1.俺が………俺こそが…癌……だったのか?
「なぁ、おかしいと思わないか」
「何が?」
放課後の教室、傾いた太陽の光が差し込んでいる。この教室には、むさ苦しい男が2人いた。二人しかいない、という方が正しいか。
「俺は陽子と仲が良い」
「…まぁ、そうだな」
何やら渋い顔で、ボソッと答える。この男は川内由友という。俺の数少ない親しい友人の内の1人だ。
「休み時間はいつも話をしてるし、タイミングがあれば一緒に帰ってすらいる」
「大抵一言で片付けられて無視されてるのと、実質的なストーカーであることを鑑みなければ、そうだな?」
俺には好きな人がいる。鬼崎陽子の事だ。色々あって、接点ができた。正直彼女に固執していると言ってもいい。
「彼女は、基本一人だ。故に、俺は彼女と1番高い頻度で会話し、顔を合わせている」
「…まぁ、それは事実だな」
鬼崎陽子、これからは陽子と呼ぶ。彼女は謎が多い人物だ。基本人を避けてるし、一年中長袖を着ているし、学校は休みがちだし、それでも成績は最上位クラスだし、何より胸がない。女子なのに。驚くほど平らだ。まな板…なのか……?
「これらの情報から考察するに、陽子は俺に好意を寄せているはずだ」
「いや、気のせいだろ」
「まぁ待て、まだ証拠はある」
「証拠」
由友は、訝しげに俺の事を見ている。全くもって遺憾だが、まずはそれを無視して話を続けることにした。
「まず、体育祭の時。暑さで倒れた彼女を看病したのは俺だ」
「鬼崎さんが頑なに長袖着てたやつな。確かに、保健室に連れていったのはお前だったな」
2年の体育祭。熱中症で倒れた彼女を保健室まで運んで看病したのは俺だ。彼女はその日一切の種目に参加せず、姿を消していた。
俺は相変わらず彼女を探していて、たまたま熱中症で倒れていたところを見つけた。あの時はまさに心臓が止まるような思いをしたものだ。
「あの時はビビった。肝が冷えたよ」
「まぁ、お前セクハラって言われてたけどな」
「誤解だ。全くもって」
俺は、彼女を、陽子を1番近かった保健室まで運び、養護教諭の先生を呼んだ。陽子の応急処置をしたのは俺だし、彼女が楽になるまで隣にいた。なぜなら、養護教諭の先生はグラウンドに戻らなければいけないからだ。
結局、体育祭が終わるまで養護教諭の先生は戻らなかったため、俺は長い間陽子の隣にいた。話し相手兼召使いとして。
何を話していたかはよく覚えていないが、何か質問をされたのは覚えている。
確か、俺は、彼女の手を取って、……………なんて言ったんだっけ?
「ただ手を取っただけだ。嫌そうでも無かったし」
「…んーまぁ、最近の女の子は、そーいうの敏感なんじゃないか」
「お前だって最近の男の子だろう」
「俺がロリコンクソヤリチンって呼ばれてるのは知ってるだろ」
「んぶぅ…!…ふ、ふふっ…!……まぁな」
思わず吹き出してしまったのを無理やり抑えた。そう、こいつはこいつで不憫なやつなのだ。
まず、由友はまぁまぁチャラい見た目をしている。実際中身もチャラさはあるが、それほどじゃない。十分平均的といえる。
次に、由友は無自覚女たらしだ。彼はめちゃくちゃイケメンな訳では無いが、顔は整っている。外見にも気を使っているから、充分かっこいい。
そして、彼の姉と妹たちに鍛えられたという、圧倒的なイケメンムーブで、女たちをメロメロにしていく。
もちろん全ての子たちに優しいので、女はどんどん落ちてく。
しかしながら、彼は重度の、かなり、いや手遅れなタイプのシスコンであり、その女たちに興味が無い。もちろん女たちは荒れる。
そして、毎日違う女性、(全員彼の姉か妹)を連れて歩いているため、もちろん悪い噂がたち、結果的にロリコンクソヤリチンの異名を授かるに至った。
「俺には女の子の気持ちは分からないわ」
「使えないな」
「……帰っていいか?」
「まぁまぁ、聞けまだある」
「……まぁここまで来たら全部聞いてやるよ」
