める。

すでに降りて離れていた秋山が通信をいれる。


『春乃もどってるの?!』

「ドックス渡してくれ!! 秋山達は先に離れて」

『わかった!』


秋山は即座に返答し、走りながら、作業ロボを転ばせ、宙に浮いた画面を操作する。

春乃もそれをみて左手でジェスチャーを行う、すぐに宙に浮き上がる画面。そこにメールを示すアイコンがあらわれる。すぐにそれに左手のジェスチャーで開く。

ドックスの操作権移譲。承認。


「ドックス、操作は春乃。指示は音声。まっすぐこっちに来い。邪魔な作業ロボは転ばせろ」

『わん』


女子はすでにバスに乗り込んだ。

作業ロボは非常口の高さに対応できてないため、どかされていた。


「中にいるのはヤベーやつだぞ!!」

「見てたわよ!!」

「せめて待ってろ!今行く」


女子が座席にあった大きな荷物にたかるロボに手をかける。


「ドックス急げ!跳べ!」


ドックスは邪魔なロボを飛び越える。

そのままバスの入口に突撃する。

直接声は届かない、腕のデバイスに叫ぶ。


「カメラを狙え」


ドックスに対峙するのは破壊された首と足の各種関節が赤いジェル状の物で覆われている。ほぼの不意打ちはカメラを一撃で壊す。首にある赤いジェル状の物がうごめく。球体を生成し、眼球のようなものを形作った。


「マジ?! どうすれば倒せる?」

「離れてよ! このっ!」


眼球を作ったロボはドッグスに向くと殴りかかってくる。


「反撃してくんのかよ! 防ぎつつ首だ!俺も行く!」


赤いジェルで覆われてない肘肩は弱い、ドックスの拳で相手の関節が歪み、即座に赤いジェルが流れ行く。


「どうにもならない! 荷物を諦めろ!こっちへ来い」

「やだ!」


バスにロボが集まっている。


「ドッグス、外に放り出せ」


ドックスは曖昧な指示を自己判断し、作業ロボが反撃に突き出さした腕を肩越しに掴むと、背負い、投る。


「秋山のプログラムかよ、パネェ」


高所からアスファルトに叩きつけられたロボはいくつものパーツにバラバラになった。赤いジェルも各パーツに拡散するもすぐにはままならない。秋山が遠くで親指を立てている。


「ドックス、皆投げ捨てろ!」


脇をすり抜ける、春乃は箱の側にくる。


「これがなんだってんだよ? 」

「知らないっ! でもこれを絶対にお父さんの所に持ってくって約束してるの!」


金属製で、頑張れば人が入るくらいのケースとそれに縛り付けられた布で包まれた棒。


「約束なんだな?」

「ええ」

「わかった。秋山! これ持って帰るぞ!!」

『わかったが、運転席のやつそっち行った! 僕も戻る!』

「ドックス! あれ、倒すぞ」


非常口を登ろうとしたやつを蹴りおとし、春乃は非常口を閉める。


「春乃! 運転席なんとかして! 運転席さんに鍵もらったから!」

「オケ! ドックス! 手を狙って破壊! 俺は足首をなんとかする。お前!これ借りるぞ」


箱についていた布の棒を取る。剛性を確認し、飛びかかる。布を取る暇も必要もない。

ドッグスが正面に立ち、首の垂れた大型作業ロボが伸ばす拳を的確にとらえ、指に殴りかかる。その隙に春乃はサイドの座席を飛び越え、床にしゃがみ込む。足の間に棒を突っ込み、両足を同時に払う。一発目は巨体にびくともしない。ドックスとでかいロボの動きを見定める。


「ドックス! 崩せ」


大型の殴りかかる腕をつかみ、引き込む。相手の体重を利用しバランスをくずさせる。春乃はさらに追い打ちに足を払う、今度は決まる。通路にうつぶせに倒れたロボの膝関節を即座に破壊させる。予想通りフレームの内側から赤いジェルが出てくる。

