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幸い(さきはひ)  作者: 白木 春織
第九章
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第九章 ⑥

その夜、自身の内に渦巻(うずま)く感情にいてもたってもいられなくなった千鶴は、夜遅く母屋の一室を訪れた。


 入室の許可を得ることもせず、急襲するかのように扉を開け、部屋の主の元に行き、訴える。


「南山教授。桜病の抗毒素血清はまだできないのでしょうか」


 いきなり部屋に飛び込んできた千鶴に南山は驚くが、鬼気迫る表情を前に咎めることはせず、沈痛(ちんつう)な面持ちで千鶴の言葉に答えを返した。


「残念ながら、今やっと検体の馬が毒素に慣れてきた状況で、抗体ができるまでには達していない」


 南山の返答に、千鶴は瞳いっぱいに涙を溜めて懇願(こんがん)する。


「どうにか、実験を早めていただくことはできませんか」


 その言葉に南山は眉間に(しわ)を作る。


 医の道に関わるものであれば、新薬の開発を急くことがどれだけ危ういことか分かるはず。看護婦も例外ではない。


 ところが、今の千鶴はそれが分かっていない。


 桐秋のことをどうにかしようとするあまり、周りが、簡単なことが見えていないのだ。


 その原因が南山には分かっていた。


 南山は桐秋と千鶴の関係性の変化に気が付いていた。


 が、それを咎めることはしなかった。


 千鶴はそうした関係にあっても看護婦の職務を(おろそ)かにすることなく桐秋の看護にあたってくれていたし、何より、千鶴との関係は桐秋の心身にもいい影響を与えていたからだ。


 最近では、あんなに反発し合っていた父である南山にも、柔和な顔を見せるようになっていたほど。


 ゆえに南山は、千鶴には医者としても、桐秋の父としても感謝していた。


 


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