カバンを手に取り今にも帰りたそうな由友を引き止める。こいつはお人好しなので帰りはしない。毎回、なんだかんだ最後まで付き合ってくれる。
「この間修学旅行、行っただろ」
「行ったな」
「基本自由行動だったけど、班でいることがルールだったよな」
「そうだな、お前が班行動してるとこ見なかったけどな?」
「あれ大体陽子のとこ行ってた」
「ガチのストーカーじゃん」
なにやら不躾な視線を感じる。不審者を見るような目で見られているようだ。
「愛ゆえの行動だ」
「一方的な愛じゃあ、法律には勝てないだろ」
「両思いだ」
「無理があるだろ!」
「というか、陽子さんは1人で行動してたんか?」
「いや?ちゃんと班で行動してたぞ」
「その班をストーカーしてたのか?!」
「失礼なやつだな。しっかり話しかけたぞ」
「本格的な不審者!!」
「でも普通に班には受け入れられたぞ。班に入れてもらった」
「受け入れたよ~」
そういうとちょっとだけギャルっぽいJKが話しかけてくる。知り合いだった。
「うわ、菜結美じゃん。急に。陽子さんと同じ班だったの?」
「そう。誰とも班組んでなかったからさ」
この愉快な女は井野菜結美。由友の幼馴染である。所謂陽キャ女子で、由友の数少ない女友だちでもある。
「陽子ちゃんは嫌がってたけどね~」
「半分イジメだろ………」
「いや、あれは喜んでただろ」
「いやいやいやいや」
ニヤニヤしながら話す菜結美と対照的に、割と真剣な顔で首を振る由友。
「そもそも「よっしー!」あぁ?」
「ちょっと来て!」
「ちょ、待てって。話が終わって…いや力強すぎだろ!お前どっからそんな力が出ていや痛い痛い痛い!耳は!耳は引っ張らないで?!髪の毛もダメだろ!」
「結月くんちょっとまっててねー☆」
「おー…………………おっかねー…」
由友は何故か菜結美に連行されていった。由友の悲痛な顔が目に焼き付いているが、気にせず待つことにした。
「…おまたせー!」
「マジで待たされたわ」
なんだかんだ10分以上は待っていた。やっと菜結美と由友は、教室に帰ってきた。一体何を話していたんだか。
「いや、陽子さんについてな」
「そうそう、結月くんにちょっとアドバイスー☆」
そういうと、菜結美は適当な席に。由友は俺の隣に座った。
「どういうことだ?」
「いや、なんかー☆陽子ちゃん最近は本気で嫌がってるんじゃないかっていう話☆」
「はぁ?」
前提として、俺は1年の時から鬼崎陽子にずっと絡み続けていた。陽子は、女子にも男子にも塩対応で、友人というものがいなかった。本来俺もこんな関係になるとは思いもしなかったが、まぁ運命のイタズラで、今、陽子とは特別な関係(ただの友達)にある。
人を避ける陽子と接点を作るためには、強引にでも距離を縮める必要があった。そうしないと、話すことすらできない。
だから、一見キチガイみたいな真似をしていたわけだな。あくまで真似だ。本当に。嘘じゃないよ。
2年の夏の終わり頃から、やっと心を開いてきてくれてたのだが、どういうことだろうか。
「結月くんの懸命なコミュニケーションで、陽子ちゃんは、確かに心を開いてくれた。私たち女子も、やっと陽子ちゃんとマトモに話せるようになったし☆」
「そうだそうだ」
全く、1年半と数ヶ月努力してきた甲斐があったというものだ。俺は首をブンブン縦に振る。
「けどね、最近。陽子ちゃんは私たちとの接点が増えた。つまり……仲良くなった☆」
「おう」
「なのに、休み時間も、登下校も結月くんが付きまとってる」
「それが陽子にとって、煩わしくなってきているんじゃないかという話か?」
「まぁ、そうだね☆」
「それこそ、初めの半年間はずっとそんな感じだったぞ。今更じゃないか?」
「ううん、違うよ☆。あの頃は、陽子ちゃんは1人だった。それに不満はなかったんだろうけどね」
そういうと、菜結美は視線を下に落とした。何か言いたげな雰囲気で何かを考えている。
「それなら」