起き上がった春乃は備え付けの消化器と引っ張り出す。

素早くピンを引き抜き、ノズルをジェルに当てる。


「どうだ!」


噴射音と共に赤いジェルは弾け飛ぶ。すぐには次の箇所へ。

主要4箇所やり切ると車内は消火剤だらけ。赤いジェルは細かく春乃たちにも飛散した。

丁度秋山が乗り込んでく。


「ナイス春乃! も一度バス出すよ。天井のやつよろしく!」

「おけ! ドックス上に上がれ」


運転席たかろうとするロボたちを蹴散らす。

ドアを閉め、社内に残ったやつも同じ要領で行動不能にする。


「お前! 赤いジェルの様子を見てくれ!」

「発車するよ、捕まって!」


当たり前のようにエンジンをかけた秋山によってバスが動く。

そのままロボを押しのけて、踏みつけもする。

揺れるバスはゆっくり出る。


「あのっ! もう少ししたら、きっとこれ動かせるからまってて欲しいの!」

『秋山!春乃!そっちどうなってんの? ぶじっ!?』

「ごめんね、余裕ないんだ!」


春乃は宙に画面を出して、ドックスの視界を共有する。同時に窓ガラスを突破しようとするやつをバスの内側から叩き落とす。天井に登ってくるやつ、跳躍してくるやつ。


「こっから揺れるよ !右っ!」


秋山が細かくハンドルをきる。

ドックスが落ちかける。


「ドックス、秋山の指示も聞け!」


突如、春乃の足が掴まれる。


「なっ」


大型の腕だけが優先的に赤いジェルに復元され掴まれた。

次の揺れでバランスを崩し座席に体を打ち付ける。


「ごめんなさい!見てなかった。でももうちょっとだから!」

「ぐ、コンチキ」


痛みが勝り動けず、消火器も手が届かない。そもそも先ほどと違い赤いジェルは薄く関節に張り付き、消火器では吹き飛ばさそうもない形状になっていた。


「学習するゾンビとかやばすぎんだよ!」

「ごめん!振り切れない! やるだけやるから捕まってて!」


秋山は春乃の様子が見えてない、急発進をかけて振り切りを試みる。

さらに復元した大型は春乃を払い捨て這って運転席に向かう。


「秋山!!!」


そいつは素早く起き上がり、秋山に殴りかかった。

作業ロボは今まで人に攻撃はしてなかったはずが、排除対象に入れられたらしい。


「がっ」


春乃の位置から秋山は見えない、無事ではまずない。

アクセルは外れてないのかバスは加速する。

窓から見える景色は空と橋の支柱。

一気に車体に振動が襲う、橋のガードレールに激突しつつ、減速をしない。そんな中でも大型の作業ロボが戻って来る。春乃も女の子もまともに動けない。

ドッグスが割れた窓から飛び込んできた、女の子と春乃を両脇にそれぞれ抱えると問答無用で一番大きく割れた窓から飛び出す。飛び出たところで春乃の体の固定が外されバスの外に放り出される。

