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月下屍跳  作者: 平井みね
3/6

 王貴(おうき)は少女を見つめた。王貴が出会った方士は、真っ白い髭を生やした老人だった。こんな子供のような小さな女の子が方士であるというのは、あまりにも意外だ。だが、そうであるからこそ僵尸(きょうし)と戦えるのかもしれない。きっと彼女が身に着けた方術は、化け物に効く術なのだ。


 その、どうやら方士らしい少女は、弱々しく頷いたきり口を引き結んで黙りこんでしまっていた。何も言わぬまま、木剣の柄を握る両手をしきりにもぞもぞと動かしている。その様子を見かねたのか、少年は大きく息を吐く。

 訪れる沈黙。生まれた間。王貴はそろそろと手を掲げた。


「あの、あなた達は……」


 少年めがけて問いかけてみれば、彼は王貴の方に向きなおる。


「ん? ああ、こいつは桃瑞(とうずい)。で、俺は花清(かせい)。桃瑞の友達。そんでもって相棒」


 少年は少女を示しながら、声を弾ませた。表情もあの愛嬌のある笑顔であり、嬉しそうである。異様な外見の割に友好的な様子なので、王貴は少し安堵した。

 少年の言葉によると、少女は桃瑞と言う名で、少年は花清と言うらしい。しかし、王貴が知りたかったのは名前ではない。それだけでは物足りない。王貴はさらに花清に問いかけた。


「……えっと、二人はどうしてここに?」

「この辺りに僵尸が出るって聞いたから、退治しに来た」


 簡潔な花清の答えに、「なるほど」と王貴は心の中で頷く。この少女、桃瑞は間違いなく方士なのだろう。おそらく、僵尸を退治するために、わざわざこんな夜更けに、こんな辺鄙なところまでやって来たのだ。

 それでは、である。この少年、花清は一体なんなのだ。桃瑞の友達にして相棒だと言っていたが、一体どこからどうやって出てきたというのか。


「……あの、花清さん? 君はどこにいたの?」

「あそこ」


 少年は真面目な顔つきで真っすぐ桶を指差した。少女が背負っていた、あの大きな桶を。

 困惑しつつも、王貴は頭の中に浮かんだ疑問をどうにかこうにか口にした。


「な、なんで桶の中に?」

「なんでって、あそこが俺の寝床だから」


 けろりとした調子で、少年は答えた。

 王貴は花清の言葉を繰り返す。


「お、桶が寝床?」

「そう。昼間は動けねぇからあそこの中で寝てて、桃端に運んでもらってる」


 王貴は花清の答えを噛み締め、さらに噛み締め、強引に飲み込んだ。

 桃瑞は僵尸退治にやって来た方士であり、彼女の相棒はこの花清という少年。理由は定かでないが彼の寝床は桶であり、その中で休んでいたようだ。しかし、僵尸との戦いの最中に桃瑞に呼ばれたため桶から飛び出し、そして僵尸をやっつけた。話を整理するとそんな所だろうか。やっぱり訳が分からない。

 返す言葉が上手く出てこず、王貴は黙って何度も桃瑞と花清とを交互に見やる。すると、桃瑞がもごもごと口を開いた。


「ええと、あの、花清は怪しい者ではありませんので、安心してください」

「おう、俺はこんな雑魚みたく人間襲わねーから大丈夫だ。桃瑞が命じなければ、の話だけど」


 からからと朗らかに笑いながら、花清は背後で伸びている僵尸を指差した。どうしてか、王貴の背中にじっとりと嫌な汗がにじむ。


「人間襲わないってまさか……」


 王貴が小声で言いながら視線を送れば、花清は「うん?」と首を傾げた。


「俺も僵尸だけど?」


 花清に対する安堵感が一瞬で吹き飛ぶ。くぐもった変な声をもらしながら、王貴は一歩二歩と後ずさった。


「あ! ですから本当に大丈夫です! ほら、さっきの僵尸とは見た目が違いますし、臭くもないでしょう? 花清は、ええと、安全な僵尸です! 私が保証します!」


 桃瑞がさっと手を伸ばして口早に言う。王貴はおろおろと花清を見た。確かに、化け物というより人間に近いように見えるが、だからと言って安心はできない。さらに一歩下がると、僵尸の少年は鼻にしわを寄せ、これ見よがしに不機嫌面になった。


「おいおい、俺のおかげで助かったんだろ? それに、桃瑞だって大丈夫だって言ってるだろーが。それなのにその態度はなんだよ」

「花清、そんな風に言わないの。いきなり僵尸だなんて言われたら驚くでしょう。この方はさっきまで僵尸に追いかけられていたんだよ」


 とっさに、桃瑞が花清の袖を引く。花清の鼻がぴくぴくと引きつって、しわを寄せたり伸ばしたりを繰り返す。


「花清」


 もう一度、桃瑞が相棒――と言うのは本当なのだろうか――の名を呼ぶ。すると、花清はぱっと桃瑞の手を振り払った。ひゅっと、王貴の胸がすくむ。

 しかし、花清が王貴に襲い掛かって来ることはなかった。


「分かったよ。食ってかかって悪かった。ほら、話はこれで終わりだ。次のが来たから」


 ひらひらと手を振りながら、花清は体を反転させる。桃瑞もはっとした表情を浮かべると、機敏な動きで振り返る。


「おうおう、大将のおでましか? いいねぇ、歓迎するぜ」


 弾んだ声音で花清が誰かに問いかけた。すると、木々の間に漂う闇の中から、ぬっと大きな人影が現れた。強烈な腐敗臭が広がる。王貴はとっさに口と鼻を手で覆った。

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