第九章 17
大人表現ご注意下さい
ひとしきり笑うと千鶴は、ころりと表情を変え、すこし切なそうに桐秋に問いかける。
それは愛する男に愛されて開花した、清廉でいて妖艶な、夜桜のような女の表情。
「桜は好きですか」
桐秋は寸暇の迷いすら見せず、千鶴の頬を優しく撫でながら、
「好きだ」
と柔らかに笑み、告げる。
この夜、千鶴から放たれる言葉に対し、桐秋から否定の言葉は出ないだろう。
答えを聞いた千鶴は、その大きな手に頬を摺り寄せながら、桐秋が見てきた中でいっとうの、極上の笑みを浮かべる。
――どんな見事な桜さえ叶わない、爛漫に咲き誇る美しい笑み。
それに引き付けられるようにして、桐秋は再び千鶴の濡れた桜色の唇を貪る。
千鶴も必死に縋り付くが、息を吸うのが精一杯で、はふはふと口先を動かしながら懸命に新しい空気を求める。
そんな初々しさに、桐秋はより慎重に丁寧に千鶴の体を暴いていく。
瞼、頬、首筋、千鶴の身体が、桐秋の大きな手で柔らかに撫でられ、その後をしっとりとした口づけがなぞるように落ちていく。
肌が見えているところはあますところなく。
しかし、それが手の指にうつったとき、桐秋は顔をしかめた。
「これはどうした」
桐秋に持たれた千鶴の薬指からは、ぷつりと血が滲みだしていた。千鶴は気まずそうに告げる。
「入浴の際、木桶のささくれに手を差してしまいました。
破片自体は取り除いたのですが、血まで出ていたとは気づきませんでした。
よほど慌てていたのですね」
そう笑う千鶴に桐秋は仏頂面で告げる。
「以前もいったと思うが、君は自分のことに無頓着すぎる」
そんな桐秋の優しいお小言に千鶴は笑い、
「ただのささくれですよ」
と言う。
桐秋はそれでもだ、と血を吸い取るように舐めて譲らない。
ほんとうに唾をつけて治るような傷だ。
実際に今それをされているが。
「どんなに些細な傷であろうが、愛する女が傷ついていいと男は、・・私は思わない」
そう言い直された桐秋の言葉に、千鶴は泣きそうな表情で微笑み、抱き着いた。