幸いに集まっていた作業ロボがクッションになったためアスファルトに叩きつけられることはなかった。

女の子も同じらしい。体を動かそうとして痛みから転んでしまう。

辺りに黒煙がぽつぽつと立ち昇る。バスだけではなく、撒き散ったロボの残骸のバッテリーや液体燃料に火がついたらしい。

その一つの火が離さず持っていた棒の布に飛び移る。


「秋山! ドックス?!」

『秋山どうしたの?! 何があったの?!』


宙に小さく通信エラーの信号が表示される。

あたりに作業ロボが集まってくる。

バスの運転席の窓に秋山がうなだれてる。エアバックが展開した様子が見て取れる。バスの中で大型作業ロボが動き始め、秋山の方へ向かう。

立ち上がろうとしたところで目の前に作業ロボが立ちはだかる。痛みを忘れて跳び上がるように膝を伸ばし手にあった燃える棒で腕をはたく。

聴き慣れない気持ちの良い音と手に伝わる響き、作業ロボの腕が跳ねた。

燃えカスから姿を見せた棒は暗い青色した日本刀だった。

春乃は少し面を食らうがそのまま足を進め、片腕を無くした作業ロボを蹴り倒し、次の作業ロボにまっすぐに刃を降ろす。

キレイに両断とはいかないも、頭部はひしゃげカメラは潰した。


「踏ん張れ俺っ!」


まだいくつかいる。

最短でやる。

次にいたのは頭が握りつぶされ、原型のないところに赤いジェルが多い目玉のようなカメラを生やしている。

横薙ぎにしようとしたところで、それの外観に気づく。

滑らかな継ぎ目を手作業でやったドックスの専用ボディだ。

通信がきかず、赤いジェルに制御を乗っ取られている。

自身が呆けたことに気づいた春乃は慌てて止まった刀を再び引いて、横払いしようとする。

だが、ドックスはそこらの作業ロボと違う。精密性、動作速度は格段に良い。ためらった甘い殺陣筋はいとも簡単に弾き飛ばされ、日本刀を投げ上げられてしまった。


……………


抱えられてバスから飛び出し放り出された後、男の子がすぐさま起き上がったのを見て、バスに乗っていた女性は腕をデバイスを起動し、無線で先ほどまで持っていたノートパソコンにアクセスする。

先ほどから何度も起動の手順を繰り返したが、最後に起動しない。


「彼を助けてよ!」


画面から目を離し、日本刀をはたき上げられた春乃の背中をみる。彼は次の手段を講じられるだろう。

しかし、状況は悪い。

いつからか荷物だけを狙う奴らが、人間を取り除くべき障害と認識していたのだ。あいつ等に倫理やためらいなどない。あるのは指示だけだ。

そんな折、バスの中で何かが弾けるのが見えた。

それは煙で悪い視界を物ともせず飛び出し、作業ロボの頭を踏み台にして飛び上がる。

3,4メートルの高さでそれは手を伸ばし、ゆっくり円と放物線を描いていた日本刀の柄を握り込んだ。


……………


春乃は新しく生えたカメラがピンホールレンズであると推測し、カメラの悪さが弱点となりうると判断した。

だが、日本刀ごと振り払われ、崩れた体勢を持ち直すまでの間に、ドッグスなら2度の動作をする素早さがあることも知っている。

日本刀を弾けた飛ばした直後、返しの拳が左上からくる。腰を落としての回避だけでは間に合わない。手を胸のあまりに持ってく、それからドックスの拳を手て受け止める。そのまま地面に叩きつけられる。そしてドッグスは既に蹴りの予備動作を終えている。

防御が間に合わない。

ひどくゆっくりつま先が目前に迫る。


(顔面狙いかよ)


ふと春乃は秋山に言われた言葉を思い出した。

あきらめないグセっていいよな。

春乃の視界に黒い物が飛び込んできた。それは蹴り足を踏み潰し、さっきのよりはるかに気持ちの良い音を鳴らした。

少しして、袈裟に斬られたドックスの上半身が落ちてくる。

こびりついていた赤いジェルが蒸発している。

ひしゃげてもわかる犬の頭の形が目の前に落ちた。

春乃は無意識に涙が出てきた。

頭自体は紙粘土だったりするから直すのは楽だ。そして現れた者を見る。

和装、袴を着ている。日本刀を持った侍。

それが振り返り、こちらを向く。

狼の頭だ。

どことなくドックスに似ていると春乃は思った。

狼はまた、前を向くと刀を中段に構える。

踏み込み、袈裟、足払い、突き、切り上げ、一撃で行動不能のダメージを与える。その度に日本刀の刃の色がまだらに変わっていく、いや、空色の光を放ち始める。

それと、対照的に斬られた部品についていた赤いジェルもまた発光し、粉になるようにほどけて宙に消える。作業ロボは赤いジェルを失い、あっという間にただのスクラップとなり動かなくなる。


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