男同士の勉強なんて成り立たない
「そういや、来週テストだな」
高校の昼休みに恋治が危機感をもってかそんなことを言ってきた。
爽太の成績はいつも中の上で特に勉強に追われる日々は過ごしていないので気にしていなかったが、恋治はそうもいかないらしい。
恋治は万年下の上。ギリギリ最下位を回避してはいるものの、下から数えた方が圧倒的に早い。
「お前、今回は勉強してんのか?」
期待はしていないが、一応訊いておく。
やるやる詐欺で結局定期テスト前日になって、よく後悔している姿をみているから流石に学んだのだろうか。
「いは、まっはく」
とぼけた顔で恋治が先ほど購買で買ったカレーパンを口に含みながらもごもごとしゃべる。
「食い切ってからしゃべれよ」
悪い、悪いと軽く会釈してカレーパンを嚥下し、口を開く。
「逆にやってると思うか?」
「いや、全く」
「なら聞く意味ねぇじゃん」
「一応? お前、化学やばいんだろ?」
「先生に目をつけられるくらいには」
あの温厚な吉田先生に目を付けられるなんてそうとう成績が悪いか授業態度が悪いかの二択だが、ここ最近の恋治の小テストの成績が0以外ないことからきっと前者なのだろう。
恋治は他人事のように空を眺め、溜息を零す。
「マジでやる気あったりする?」
「まぁ、一応。留年は回避したいし……」
爽太にはそこまで切羽詰まっているのに一応と言える気が知れないが、それは恋治の問題なのでとりあえずそのまま置いておくことにした。
「なら、勉強会しない?」
「その日なら、彼女とデート」
「まだ、日程言ってねぇだろうが」
軽く頭を教科書で叩く。
叩かれた恋治はというと、イテッっと頭を抱えオーバーなリアクションをとっている。
「コレでバカになったらどうするんだよ」
「元々だから大丈夫だろ」
「これ以上だとマジで終わるだろ」
「今更過ぎる……」
恋治はうっせぇと一言残し、牛乳パックを飲み干した。
「んじゃ、放課後な」
「おう」
会話が途切れたと同時にチャイムが鳴って授業が始まる。温厚な化学の吉田先生、美術のムッツリマン国田の授業が終わるとあっという間に時刻は放課後になっていた。
先に教室を出ようとした爽太だったが、掃除の当番だった恋治に「校門で待ってろ」と言われてしまったのでゆっくり校門前で待っていると、恋治が重そうな足取りで校内からのそのそと出てきた。
学校から街までは差ほど遠くはなく、歩いて数分というところにあるのだが、一歩一歩が重い恋治と歩いていると、街カフェまでの道のりが死ぬほど遅く、到着した頃には17時を既に回っていた。
「こんな時間だし……やめない?」
カフェで勉強を始めてまだ数分。
教科書すら開いていない恋治がそんな提案をしてくる。
窓の外をチラと見るも、既に日は傾いており、東の空は深い青。西の空は茜色に彩られていた。
(正直明日に回したい)
そんな怠惰で許されるならそうしていたかったが、後日にずらすと確実に恋治はすっぽかす。
だが、既に八時間も学校に拘束されていたのだ。そこから更に数時間も勉強をする気になんて二人はなれなかった。
(弱いなぁ)
つくづくそう思う。
だが、体は完全にお休みモードで目の前に出された料理のことしか考えれなかった。
しばらく、どうするべきか考えていたが……
……………………
「やめるか……」
結局、勉強会はそのまま、談笑の場として収束してしまった。
「てか、お前と繭って仲が悪いのか?」
頼んだアイスコーヒーとパイ生地の上にアイスクリームが載ったスイーツを口に含みながら爽太はいきなりそう訊いた。
繭を預かったあの日、繭に連絡したと伝えると、なんとも言えない顔になっていたことが未だに心に残って気になっていたのだ。
「お前って他人の家庭に首突っ込むタイプだっけ」
「いや、他人のことを気にする暇がなくて首が突っ込めないタイプ」
珍しく、真面目なトーンで恋治が訊いてきたので、一応真面目に答えておく。
「そうだよな笑」
軽く笑いとばし、スグに真面目なトーンに戻る。
「俺、アイツちょっと苦手なんだよね……」
そう零した恋治は窓の外の茜色の空を眺めている。
家族。それに最近加わった異端の子。
今までの環境が一変し、居心地が悪くなるなんて話はよく聞く話だ。
だが、そうではなく、恋治の顔はなんというか憐れんでいるようだった。
「苦手? 良い子すぎて?」
「一理ある」
「聖母様の魔力に飲み込まれたのか……」
冗談交じりにそう言うとテキトーにあしらわれた。
「まぁ、そんなところかな」
そこからしばらく談笑をしていると、不意に恋治の携帯が振動した。
「悪い。呼び出し!」
「先生から?」
「彼女から!!」
そう言うと恋治は代金をガサツにテーブルに置いて、足早に街カフェを飛び出していった。
彼女持ちはコレだから困る。
彼女ができた瞬間今までの優先順位が変動するのだから。
親友より、彼女の方が大事かよ……と半ば面倒くさいストーカーのような思考になったがコレも若気の至りなのだろうと諦めて、最後の一杯を飲み干し、爽太も街カフェを後にした。
外に出ると空の色はすっかり暗く、深い青色に包まれていた。
ここから家までは十数分。
家に着いたとてやることは無い。
厳密にはありふれているのだが、現実逃避をしていたい気分だった。
夜風に当たり、ブラブラと本能にされるがまま街中を散策していると気づいたら最寄りのスーパーまで引き寄せられていた。
ついでに夕飯と明日以降の買い出しを済まそうと中に入り、とりあえず惣菜コーナーまで足を運ぶと突然「あ」っと言う声が後ろから聞こえた。
ぽとりと雫のように呟かれた声に聞き覚えがあった。
おっとりとした声に優しさを帯びた口調の持ち主、恋治の最近できた妹の繭が目を丸くしてこちらを見つめていた。
「料理するんじゃなかったんですか?」
「今日は作るのがめんどくさくて……」
何か誤解をしている繭は困惑と憤りを含んだ表情をしている。
別に見栄なんて張っていない。偶にスーパーの惣菜も購入するが基本的に自炊をしているのは本当だ。
「体に悪いですよ?」
「分かっているよそんなことは」
頭では理解しているが、今日は本当に作りたくなかったのだ。
繭が「はぁ」と落胆し、口を開く。
「そのカゴを戻してちょっと待っててください」
「は?」
「いいから動いてください」
眉根を寄せて困惑した表情で言われた通りカゴを戻して待っていると。
買い物終わりでパンパンなマイバッグを垂れ下げた繭が急ぎ足で近づいてきた。
「時間、ありますか?」
一応の気遣いで繭が訊いてくる。
「あるけど……」
「ちょっと家までついて来てください」
「それまたなんで」
繭がほっぺたを膨らませて怪訝そうな表情を浮かべている。
「まともな食事ができない先輩を気遣ってるんです」
余計なお世話。とも思ったが、折角の善意。静かに首を縦に振っておいた。
ほすぃ芋です。
突然ですが、ちゃんと見てくださっている方はどのくらいいるのでしょうかね……0だったりw
まぁ、別に構わないのですが。
もっと上手く書きたいものです。
もし見てくださってる方が居るのであれば今後ともよろしくお願いします