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聖母様のお節介

 爽太の額には大粒の汗が滲んでいた。

 

 繭について行くこと十数分。二人は足取りは爽太の家とは逆方向に向かっていた。

 

 天気は良好、雲一つ無い空で吹く風は肌をくすぐるように撫でていく。

 風はとても心地が良かった。が、爽太はとてもじゃないが落ち着ける状況じゃ無かった。

 

 ――聖母様と歩いている――

 

 その事実が爽太の体調を時々刻々と悪くしているからだ。

 全校の人気者で誰にも優しいが一定のラインは絶対に超えてこない才色兼備で完璧な少女。

 そんな少女と今、二人で街中を歩いているのだ。

 誰かに見られて問いただされたら何一つ弁明をできる気がしない。

 

 そうなると学校での立場がなくなってしまう……と思考がついつい悪い方向へ走ってしまう。

 

 別に爽太と繭は特別仲が良い訳じゃ無い。

 一度、手を差し伸べただけ。

 それだけでこんな役得が……と言われれば何にも言い返せないが。

 下心は無く。こんな事になるとは微塵も思っていなかった。

 

 先ほどから足がブルブルと震えているのは繭と一緒の所を誰かに見られないかという恐怖からでは無く、自分から持った繭の買い物袋と一日中歩いた足の疲労からなのだろうと自分に言い聞かせる。

 何にせよ生きてる心地がしなかった。

 

 *

 

 足の震えと流れる汗が止まったのは街中を外れた頃だった。

 騒々しく眩しかった街中とは相反してこの道は街灯一つありやしない。

 かろうじて道が分かるのは点々と佇んでいる家の窓から零れる光が照らしてくれているからだった。

 

 ようやく緊張感から解放された爽太は深く溜息を零した。

 この道なら爽太も知っている。

 小樽繭と歩くのは初めての事なのだが、その義兄。小樽恋治と遊ぶために、幼少期の頃によく通った道なのだ。


 家が近くなったからか、繭の足取りが少し速くなった気がした。


 そこから少し歩くと見慣れた一軒家が見えてきた。

 時刻が遅くともリビングと窓からユニフォームの背番号が見える一室の電気はついている。

 リビング部屋は恋治の父親が、ユニフォーム部屋は恋治が使っている。家族が増えてもそこは変わっていなくて爽太は少し安堵した。


「荷物持っていただいてすいません」

「まぁ、自分でしたくてしたことだから気にするなよ」

「先輩のそういう優しいところは好きですよ」

「それ、勘違いするやつ多いだろ」

 

 繭からいきなり好きと言われて胸がドキリとしたが、素っ気なく返しておく。

 それに繭は、はにかむように笑った。

 

 玄関前につくと繭が爽太の手から買い物袋を受け取って中へと消えていった。

 そのまましばらく立ち尽くしているとパタパタと扉の奥から走ってくる音が聞こえてくる。


「先輩。コレあげます」


 ドアを開けて差し出してきたのは風呂敷に包まれた何か四角い物。

 中身は確認できないが恐らくタッパーだと思う。

 しかも、重さ的に複数個ある。

 何もしていないのにコレを受け取るのは流石に気が引けてしまう。

 

「要らないんだけど」

「ココまで来てそれはあんまりじゃありませんか?」

「いや。もしもらうとしてこの借りはいつ返せばいいんだ」

「荷物持ちで返して貰いました」

「明らかに釣り合わないと思うんだが……」

「そうですか?」


 ニコニコと含みのある笑みを浮かべて素っ気なくそう返してくる。


「うん。やっぱりもらえないよ」


 流石にというよりは明らかに受け取ってはならない気がする。

 元はといえば夕食をつくりたくないからスーパーに寄ったことが発端で、夕食を作れないわけじゃないし、いくら親友の妹だとしてもそこまでのお節介を焼いて貰う必要はない。

 引け目を感じながら風呂敷を繭に返すとムッとした表情で拒まれた。


「余計なお世話かもしれませんが、先輩の体を気遣ってるんです。もらってください」


 爽太の健康を心配してくれるのは嬉しいことなのだが……繭は頑なに強情だった。

 融通の効かない赤ん坊のようで押し付けている風呂敷を取らないと話が終わりそうにない。

 

「そう言われてもなぁ……」


 眉をひそめて彼女を見る。

 心が痛くなったが彼女に風呂敷を押し付けて足早でその場を去ろうとした。

 

「食べたくないんですか?」

 

 『食べたくない』なんて思うわけがない。

 前に作り置きしてくれた料理は時間が経っていたのにも関わらず、爽太の作りたて料理よりも断然美味かったし、偶に恋治が残す弁当をもらっても一度も『不味い』。『食べたくない』なんて思うことは無かった。


「そんなことはないけど」

「なら良いじゃないですか」


 う~んと喉を鳴らして繭に視線を向けるも彼女の態度は変わらなかった。

 万事休す。このまま貰って帰っても良いのだろうか。そう頭を抱えていると繭の後ろから声がした。

 風呂上がりの恋治だった。


「爽太。貰っちまえよ。どうせ貰わなかったらコンビニで夕飯買うんだろ?」

「そうだな……」

「元を言えば俺が途中で帰ったのが悪いし、それでトントン」


 それはお前から返して貰う予定だったのだが、ならまぁいいかと納得しておく。

 どっちみち受け取ることになっていたのだろうし、その理由ならまだ気が軽い。

 そう自分を思い込ませてありがたく繭の手から風呂敷を受け取って帰路につくことにした。

昨日は爆睡かまして書ききれませんでしたw

毎日投稿が……

やっぱ書きだめって大事ですね。

土日はマジで頑張ろうと思います


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