「でもね、今は私たちがいる。自慢じゃないけど、結月くんより何倍も早いスピードで仲良くなれてる自信があるよ☆」
「つまり、俺が邪魔しているせいで、陽子が女子たちと絡む隙が無いってことだな」
菜結美は大きく頷く。そして、また薄ら笑いを浮かべ、また目を合わせる。
「まぁ、そうかな☆元々、陽子ちゃんに普通の高校生活を送って欲しくて初めたんでしょ?聞いたよ、陽子ちゃん。元々家の都合で色々”不自由”だったんだよね☆。それを何とかしたかったんだよね?」
「その通りだ」
「そして、見事に陽子ちゃんを”救った”☆」
「…そうなのかもしれない」
実際、俺がしたことが正しかったのかは分からない。でも、周りから見て、陽子が救われた様に見えたなら、それは良かったのだろうか。
菜結美が顔を寄せてくる。明るい笑顔のはずだ。明るい笑顔のはずの、その顔が、なぜだか、妙に恐ろしい。
「ねぇ、私知ってるよ。結月くん、陽子ちゃんの事が好きになっちゃったんだよね。」
「…………」
「私たちに取られるのが怖いんでしょ?私たちと遊んで、普通の女の子になっちゃうのが怖いんでしょ?陽子ちゃん可愛いもんね。普通の女の子になっちゃったら、自分の手は届かないって思ってるんでしょ☆?」
「…………」
全く図星だった。どう見ても、最近の陽子は友人が増えた。今更俺なんて、陽子にとって、いてもいなくても一緒なのかもしれない。
その現実を認めたくなかっただけだ。
陽子を自由にしたはずが、今度は俺自身が陽子を不自由にしていた。
だから俺は、陽子から離れないといけない。
「だからさ…………分かるよね?結月くんならさ」
「…あぁ」
_side菜結美______________
最近、結月くんが変だ。というのも、焦っている様に思う。きっと陽子ちゃんの事だ。
陽子ちゃんは、最近は私たちにも心を開いてくれている。これはひとえに結月くんのおかげだし、実際結月くんが居なければ、陽子ちゃんと仲良くなれることはなかっただろう。
だから結月くんがある程度陽子ちゃんを独占するのはいいけど………………………
最近独占し過ぎだよ~~~!もっと私たちも陽子ちゃんと遊びたい!!
最近結月くんは、ずぅっっと陽子ちゃんの傍にいる。変だ。いや、いつも結月くんは変なんだけど、そうじゃない。
きっと、結月くんは不安なんだ。陽子ちゃんがみんなに心を開いて、仲良くなるのが。
結月くんは自己評価低いし、陽子ちゃんが自分から離れちゃうと思ってるんだと思う。確かに陽子ちゃんツンデレで分かりにくいけど、あれ、絶対結月くんにベタ惚れだと思うんだけどな~。
だって、陽子ちゃん容赦ないし☆。私相手でも、嫌なこと嫌って言って拒絶するし、ほんとに嫌だったら無言でどっか行っちゃうからね☆。
結月くんがウザ絡みしても、割と返事してるし、逃げないし、あんなの好きって言ってるようなもんじゃん!
でも最近結月くんがずっと傍にいるせいで、私たちとお話する機会ないし、放課後遊んだりとかもできないし。
だからだから、私たちとも遊んでくれる様にちょっとお話したいんだー☆☆
「分かった☆?」
「………うす」
よっしーこと、由友は私の幼馴染!結月くんの親友で、私の下僕!☆
「まぁ、俺は黙ってればいいんだろ?余計なこと言わないよう」
「うん☆よっしー口がユルユルだから」
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「だからさ……………分かるよね?結月くんならさ」
(訳:ちょっとだけ陽子ちゃん貸してほしいな☆)
「………あぁ、分かってる」
(訳:お前は既に陽子にとって枷だから、もう関わるなってことだよな…)
「受け入れるよ。……ありがとう、菜結美。やっと、認めれたのかもしれない」
「………うん☆辛いかもだけど、ちょっとの辛抱(数日)だからさ」
「あぁ。ほんの、ちょっとだ(残りの高校生活)」
「…………………」
(なにか嫌な予感がする…………………!!面倒事の予感……!)




